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第6話 心の動揺
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村の改革は順調に進んだ。
マーヴィさんの自宅も村一番の大きな屋敷へと改装され、今では立派な領主様になっている。
使える土地が増えるにつれて、人が増え、スティア村はますます発展していった。いや、もう村という規模じゃないかもしれない。
始めのころは皆と一緒に外を出て、領主自ら土地の開拓などをしていたマーヴィさんも、最近は外の仕事を村人たちに任せ、屋敷の中で机仕事に取り組むことが多くなった。
人や使える土地が増えたことで、色々と管理しなければならなくなったかららしい。
私の方はというと、土地の浄化をすべて終えて、作物も育つようになったことで成長を促す魔法も必要なくなったため、暇になった。
ということで村の人たちから、
「文字の読み書きできる人間は少なくてね。だからアウラちゃんがマーヴィを助けてやってくれ。あいつ、ああいう仕事苦手だろうから!」
と強くお願いをされたことで、今はマーヴィさんの屋敷で、調べ物や書き物などのお手伝いをしている。
今日もいつものようにお手伝いをしていると、土地の開拓によって大きく変わったスティア村周辺の地図を見ていたマーヴィさんが、私に向かって頭を下げた。
「スティア村が、これほどまで発展するとは夢にも思わなかった。あんたのお陰だ、アウラ」
「いいえ、マーヴィさんや村の皆さんが頑張られたからですよ」
「そんなことはないっ! あんたは自身の褒美もこの村のために費やしてくれた! 本来であれば自分のために使うべきものを……」
「いいんです。お金があっても、何に使えばいいか分からないですし、正直、私が持っていたらまた騙されそうですから。それなら、お世話になっているこの村のために、使いたかったんです」
私は自分ができる範囲でお手伝いをしただけ。
ダグによって傷つけられた心身を癒やしてくれた、この村のために。
ここまで村が発展したのは、身を削ってまでして村を救いたいと願ったマーヴィさんの強い意志と、村人たちの力だ。
「……アウラは謙虚だな。もっと誇ってもいいんだぞ。私がこの村を救ったんだぞって」
「誇るっていっても、神官として当然のことをしたまでですし」
「神官として……か」
急にマーヴィさんの表情が曇った。
少しの間ののち、言いにくそうに口を開く。
「ずっと気になっていたんだが……アウラは神官……なんだよな?」
「え、そうですけど?」
「いや、それにしては、魔王に汚染された土地を浄化できるとか、浄化した後も疲れていないとか、それって神官の力として普通なのかと思って……」
「普通じゃないのですか?」
「普通……なのか? 魔王討伐の旅の際、俺が怪我をしたときにかけてもらっていた癒しの魔法も、とんでもない回復量だと驚いたんだが」
「うーん……そういうものだと思ってましたし、それに……」
すっかり忘れたと思っていた栗毛色の幼馴染みの顔と声が脳裏を過った。
「マーヴィさんもご存知の通り、ダグにはもっと強い神聖魔法を使えって怒られてましたから……だからむしろ、私の力なんて大したことないんだって思っているんですけど……」
言いながら気持ちが沈んでいく。
落ち込む私の頭に、ポンっと温かいものが乗った。
マーヴィさんの手だ。
「前にも言っただろ。少なくとも俺の前では自分を卑下して欲しくないって」
「でも……」
「じゃあ今から村の者に聞いてこようか? あんたの力が大したことないと思うかって」
「や、やめてくださいっ! 恥ずかしいですから……」
「まあ、結果は聞かなくても分かる。皆、アウラの力を凄いと思っているぞ。そして、それ以上に感謝もしている。だから村人たちの気持ちを素直に受け取って欲しい。もちろん――」
マーヴィさんのまっすぐな瞳が、私を射抜く。
「俺の気持ちも」
言葉が出なかった。
胸が苦しくて――
もちろんマーヴィさんが言う気持ちとは、帝都で話してくれた私への感謝だと分かっている。
そうだと分かっているからこそ、苦しくなる自分がいる。
「ありがとう……ございます。そう……ですね。もっと自分に自信が持てるように頑張りますね!」
胸の苦しさを忘れるため、わざと声を明るくして答えると、マーヴィさんは何故か困ったように眉根を寄せていた。
何が彼を困らせたのかは分からないけど、とにかく今は少しだけ距離を取りたかった。
