22 / 220
第21話 魔法
しおりを挟む
お世辞にも歩きやすいとは言えない道を、二つの人影が進んで行く。
次の目的地であるセンシングの町へ向かうミディとジェネラルだ。
他に歩いている人影はない。
それもそのはず。本来この道は、人が歩くために舗装されていない。歩くのに適した道は別に用意されており、旅する者はそちらを利用する。
なのにどうしてこちらの道を選んだのかというと、ミディがマージの町で手配されている事を察知したからである。
その為、わざわざ歩きにくい、人通りの少ないこの道を選んだのだ。
「ねえミディ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
前を行くミディに、ジェネラルは少し躊躇いがちに口を開いた。
今まで黙々と歩いていた少年の言葉に、ミディは振り返った。
その表情は、相変わらず兜に覆われ見ることが出来ないが、彼の言葉を受け止めている雰囲気が声の調子から分かった。
「何? 私の美しさの秘密が知りたいのなら教えてあげてもいいけれど、ちょっとじゃ済まないわよ?」
「いや、それも気になる事の一つだけど……、物凄く怖い答えが返ってきたら嫌だから、遠慮しとくよ……」
ジェネラルは頬を引きつらせ、ミディからの有難い申し出を断った。
ついでにジェネラルの言う物凄く怖い答えとは、処女の生き血を塗ってるとか、謎の魔法薬を飲んでいるなど、そういう類の話である。
ミディにも彼の言う怖い答えの意味が伝わったのだろうが意図的に無視すると、少し尖った声で問い直す。
「で、聞きたいことって何かしら?」
「えっと……、この世界で魔法が使えるのは、ミディだけなの?」
ミディの歩みが止まった。
先を歩いていた王女を思わず追い越してしまい、ジェネラルも慌てて足を止める。
予想もしなかった彼女の行動を不思議に思いつつ、少年は振り返ってミディを見た。
“あのような魔法を使えるのは、この世界であなた様しかおられません”
“人間は、誰も魔法なんて使えないよ。ただ一人、この国の王女であるミディ様を除いてはね”
シンセと老婆の言葉が、ジェネラルの中で蘇った。
人間が使う事の出来ない魔法。
それをこのプロトコルで唯一ミディのみ、使うことが出来る。
誰だって疑問に思う事だ。ミディに尋ねたジェネラルを、誰が責められるだろうか。
少し俯き、何を考えているか分からないミディに、悪い事でも聞いてしまったかとジェネラルは心配そうに視線を向け続ける。
彼女の口から小さなため息が漏れる。何か重要な事でも口にするのかと構えていたが、ミディの言葉は予想に反する物だった。
「どうしてかしらね?」
「どうしてって……。理由、分からないの?」
再び前を向き歩き出したミディの背中に、ジェネラルは困惑した様子で声をかけた。
ミディは少し考えていた様子だが、
「まあ、この美しさが成せる技かしら?」
と言って、グローブを付けた右手の人差し指を立てると、頬に当てた。
多分、普通の女性がすれば可愛らしく見える仕草なのだろうが、厳つい甲冑を着こんだ奴がしても、何かの暗号やサインを送っているのかと勘違いされるほど、一ミリも可愛さが伝わってこない。
答えをはぐらかされ、ジェネラルは大きなため息をついた。
別の思いが彼の心を満たす。
“どうしたんだろう? あまり話したくない事なのかな……”
明らかにいつもと違うミディの様子に、ジェネラルは少し戸惑いを持って彼女の後姿を見ていた。
自分しか使えない力をジェネラルに高らかに自慢し、その使えるようになった苦労話を聞かされるのかと想像していたからだ。
ああいう性格も超迷惑だが、いざ大人しくなると調子が狂う。
沈黙が二人の間に流れた。
しばらくして、ミディの問いが沈黙を破った。
「じゃあジェネは、どうして魔法が使えるのよ?」
王女の問いに、ジェネラルはおでこに皺を寄せてミディの顔を見返した。
その顔には、今更何聞いてんだよ……と、呆れオーラが出ている。
「何で魔法が使えるかって……。ミディ、僕、魔王だよ……?」
確かに、魔王であるジェネラルに何で魔法が使えるのかを聞くなど、鳥に何で空が飛べるのかと聞くのと同じくらい滑稽である。
しかし、ミディには別の意味で取られたようだ。彼女も呆れた様子で、ため息をついた。
「……ここぞとばかりに、悪の権化だと強調されてもね」
「だーかーら! 魔王は悪の権化じゃないってば!!」
散々魔界でエクスから説明されていたはずだが、未だにミディの中では『魔王=悪』になっているらしい。
恐らく、説明を聞いたうえで納得してないわけでなく、エクスの説明を全く聞いてないのではないかと密かにジェネラルは思っている。
ジェネラルはいきなり走り出すと、ミディの目の前に立ちはだかった。急な行動に、王女の足が再び止まる。
ミディが立ち止まり、自分に注目しているのを確認すると、人差し指を立てた。
“今度こそ、自分が悪の権化ではないと分かって貰わないと!”
