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第67話 逃亡者
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むしゃむしゃ……
がつがつ……
お世辞にも上品とは言えない音が、食堂の中に響き渡っている。
「よく食べるわね……」
「うっ……、うん……」
その様子を、同じテーブルで見守る、王女と魔王。
視線の先には音の主―—歳はミディと同じくらいだろうか――の女性が、一つに纏めた赤毛が乱れるのも気にせず、一心不乱に目の前の皿を空けていた。
食べるというか、戦っていると言った方が似合う食べっぷりだ。彼女の周りには、戦いに勝利した皿が、山積みになっている。
不健康そうにやせ細った体に、これだけの物が入るなど、人間の体は不思議に満ち溢れている。
行儀悪くテーブルに頬杖を付きながら、ミディがジェネラルに尋ねる。
「……で、ジェネ。この人、どこで攫って来たのかしら?」
ミディの発言に、ジェネラルは慌てて言葉を返した。
「だーかーらー! 攫ってなんかないって、さっきから言ってるじゃないか!!」
「ふふっ、事情はともあれ、誘拐なんて……。ようやく修行の成果が出てきたのかしら?」
「喜ぶところじゃないよ、そこ!!」
物凄い良い笑顔で親指を立てるミディ。今日もジェネラルの言葉を勝手に都合よく脳内変換する技は、絶好調のようだ。
目の前の料理がなくなりテーブル上を見回している女性に、自分の料理を差し出しながら、ジェネラルはいつものように突っ込む。
事の始まりは、いつものように魔王の修行をしているときの事だった。
ミディがちょっとした用事でその場を離れたとき、この女性がジェネラルの目の前にやって来て、いきなり倒れたのだ。
慌ててジェネラルが介抱し、休ませる為に宿に連れて行った。が、1階の食堂を通ったときに、
「……っ! いい匂い!! 食べ物!!」
と、女性が叫んだと思うと、凄いスピードでテーブルにつき、勝手にいくつも料理を注文してしまったのである。
料理が来た瞬間、物凄い勢いで平らげていく女性。
とりあえず、倒れた原因が空腹だと分かったジェネラルは、ミディを呼び戻し、今に至るわけである。
そうこうしている間に、テーブルの上にあった料理が全てなくなり、
「ふはあ~~~」
突き出た腹を叩きながら、女性が満足そうに声を上げた。その表情は、とても幸せそうだ。
女性は、しばらく満腹の余韻に浸っていた。
が、頬杖をついて女性を見るミディと、少し不安そうな表情を浮かべるジェネラルに気がついたようだ。
手についた油を舐めとると、少し首を傾け口を開いた。
「で、あんたたち、何?」
彼女の発言に、ミディのこめかみが動いた気がした。
次の瞬間、
「……ジェネ。『やって』いいわよ」
「いやいやいやいやっ!! 落ち着こうよ、ミディ!」
半眼になって、首元を人差し指で切る仕草をするミディを、慌ててジェネラルは止めた。
散々目の前で食い散らかし、ミディたちの料理まで奪い、ジェネラルが助けたのにもかかわらず、この言葉。それがミディの怒りの原因らしい。
「あんた、ミディっていうの。ふーん。ミディ王女と同じ名前なのね」
つまらなさそうに女性が呟く。
ミディという名前は、特別珍しいものではない。彼女に与えられた加護にあやかろうと同じ名前をつける親は、結構いる。
「で、私を助けてくれたあんたがジェネっていうのね」
「いや……、本名は、ジェネラルですけど…」
半笑いを浮かべながら、ジェネラルが訂正する。
まあどっちでもいいじゃんっ!と、豪快に女性は笑うと、
「んじゃ、ミディ、ジェネラル、助けてくれてありがと」
と席を立ち、立ち去ろうとした。が、そうは問屋がおろさない。
素早い動きで、女性の腕を掴むミディ。駆け出そうとしていたので、急に腕をつかまれ、その反動で女性の体が後ろに倒れそうになる。
何とか転倒は免れたが、女性の怒りはミディに向けられた。
「何すんのよ! 離せ、ばかっ!!」
「散々飲み食いして、何も話さず逃げるなんて、虫が良すぎるんじゃないかしら?」
口調は柔らかいし目元には笑みが見えるが、明らかにミディは怒っている。そうジェネラルは確信した。
だが、女性も負けてはいない。ミディの手を乱暴に振り払うと、
「ええー!? 貧乏人から絞る取るなんて!! こんなにか弱い女性に……うううっ…うわーんっ!!」
と、目元を覆い、泣き出した。嘘泣きなど誰が見ても分かるが、騒ぎ方が騒ぎ方の為、周りの注目を浴び、ジェネラルは恥ずかしくなった。
“か弱い女性が、あんな食べ方やこんな大泣きしないし…”
か弱いという単語の意味を履き違えている女性に対し、心の中で突っ込みを入れる。
とりあえず、泣きまねをやめてもらおうと口を開きかけたとき、
ガタンッ!
