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第93話 侍女長
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侍女たちに連れられ、ジェネラルはエルザ城の中を歩いていた。
城外と同じく、白く統一された通路には、美しく飾られた花や装飾品が飾られている。
皆、高価な物だとは思うが、控えめにさりげなく飾ってある所が、城という場所でありながら奥ゆかしさを感じられる。
ジェネラル達は、すれ違う人々から頭を下げられながら、どんどん進んでいった。
そうして辿り着いたのは、取っ手に金色の装飾がなされた赤茶色の扉だった。
「こちらのお部屋で御座います」
目の前に開かれた装飾の美しさに、思わず目を見張る。
侍女が案内したのは、入り口から少し奥にある応接間だった。
ジェネラルは知らないが、他国の使者などを案内する為に使われる、特別な部屋である。
侍女は椅子を引きジェネラルを座らせると、持ってきた茶や菓子類をテーブルの上に並べた。
その量も、半端ではない。
テーブル一杯に茶菓子を並べ終えると、侍女たちは丁寧にお辞儀をし、
「後に城の者がやって参ります。しばらく、こちらでお寛ぎ下さいませ」
と言って去っていった。
部屋に一人残されたジェネラルは、無意識のうちに入っていた力を抜いた。
胸に溜まった物を吐き出すかのように、深いため息をついた。改めて周りを見回す。
“やっぱり、ミディは王女様なんだなあ……”
非常に凝った蝶の彫刻を見、改めてミディが王女である事を認識した。
自分も王なのだが、招く側が多く、いざ招かれる側に立つと何だか緊張してしまう。
せっかく出された香茶だったが、まだ緊張しているせいか、手を出そうと思わない。
ただ黙って、誰かがこの部屋にやってくるのを待っていた。
待ち時間自体はそれほど長くなかったが、ジェネラルにはとても長い時間だった。
しばらくして、
「失礼いたします」
ドアが開く音と共に入ってきたのは、40才後半ぐらいの女性だった。
長い髪を上で纏めている為、白いうなじが見える。身に着けているドレスは、身分が高い者が身に着けるような豪華さはないが、高級な布をふんだんに使用して作られているのは一目見て分かる。
ジェネラルの姿を見ると、上品な柔らかい笑みを浮かべた。
「あなたが、ミディローズ杯で優勝されたジェネラル様ですか?」
「あっ、はい、そうです。初めまして」
椅子から立ち上がると、ジェネラルは丁寧に礼をした。
「初めまして。私、侍女長のフィルと申します」
侍女長という位に相応しい、美しいフォームで礼を返す。
フィルは、主人の準備が整うまでの、客人の話し相手などもしている。ジェネラルに椅子を勧めると、自分も向かい側の席に座った。
「ミディローズ杯で優勝されるなど、ジェネラル様はお強いのですね。久しぶりの優勝者だと、城内の者達が驚いておりましたわ」
笑みを湛えたまま、フィルが賞賛する。
パーパスでも久しぶりの優勝者だと、男達が喜んでいた事を思い出す。
ジェネラルはしばらく、曖昧に言葉を返しながら、フィルとの世話話を続けていた。
しかし、彼女の話がそれ以上進まないを感じたとき、ジェネラルは思い切って、問題の口火を切った。
「あの、それで。ミディ王女には、いつお会い出来るのでしょうか?」
話をいきなり変えられ、笑みを浮かべていたフィルの表情が少し動いた。
先ほどとは違って、申し訳ない様子でジェネラルを見る。
「申し訳御座いません、ジェネラル様。今、ミディ王女にお会いする事は出来ないのです」
「えっ?」
城内に通されたので、てっきり会えるとばかり思っていた為、フィルの言葉は予想外だったのだ。
驚きの声をあげ、少し前に乗り出すジェネラルに、フィルは眉間に皺を寄せながら、理由を述べた。
「普段でしたら、お断りする事はないのですが……。エルザ王が病に伏せられている事と、ミディ様がご結婚前という理由で、ただいま謁見が許されておりません」
「そんな……、ならどうして僕を城内に案内したのですか?」
