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第54話 憂鬱
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ドサッ。ぱふんっ…
一つ目は、荷物を地面に下ろした音、そしてもう一つは、ミディが安ベッドに倒れこんだ音だ。
勢いよく倒れこんだ為、埃が舞い上がり、ベッドがギシギシと音を立てた。
始めの頃は、「宿屋と名打ってるなら、ベッドぐらい綺麗にしておきなさいよね!」と文句を言っていた王女だが、最近は慣れて来たのだろう。
多少汚くても気にすることがなくなってきた。
「ミディ、さっきのイヤリング、買ったらよかったのに。値段だって、それほど高くなかったじゃないか」
行儀よく椅子に座ると、ベッドの上で伸びをしているミディに声をかけた。
ミディの心を捉えたイヤリングだが、結局買わなかったのだ。
うっとりとイヤリングを見つめていた王女の表情から、かなり気に入っている事は安易に想像出来たし、絶対に買うと思っていたので、ミディが断ったのには驚いたジェネラルだった。
「他に必要な物が出てくるかもしれないでしょう? 旅に節約は必要なのよ」
ミディとは思えない発言に、驚きを露にするジェネラル。
“ミディが、こんなまともな発言をするなんて……。誕生日を迎えて、一つ成長したんだね……”
まるで我が子の成長を喜ぶように、ジェネラルは心の中で涙を流した。
この調子で、魔王を育てるとかいう馬鹿な事も諦めて欲しいと、同時に思う。
そんなジェネラルの思いも知らず、ミディは鎧を脱ぎ出した。顔を覆う兜の下から、本来の美しい顔が現れる。
寝る前ぐらいしか鎧を脱がないミディの行動を、ジェネラルは不思議そうに見ていた。
「ふう~、暑かった」
重い装備を脱ぎ捨てたミディは、そう呟くと、再びベッドの上に転がった。
彼女が暑がるのも仕方がない。
ただでさえ少し汗ばむ陽気なのに、全身を覆う鎧を身に着けているのだ。熱が篭って仕方がないのだろう。
「ジェネ、今日の修行はお休みにするわ。好きな所に行って来ていいわよ」
ベッドの上で横になりながら、ミディはやる気のない声で言った。
彼女の発言に、ますます瞳を見開くジェネラル。
慌ててミディに近づくと、額に手を当てて問う。
「みっ、ミディ、どうしたの!? どこか体の具合が悪いの!? もしかして、あの謎な食べ物に当たった!? だから言ったじゃないか! 店の人に材料を聞いても答えてくれない食べ物なんて、食べない方がいいって!!」
「……張り倒すわよ…ジェネ」
低い声で言うと、ジェネラルの手の甲をつねりあげた。
慌ててジェネラルは手を引っ込めと、真っ赤になった手の甲に息をふきかけた。
いつもの変わらぬ光景を横目で見ながら、ミディは言葉を続けた。
「何か、誕生日って何もやる気が起こらないのよね。あのまま気がつかなければよかったわ」
溜息交じりに、唇から紡がれる言葉。
その表情は、疲れているかのように少し暗い。
いつものミディらしからぬ様子に心配して、ジェネラルは元気つけようとわざと声を明るくして言った。
「今日はミディが主役の日じゃないか! 皆がお祝いしてくれてるんだから、そんな事言わないで、楽しもうよ! ねっ?」
「……国を挙げて祝ってくれるのは、とても嬉しいわ。だけど……、今日は一日、ゆっくりさせてもらうわ」
ミディは言葉を切ると、瞳を閉じ、寝る体勢に入った。
微かに寝息が聞こえる。
ジェネラルはしばらく横たわるミディを見つめていたが、これ以上の行動を期待出来ないと分かったのだろう。
パタンとドアが閉じられる音が、部屋に響き渡った。
王女の誕生日を祝い、大騒ぎする人々の声が聞こえてくる。
ミディは一度瞳を開くと、ジェネラルが出て行ったドアを見つめていた。
