立派な魔王になる方法

めぐめぐ

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第56話 提案2

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「イチかバチかでかけるなら……、『ミディローズ杯』に出たらどう? 今ならまだ申し込みに間に合うと思うし」

「みっ、みでぃろーず杯……? なんですかソレハ……」

 聞きなれぬ言葉――いや、前半の言葉は嫌と言うほど知っているが、に、頬を引きつらせて聞き返すジェネラル。
 彼の反応に、店員が意外そうに言葉を返す。

「あんた、この町の人じゃないね? ミディ様の誕生日を祝い、毎年この町では『ミディローズ杯』という大会が開かれるの。これに優勝した人は、賞金とエルザ城でミディ様と謁見出来る機会が与えられるのよ? 結構有名なんだけど」

 プロトコルでは有名かもしれないが、生憎ジェネラルは魔界出身者である。
 そんな大会があるなど、知るわけがない。

「で……、一体どんな競技があるんですか?」

 恐る恐る尋ねる。

 あのミディの名前が入っているのだ。どんな事をするのか、想像もつかない。
 恐れが顔に出ていたのだろう。手を振りながら、店員が笑う。

「やだね~、そんな不安そうな顔しないで。ルールは鬼ごっこと一緒だよ。最後に1人残った参加者が優勝ってわけ。何かね~、ミディ様が『夫にする人間は少なくとも、100人の鬼から逃げ切ることが出来る体力がないと』と言って大会を開いた事から始まったらしいよ」

 どうやら、魔界の『大かくれんぼ大会』の鬼ごっこ版ならしい。
 この町に来た時に交わされた会話を思い出す。

“大かくれんぼ大会を馬鹿にしてたけど、自分も同じような事してるじゃないか!”

 ベッドで寝ているであろうミディに対し、心の中で文句を言う。が、そのお陰で、自由になる金が手に入るかもしれないのだ。チャンスである。

 鬼ごっこなら大した事ないだろう。そこそこ足の速さには自信がある。
 それに万が一、捕まりそうになったら、

“相手を魔法で吹っ飛ばして逃げれば………、まてまてまてまてまてまて、僕!? 魔法で吹っ飛ばしてって、何だよ!! まずいよ、僕!! 本気でその考え方まずいから!!!”

 再び、物騒な考えを振り落とすジェネラル。
 自己嫌悪に陥るのを何とか堪えると、気を取り直し、

「ありがとうございます! その大会に出て、頑張ってみようと思います!」

と、大会について教えてくれた店員にお辞儀をした。

 ニコニコと笑顔で礼を言う少年を見、店員の表情が曇った。先ほどとは違った、心配そうな口調で尋ねる。

「……ちょっと冗談のつもりだったんだけど……。本気であんた、『ミディローズ杯』に出るつもりなの? あんたみたいな可愛い坊ちゃんには、あの大会はちょっと厳しいかも……」

「へっ?」 

 せっかく決心がついたのに、店員の言葉にジェネラルの体がガクッと傾いた。

「そっ、それって……、どういう意味ですか?」

「いや~ねぇ~、ルールは鬼ごっこだけど、中身はかなりハードだからさ。出場者も……なんかあれだし。見てる分には楽しいんだけど、あんたみたいな小さい子が、ついていけるかなって思って」

“出場者があれって……”

 かなり気になるが、物凄く怖い答えが返って来そうなので、恐ろしくて口には出来ない。
 しかし店員は、少年の表情から何を言わんとしているのか、感じ取ったのだろう。

「あの雰囲気は、中々口では説明できないんだけどね。まあ気になるようなら一回、大会申込所に行って見なさいな。大体の雰囲気はつかめると思うから」

 言葉を濁しながら、乾いた笑いを浮かべ店員が言った。
 大会申込所に行っていないのに、もうすでにやばい雰囲気が伝わってくる。

 さすがミディローズ杯。
 言い出しっぺがあれなのだから、集まってくるやつ等も、あれなのだろう。
 ジェネラルの心に不安な風が吹き込み、通り過ぎていった。

 丁度そのとき、別の客が現れ、店員を呼んだ。店員は一言、「がんばってねー」と声をかけると、客の元へ駆けて行った。

“つまり……、とりあえず当たってみろと…。そして、砕けて来いと……”

 そこまでは言っていない。

 祭り賑わう楽しい雰囲気の中、不安で満ちた心を抱え、ジェネラルは店を後にした。

 道行く人たちを避けながら、一人ジェネラルは考え込んでいた。しかし。

“こんな事で悩んでいても仕方がないじゃないか! 僕は、魔界を治める王なんだよ!? それに、ミディ程の変人がいるわけないじゃないか!! だから、大丈夫だよ!!”

 どれだけ変人が来ようが、ミディにかなうものがいるわけがない。
 それに、同じく変人と言えば、アクノリッジもそうではないか。

 あの変人2人と何とかやってきたのだ。

 そう思うと心強いと感じると同時に、自分がかなり成長したのだと、しみじみ思う。

 ミディの修行、そしてアクノリッジの精神攻撃、それら精神的試練を乗り越え超成長を遂げた魔王に、恐れるものはない。

 ジェネラルは近くにいる通行人に申込所の場所を尋ねると、その場所へと、決意に満ちた表情で歩みを進めていった。
 
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