「長旅でお越し頂いたのに、どうしてそのまま帰す事ができましょう? 本日は、こちらでお休み下さいませ。明日、城の者に送らせましょう。本日はお詫びとして、精一杯おもてなしさせて頂きます」
フィルは真摯な態度でそう述べると、もう一度ジェネラルに城で一泊する事を勧め、頭を下げた。
宿泊という言葉を聞いたとき、ジェネラルはふと窓の外を見た。
先ほどまで、頭上で光を降り注いでいた太陽は傾き、青い空は真っ赤に染まっていた。
もしここで断っても、結局ディートの町で一泊する事は決まっている。
今から城を出て宿を探すか、それとも城でもてなしを受けるか。
決定に迷いはなかった。
「それでは……、お言葉に甘えます」
頭を下げたままのフィルに、ジェネラルは笑みを浮かべて言った。
「そうですか! ありがとう御座います!」
すぐさま頭を上げ、フィルが礼を言う。表情から、ほっとした様子が読み取れる。
そうそう、といい忘れた事を思い出したのか、フィルが再び口を開いた。
「もちろん、ミディ様がご結婚後に、謁見の機会を設けますので、そちらについてはご安心下さいませ」
一応、結婚後に会わせてもらえるらしい。
もしかしたら今の時期に会って、ミディの気持ちが変わるのを恐れているからかもしれない。
まさかと思うが、ミディの事だ。
“ありえるかも……”
心の中で苦笑いをしながら、ジェネラルは思った。
そんな彼の心境を知らず、フィルは、
「それでは、お部屋にご案内致します。こちらへどうぞ」
始めに出会ったときと同じ笑顔を浮かべ、ジェネラルを部屋へ案内する為に扉を開けた。
部屋を出る時、ジェネラルはフィルに尋ねた。
「あの……、ミディ王女は、今どうされてますか?」
ミディと別れて、4ヶ月近く経っている。
エルザ王が病気が重いという事もあり、ミディの様子が心配だったのだ。
フィルは少し間を置くと、聞いた話ではありますが、と前置きをして答えた。
「ミディ様は、王の病気を知らされてからずっと、部屋に閉じこもってしまわれたそうです。塞ぎこまれているようですが、メディア様がミディ様のお部屋によくいらっしゃるようですし、我々もミディ様の事はメディア様にお任せしております」
「そう……ですか……」
心にちりちりする刺激を感じながら、ジェネラルはフィルの後を付いて行った。
城外と同じく、白く統一された通路には、美しく飾られた花や装飾品が飾られている。
皆、高価な物だとは思うが、控えめにさりげなく飾ってある所が、城という場所でありながら奥ゆかしさを感じられる。
ジェネラル達は、すれ違う人々から頭を下げられながら、どんどん進んでいった。
そうして辿り着いたのは、取っ手に金色の装飾がなされた赤茶色の扉だった。
「こちらのお部屋で御座います」
目の前に開かれた装飾の美しさに、思わず目を見張る。
侍女が案内したのは、入り口から少し奥にある応接間だった。
ジェネラルは知らないが、他国の使者などを案内する為に使われる、特別な部屋である。
侍女は椅子を引きジェネラルを座らせると、持ってきた茶や菓子類をテーブルの上に並べた。
その量も、半端ではない。
テーブル一杯に茶菓子を並べ終えると、侍女たちは丁寧にお辞儀をし、
「後に城の者がやって参ります。しばらく、こちらでお寛ぎ下さいませ」
と言って去っていった。
部屋に一人残されたジェネラルは、無意識のうちに入っていた力を抜いた。
胸に溜まった物を吐き出すかのように、深いため息をついた。改めて周りを見回す。
“やっぱり、ミディは王女様なんだなあ……”
非常に凝った蝶の彫刻を見、改めてミディが王女である事を認識した。
自分も王なのだが、招く側が多く、いざ招かれる側に立つと何だか緊張してしまう。
せっかく出された香茶だったが、まだ緊張しているせいか、手を出そうと思わない。
ただ黙って、誰かがこの部屋にやってくるのを待っていた。
待ち時間自体はそれほど長くなかったが、ジェネラルにはとても長い時間だった。
しばらくして、
「失礼いたします」
ドアが開く音と共に入ってきたのは、40才後半ぐらいの女性だった。
長い髪を上で纏めている為、白いうなじが見える。身に着けているドレスは、身分が高い者が身に着けるような豪華さはないが、高級な布をふんだんに使用して作られているのは一目見て分かる。
