旦那様と浮気相手に居場所を奪われた伯爵夫人ですが、周りが離縁させようと動き出したようです(旧題:私を見下す旦那様)

めぐめぐ

文字の大きさ
上 下
11 / 17

第11話

しおりを挟む
「ははっ、以前フェリーチェ様に身なりの事をご指摘されましたからね。だから今度はちゃんとした格好でお伺いしました」

「は、はぁ……」

 私の知っているウェイターさんとあまりにも変わっていて、それ以上言葉が出ませんでした。

 へたり込んでいる私にウェイターさんが手を差し伸べて下さいました。
 その手を取ると、

「きゃあっ‼」

 そのままウェイターさんが私を抱きしめたのです。

 愛していないとはいえ、妻が別に男に抱きしめられたのを見たレイジィ様の表情が再び怒りで歪みました。
 ですが、怒りの矛先は私でした。

「フェリーチェ……お前……その男と浮気していたのか‼」

「ち、違いますっ! この方は、例の茶葉の生産者さんで……、あ、あの、ウェイターさん、離していただけま――」

「ああ、そうですよ、ローランド卿。私はあなたの妻の愛人です」

「ええええっ⁉」

 なぜかウェイターさんが肯定なされました。
 もう訳が分かりません!

 ウェイターさんの腕から逃れられたかと思うと、今度はディアに後ろから口をふさがれてしまいました。

「おやおや、あなたはそこの女中と浮気しているというのに、愛してもいない奥様の浮気は許せないのですか?」

「許せるわけないだろうっ‼ 女は貞淑に、そして黙って男の言う事を聞いていればいいんだっ‼」

「まああなたの隣に立つ女性が貞淑かどうかは、いささか疑問ではありますけどね」

「なんですってぇっ⁉」

「聞くところによるとフェリーチェ様は、あなたとの結婚生活に飽き飽きなされているとか。私の前では、あなたへの不満ばかりを仰っていらっしゃいましたよ?」

「な、何だと……フェリーチェ……お前……」

「絵の価値も分からない馬鹿で間抜けな男だと。あの男が満足させられるのは、あなたの隣にいる頭のネジも股も緩い女ぐらいだってね」

「……フェリーチェ、貴様……従順なふりをして、今まで別の男と一緒に俺を陰で馬鹿にしていたのか……」

 何故ウェイターさんはそんなウソを……。
 しかし口をふさがれたままの私には、反論する機会が与えられませんでした。

 とうとう怒りが限界を超えたのでしょう。

「フェリーチェ、お前とは離縁する」

 氷のように冷たいレイジィ様の声が、部屋に響き渡りました。

 この時、ようやくディアの手が緩み、私は倒れこむようにレイジィ様の足元にひれ伏すと許しを請いました。

 このままだと、従業員や屋敷の使用人たちが――

「ウェイターさんの発言は、全て嘘でございます! あなたを馬鹿にするような発言は決してしておりません! ましてやあの方と浮気など……」

「黙れフェリーチェ。今すぐ離縁の手続きを――」

「それなら旦那様、奥様の引き出しの中に離縁届がございます」

「な、なにを言っているの、ディア! そんなもの――」

「ああ、確かに入っているな、離縁届が。ははっ、もう署名済みとは……こんな部分には頭が回るんだな、フェリーチェ」

 レイジィ様が私の机から取り出したのは、まぎれもない離縁届。
 なぜか私の署名がされています。

「この署名はまぎれもなく、奥様の物ですわね?」

 署名の筆跡を見つめるアイリーンが、媚びるようにレイジィ様に指摘しました。

 もちろんこんなもの、用意した記憶はありません!

 レイジィ様はアイリーンの言葉に頷くと、私が書いたと疑うことなく、離縁届に署名をしてしまったのです。

 勝ち誇ったように高笑いが響き渡りました。

「はははっ‼ 苦しめ、フェリーチェ! 俺という後ろ盾がなくなったお前に、一体何が出来る? どうせお前が雇った孤児上がりの従業員など、使い物にならないクズばかりだろう。使えない奴や反抗する奴は、容赦なく切り捨てていくから覚悟しておけ!」

 心が冷たくなりました。私が最も恐れていたことが起こったからです。
 レイジィ様から離縁届を受け取ったディアに、私は縋りつきました。
 
「ディア……どうして……。あなたは私の味方ではなかったの……?」

「ええ、味方です。どれだけ世界が奥様に牙をむいても、私だけは……貴女様の味方です。だからもう苦しまないで下さい、私たちのために……」

「……え?」

 彼女がそっと私を抱きしめました。
 耳元で鼻をすする音が聞こえます。

 ディアは泣いていたのです。

「分かっているのです。貴女様は、いつも周囲の人間の事を考えて下さいました。普通なら逃げ出してますよ、あんなクソ男から。でも逃げなかったのは、それによって従業員が解雇されて路頭に迷うのを心配されたからですよね?」

「わ、私は……」

「もう奥様は分かっているはずです。誰が貴女様の心を傷つけているのか。貴女様から笑顔を奪ったのが誰なのか……。フェリーチェ様にはたくさん笑顔を頂きました。だから今度は……私たちが貴女様を笑顔にしたいのです」

 ディアが何を言っているのか、分かりませんでした。
 その時、

「そうですよ、奥様‼」
「俺たちの事は気にしないで下さいっ‼」

 開け放たれたままのドアの向こうから、大勢の従業員たちの声が聞こえて来たのです。
 ディアは彼らの内の一人に離縁届を渡すと、呆気にとられているレイジィ様に向かい合い、満面の笑みを浮かべて言い放ったのです。

「旦那様。ここにいる従業員皆、旦那様のような人の価値も物の価値も分からず、媚びるしか能のないそこの女に呆けている馬鹿についていくつもりはございません」

「ば、馬鹿だとっ⁉ お前たち……そんな反抗的な態度を俺にするなど……よっぽど解雇されたいんだなっ⁉」

「解雇? はぁ……旦那様は言葉の理解も遅れているのですね?」

 次の瞬間、ディアの満面の笑みが豹変したのです。


「お前のような無能の下で働くつもりはねぇっつってんだよっ‼ こっちから喜んで辞めてやるよ、クソゴミ野郎がっ‼」
しおりを挟む
匿名で何か残したければ、WEB拍手orマシュマロをご利用ください(*´ω`*)

【マシュマロ】☆こちらをクリック♪☆

【WEB拍手】☆WEB拍手♪☆
感想 5

あなたにおすすめの小説

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

あなたの愛が正しいわ

来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~  夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。  一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。 「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

【完結】婚約破棄された令嬢の毒はいかがでしょうか

まさかの
恋愛
皇太子の未来の王妃だったカナリアは突如として、父親の罪によって婚約破棄をされてしまった。 己の命が助かる方法は、友好国の悪評のある第二王子と婚約すること。 カナリアはその提案をのんだが、最初の夜会で毒を盛られてしまった。 誰も味方がいない状況で心がすり減っていくが、婚約者のシリウスだけは他の者たちとは違った。 ある時、シリウスの悪評の原因に気付いたカナリアの手でシリウスは穏やかな性格を取り戻したのだった。 シリウスはカナリアへ愛を囁き、カナリアもまた少しずつ彼の愛を受け入れていく。 そんな時に、義姉のヒルダがカナリアへ多くの嫌がらせを行い、女の戦いが始まる。 嫁いできただけの女と甘く見ている者たちに分からせよう。 カナリア・ノートメアシュトラーセがどんな女かを──。 小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

処理中です...