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第4話 仲間が去った後(第三者視点)
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ダグは、この国を救った勇者として、豪華な部屋でもてなしを受けていた。見目美しい侍女たちに世話を焼かれながら、満足そうに息をつく。
(そうそう、俺は国を救った勇者。これくらいのもてなしは当たり前だ。それにイリス姫の夫、ゆくゆくは皇帝になる男だからな)
ソファーの上にふんぞり返りながら思う。
とはいえこの部屋は元々、勇者一行のために準備された場所。ダグ一人で過ごすには大きすぎる。
彼の思考は自然と、もう二度と会うことのない元仲間へと向けられた。
盾役のマーヴィと、神官であり幼馴染であるアウラへと。
(ほんと、馬鹿な女だよな。あの程度の魔法で、本気で俺と結婚できると思ったんだなんて。俺は女神に選ばれた勇者だぞ?)
ちょっと甘い言葉をかけただけで、魔王討伐などという危険な旅にほいほいついてきた幼馴染を思い、フンっと鼻を鳴らす。
ダグのことを好きな彼女のことだ。
結婚をチラつかせ、ちょっと演技をすれば付いてくるとは分かっていたが、こうもあっさり計画が上手くいくとは、正直ダグも思わなかった。
どれだけ自分が好きなんだと、若干引いたのを覚えている。
平凡で魔法しか取り柄がなく、その魔法もヤれば使えなくなる女と、誰が結婚するものか。
ダグとアウラは同じ孤児院で暮らす幼馴染だった。
だが、貧しい村の人々にとっては、いるだけで食べさせる必要があり疎まれていた。
ダグについては後々勇者の力が覚醒したことで村人たちの態度も変わったが、アウラの場合はどんくさい性格もあってか、神官になった後も村人たちからの風当たりは強かった。
だから彼と一緒に魔王討伐に出るとなったとき、村人は誰一人止めなかった。とはいえ、その故郷も魔族によって滅ぼされ、もうないが。
あれだけ疎まれていたというのに、村が滅ぼされた報告を聞いて大泣きしたアウラの顔を思い出し、ダグはげんなりとなった。
(とはいえ、皇帝の御前でまさか倒れるとは思わなかったな。それだけ俺のことが好きだったんだろうな。気色悪い)
おかげでイリス皇女といい感じだったのに台無しだ。
まあマーヴィがアウラを引き取ってくれたから、その後の晩餐会もつつがなく開催されたが。
(そういやマーヴィのやつ、アウラに手紙、ちゃんと渡しただろうな)
頑なに城ではなく、城下町の宿屋に行くと言った盾役の男の顔を思い出す。
美男子と謳われ、女たちに困らない自分とは違い、いつも寡黙で静かな男だった。
自分の肉体と盾を使って敵の足止めしかできないくせに、時々口少なく、ダグの作戦に異議を唱えたり、アウラと隠れて女と遊ぶときに苦言を呈したりしてくるのが腹立った。
あの女が倒れた時も、城の奴らに世話を任せて式典を続けようとして、マーヴィに非難された。
「アウラは、今まであんたのために尽くしてきたんだろ。あんたたち二人の間に何があったかは知らないが、せめて感謝や、誠意を込めた謝罪を彼女にすべきじゃないのか? こんな不義理をして恥ずかしいと思わないのか? それが将来、この国の未来を背負う者がすることなのか?」
いつもは無口で何を考えているのか分からないような男のくせに、このときはやたら早口で多弁だった。
それが何故か癪に障った。
だから、アウラへの手紙を半分捨てるような形でマーヴィに叩きつけてやった。
「感謝? 謝罪? アウラが勝手にやったことだ。魔王討伐の旅だって、俺が誘ったんじゃない。敵をひきつけることしかできない盾役のくせに、俺に偉そうな口を叩くな。皇帝から褒美を貰ったらとっとと失せろ」
「……それがお前の本性か。分かった」
静かすぎる返答だった。
だがマーヴィの黒い瞳の奥からは、言葉以上の激情が伝わって来る。
(こんな表情が、出来る男だったか?)
戦いの時、ダグが戦いやすいように敵を引き付けるだけの男だ。アウラ同様、自分の力の足下にも及ばない。
ダグが作戦を立て、無茶すぎると反対されることもあったが、最終的には折れて従うような、図体だけがでかい自分の意思をもたない男だったはずだ。
初めてマーヴィの強い感情を見て、ダグの背筋が冷たくなった。
だが目の前の男から、それ以上の反論はなかった。
胸元に突きつけられた手紙を奪うように受け取ると、ズボンのポケットに突っ込み、ダグに背を向けた。
ドアを開け部屋を出る時、マーヴィはダグを一瞥すると、
「……お前のような男が皇帝など……この国の未来は終わったな」
と呟き、部屋を去って行った。
今思い出しても、非常に腹立たしい。
何か言い返しても良かったが、ただの負け惜しみだろうと思うことで溜飲を下げることにした。
確かあの男は故郷を救いたいからと、チンケな辺境の地を望んでいたはず。
その土地は、元々貧相なだけでなく、魔王の力によって汚染され、作物も家畜も育てられなくなっていたはずだ。
魔王による汚染の浄化方法は教会が研究していたはずだが、帝都にいて、今後食う寝るに困らないダグには関係ないことだ。
(まあ精々、頑張ればいい)
我が世の春を謳うダグの元に、侍女から一報が入った。
「ダグ様。勇者の凱旋パレードの準備が整いました。イリス様もお待ちです。ダグ様もご準備を」
「わかった、すぐに行くよ」
アウラやマーヴィの前では見せることのなかった優しい声で答えると、国一の美姫と称されるイリス皇女の隣に並び立つ自分を想像して、ニヤニヤが止められなかった。
(そうそう、俺は国を救った勇者。これくらいのもてなしは当たり前だ。それにイリス姫の夫、ゆくゆくは皇帝になる男だからな)
ソファーの上にふんぞり返りながら思う。
とはいえこの部屋は元々、勇者一行のために準備された場所。ダグ一人で過ごすには大きすぎる。
彼の思考は自然と、もう二度と会うことのない元仲間へと向けられた。
盾役のマーヴィと、神官であり幼馴染であるアウラへと。
(ほんと、馬鹿な女だよな。あの程度の魔法で、本気で俺と結婚できると思ったんだなんて。俺は女神に選ばれた勇者だぞ?)
