立派な魔王になる方法

めぐめぐ

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第153話 希望

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 ジェネラルは今、アクノリッジたちと共に謁見の間にいた。

 白を基調とした広い間には、玉座に続く深い青色の絨毯が敷かれている。その両端には、王を守る護衛たちが並んでおり、客人の挙動を見張っている。

 まあ、今自分たちの目の前を歩いているのが、眠らされたり像に閉じ込めた元凶なのだから、護衛たちが神経質になるのも仕方がない気がする。

 しかし謁見の間の後方の雰囲気は、緊張した様子の前方の兵士たちとは全く違って騒がしい。

 その騒ぎの主は、女性たち――幸運にも謁見の間に同席出来た侍女たちである。うっとりとした、そして熱い眼差しで、ジェネラルたちを見ている。

 ついでに謁見の間に繋がる廊下には、どうにかして魔王の姿を一目見ようと、城内の女性たちが集まりまくっており、キャーキャー騒いでいる。

 その辺が少し、魔界と同じリベラルさを感じさせるが、その騒ぎは侍女長フィルの一喝によって、収められることとなる。

 ちなみにエクスとユニを含めた他の魔族たちは、全員魔界に帰還し、この場にはいない。ジェネラルだけが最後まで、エルザ城に留まっていた。

 そんな騒がしい雰囲気を気にも留めず、こちらに向かって来る者たちの姿を認めるや否や、ライザーは玉座から立ち上がると、急いでジェネラルの前に駆け寄った。
 そして、彼の手を取った。

「ジェネラル様、この度の事、心よりお礼申し上げる」

 王はジェネラルの手を強く握りながら、深く頭を下げた。

 救出された当時は薬の影響でやせ細り、心身ともにダメージを負っていたが、ジェネラルの治癒魔法と休息により、ライザーの顔色はかなり良くなっていた。
 さすがにまだ名残は見えるが、時間がゆっくり彼を癒していくだろう。

「いえ。当然の事をしたまでです。こうして皆さまがご無事で、本当に良かった」

 ジェネラルは、その言葉に答えるよう笑みを浮かべ、ライザーの手を握り返した。彼の返答に、ライザーは先ほどよりも深く頭を下げると、再度魔王の手を強く握った。

「私からもお礼を申し上げます。本当に、ありがとうございました、ジェネラル様」

 優しい女性の声に、ジェネラルは前を向いた。

 そこには、並んだ玉座に座るミディによく似た美しい女性―—キャリア王妃が、ジェネラル対して深々と頭を下げているのが見えた。

 王妃の表情には、このような高座から声を掛ける事しか出来ない申し訳なさが滲み出ている。事件の精神的ショックで、まだ体の自由が利かない為、その場に留まっているのだ。

 だが、周りからも休んでおくように諭されたのにも関わらずここにいるのは、この国を救ってくれた恩人たちに、直接お礼が言いたいという強い意志の元だろう。
 
 王妃の側には、すっかり良くなったミディが控えていた。
 エルザの宝石、エルザの華と呼ばれる、気高き王女の姿がそこにあった。

 相容れない気持ちを抱えて、苦しんでいた彼女はもういない。ミディの気持ちを聞いた時以降、ジェネラルがその事について触れることはなかったが、彼女なりに自分の答えを見つけたのだろう。

 短期間でここまで立ち直ることが出来たミディを、ジェネラルは改めて強いと思う。

 凛とした視線で父親と魔王のやり取りを見ていたミディは、ジェネラルと目が合うと、少し目元を緩め彼の視線に答えた。その様子に、ジェネラルの口元も自然と緩む。

 最後までエルザ城に留まっていたジェネラルだったが、ライザーの体調も落ち着き、国務に復帰することとなった為、魔界に帰る事にしたのだ。
 それを聞いたアクノリッジたちも、

「調査もひと段落ついてやる事なくなったし、ジェネラルも帰るなら、そろそろ俺達も帰るか」

って事で、一緒に城を出る事となったのである。

 その別れの挨拶の為、この場が設けられたのだ。
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