立派な魔王になる方法

めぐめぐ

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その後の話:君が花開く場所

第7話 天職

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 アクノリッジと言う名の人間の存在は、次の日には村中に知れ渡っていた。どうやら、フェクトが村の代表に報告したらしい。

 彼の周りには魔族たちが集まり、物珍しそうに金髪の青年を見ている。

「兄ちゃん、兄ちゃん! 魔族じゃないの? 人間っていう別の世界から来たの?」

「そうだぜー。ま、魔法が使えないだけで、魔族とそんな変わんねえよ」

「えー! 人間って魔法が使えないんだ! フェクト姉ちゃんと同じだね!」

「あっ……、ああ、そうだな……」

 子どもは何と残酷なのだろう。
 アクノリッジは言葉に詰まりながら、そう思った。彼女が傍にいなくて良かったと、心底思う。

 フェクトは朝の仕事の為、物資管理所に行っている。彼女の家に残っていたアクノリッジだったが、魔族たちに呼ばれ、この広場にやって来たのだ。

 そして今、人間と言う珍獣として見世物と化している。

 村の魔族の中でも、歳を重ねた者たちの多くが、プトロコルと人間の事を知っていた。

 本当に彼が、プロトコルの住人かの確証は得られていない。しかし彼から語られる具体的なプロトコルの話を聞くと、可能性は0ではないかもしれないとされ、彼の処遇を城に任せようとなったのだ。

 今し方、城への手紙が送られ、返事が来るまでは、この人間を村に置いておくことが決まったのである。

 まあ魔法も使えないし、体力なさそうだし、悪さもしないだろう、と言う理由からだ。まあ、真ん中は不名誉な理由ではあるが。

 どう評価されようが、城に連絡を取ってくれること、そしてこのまま村に置いてもらえる事はアクノリッジにとって、とてもありがたい事だった。

 さっきから子どもたちに絡まれ、大人たちに質問攻めをされているが、どの魔族も、人間という得体の知れない存在にも関わらず、非常にフレンドリーだ。
 アクノリッジの社交性の高さもあり、彼らと打ち解けるのに時間は掛からなかった。

 ようやく質問攻めから解放され、疲れた表情を浮かべながら、アクノリッジは近くのベンチに腰を掛けた。喋りすぎて、喉が痛い。

 その時、彼の前を小さな少女が悲しそうに歩いているのに気が付いた。只ならぬ様子に、思わず声を掛ける。

「おい、どうしたんだ? そんな泣きそうな顔して」

「あ……、人間のおにーちゃん……」

 そう言ってこちらに視線を向けた少女の手には、小さなネズミを模ったおもちゃが握られている。
 アクノリッジは、ちょいちょいと手招きし、少女を呼び寄せた。

「それ、おもちゃか?」

「うん……、でも、もう動かないの。ねずみちゃんを動かす魔力の石が割れちゃって……」

「その石は、何とか元通りにならねえものなのか?」

「うん……、ダメだって……。特別な石だから、誰も直せないの……」

「ふーん、そうか」

 魔法で物を修理するのにも、レベルがあるらしい。それを思うと、復元の魔法をポンポン使っていたジェネラルは、やっぱり凄かったんだと改めて思う。

 アクノリッジは、少女からネズミのおもちゃを受け取った。ネズミのおもちゃの頭にスイッチがあり、それを押すと魔力が流れてネズミが動く仕組みだったらしい。

 しばらくおもちゃの構造を観察していたが、

「ちょっとこのおもちゃ、改造していいか? 穴空けたりするけど、魔力がなくても動くように出来るぞ」

「え!? そんなこと出来るの、おにーちゃん!」

「おう、任せとけ。まあ……2時間程あれば、何とかなるだろ。部品もあるし」

 アクノリッジは軽く言い切った。満面の笑みを浮かべ、少女に答える。少女の表情が、泣き顔から期待と希望に満ちたものに変わった。

 アクノリッジは早速フェクトの自宅に戻ると、彼が持ち込んだ荷物を持って戻って来た。その袋の中から、様々な道具が取り出されていく。

 これは、アクノリッジが物を作る際に愛用している道具だ。さらには、釘やネジなど、細々とした材料も用意されている。

 彼はそれらを広げると、『ネズミのおもちゃ☆大改造作戦』を開始した。

"さて……、こんだけの材料でどんだけの事が出来るか……"