ちょっと甘い言葉をかけただけで、魔王討伐などという危険な旅にほいほいついてきた幼馴染を思い、フンっと鼻を鳴らす。
ダグのことを好きな彼女のことだ。
結婚をチラつかせ、ちょっと演技をすれば付いてくるとは分かっていたが、こうもあっさり計画が上手くいくとは、正直ダグも思わなかった。
どれだけ自分が好きなんだと、若干引いたのを覚えている。
平凡で魔法しか取り柄がなく、その魔法もヤれば使えなくなる女と、誰が結婚するものか。
ダグとアウラは同じ孤児院で暮らす幼馴染だった。
だが、貧しい村の人々にとっては、いるだけで食べさせる必要があり疎まれていた。
ダグについては後々勇者の力が覚醒したことで村人たちの態度も変わったが、アウラの場合はどんくさい性格もあってか、神官になった後も村人たちからの風当たりは強かった。
だから彼と一緒に魔王討伐に出るとなったとき、村人は誰一人止めなかった。とはいえ、その故郷も魔族によって滅ぼされ、もうないが。
あれだけ疎まれていたというのに、村が滅ぼされた報告を聞いて大泣きしたアウラの顔を思い出し、ダグはげんなりとなった。
(とはいえ、皇帝の御前でまさか倒れるとは思わなかったな。それだけ俺のことが好きだったんだろうな。気色悪い)
おかげでイリス皇女といい感じだったのに台無しだ。
まあマーヴィがアウラを引き取ってくれたから、その後の晩餐会もつつがなく開催されたが。
(そういやマーヴィのやつ、アウラに手紙、ちゃんと渡しただろうな)
頑なに城ではなく、城下町の宿屋に行くと言った盾役の男の顔を思い出す。
美男子と謳われ、女たちに困らない自分とは違い、いつも寡黙で静かな男だった。
自分の肉体と盾を使って敵の足止めしかできないくせに、時々口少なく、ダグの作戦に異議を唱えたり、アウラと隠れて女と遊ぶときに苦言を呈したりしてくるのが腹立った。
あの女が倒れた時も、城の奴らに世話を任せて式典を続けようとして、マーヴィに非難された。
「アウラは、今まであんたのために尽くしてきたんだろ。あんたたち二人の間に何があったかは知らないが、せめて感謝や、誠意を込めた謝罪を彼女にすべきじゃないのか? こんな不義理をして恥ずかしいと思わないのか? それが将来、この国の未来を背負う者がすることなのか?」
いつもは無口で何を考えているのか分からないような男のくせに、このときはやたら早口で多弁だった。
それが何故か癪に障った。
だから、アウラへの手紙を半分捨てるような形でマーヴィに叩きつけてやった。
「感謝? 謝罪? アウラが勝手にやったことだ。魔王討伐の旅だって、俺が誘ったんじゃない。敵をひきつけることしかできない盾役のくせに、俺に偉そうな口を叩くな。皇帝から褒美を貰ったらとっとと失せろ」
「……それがお前の本性か。分かった」
静かすぎる返答だった。
だがマーヴィの黒い瞳の奥からは、言葉以上の激情が伝わって来る。
(こんな表情が、出来る男だったか?)
戦いの時、ダグが戦いやすいように敵を引き付けるだけの男だ。アウラ同様、自分の力の足下にも及ばない。
ダグが作戦を立て、無茶すぎると反対されることもあったが、最終的には折れて従うような、図体だけがでかい自分の意思をもたない男だったはずだ。
初めてマーヴィの強い感情を見て、ダグの背筋が冷たくなった。
だが目の前の男から、それ以上の反論はなかった。
胸元に突きつけられた手紙を奪うように受け取ると、ズボンのポケットに突っ込み、ダグに背を向けた。
ドアを開け部屋を出る時、マーヴィはダグを一瞥すると、
「……お前のような男が皇帝など……この国の未来は終わったな」
と呟き、部屋を去って行った。
今思い出しても、非常に腹立たしい。
何か言い返しても良かったが、ただの負け惜しみだろうと思うことで溜飲を下げることにした。
確かあの男は故郷を救いたいからと、チンケな辺境の地を望んでいたはず。
その土地は、元々貧相なだけでなく、魔王の力によって汚染され、作物も家畜も育てられなくなっていたはずだ。
魔王による汚染の浄化方法は教会が研究していたはずだが、帝都にいて、今後食う寝るに困らないダグには関係ないことだ。
(まあ精々、頑張ればいい)
我が世の春を謳うダグの元に、侍女から一報が入った。
「ダグ様。勇者の凱旋パレードの準備が整いました。イリス様もお待ちです。ダグ様もご準備を」
「わかった、すぐに行くよ」
アウラやマーヴィの前では見せることのなかった優しい声で答えると、国一の美姫と称されるイリス皇女の隣に並び立つ自分を想像して、ニヤニヤが止められなかった。
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