その強い決意を胸に秘め、ジェネラルは大きく息を吸った。
次の目的地であるセンシングの町へ向かうミディとジェネラルだ。
他に歩いている人影はない。
それもそのはず。本来この道は、人が歩くために舗装されていない。歩くのに適した道は別に用意されており、旅する者はそちらを利用する。
なのにどうしてこちらの道を選んだのかというと、ミディがマージの町で手配されている事を察知したからである。
その為、わざわざ歩きにくい、人通りの少ないこの道を選んだのだ。
「ねえミディ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
前を行くミディに、ジェネラルは少し躊躇いがちに口を開いた。
今まで黙々と歩いていた少年の言葉に、ミディは振り返った。
その表情は、相変わらず兜に覆われ見ることが出来ないが、彼の言葉を受け止めている雰囲気が声の調子から分かった。
「何? 私の美しさの秘密が知りたいのなら教えてあげてもいいけれど、ちょっとじゃ済まないわよ?」
「いや、それも気になる事の一つだけど……、物凄く怖い答えが返ってきたら嫌だから、遠慮しとくよ……」
ジェネラルは頬を引きつらせ、ミディからの有難い申し出を断った。
ついでにジェネラルの言う物凄く怖い答えとは、処女の生き血を塗ってるとか、謎の魔法薬を飲んでいるなど、そういう類の話である。
ミディにも彼の言う怖い答えの意味が伝わったのだろうが意図的に無視すると、少し尖った声で問い直す。
「で、聞きたいことって何かしら?」
「えっと……、この世界で魔法が使えるのは、ミディだけなの?」
ミディの歩みが止まった。
先を歩いていた王女を思わず追い越してしまい、ジェネラルも慌てて足を止める。
予想もしなかった彼女の行動を不思議に思いつつ、少年は振り返ってミディを見た。
“あのような魔法を使えるのは、この世界であなた様しかおられません”
“人間は、誰も魔法なんて使えないよ。ただ一人、この国の王女であるミディ様を除いてはね”
シンセと老婆の言葉が、ジェネラルの中で蘇った。
人間が使う事の出来ない魔法。
それをこのプロトコルで唯一ミディのみ、使うことが出来る。
誰だって疑問に思う事だ。ミディに尋ねたジェネラルを、誰が責められるだろうか。
少し俯き、何を考えているか分からないミディに、悪い事でも聞いてしまったかとジェネラルは心配そうに視線を向け続ける。
彼女の口から小さなため息が漏れる。何か重要な事でも口にするのかと構えていたが、ミディの言葉は予想に反する物だった。
「どうしてかしらね?」
「どうしてって……。理由、分からないの?」
再び前を向き歩き出したミディの背中に、ジェネラルは困惑した様子で声をかけた。
ミディは少し考えていた様子だが、
「まあ、この美しさが成せる技かしら?」
と言って、グローブを付けた右手の人差し指を立てると、頬に当てた。
多分、普通の女性がすれば可愛らしく見える仕草なのだろうが、厳つい甲冑を着こんだ奴がしても、何かの暗号やサインを送っているのかと勘違いされるほど、一ミリも可愛さが伝わってこない。
答えをはぐらかされ、ジェネラルは大きなため息をついた。
別の思いが彼の心を満たす。
“どうしたんだろう? あまり話したくない事なのかな……”