ジェネラルの姿を見ると、上品な柔らかい笑みを浮かべた。
「あなたが、ミディローズ杯で優勝されたジェネラル様ですか?」
「あっ、はい、そうです。初めまして」
椅子から立ち上がると、ジェネラルは丁寧に礼をした。
「初めまして。私、侍女長のフィルと申します」
侍女長という位に相応しい、美しいフォームで礼を返す。
フィルは、主人の準備が整うまでの、客人の話し相手などもしている。ジェネラルに椅子を勧めると、自分も向かい側の席に座った。
「ミディローズ杯で優勝されるなど、ジェネラル様はお強いのですね。久しぶりの優勝者だと、城内の者達が驚いておりましたわ」
笑みを湛えたまま、フィルが賞賛する。
パーパスでも久しぶりの優勝者だと、男達が喜んでいた事を思い出す。
ジェネラルはしばらく、曖昧に言葉を返しながら、フィルとの世話話を続けていた。
しかし、彼女の話がそれ以上進まないを感じたとき、ジェネラルは思い切って、問題の口火を切った。
「あの、それで。ミディ王女には、いつお会い出来るのでしょうか?」
話をいきなり変えられ、笑みを浮かべていたフィルの表情が少し動いた。
先ほどとは違って、申し訳ない様子でジェネラルを見る。
「申し訳御座いません、ジェネラル様。今、ミディ王女にお会いする事は出来ないのです」
「えっ?」
城内に通されたので、てっきり会えるとばかり思っていた為、フィルの言葉は予想外だったのだ。
驚きの声をあげ、少し前に乗り出すジェネラルに、フィルは眉間に皺を寄せながら、理由を述べた。
「普段でしたら、お断りする事はないのですが……。エルザ王が病に伏せられている事と、ミディ様がご結婚前という理由で、ただいま謁見が許されておりません」
「そんな……、ならどうして僕を城内に案内したのですか?」
「長旅でお越し頂いたのに、どうしてそのまま帰す事ができましょう? 本日は、こちらでお休み下さいませ。明日、城の者に送らせましょう。本日はお詫びとして、精一杯おもてなしさせて頂きます」
フィルは真摯な態度でそう述べると、もう一度ジェネラルに城で一泊する事を勧め、頭を下げた。
宿泊という言葉を聞いたとき、ジェネラルはふと窓の外を見た。
先ほどまで、頭上で光を降り注いでいた太陽は傾き、青い空は真っ赤に染まっていた。
もしここで断っても、結局ディートの町で一泊する事は決まっている。
今から城を出て宿を探すか、それとも城でもてなしを受けるか。
決定に迷いはなかった。
「それでは……、お言葉に甘えます」
頭を下げたままのフィルに、ジェネラルは笑みを浮かべて言った。
「そうですか! ありがとう御座います!」
すぐさま頭を上げ、フィルが礼を言う。表情から、ほっとした様子が読み取れる。
そうそう、といい忘れた事を思い出したのか、フィルが再び口を開いた。
「もちろん、ミディ様がご結婚後に、謁見の機会を設けますので、そちらについてはご安心下さいませ」
一応、結婚後に会わせてもらえるらしい。
もしかしたら今の時期に会って、ミディの気持ちが変わるのを恐れているからかもしれない。
まさかと思うが、ミディの事だ。
“ありえるかも……”
心の中で苦笑いをしながら、ジェネラルは思った。
そんな彼の心境を知らず、フィルは、
「それでは、お部屋にご案内致します。こちらへどうぞ」
始めに出会ったときと同じ笑顔を浮かべ、ジェネラルを部屋へ案内する為に扉を開けた。
部屋を出る時、ジェネラルはフィルに尋ねた。
「あの……、ミディ王女は、今どうされてますか?」
ミディと別れて、4ヶ月近く経っている。
エルザ王が病気が重いという事もあり、ミディの様子が心配だったのだ。
フィルは少し間を置くと、聞いた話ではありますが、と前置きをして答えた。
「ミディ様は、王の病気を知らされてからずっと、部屋に閉じこもってしまわれたそうです。塞ぎこまれているようですが、メディア様がミディ様のお部屋によくいらっしゃるようですし、我々もミディ様の事はメディア様にお任せしております」
「そう……ですか……」
心にちりちりする刺激を感じながら、ジェネラルはフィルの後を付いて行った。
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