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第3話
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今日成すべき仕事を終え、商会内の片づけを見届け、屋敷に戻る馬車の中で私は外をぼんやりと見つめていました。
辺りは一面闇に包まれています。こんな時間に起きている領民は、ほとんどいません。そんな時間まで働いて下さっている初老の従者の方には、感謝しかありません。
恐らくレイジィ様も夕食をとられ、先にお休みになられているでしょう。
アイリーンとのことを思い出すと、屋敷に戻りたくない気持ちでいっぱいになります。
しかし、私の家はあそこだけ。
戻るしか選択肢はありません。
苦しくなる気持ちを紛らわせるため、私はディアのことを思い出していました。
ほんと、ディアはいい子です。
こんな私のことを、本当に慕ってくれて。
私の下じゃなく別の働き口を探してもいいのよって言っても、決して首を縦に振らないのです。
それどころか、
「私の天職は、一生奥様にお仕えする事です」
なんていう始末。
彼女は元孤児。
5年前、トーマ商会で盗みを働いたところを私が助けたので、それが足枷になっているのかもしれません。
でもディアのお陰で、私はこの国の過酷な環境にいる子どもたちの現状を知ることが出来ました。少しでも未来を担う子どもたちを救いたくて、個人的に孤児院を作ったのです。
子どもの現状を知った私は、当初レイジィ様に伝え、何とか資金援助をお願い出来ないかと頭を下げました。
しかし、
「そんなものに、家の金を出せるか。やりたければ、自分の物を売れ」
と一蹴されてしまいました。
ほとんど夫婦共有財産として記録されており、私の意思で自由になる品物はありません。
たった一つ、今は亡き父と母、そして私が1枚に描かれた肖像画以外は。
共有財産を記録する際、あまりにも個人的な物だったため、レイジィ様が私所有にして下さったのです。
「こんな価値のない肖像画、持っていても邪魔になるだけだ。いるならお前が持ってろ」
と仰って。
ですがこの肖像画は、もうお亡くなりになられた世界的な画家アントニオの作品で、価値があるものでした。
資金をもたない私は、これをオークションにかけたのです。
結果アントニオ作品の中でも最高値がつけられ、私は無事孤児院の資金を調達することが出来ました。
孤児院の子どもたちは、安心した生活の中すくすく育ち、成人すると巣立っていきました。
新しい働き口で頑張っている話も伝え聞きますし、成人した一部の子たちはトーマ商会で今も私と一緒に働いてくれています。
ですが……今でも私の寝室の壁にうっすら残る額縁の跡を見ると、寂しさで胸が締め付けられます。
(きっとお父様もお母さまも許して下さる)
孤児院の子どもたち、そしてトーマ商会で働く孤児院出身の従業員たちの笑顔を見ると、そう思うのです。
私がしたことは、決して間違っていないのだと。
辺りは一面闇に包まれています。こんな時間に起きている領民は、ほとんどいません。そんな時間まで働いて下さっている初老の従者の方には、感謝しかありません。
恐らくレイジィ様も夕食をとられ、先にお休みになられているでしょう。
アイリーンとのことを思い出すと、屋敷に戻りたくない気持ちでいっぱいになります。
しかし、私の家はあそこだけ。
戻るしか選択肢はありません。
苦しくなる気持ちを紛らわせるため、私はディアのことを思い出していました。
ほんと、ディアはいい子です。
こんな私のことを、本当に慕ってくれて。
私の下じゃなく別の働き口を探してもいいのよって言っても、決して首を縦に振らないのです。
それどころか、
「私の天職は、一生奥様にお仕えする事です」
なんていう始末。
彼女は元孤児。
5年前、トーマ商会で盗みを働いたところを私が助けたので、それが足枷になっているのかもしれません。
でもディアのお陰で、私はこの国の過酷な環境にいる子どもたちの現状を知ることが出来ました。少しでも未来を担う子どもたちを救いたくて、個人的に孤児院を作ったのです。
子どもの現状を知った私は、当初レイジィ様に伝え、何とか資金援助をお願い出来ないかと頭を下げました。
しかし、
「そんなものに、家の金を出せるか。やりたければ、自分の物を売れ」
と一蹴されてしまいました。
ほとんど夫婦共有財産として記録されており、私の意思で自由になる品物はありません。
たった一つ、今は亡き父と母、そして私が1枚に描かれた肖像画以外は。
共有財産を記録する際、あまりにも個人的な物だったため、レイジィ様が私所有にして下さったのです。
「こんな価値のない肖像画、持っていても邪魔になるだけだ。いるならお前が持ってろ」
と仰って。
ですがこの肖像画は、もうお亡くなりになられた世界的な画家アントニオの作品で、価値があるものでした。
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ですが……今でも私の寝室の壁にうっすら残る額縁の跡を見ると、寂しさで胸が締め付けられます。
(きっとお父様もお母さまも許して下さる)
孤児院の子どもたち、そしてトーマ商会で働く孤児院出身の従業員たちの笑顔を見ると、そう思うのです。
私がしたことは、決して間違っていないのだと。
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