ドア付近で大きな音がした。
その瞬間、女性の体がビクンと反応し、音のした方に目を向ける。その瞳に、恐怖が見え隠れするのを、ミディは見逃さなかった。
音の主は、酔っ払いだった。酔った勢いでドアにぶつかって倒れたらしい。
ドアに向かって、罵声を浴びせている酔っ払い。何もしていないのに罵声を浴びせられるなど、ドアもいい迷惑だ。
強張った表情を浮かべ、まだドアの方を見ている女性の様子に、戦意を削がれたのか、ミディはため息をついた。
今まで黙っていたジェネラルが、女性の方に近づく。
「よかったら倒れる程空腹だった訳を、話して貰えませんか? 事情によっては、きっとミディも今回の食事代を払ってくれると思いますし」
「まあ、その格好を見たら、何かあったか一目瞭然だけど」
髪はボサボサ、顔は少し黒く、服もぼろぼろで、何日も同じ服で歩き回ったように汚れている。
そして、音に対する異常な反応。
ミディが、女性の耳元で囁いた。
「あなた……、何かに追われているわね?」
女性は下唇をきつく噛みながら、ミディの言葉に小さく頷いた。
がつがつ……
お世辞にも上品とは言えない音が、食堂の中に響き渡っている。
「よく食べるわね……」
「うっ……、うん……」
その様子を、同じテーブルで見守る、王女と魔王。
視線の先には音の主―—歳はミディと同じくらいだろうか――の女性が、一つに纏めた赤毛が乱れるのも気にせず、一心不乱に目の前の皿を空けていた。
食べるというか、戦っていると言った方が似合う食べっぷりだ。彼女の周りには、戦いに勝利した皿が、山積みになっている。
不健康そうにやせ細った体に、これだけの物が入るなど、人間の体は不思議に満ち溢れている。
行儀悪くテーブルに頬杖を付きながら、ミディがジェネラルに尋ねる。
「……で、ジェネ。この人、どこで攫って来たのかしら?」
ミディの発言に、ジェネラルは慌てて言葉を返した。
「だーかーらー! 攫ってなんかないって、さっきから言ってるじゃないか!!」
「ふふっ、事情はともあれ、誘拐なんて……。ようやく修行の成果が出てきたのかしら?」
「喜ぶところじゃないよ、そこ!!」
物凄い良い笑顔で親指を立てるミディ。今日もジェネラルの言葉を勝手に都合よく脳内変換する技は、絶好調のようだ。
目の前の料理がなくなりテーブル上を見回している女性に、自分の料理を差し出しながら、ジェネラルはいつものように突っ込む。
事の始まりは、いつものように魔王の修行をしているときの事だった。
ミディがちょっとした用事でその場を離れたとき、この女性がジェネラルの目の前にやって来て、いきなり倒れたのだ。
慌ててジェネラルが介抱し、休ませる為に宿に連れて行った。が、1階の食堂を通ったときに、
「……っ! いい匂い!! 食べ物!!」
と、女性が叫んだと思うと、凄いスピードでテーブルにつき、勝手にいくつも料理を注文してしまったのである。
料理が来た瞬間、物凄い勢いで平らげていく女性。
とりあえず、倒れた原因が空腹だと分かったジェネラルは、ミディを呼び戻し、今に至るわけである。
そうこうしている間に、テーブルの上にあった料理が全てなくなり、
「ふはあ~~~」
突き出た腹を叩きながら、女性が満足そうに声を上げた。その表情は、とても幸せそうだ。
女性は、しばらく満腹の余韻に浸っていた。
が、頬杖をついて女性を見るミディと、少し不安そうな表情を浮かべるジェネラルに気がついたようだ。
