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第5話
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屋敷内に私の居場所はありません。
アイリーンの態度は日に日に大きくなり、今では屋敷の女主人気取りです。
リッツはあの後すぐ、解雇されました。
彼女の姿が見えなくなった時、すぐさまレイジィ様を問い詰めたのです。
「あの女は、女中頭であるアイリーンに反抗的だったそうじゃないか。屋敷の秩序を守れぬやつに、払う金などない」
「そ、そんな! リッツはそんな子ではありません! 誠実で聞き分けがよく、とても優しい子ですわ! それにあの子の母親は病気で、薬代が必要なのです! そんな子を解雇するなど……」
「なんだ、お前はろくに仕事も出来ないくせに、俺に意見するのか?」
レイジィ様ににらまれると、恐怖で身がすくみ、私は何も言えなくなります。
でも、解雇されると分かっていながらも、私にアイリーンの事を教えてくれた少女の勇気を想うと、いつものように引き下がることはできませんでした。
「さ、最近のアイリーンの態度は、め、目に余ります! そ、それに私のドレスや宝飾品をアイリーンが身につけているのですが……」
「アイリーンは良く私の仕事をこなしてくれている優秀な女中頭だ。褒美としてお前の物を与えて何が問題ある? そもそもお前の持ち物は俺の物でもあるのだ。お前のような地味で可愛げのない女が身につけるよりも、アイリーンの方が映える」
そこで言葉を切ると、レイジィ様はゆっくりと立ち上がり、近づいてきました。
冷たい視線で、私を睨みつけながら。
「あと……アイリーンの態度が目に余る、と言ったが、お前の主観か? それとも……屋敷使用人の誰かの意見か?」
「ああっ……、そ、それは……」
ここで私は失言に気づいたのです。
アイリーンの態度について言及するほど、私はこの屋敷にいないのですから。使用人から聞いた話だと伝えたら、犯人を特定され、解雇されるでしょう。
「……わ、私の……主観です」
「ほう。ふわふわと空想の詰まったお前の頭が考えたことなのか。なら聞くが、お前の空っぽのお頭での判断と俺の判断、どちらが正しいと思う?」
「れ、レイジィ様の……ご判断です」
「そうだ。そこまで馬鹿な女じゃなくて安心したぞ、フェリーチェ」
レイジィ様が満足そうに笑います。
これで使用人たちには迷惑がかかりません。私もホッとしましたが、さっきから心がモヤモヤします。
何だろうとその理由を考えていると、突然頬に強い衝撃が走り、私の身体が吹き飛びました。
気が付くと私は床に倒れていました。頬がジンジン痺れ、痛みと熱をもっています。
どうやら私は、レイジィ様に頬を打たれたようです。
「だが、俺に生意気にも意見したことに対しては、罰を与えないとな。お前は俺の言う事を聞いていればいい。一人では何も出来ないのだからな。さっさと商会に行け。今日のノルマをこなすまで、屋敷には帰って来るな」
「か、かしこまりました……」
よろよろと立ち上がりますが、レイジィ様は腕を組んだまま手を差し伸べて下さることはありませんでした。
頬に手を当てると、痛みと熱で、腫れていることが分かります。
部屋を出ると、
「あら、奥様?」
アイリーンが立っていました。
勝ち誇ったように私を見つめると、腫れた頬に視線を向けてふふっと笑ったのです。
「奥様、今日のお化粧は頬紅が一段と派手ですわね? でも……とってもお似合いですわ」
とても惨めでした。
愛したいと願った主人に打たれ、愛人であるアイリーンには蔑まれ、私は一体何なのでしょうか?