 久しぶりに物を触る喜びと楽しさ、工夫せねばならないチャレンジ精神が心に満ち溢れるのを感じた。

 その薄水色の瞳は、大好きな事を前にした子どもと一緒でキラキラと輝いていた。


*  *  *


「何!? この騒ぎは!!」

 広場を通りかかったフェクトは、たくさんの魔族たちが集まっているのを見て驚きの声を上げた。
 その騒ぎの中心にいるのが……、

「アクノリッジ! あんた何してんの!?」

 居候の姿を見つけ、さらにフェクトは声を上げる。彼女の声を聞きつけ、アクノリッジは軽く手をあげて答えた。

「よお、お疲れ。仕事は大丈夫だったか?」

「もちろん大丈夫だったけど……、これは一体何の騒ぎ!?」

「いや……、この村の魔族って、物を直す魔法があんま上手くねえんだな。壊れて動かなくなった物を直してくれって、皆ここに集まってるんだ」

 そう言って、彼の手には壊れて動かない壁掛け時計が握られている。
 
 『ねずみのおもちゃ☆大改造作戦』は、問題なく成功した。少しおもちゃを削ったり穴をあけたりし、そこに彼がプロトコルから持ち込んだ部品を使い、ネジで巻けば動き出すように改造したのだ。

 少女はとても驚き、喜んだ。しかし、それ以上に驚いたのは大人たちだった。

 今まで何かを動かすには魔力が必要だった為、魔力なしでも動く存在が珍しかったのだ。

 物が壊れたら魔法で修復するものかと、アクノリッジは思っていたのだが、そう簡単では無いらしい。

 この村の魔族たちは、動く物が壊れた場合、簡単なものを覗いては修理できず、復元の魔法の専門家に任せる事が多かった。

 その為、アクノリッジが修理してくれる&魔力なしで動くように改造してくれる、という噂が瞬時に広がり、この騒動に至るのである。

「凄いのね……、そんな事が出来るなんて」

「まあ、これが本職だしな」

 積まれた壊れ物の一つを手に取り、確認をしながら、隣に座ったフェクトに答えた。彼の回答に、不思議そうにフェクトが口を開く。

「本職? 修理屋さんでもしてたの?」

「修理屋じゃなくて、発明家。色んな困りごとを、新しい技術を開発して解決する、そんな仕事だ」

「へえー、面白そうね」

「ああ、最高に面白い仕事だ。俺の天職さ」

 彼女の言葉を、思いっきり肯定するアクノリッジ。普通ならうんざりしてしまう量の修理品を見ても、彼の表情にはワクワクが満ちている。物いじりがとても好きなのが、何も知らないフェクトの目から見ても分かった。

“羨ましい……”

 自分の仕事を胸を張って大好きだと言えるアクノリッジに対し、フェクトは思った。

 人に求められ、自身も楽しむことが出来る仕事をもつアクノリッジ。
 それに引き換え、誰でも出来る仕事しか任されない自分。

 フェクトは立ち上がって、わざと明るい声で彼に言った。

「そう……なのね。まあ、これからご飯をするから、冷める前に帰ってきなさいよ」

「お、ありがとな」

 アクノリッジは軽く礼を言うと、すぐに修理に集中した。そんな姿に、フェクトは一つため息をつくと、その場を後にした。

“人間に、あんな凄い能力があるなんて……。同じ魔法が使えない境遇なのに……、何でこうも違うのだろう……”

 羨ましいという気持ちが、嫉妬に似た物へと変わる。

 同じ魔法が使えない自分との違いを思い、フェクトは少しうつむきながら、早足で自宅に向かった。
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