何か言いたそうに唇が動いたが、そこから言葉が発される事はなく、再び瞳を閉じると、眠りという名の闇の中に身を任せた。
一つ目は、荷物を地面に下ろした音、そしてもう一つは、ミディが安ベッドに倒れこんだ音だ。
勢いよく倒れこんだ為、埃が舞い上がり、ベッドがギシギシと音を立てた。
始めの頃は、「宿屋と名打ってるなら、ベッドぐらい綺麗にしておきなさいよね!」と文句を言っていた王女だが、最近は慣れて来たのだろう。
多少汚くても気にすることがなくなってきた。
「ミディ、さっきのイヤリング、買ったらよかったのに。値段だって、それほど高くなかったじゃないか」
行儀よく椅子に座ると、ベッドの上で伸びをしているミディに声をかけた。
ミディの心を捉えたイヤリングだが、結局買わなかったのだ。
うっとりとイヤリングを見つめていた王女の表情から、かなり気に入っている事は安易に想像出来たし、絶対に買うと思っていたので、ミディが断ったのには驚いたジェネラルだった。
「他に必要な物が出てくるかもしれないでしょう? 旅に節約は必要なのよ」
ミディとは思えない発言に、驚きを露にするジェネラル。
“ミディが、こんなまともな発言をするなんて……。誕生日を迎えて、一つ成長したんだね……”
まるで我が子の成長を喜ぶように、ジェネラルは心の中で涙を流した。
この調子で、魔王を育てるとかいう馬鹿な事も諦めて欲しいと、同時に思う。
そんなジェネラルの思いも知らず、ミディは鎧を脱ぎ出した。顔を覆う兜の下から、本来の美しい顔が現れる。
寝る前ぐらいしか鎧を脱がないミディの行動を、ジェネラルは不思議そうに見ていた。
「ふう~、暑かった」
重い装備を脱ぎ捨てたミディは、そう呟くと、再びベッドの上に転がった。
彼女が暑がるのも仕方がない。
ただでさえ少し汗ばむ陽気なのに、全身を覆う鎧を身に着けているのだ。熱が篭って仕方がないのだろう。
「ジェネ、今日の修行はお休みにするわ。好きな所に行って来ていいわよ」
ベッドの上で横になりながら、ミディはやる気のない声で言った。
彼女の発言に、ますます瞳を見開くジェネラル。
慌ててミディに近づくと、額に手を当てて問う。
「みっ、ミディ、どうしたの!? どこか体の具合が悪いの!? もしかして、あの謎な食べ物に当たった!? だから言ったじゃないか! 店の人に材料を聞いても答えてくれない食べ物なんて、食べない方がいいって!!」
「……張り倒すわよ…ジェネ」
低い声で言うと、ジェネラルの手の甲をつねりあげた。
慌ててジェネラルは手を引っ込めと、真っ赤になった手の甲に息をふきかけた。
いつもの変わらぬ光景を横目で見ながら、ミディは言葉を続けた。
「何か、誕生日って何もやる気が起こらないのよね。あのまま気がつかなければよかったわ」
溜息交じりに、唇から紡がれる言葉。
その表情は、疲れているかのように少し暗い。
いつものミディらしからぬ様子に心配して、ジェネラルは元気つけようとわざと声を明るくして言った。
「今日はミディが主役の日じゃないか! 皆がお祝いしてくれてるんだから、そんな事言わないで、楽しもうよ! ねっ?」
「……国を挙げて祝ってくれるのは、とても嬉しいわ。だけど……、今日は一日、ゆっくりさせてもらうわ」
ミディは言葉を切ると、瞳を閉じ、寝る体勢に入った。
微かに寝息が聞こえる。
ジェネラルはしばらく横たわるミディを見つめていたが、これ以上の行動を期待出来ないと分かったのだろう。
パタンとドアが閉じられる音が、部屋に響き渡った。
王女の誕生日を祝い、大騒ぎする人々の声が聞こえてくる。
ミディは一度瞳を開くと、ジェネラルが出て行ったドアを見つめていた。
何か言いたそうに唇が動いたが、そこから言葉が発される事はなく、再び瞳を閉じると、眠りという名の闇の中に身を任せた。
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