彼らにとって。
この屋敷にとって。
「アイリーン、そこにいるのか? 早く部屋に入って来い」
「はい、ただいまぁー」
仕える主に出すとは思えない甘ったるい声色を発し、アイリーンは部屋の中に入って行きました。
ずっとここにいるわけには行きません。私は両耳を塞ぐと、その場から逃げるように立ち去りました。
なぜなら、
「うふっ、駄目ですよぉ、旦那様ぁー」
アイリーンが私に見せつけるように、少しだけドアを開けていたのですから。
アイリーンの態度は日に日に大きくなり、今では屋敷の女主人気取りです。
リッツはあの後すぐ、解雇されました。
彼女の姿が見えなくなった時、すぐさまレイジィ様を問い詰めたのです。
「あの女は、女中頭であるアイリーンに反抗的だったそうじゃないか。屋敷の秩序を守れぬやつに、払う金などない」
「そ、そんな! リッツはそんな子ではありません! 誠実で聞き分けがよく、とても優しい子ですわ! それにあの子の母親は病気で、薬代が必要なのです! そんな子を解雇するなど……」
「なんだ、お前はろくに仕事も出来ないくせに、俺に意見するのか?」
レイジィ様ににらまれると、恐怖で身がすくみ、私は何も言えなくなります。
でも、解雇されると分かっていながらも、私にアイリーンの事を教えてくれた少女の勇気を想うと、いつものように引き下がることはできませんでした。
「さ、最近のアイリーンの態度は、め、目に余ります! そ、それに私のドレスや宝飾品をアイリーンが身につけているのですが……」
「アイリーンは良く私の仕事をこなしてくれている優秀な女中頭だ。褒美としてお前の物を与えて何が問題ある? そもそもお前の持ち物は俺の物でもあるのだ。お前のような地味で可愛げのない女が身につけるよりも、アイリーンの方が映える」
そこで言葉を切ると、レイジィ様はゆっくりと立ち上がり、近づいてきました。
冷たい視線で、私を睨みつけながら。
「あと……アイリーンの態度が目に余る、と言ったが、お前の主観か? それとも……屋敷使用人の誰かの意見か?」
「ああっ……、そ、それは……」
ここで私は失言に気づいたのです。
アイリーンの態度について言及するほど、私はこの屋敷にいないのですから。使用人から聞いた話だと伝えたら、犯人を特定され、解雇されるでしょう。
「……わ、私の……主観です」
「ほう。ふわふわと空想の詰まったお前の頭が考えたことなのか。なら聞くが、お前の空っぽのお頭での判断と俺の判断、どちらが正しいと思う?」
「れ、レイジィ様の……ご判断です」
「そうだ。そこまで馬鹿な女じゃなくて安心したぞ、フェリーチェ」
レイジィ様が満足そうに笑います。
これで使用人たちには迷惑がかかりません。私もホッとしましたが、さっきから心がモヤモヤします。
何だろうとその理由を考えていると、突然頬に強い衝撃が走り、私の身体が吹き飛びました。
気が付くと私は床に倒れていました。頬がジンジン痺れ、痛みと熱をもっています。
どうやら私は、レイジィ様に頬を打たれたようです。
「だが、俺に生意気にも意見したことに対しては、罰を与えないとな。お前は俺の言う事を聞いていればいい。一人では何も出来ないのだからな。さっさと商会に行け。今日のノルマをこなすまで、屋敷には帰って来るな」
「か、かしこまりました……」
よろよろと立ち上がりますが、レイジィ様は腕を組んだまま手を差し伸べて下さることはありませんでした。
頬に手を当てると、痛みと熱で、腫れていることが分かります。
部屋を出ると、
「あら、奥様?」
アイリーンが立っていました。
勝ち誇ったように私を見つめると、腫れた頬に視線を向けてふふっと笑ったのです。
「奥様、今日のお化粧は頬紅が一段と派手ですわね? でも……とってもお似合いですわ」
とても惨めでした。
愛したいと願った主人に打たれ、愛人であるアイリーンには蔑まれ、私は一体何なのでしょうか?
彼らにとって。
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「アイリーン、そこにいるのか? 早く部屋に入って来い」
「はい、ただいまぁー」
仕える主に出すとは思えない甘ったるい声色を発し、アイリーンは部屋の中に入って行きました。
ずっとここにいるわけには行きません。私は両耳を塞ぐと、その場から逃げるように立ち去りました。
なぜなら、
「うふっ、駄目ですよぉ、旦那様ぁー」
アイリーンが私に見せつけるように、少しだけドアを開けていたのですから。
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