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第2話 手紙
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気がつけば、私はベッドの上で寝ていた。
頭の中がモヤがかかったように、ぼんやりしている。
ここはどこ?
見たところ、どこかの宿屋なのだろうけど……
「目が覚めたか?」
声がした方を見ると、私服のマーヴィさんが座っていた。
いつも身につけている鎧はなく、街の人が着ているような布の服姿が新鮮だった。だって旅の間はどこで何があるか分からないと、ずっと鎧を身につけていたから。
目は細くて若干垂れているからか、盾役なんていう過酷な役割を担っているとは思えないほど優しく見える。
だけど体は鎧がなくてもすごく大きい。
勇者の力があるダグとは違い、しっかり鍛えないと敵の攻撃を受けきれないと言って、毎日トレーニングをかかさなかったのを思い出す。
髪の毛が深い茶色でボサッとしていたせいもあってか、初めて鎧を着ていないマーヴィさんを見た時の印象は、クマさんだった。
私よりも六歳も年上の方にクマさんは失礼か。
「あんた、倒れたことは覚えてるか?」
彼の硬い声色と同情するような黒い視線に、私はゆっくりとあのときのことを噛みしめるように頷いた。
忘れるわけがない。
婚約者だった幼馴染みが裏切った瞬間を……
全部夢だったら良かったのに。
「マーヴィさんが、ここまで運んでくださったんですか?」
「ああ。勝手に城下町の宿屋に運んだのは悪かった。城の連中にも引き止められたんだが……あんなことがあったんじゃなぁ……」
「ごめんなさい……私のせいで、マーヴィさんにご迷惑を……」
「いや、俺もあんな豪華な部屋は居心地が悪くて落ち着かん。あんたの一件がなくても、俺は宿屋に泊まるつもりだったし、まあ気にすんな」
嘘か本当かは分からない。
だけど、私を気遣うマーヴィさんの優しさが、今は心に沁みた。
「ありがとうございます」
「ダグがあんたと結婚の約束をしていたのは知っていたから、ショックが大きいのは分かるんだが……その、だな……」
マーヴィさんはものすごく言いにくそうに言葉尻を濁すと、ズボンのポケットから封筒を取り出した。
「あの男から、あんたに渡してくれって預かった」
「……え?」
戸惑いつつも、差し出された手紙を受け取ると、マーヴィさんは気を遣って部屋を出ようとした。
だけど一人で読むのが怖くて、彼を引き留めた。
「あ、あのっ、ごめんなさい! 手紙を読み終わるまで、ここにいて頂けないでしょうか?」
「いいのか?」
「はい。多分、読み終わったら泣いちゃって、また困らせちゃうかもしれませんが……何もしなくてもいいので、ここにいてくださいませんか?」
「分かった」
凄く迷惑なことをお願いしているのは分かってる。
だけどその一言が、心強かった。
意を決し手紙を開く。
今まで見せてくれたダグの笑顔に、僅かな希望を重ねながら。
だけど手紙を読み進めていくにつれて、涙で文字が滲んでいく。
そこに書かれていたのは、皇女様を選んだやむ終えない理由でも謝罪でもなく、馬鹿な私を嘲笑う言葉の数々だった。
ダグは、一人で魔王討伐に行くのに不安があった。そこで白羽の矢を立てたのが、神聖魔法が使える私だった。
私が彼のことを好きなのを知っていて、その気持ちを利用しようとプロポーズしてきたらしい。
そうすれば、お人よしな私がついてくると踏んで。
神聖魔法が役にたてば儲け。
役に立たなければ、いざという時の囮にすればいいと。
最後にはこんなことが書かれていた。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに。女神に選ばれた勇者たる俺には、イリスのような女が相応しいんだ。お前はもう用無しだ』
この三年、愛する人のために、たくさん怖い思いをした。
悲しい思いもした。
(一体、何のためだったんだろう……)
ダグが見せてくれた笑顔も優しい言葉も、全部全部、嘘だったなんて――
「大丈夫か?」
マーヴィさんの声で、全ての緊張の糸が途切れてしまった。
堰を切ったように、涙が溢れて止まらなくなる。
「だ、大丈夫……だいじょうぶ、ですか、ら……なに、も、しないでいいっ、うっ、うう、あぁ……」
しゃくりあげた声が、嗚咽となって部屋に響く。
マーヴィさんは、私がお願いしたように何も言わなかった。
だけどハンカチを私に握らせると、泣き止むまで黙ってこの部屋に居続けてくれた。
頭の中がモヤがかかったように、ぼんやりしている。
ここはどこ?