明らかにいつもと違うミディの様子に、ジェネラルは少し戸惑いを持って彼女の後姿を見ていた。
自分しか使えない力をジェネラルに高らかに自慢し、その使えるようになった苦労話を聞かされるのかと想像していたからだ。
ああいう性格も超迷惑だが、いざ大人しくなると調子が狂う。
沈黙が二人の間に流れた。
しばらくして、ミディの問いが沈黙を破った。
「じゃあジェネは、どうして魔法が使えるのよ?」
王女の問いに、ジェネラルはおでこに皺を寄せてミディの顔を見返した。
その顔には、今更何聞いてんだよ……と、呆れオーラが出ている。
「何で魔法が使えるかって……。ミディ、僕、魔王だよ……?」
確かに、魔王であるジェネラルに何で魔法が使えるのかを聞くなど、鳥に何で空が飛べるのかと聞くのと同じくらい滑稽である。
しかし、ミディには別の意味で取られたようだ。彼女も呆れた様子で、ため息をついた。
「……ここぞとばかりに、悪の権化だと強調されてもね」
「だーかーら! 魔王は悪の権化じゃないってば!!」
散々魔界でエクスから説明されていたはずだが、未だにミディの中では『魔王=悪』になっているらしい。
恐らく、説明を聞いたうえで納得してないわけでなく、エクスの説明を全く聞いてないのではないかと密かにジェネラルは思っている。
ジェネラルはいきなり走り出すと、ミディの目の前に立ちはだかった。急な行動に、王女の足が再び止まる。
ミディが立ち止まり、自分に注目しているのを確認すると、人差し指を立てた。
“今度こそ、自分が悪の権化ではないと分かって貰わないと!”
その強い決意を胸に秘め、ジェネラルは大きく息を吸った。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
妹と歩く、異世界探訪記
東郷 珠
ファンタジー
ひょんなことから異世界を訪れた兄妹。
そんな兄妹を、数々の難題が襲う。
旅の中で増えていく仲間達。
戦い続ける兄妹は、世界を、仲間を守る事が出来るのか。
天才だけど何処か抜けてる、兄が大好きな妹ペスカ。
「お兄ちゃんを傷つけるやつは、私が絶対許さない!」
妹が大好きで、超過保護な兄冬也。
「兄ちゃんに任せろ。お前は絶対に俺が守るからな!」
どんなトラブルも、兄妹の力で乗り越えていく!
兄妹の愛溢れる冒険記がはじまる。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
黒猫令嬢は毒舌魔術師の手の中で
gacchi
恋愛
黒色は魔女の使いというお伽話が残るフェリアル王国で、黒髪に生まれた伯爵家のシャルリーヌは学園にも通えず家に閉じこもっていた。母はシャルリーヌを産んですぐに亡くなり、父は再婚して二つ下の異母妹ドリアーヌがいる。義母と異母妹には嫌われ、家族の中でも居場所がない。毎年シャルリーヌ以外は避暑地の別荘に行くはずが、今年はなぜかシャルリーヌも連れてこられた。そのせいで機嫌が悪いドリアーヌに殺されかけ、逃げた先で知らない令息に助けられる。ドリアーヌの攻撃魔術から必死で逃げたシャルリーヌは黒猫の姿になってしまっていた。多分、いつもよりもゆるーい感じの作品になるはず。
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる