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第20話 解決
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「こんにちは」
「お婆さーん!」
果物屋の老婆が荷物をまとめている時、外で二種類の声がした。
聞き覚えのある声に、荷物をまとめる手を止め、外に出る老婆。さらに見覚えのある二人に、驚きの声を上げた。
「あ、あんたたちは」
甲冑を身にまとった女性――ミディと、不思議な力を使う少年――ジェネラルの姿があったのだ。
ニコニコと嬉しそうに笑う少年の手には、完全に復元させた権利証がある。あの騒動の後、ミディから欠片を取り戻し魔法で直したのだ。
「お婆さん、もう大丈夫だよ! この土地を狙う人たちは捕まったし、この権利証が本物だということも証明出来たから。だから安心してお店続けてよ」
ジェネラルは権利証を老婆に差し出すと、嬉しさはちきれんばかりに言った。
先ほどの不思議な光景に感覚が麻痺したままの老婆は、差し出されるままジェネラルから権利証を受け取った。
表を見たり裏返したりして異常を探してみたが、どこにもそれらの形跡は見当たらない。
まるで、破り捨てられた事自体が夢だったかのようだ。
権利証の確認を終え、老婆は顔を上げた。
「……何だか分からないけれど、本当にありがとう。でも、何故こんな婆に、ここまでしてくれるんだい?」
不思議そうに問う老婆を見て、ミディは小さく笑った。
「美味しい果物のお礼よ」
「あ~、それ僕が言おうと思ってたのに!」
台詞を取られ、不満そうに唇を尖らせるジェネラル。
ぴしっと無言でジェネラルの額にデコピンを食らわせると、優雅に一礼をし、ミディは店とは反対方向に足を向けた。
痛むおでこを抑えつつ、ジェネラルも礼をして立ち去ろうとした時、老婆に呼び止められた。
「あんた……。さっき不思議な力を使ってたね? あれが奇術だとは思えない。……一体、何者なんだい?」
「復元の魔法のこと? 不思議な力って、魔法使えないんですか?」
老婆の言葉に、きょとんとして返すジェネラル。彼の反応に、今度は老婆が驚く番だった。
「何言ってんだい。人間は、誰も魔法なんて使えないよ。ただ一人、この国の王女であるミディ様を除いてはね」
老婆の言葉に、ジェネラルは先ほどの騒動を思い出した。
“そういえば、シンセ隊長も同じようなことを言ってたっけ。そっか、やっぱり人間って魔法が使えないんだ”
人間が、魔法を使えない事は知っていた。
しかし、魔界が移動して初めてやってきた人間――ミディが魔法を使っていた為、てっきり長い時間の中で人間も魔法が使えるようになったのかも?と、思っていたのだ。
この老婆の言葉がなければ、ずっとその間違った知識を持っていたに違いない。危うく魔王である彼が、皆に笑われる所だった。
ジェネラルは、戸惑いの表情を浮かべながら返事を待っている老婆に、優しく微笑みかけた。
そして、自分が何者であるかを名乗った。
「僕の名前はジェネラル。魔界の王です」
一瞬、老婆は彼が何を言ったのか分からなかった。無意識のうちに、少年の言葉を繰り返す。
「まっ、魔王……?」
その時、
「ジェネ? 置いていくわよ!」
ミディが、ジェネラルを呼んでいる。ジェネラルは慌てて返事をすると、
「じゃあ、お婆さんお元気で! 果物、本当にありがとう!!」
と老婆の前で一礼し、彼女の方へと走っていった。
* * *
二つの影が見えなくなった頃……。
「ここに鎧を身に着けた女性と、黒髪の少年が来なかったか!?」
息を切らしたシンセが、果物屋にやって来た。
老婆はゆっくりと椅子に腰を掛けながら、隊長の問いに答える。
「さっきまでここにいたんだけどねえ。それがどうしたんだい?」
「いたのか!? そっ、その鎧を着けた方は、ミディ王女なんだ!」
オルタたちを役所に連れて帰った時、ミディ家出の報告と見つけたらすぐに城に連れて帰る、もしくは城に報告するよう命令書が届いていたのだ。
てっきりお忍びでありながらも、王公認でやって来たと思いすぐに別れたのだが、役所に戻るとこの命令書。
慌てて王女を探しに来たのである。
もうこの場にいない事を知り、シンセは悔しそうに呟いた。
「ミディ王女がお忍びで出られる時は、我々の印象に残らない為の魔法をかけていらっしゃる。もう捕まえることは難しいだろうな……」
何か悟ったような穏やかな様子で、「そうかい」と一言言うと、老婆は小さく笑った。
『エルザの華』と呼ばれるミディ王女、そして魔王と名乗った謎の少年ジェネラル。それらがさっきまで、自分の傍にいたのだ。
それにもし少年の言う事が本当ならば、自分は悪の王と言われる者と、エルザ王女に助けられたことになる。
もう驚きすぎて、何が凄いのか分からない。
特別驚く様子のない老婆を見て、諦めたようにシンセはため息をついた。
「それにしても、ミディ王女と共にいた少年。今思えば一体何者だったのだろうか?」
老婆は、土地の権利書が本物かもう一度確かめると、笑いを含んだ声で言った。