見たところ、どこかの宿屋なのだろうけど……
「目が覚めたか?」
声がした方を見ると、私服のマーヴィさんが座っていた。
いつも身につけている鎧はなく、街の人が着ているような布の服姿が新鮮だった。だって旅の間はどこで何があるか分からないと、ずっと鎧を身につけていたから。
目は細くて若干垂れているからか、盾役なんていう過酷な役割を担っているとは思えないほど優しく見える。
だけど体は鎧がなくてもすごく大きい。
勇者の力があるダグとは違い、しっかり鍛えないと敵の攻撃を受けきれないと言って、毎日トレーニングをかかさなかったのを思い出す。
髪の毛が深い茶色でボサッとしていたせいもあってか、初めて鎧を着ていないマーヴィさんを見た時の印象は、クマさんだった。
私よりも六歳も年上の方にクマさんは失礼か。
「あんた、倒れたことは覚えてるか?」
彼の硬い声色と同情するような黒い視線に、私はゆっくりとあのときのことを噛みしめるように頷いた。
忘れるわけがない。
婚約者だった幼馴染みが裏切った瞬間を……
全部夢だったら良かったのに。
「マーヴィさんが、ここまで運んでくださったんですか?」
「ああ。勝手に城下町の宿屋に運んだのは悪かった。城の連中にも引き止められたんだが……あんなことがあったんじゃなぁ……」
「ごめんなさい……私のせいで、マーヴィさんにご迷惑を……」
「いや、俺もあんな豪華な部屋は居心地が悪くて落ち着かん。あんたの一件がなくても、俺は宿屋に泊まるつもりだったし、まあ気にすんな」
嘘か本当かは分からない。
だけど、私を気遣うマーヴィさんの優しさが、今は心に沁みた。
「ありがとうございます」
「ダグがあんたと結婚の約束をしていたのは知っていたから、ショックが大きいのは分かるんだが……その、だな……」
マーヴィさんはものすごく言いにくそうに言葉尻を濁すと、ズボンのポケットから封筒を取り出した。
「あの男から、あんたに渡してくれって預かった」
「……え?」
戸惑いつつも、差し出された手紙を受け取ると、マーヴィさんは気を遣って部屋を出ようとした。
だけど一人で読むのが怖くて、彼を引き留めた。
「あ、あのっ、ごめんなさい! 手紙を読み終わるまで、ここにいて頂けないでしょうか?」
「いいのか?」
「はい。多分、読み終わったら泣いちゃって、また困らせちゃうかもしれませんが……何もしなくてもいいので、ここにいてくださいませんか?」
「分かった」
凄く迷惑なことをお願いしているのは分かってる。
だけどその一言が、心強かった。
意を決し手紙を開く。
今まで見せてくれたダグの笑顔に、僅かな希望を重ねながら。
だけど手紙を読み進めていくにつれて、涙で文字が滲んでいく。
そこに書かれていたのは、皇女様を選んだやむ終えない理由でも謝罪でもなく、馬鹿な私を嘲笑う言葉の数々だった。
ダグは、一人で魔王討伐に行くのに不安があった。そこで白羽の矢を立てたのが、神聖魔法が使える私だった。
私が彼のことを好きなのを知っていて、その気持ちを利用しようとプロポーズしてきたらしい。
そうすれば、お人よしな私がついてくると踏んで。
神聖魔法が役にたてば儲け。
役に立たなければ、いざという時の囮にすればいいと。
最後にはこんなことが書かれていた。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに。女神に選ばれた勇者たる俺には、イリスのような女が相応しいんだ。お前はもう用無しだ』
この三年、愛する人のために、たくさん怖い思いをした。
悲しい思いもした。
(一体、何のためだったんだろう……)
ダグが見せてくれた笑顔も優しい言葉も、全部全部、嘘だったなんて――
「大丈夫か?」
マーヴィさんの声で、全ての緊張の糸が途切れてしまった。
堰を切ったように、涙が溢れて止まらなくなる。
「だ、大丈夫……だいじょうぶ、ですか、ら……なに、も、しないでいいっ、うっ、うう、あぁ……」
しゃくりあげた声が、嗚咽となって部屋に響く。
マーヴィさんは、私がお願いしたように何も言わなかった。
だけどハンカチを私に握らせると、泣き止むまで黙ってこの部屋に居続けてくれた。
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