手についた油を舐めとると、少し首を傾け口を開いた。
「で、あんたたち、何?」
彼女の発言に、ミディのこめかみが動いた気がした。
次の瞬間、
「……ジェネ。『やって』いいわよ」
「いやいやいやいやっ!! 落ち着こうよ、ミディ!」
半眼になって、首元を人差し指で切る仕草をするミディを、慌ててジェネラルは止めた。
散々目の前で食い散らかし、ミディたちの料理まで奪い、ジェネラルが助けたのにもかかわらず、この言葉。それがミディの怒りの原因らしい。
「あんた、ミディっていうの。ふーん。ミディ王女と同じ名前なのね」
つまらなさそうに女性が呟く。
ミディという名前は、特別珍しいものではない。彼女に与えられた加護にあやかろうと同じ名前をつける親は、結構いる。
「で、私を助けてくれたあんたがジェネっていうのね」
「いや……、本名は、ジェネラルですけど…」
半笑いを浮かべながら、ジェネラルが訂正する。
まあどっちでもいいじゃんっ!と、豪快に女性は笑うと、
「んじゃ、ミディ、ジェネラル、助けてくれてありがと」
と席を立ち、立ち去ろうとした。が、そうは問屋がおろさない。
素早い動きで、女性の腕を掴むミディ。駆け出そうとしていたので、急に腕をつかまれ、その反動で女性の体が後ろに倒れそうになる。
何とか転倒は免れたが、女性の怒りはミディに向けられた。
「何すんのよ! 離せ、ばかっ!!」
「散々飲み食いして、何も話さず逃げるなんて、虫が良すぎるんじゃないかしら?」
口調は柔らかいし目元には笑みが見えるが、明らかにミディは怒っている。そうジェネラルは確信した。
だが、女性も負けてはいない。ミディの手を乱暴に振り払うと、
「ええー!? 貧乏人から絞る取るなんて!! こんなにか弱い女性に……うううっ…うわーんっ!!」
と、目元を覆い、泣き出した。嘘泣きなど誰が見ても分かるが、騒ぎ方が騒ぎ方の為、周りの注目を浴び、ジェネラルは恥ずかしくなった。
“か弱い女性が、あんな食べ方やこんな大泣きしないし…”
か弱いという単語の意味を履き違えている女性に対し、心の中で突っ込みを入れる。
とりあえず、泣きまねをやめてもらおうと口を開きかけたとき、
ガタンッ!
ドア付近で大きな音がした。
その瞬間、女性の体がビクンと反応し、音のした方に目を向ける。その瞳に、恐怖が見え隠れするのを、ミディは見逃さなかった。
音の主は、酔っ払いだった。酔った勢いでドアにぶつかって倒れたらしい。
ドアに向かって、罵声を浴びせている酔っ払い。何もしていないのに罵声を浴びせられるなど、ドアもいい迷惑だ。
強張った表情を浮かべ、まだドアの方を見ている女性の様子に、戦意を削がれたのか、ミディはため息をついた。
今まで黙っていたジェネラルが、女性の方に近づく。
「よかったら倒れる程空腹だった訳を、話して貰えませんか? 事情によっては、きっとミディも今回の食事代を払ってくれると思いますし」
「まあ、その格好を見たら、何かあったか一目瞭然だけど」
髪はボサボサ、顔は少し黒く、服もぼろぼろで、何日も同じ服で歩き回ったように汚れている。
そして、音に対する異常な反応。
ミディが、女性の耳元で囁いた。
「あなた……、何かに追われているわね?」
女性は下唇をきつく噛みながら、ミディの言葉に小さく頷いた。
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