少年の優しい笑顔を、思い出しながら。
「魔王だってさ」
「お婆さーん!」
果物屋の老婆が荷物をまとめている時、外で二種類の声がした。
聞き覚えのある声に、荷物をまとめる手を止め、外に出る老婆。さらに見覚えのある二人に、驚きの声を上げた。
「あ、あんたたちは」
甲冑を身にまとった女性――ミディと、不思議な力を使う少年――ジェネラルの姿があったのだ。
ニコニコと嬉しそうに笑う少年の手には、完全に復元させた権利証がある。あの騒動の後、ミディから欠片を取り戻し魔法で直したのだ。
「お婆さん、もう大丈夫だよ! この土地を狙う人たちは捕まったし、この権利証が本物だということも証明出来たから。だから安心してお店続けてよ」
ジェネラルは権利証を老婆に差し出すと、嬉しさはちきれんばかりに言った。
先ほどの不思議な光景に感覚が麻痺したままの老婆は、差し出されるままジェネラルから権利証を受け取った。
表を見たり裏返したりして異常を探してみたが、どこにもそれらの形跡は見当たらない。
まるで、破り捨てられた事自体が夢だったかのようだ。
権利証の確認を終え、老婆は顔を上げた。
「……何だか分からないけれど、本当にありがとう。でも、何故こんな婆に、ここまでしてくれるんだい?」
不思議そうに問う老婆を見て、ミディは小さく笑った。
「美味しい果物のお礼よ」
「あ~、それ僕が言おうと思ってたのに!」
台詞を取られ、不満そうに唇を尖らせるジェネラル。
ぴしっと無言でジェネラルの額にデコピンを食らわせると、優雅に一礼をし、ミディは店とは反対方向に足を向けた。
痛むおでこを抑えつつ、ジェネラルも礼をして立ち去ろうとした時、老婆に呼び止められた。
「あんた……。さっき不思議な力を使ってたね? あれが奇術だとは思えない。……一体、何者なんだい?」
「復元の魔法のこと? 不思議な力って、魔法使えないんですか?」
老婆の言葉に、きょとんとして返すジェネラル。彼の反応に、今度は老婆が驚く番だった。
「何言ってんだい。人間は、誰も魔法なんて使えないよ。ただ一人、この国の王女であるミディ様を除いてはね」
老婆の言葉に、ジェネラルは先ほどの騒動を思い出した。
“そういえば、シンセ隊長も同じようなことを言ってたっけ。そっか、やっぱり人間って魔法が使えないんだ”
人間が、魔法を使えない事は知っていた。
しかし、魔界が移動して初めてやってきた人間――ミディが魔法を使っていた為、てっきり長い時間の中で人間も魔法が使えるようになったのかも?と、思っていたのだ。
この老婆の言葉がなければ、ずっとその間違った知識を持っていたに違いない。危うく魔王である彼が、皆に笑われる所だった。
ジェネラルは、戸惑いの表情を浮かべながら返事を待っている老婆に、優しく微笑みかけた。
そして、自分が何者であるかを名乗った。
「僕の名前はジェネラル。魔界の王です」
一瞬、老婆は彼が何を言ったのか分からなかった。無意識のうちに、少年の言葉を繰り返す。
「まっ、魔王……?」
その時、
「ジェネ? 置いていくわよ!」
ミディが、ジェネラルを呼んでいる。ジェネラルは慌てて返事をすると、
「じゃあ、お婆さんお元気で! 果物、本当にありがとう!!」
と老婆の前で一礼し、彼女の方へと走っていった。
* * *
二つの影が見えなくなった頃……。
「ここに鎧を身に着けた女性と、黒髪の少年が来なかったか!?」
息を切らしたシンセが、果物屋にやって来た。
老婆はゆっくりと椅子に腰を掛けながら、隊長の問いに答える。
「さっきまでここにいたんだけどねえ。それがどうしたんだい?」
「いたのか!? そっ、その鎧を着けた方は、ミディ王女なんだ!」
オルタたちを役所に連れて帰った時、ミディ家出の報告と見つけたらすぐに城に連れて帰る、もしくは城に報告するよう命令書が届いていたのだ。
てっきりお忍びでありながらも、王公認でやって来たと思いすぐに別れたのだが、役所に戻るとこの命令書。
慌てて王女を探しに来たのである。
もうこの場にいない事を知り、シンセは悔しそうに呟いた。
「ミディ王女がお忍びで出られる時は、我々の印象に残らない為の魔法をかけていらっしゃる。もう捕まえることは難しいだろうな……」
何か悟ったような穏やかな様子で、「そうかい」と一言言うと、老婆は小さく笑った。
『エルザの華』と呼ばれるミディ王女、そして魔王と名乗った謎の少年ジェネラル。それらがさっきまで、自分の傍にいたのだ。
それにもし少年の言う事が本当ならば、自分は悪の王と言われる者と、エルザ王女に助けられたことになる。
もう驚きすぎて、何が凄いのか分からない。
特別驚く様子のない老婆を見て、諦めたようにシンセはため息をついた。
「それにしても、ミディ王女と共にいた少年。今思えば一体何者だったのだろうか?」
老婆は、土地の権利書が本物かもう一度確かめると、笑いを含んだ声で言った。
少年の優しい笑顔を、思い出しながら。
「魔王だってさ」
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