立派な魔王になる方法

めぐめぐ

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第21話 魔法

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 お世辞にも歩きやすいとは言えない道を、二つの人影が進んで行く。

 次の目的地であるセンシングの町へ向かうミディとジェネラルだ。

 他に歩いている人影はない。
 それもそのはず。本来この道は、人が歩くために舗装されていない。歩くのに適した道は別に用意されており、旅する者はそちらを利用する。

 なのにどうしてこちらの道を選んだのかというと、ミディがマージの町で手配されている事を察知したからである。

 その為、わざわざ歩きにくい、人通りの少ないこの道を選んだのだ。

「ねえミディ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

 前を行くミディに、ジェネラルは少し躊躇いがちに口を開いた。

 今まで黙々と歩いていた少年の言葉に、ミディは振り返った。

 その表情は、相変わらず兜に覆われ見ることが出来ないが、彼の言葉を受け止めている雰囲気が声の調子から分かった。

「何? 私の美しさの秘密が知りたいのなら教えてあげてもいいけれど、ちょっとじゃ済まないわよ?」

「いや、それも気になる事の一つだけど……、物凄く怖い答えが返ってきたら嫌だから、遠慮しとくよ……」

 ジェネラルは頬を引きつらせ、ミディからの有難い申し出を断った。

 ついでにジェネラルの言う物凄く怖い答えとは、処女の生き血を塗ってるとか、謎の魔法薬を飲んでいるなど、そういう類の話である。

 ミディにも彼の言う怖い答えの意味が伝わったのだろうが意図的に無視すると、少し尖った声で問い直す。

「で、聞きたいことって何かしら?」

「えっと……、この世界で魔法が使えるのは、ミディだけなの?」

 ミディの歩みが止まった。

 先を歩いていた王女を思わず追い越してしまい、ジェネラルも慌てて足を止める。

 予想もしなかった彼女の行動を不思議に思いつつ、少年は振り返ってミディを見た。

“あのような魔法を使えるのは、この世界であなた様しかおられません”

“人間は、誰も魔法なんて使えないよ。ただ一人、この国の王女であるミディ様を除いてはね”

 シンセと老婆の言葉が、ジェネラルの中で蘇った。

 人間が使う事の出来ない魔法。
 それをこのプロトコルで唯一ミディのみ、使うことが出来る。

 誰だって疑問に思う事だ。ミディに尋ねたジェネラルを、誰が責められるだろうか。

 少し俯き、何を考えているか分からないミディに、悪い事でも聞いてしまったかとジェネラルは心配そうに視線を向け続ける。

 彼女の口から小さなため息が漏れる。何か重要な事でも口にするのかと構えていたが、ミディの言葉は予想に反する物だった。

「どうしてかしらね?」

「どうしてって……。理由、分からないの?」

 再び前を向き歩き出したミディの背中に、ジェネラルは困惑した様子で声をかけた。

 ミディは少し考えていた様子だが、

「まあ、この美しさが成せる技かしら?」

と言って、グローブを付けた右手の人差し指を立てると、頬に当てた。

 多分、普通の女性がすれば可愛らしく見える仕草なのだろうが、厳つい甲冑を着こんだ奴がしても、何かの暗号やサインを送っているのかと勘違いされるほど、一ミリも可愛さが伝わってこない。

 答えをはぐらかされ、ジェネラルは大きなため息をついた。

 別の思いが彼の心を満たす。

“どうしたんだろう? あまり話したくない事なのかな……”

 明らかにいつもと違うミディの様子に、ジェネラルは少し戸惑いを持って彼女の後姿を見ていた。

 自分しか使えない力をジェネラルに高らかに自慢し、その使えるようになった苦労話を聞かされるのかと想像していたからだ。 

 ああいう性格も超迷惑だが、いざ大人しくなると調子が狂う。

 沈黙が二人の間に流れた。
 しばらくして、ミディの問いが沈黙を破った。

「じゃあジェネは、どうして魔法が使えるのよ?」

 王女の問いに、ジェネラルはおでこに皺を寄せてミディの顔を見返した。

 その顔には、今更何聞いてんだよ……と、呆れオーラが出ている。

「何で魔法が使えるかって……。ミディ、僕、魔王だよ……?」

 確かに、魔王であるジェネラルに何で魔法が使えるのかを聞くなど、鳥に何で空が飛べるのかと聞くのと同じくらい滑稽である。

 しかし、ミディには別の意味で取られたようだ。彼女も呆れた様子で、ため息をついた。

「……ここぞとばかりに、悪の権化だと強調されてもね」 

「だーかーら! 魔王は悪の権化じゃないってば!!」

 散々魔界でエクスから説明されていたはずだが、未だにミディの中では『魔王=悪』になっているらしい。

 恐らく、説明を聞いたうえで納得してないわけでなく、エクスの説明を全く聞いてないのではないかと密かにジェネラルは思っている。

 ジェネラルはいきなり走り出すと、ミディの目の前に立ちはだかった。急な行動に、王女の足が再び止まる。

 ミディが立ち止まり、自分に注目しているのを確認すると、人差し指を立てた。
 
“今度こそ、自分が悪の権化ではないと分かって貰わないと!”

 その強い決意を胸に秘め、ジェネラルは大きく息を吸った。


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