心の動揺が伝わってしまいそうだったから。
マーヴィさんの自宅も村一番の大きな屋敷へと改装され、今では立派な領主様になっている。
使える土地が増えるにつれて、人が増え、スティア村はますます発展していった。いや、もう村という規模じゃないかもしれない。
始めのころは皆と一緒に外を出て、領主自ら土地の開拓などをしていたマーヴィさんも、最近は外の仕事を村人たちに任せ、屋敷の中で机仕事に取り組むことが多くなった。
人や使える土地が増えたことで、色々と管理しなければならなくなったかららしい。
私の方はというと、土地の浄化をすべて終えて、作物も育つようになったことで成長を促す魔法も必要なくなったため、暇になった。
ということで村の人たちから、
「文字の読み書きできる人間は少なくてね。だからアウラちゃんがマーヴィを助けてやってくれ。あいつ、ああいう仕事苦手だろうから!」
と強くお願いをされたことで、今はマーヴィさんの屋敷で、調べ物や書き物などのお手伝いをしている。
今日もいつものようにお手伝いをしていると、土地の開拓によって大きく変わったスティア村周辺の地図を見ていたマーヴィさんが、私に向かって頭を下げた。
「スティア村が、これほどまで発展するとは夢にも思わなかった。あんたのお陰だ、アウラ」
「いいえ、マーヴィさんや村の皆さんが頑張られたからですよ」
「そんなことはないっ! あんたは自身の褒美もこの村のために費やしてくれた! 本来であれば自分のために使うべきものを……」
「いいんです。お金があっても、何に使えばいいか分からないですし、正直、私が持っていたらまた騙されそうですから。それなら、お世話になっているこの村のために、使いたかったんです」
私は自分ができる範囲でお手伝いをしただけ。
ダグによって傷つけられた心身を癒やしてくれた、この村のために。
ここまで村が発展したのは、身を削ってまでして村を救いたいと願ったマーヴィさんの強い意志と、村人たちの力だ。
「……アウラは謙虚だな。もっと誇ってもいいんだぞ。私がこの村を救ったんだぞって」
「誇るっていっても、神官として当然のことをしたまでですし」
「神官として……か」
急にマーヴィさんの表情が曇った。
少しの間ののち、言いにくそうに口を開く。
「ずっと気になっていたんだが……アウラは神官……なんだよな?」
「え、そうですけど?」
「いや、それにしては、魔王に汚染された土地を浄化できるとか、浄化した後も疲れていないとか、それって神官の力として普通なのかと思って……」
「普通じゃないのですか?」
「普通……なのか? 魔王討伐の旅の際、俺が怪我をしたときにかけてもらっていた癒しの魔法も、とんでもない回復量だと驚いたんだが」
「うーん……そういうものだと思ってましたし、それに……」
すっかり忘れたと思っていた栗毛色の幼馴染みの顔と声が脳裏を過った。
「マーヴィさんもご存知の通り、ダグにはもっと強い神聖魔法を使えって怒られてましたから……だからむしろ、私の力なんて大したことないんだって思っているんですけど……」
言いながら気持ちが沈んでいく。
落ち込む私の頭に、ポンっと温かいものが乗った。
マーヴィさんの手だ。
「前にも言っただろ。少なくとも俺の前では自分を卑下して欲しくないって」
「でも……」
「じゃあ今から村の者に聞いてこようか? あんたの力が大したことないと思うかって」
「や、やめてくださいっ! 恥ずかしいですから……」
「まあ、結果は聞かなくても分かる。皆、アウラの力を凄いと思っているぞ。そして、それ以上に感謝もしている。だから村人たちの気持ちを素直に受け取って欲しい。もちろん――」
マーヴィさんのまっすぐな瞳が、私を射抜く。
「俺の気持ちも」
言葉が出なかった。
胸が苦しくて――
もちろんマーヴィさんが言う気持ちとは、帝都で話してくれた私への感謝だと分かっている。
そうだと分かっているからこそ、苦しくなる自分がいる。
「ありがとう……ございます。そう……ですね。もっと自分に自信が持てるように頑張りますね!」
胸の苦しさを忘れるため、わざと声を明るくして答えると、マーヴィさんは何故か困ったように眉根を寄せていた。
何が彼を困らせたのかは分からないけど、とにかく今は少しだけ距離を取りたかった。
心の動揺が伝わってしまいそうだったから。
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