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第7話 好き
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「じゃあ私、この荷物を一階に片付けてきますね!」
彼の返答を待たずに、私は足早に部屋を出た。
後ろから名を呼ばれた気がしたけれど、聞かなかったフリをして階段に向かう。
だけど階段を降りようとしたとき、焦っていたせいか、足を滑らせてしまった。
「きゃあっ!」
ぐらりと身体が傾くが両手が塞がっていたせいで、手すりを掴むことができない。
それもここは、階段の上部。
下手すれば大怪我や、打ちどころが悪ければ死も――
私は体を硬くした。
その時、
「アウラ‼︎」
叫び声が聞こえた瞬間、私の体は階段を勢いよく転がりながら落下した。
だけど、体中に走るはずだった強い痛みは、いつまで経ってもこない。それどころか、温かく、それでいて硬いものがこの体を包み込んでいる。
強い力で――
「マーヴィさん⁉︎」
体を起こすと、私を抱きしめたまま目を閉じて倒れているマーヴィさんの姿が目に入った。
階段から落ちそうになった時、咄嗟に抱きしめて守ってくれたみたい。彼の屈強な体に抱きしめられていたため、私には怪我ひとつない。
だけど、
「マーヴィさん……? マーヴィさんっ‼︎」
私は必死で大きな体を揺すった。けれど、彼は瞳を閉じてぐったりしたままだ。
彼の名を呼びかける私の声が、恐怖で震えている。
瞳を閉じたままのマーヴィさんを見ていると、彼と過ごした日々が思い出された。
魔王討伐の間は、ずっと寡黙で静かだったマーヴィさん。
だけど馬鹿な私たちをずっと見守り、危険な盾役としてその身を張ってくれた。
そしてダグに捨てられた私を慰め、この村に連れてきてくれた優しい人。
ここに来てからも、とても親切で、会えばいつも感謝の気持ちを口にしてくれた。
私の力を凄いと評価してくれた。
気づけば、ダグに傷つけられた心は、あなたの優しさですっかり癒されていた。
なのに、あなたがもし死んでしまったら私は――
「嫌っ……マーヴィさん、死んじゃ嫌ぁっ‼︎」
「……まだ俺は死んでないぞ」
突然、大きな体がムクリと起き上がった。
てっきり最悪な状態だと思って私の瞳に溢れていた涙が、ぴたりと止まる。
「ま、マーヴィさん、生きているんですよね? 夢じゃ……ないですよね?」
「もちろん現実だ。それにどこにも痛みはないし、大したことなかったようだな」
「そんなの嘘です! あれだけの高さから私を庇ったんですよ⁉︎」
「いや、嘘と言われても本当のことだからなぁ」
マーヴィは本当に困った表情を浮かべていた。
だけど信じられない。
もしかして怪我が酷すぎて、痛みすら感じていないのかも……
「じゃあ、癒しの魔法をかけてみましょう。傷があれば魔力が流れますから、その量で怪我の程度が分かるはずです」
しかし癒しの魔法をかけても、全然魔力が流れない。マーヴィさんの言葉の通り、本当にどこも怪我をしていないみたい。
「そんな……まさか」
声をあげる私に、マーヴィさんは、な? と言いたげに眉毛を上げた。
下手すれば死んでしまうところだったのに、奇跡的にマーヴィさんは無傷だった。
その事実に全身から力が抜け、逆に私が倒れそうになった。今度は安堵感から、涙が溢れて止まらなくなる。
そうなると慌て出すのが、彼だ。
「あ、アウラ? 何で泣いて――」
「良かった……本当に良かった……私のせいでマーヴィさんが死んでしまったんじゃないかって……」
「俺は大丈夫だから泣くなって……」
「うっ、うぅっ……」
「……泣くなと言ったそばから、また泣き出して……あんたときたら……」
「だって……だってぇ……」
そう言われても涙の止め方が分からない。
困っていると私の体が、大切なものを包み込むような優しさと温もりに包まれた。
耳元で低く、だけど心に染み込むような声色が響く。
「分かった。それであんたの気持ちが落ち着くなら、好きなだけ泣け。心配させて悪かった」
「私がっ、わたしが、悪かったんです……助けてっ、あり、ありがとうござ……」
「分かった。分かったから……」
触れ合う体が、互いの体温を伝え合う。
伝わってくる温もりと鼓動は、彼が生きている証。
それが嬉しくて、また涙が溢れ出す。彼のシャツを濡らしてしまうことも構わず、顔を強く押しつけた。
同時に、マーヴィさんが死んだと思った時、溢れ出た気持ちに私は向き合わされる。
(私……マーヴィさんが好き、なんだ)
ダグと同じ、ううん、それ以上の想いを、彼に抱いていることに――
彼の返答を待たずに、私は足早に部屋を出た。
後ろから名を呼ばれた気がしたけれど、聞かなかったフリをして階段に向かう。
だけど階段を降りようとしたとき、焦っていたせいか、足を滑らせてしまった。
「きゃあっ!」
ぐらりと身体が傾くが両手が塞がっていたせいで、手すりを掴むことができない。
それもここは、階段の上部。
下手すれば大怪我や、打ちどころが悪ければ死も――
私は体を硬くした。
その時、
「アウラ‼︎」
叫び声が聞こえた瞬間、私の体は階段を勢いよく転がりながら落下した。
だけど、体中に走るはずだった強い痛みは、いつまで経ってもこない。それどころか、温かく、それでいて硬いものがこの体を包み込んでいる。
強い力で――
「マーヴィさん⁉︎」
体を起こすと、私を抱きしめたまま目を閉じて倒れているマーヴィさんの姿が目に入った。
階段から落ちそうになった時、咄嗟に抱きしめて守ってくれたみたい。彼の屈強な体に抱きしめられていたため、私には怪我ひとつない。
だけど、
「マーヴィさん……? マーヴィさんっ‼︎」
私は必死で大きな体を揺すった。けれど、彼は瞳を閉じてぐったりしたままだ。
彼の名を呼びかける私の声が、恐怖で震えている。
瞳を閉じたままのマーヴィさんを見ていると、彼と過ごした日々が思い出された。
魔王討伐の間は、ずっと寡黙で静かだったマーヴィさん。
だけど馬鹿な私たちをずっと見守り、危険な盾役としてその身を張ってくれた。
そしてダグに捨てられた私を慰め、この村に連れてきてくれた優しい人。
ここに来てからも、とても親切で、会えばいつも感謝の気持ちを口にしてくれた。
私の力を凄いと評価してくれた。
気づけば、ダグに傷つけられた心は、あなたの優しさですっかり癒されていた。
なのに、あなたがもし死んでしまったら私は――
「嫌っ……マーヴィさん、死んじゃ嫌ぁっ‼︎」
「……まだ俺は死んでないぞ」
突然、大きな体がムクリと起き上がった。
てっきり最悪な状態だと思って私の瞳に溢れていた涙が、ぴたりと止まる。
「ま、マーヴィさん、生きているんですよね? 夢じゃ……ないですよね?」
「もちろん現実だ。それにどこにも痛みはないし、大したことなかったようだな」
「そんなの嘘です! あれだけの高さから私を庇ったんですよ⁉︎」
「いや、嘘と言われても本当のことだからなぁ」
マーヴィは本当に困った表情を浮かべていた。
だけど信じられない。
もしかして怪我が酷すぎて、痛みすら感じていないのかも……
「じゃあ、癒しの魔法をかけてみましょう。傷があれば魔力が流れますから、その量で怪我の程度が分かるはずです」
しかし癒しの魔法をかけても、全然魔力が流れない。マーヴィさんの言葉の通り、本当にどこも怪我をしていないみたい。
「そんな……まさか」
声をあげる私に、マーヴィさんは、な? と言いたげに眉毛を上げた。
下手すれば死んでしまうところだったのに、奇跡的にマーヴィさんは無傷だった。
その事実に全身から力が抜け、逆に私が倒れそうになった。今度は安堵感から、涙が溢れて止まらなくなる。
そうなると慌て出すのが、彼だ。
「あ、アウラ? 何で泣いて――」
「良かった……本当に良かった……私のせいでマーヴィさんが死んでしまったんじゃないかって……」
「俺は大丈夫だから泣くなって……」
「うっ、うぅっ……」
「……泣くなと言ったそばから、また泣き出して……あんたときたら……」
「だって……だってぇ……」
そう言われても涙の止め方が分からない。
困っていると私の体が、大切なものを包み込むような優しさと温もりに包まれた。
耳元で低く、だけど心に染み込むような声色が響く。
「分かった。それであんたの気持ちが落ち着くなら、好きなだけ泣け。心配させて悪かった」
「私がっ、わたしが、悪かったんです……助けてっ、あり、ありがとうござ……」
「分かった。分かったから……」
触れ合う体が、互いの体温を伝え合う。
伝わってくる温もりと鼓動は、彼が生きている証。
それが嬉しくて、また涙が溢れ出す。彼のシャツを濡らしてしまうことも構わず、顔を強く押しつけた。
同時に、マーヴィさんが死んだと思った時、溢れ出た気持ちに私は向き合わされる。
(私……マーヴィさんが好き、なんだ)
ダグと同じ、ううん、それ以上の想いを、彼に抱いていることに――
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