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番外編:目覚めたら親友の娘が隣で寝てて責任とれとぐいぐい迫ってくるんだが

第32話 やればできるじゃないか、お前っ!

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 俺たち二人の姿は、レグロット村の入り口にあった。

「あー、懐かしいー」

 爽やかな春の風を受けるステラの声が、すぐ隣で聞こえてくる。
 二人でこの村を訪れたのは、2年前の俺の誕生日パーティーの次の日以来かな。

 あの時は、父親に結婚の挨拶をして来いと言われ、シオンに殺される恐怖でガクブルしてたっけな……。
 でもまさかその2年後、自分の意思で結婚の挨拶に行くとは思ってもみないだろ、ほんと!

 人生、何があるかほんと分からないよなー……

 繋いだ彼女の左手の薬指に先ほど渡した指輪を感じながら、そんなことをしみじみ思う。

 ステラが村に戻ると、村人たちが彼女の帰還を歓迎した。
 おかえりの嵐が降り注ぎ、ステラも嬉しそうに村人や友人たちとあいさつを交わしていた時、人々の中から二つの白い影が勢いよく飛び出し、彼女の腰に抱き着いた。

「ステラねーちゃん、おかえりっ‼」

「おねーちゃんー、会いたかったよー‼」

「ただいま、セシリオ、エミリア! おねーちゃんも、凄く会いたかったわ! 二人とも、また背が伸びて大きくなったわね?」

 そう言ってステラは屈んで二人と視線を合わせると、ぎゅっと抱きしめて再会を喜んでいる。
 彼女の言葉に、双子の瞳がみるみるうちに潤むと、ステラの名前を呼びながら全体重を姉に預けて泣き出してしまった。

 ステラは通信珠で連絡こそは取っていたけど、2年間、一度もマーレ王国に戻っていない。
 そこまでの覚悟をもって、メロディア王国に渡ったってことなんだろう。

 2年間も姉を奪う形になったきょうだいたちには申し訳ないけど、俺を思った行動だと思うと、人の目など関係なく抱きしめたくなるほど胸の奥が愛おしさで締め付けられる。

 ……が、それは我慢だ。
 これでも俺、紳士だからなっ!

 セシリオとエミリアに両手を引っ張られながら、スターシャ家へと向かう。
 家の前にはリベラ様が待っていて、俺たちの姿を捕らえた瞬間、こちらに向かって駆け出し、ステラの身体を抱きしめた。

 母の身体を抱きしめ返すと、ステラの涙声が鼓膜を震わせた。

「た、ただいま、お母さん……」

「おかえり、ステラ……。よく……よくここまで頑張ったね……」

「お母さんが応援してくれたからよ。たくさんの人たちに助けて貰ったから……。ありがとう、お母さん……。あの時、私の背中を押してくれて……」

「当たり前でしょ? あなたが本当に望むことを応援するのが、母親なんだから……」

 涙を流しながら、リベラ様が微笑む。
 リベラ様も若い頃、育ての親であるセリス様に同じことを言って貰ったことを、思い出しているんだろうな。

 再会を喜び合った後、リベラ様の視線が俺に向けられた。全て分かってるよ、と言わんばかりの笑顔を浮かべている。

「ディディスもありがとう。ステラを迎えに行ってくれて」

「う、うん、まあそうなんだけど……あの、俺たち……」

「ふふっ、分かってるって。シオンが待ってるから、さっ、家の中に入ろ?」

「分かった……って、あれ? シオン、家の中で待ってるの?」

 そう言えば、シオンの姿が見えない。
 娘を溺愛しているアイツの事だから、真っ先に迎えに出てくると思ってたんだけど。

 俺の気持ちを察したのか、リベラ様がふふっと笑う。

「シオンもステラが頑張ってるのを見て、自分も子離れしないと駄目だって思ったみたいなの。だから、大人しく家で待ってるって言ってたわ」

 アイツ、やっと自分が子離れできてないって自覚したのかっ‼
 シオンのやつも……やっと大人になったんだな……。
 
「おねーちゃーん!」

「マリー、ただいま! すっごく大きくなったのね? 抱っこするのも大変だわ」

 家に入ると、最後に別れてからすっかり大きくなったマリーが、嬉しそうにステラにしがみ付いた。満面の笑みを浮かべ、ステラがマリーを抱っこする。

 そんな二人の前に、紺色の髪を揺らしながらロゼが現れた。ステラからマリーを受け取ると、あまり見る事のない、年頃の少年らしい快活な笑顔を浮かべた。

「ねぇちゃん、おかえり! 正直、勉強が辛くて途中で戻って来るって思ってたよ」

「もうっ、私だって本気出せばこんなもんなんだからっ!」

 売り言葉に買い言葉とばかりに、ステラが唇を尖らせて言い返す。このままいつものとおり、言い合いに発展するかと思ったんだけど、

「ほんと凄いよ、ねぇちゃん。2年間、お疲れ様」

「……みんなの協力があったからよ。ロゼ、ありがと。私が戻って来る2年間、家族を支えてくれて……」

 ロゼが、少し照れが混じったようにモゴモゴと称賛の言葉を送ると、ステラも照れ笑いを浮かべながら彼の言葉に応えていた。

 ロゼの視線が、ちらっとステラの薬指に向けられた気がした。

 その時、この家で一番力強い足音が響き渡った。
 足音の主は見なくても分かる。

「お父さん……」

「おかえりステラ。2年間、よく頑張たな」

 シオンだ。
 最後に会ってから2年、さらに成長した娘を瞳を細めて見つめている。

 いつもなら、ステラおかえりっ‼ とハイテンションで抱き着き、娘に嫌がられているシオンだが今は違った。

 娘に抱き着くこともなく、テンションも高くなく、ただ静かに娘の成長を喜んでいる様子が感じられた。

 これが、子離れを決意したシオンなんだな……。
 やればできるじゃないか、お前っ!

 ステラも父親の変化が分かっているのだろう。
 いつもみたいに、お父さん恥ずかしいっ! と拒絶することなく、同じ大人として、人生の先輩として、敬意をもった視線で父親を見つめ返していた。

「ただいま……。お父さん、ありがとう。2年前、私の話を聞いてくれて……。メロディア王国の留学を認めてくれて……。本当に、ありがとう、ありが……」
 
 後半になるにつれて、ステラの声が震え出すと、彼女の足が自然とシオンへと向かった。そしていつの日も、この家を守り続けた力強い身体を抱きしめながら、再び涙を流した。

 そんな娘を、シオンは微笑みながら黙って抱きしめ返していた。

 そんな中、ロゼがそっと動いた。

「セシリオ、エミリア、マリー。ちょっとにぃちゃんと外に遊びに行こうか」

「わーい! 鬼ごっこしよー、おにーちゃんが鬼ね!」

「なんでだ、エミリア! ちゃんと公平に決めないと駄目だろ?」

「だってにぃちゃん、本気で逃げるから捕まらねぇんだもんっ‼ 鬼になるハンデぐらいくれてもいいじゃんっ!」

「そんな甘いこと言っててどうするんだ、セシリオ! 怒ったお母さんから逃げるときは、俺よりも足早いくせに」

「ねぇ、マリーは? マリーは?」

「マリーはまだ小さいから、タッチ3回しないと鬼にならないルールにしようか」

「マリーだけずるいっ! 公平にって言ったのに――っ‼」

「5歳児と張り合うな、エミリア!」

 ブーブー良いながらも、双子たちは楽しそうに外に出て行った。
 何故か俺の横を通り過ぎていく際、親指を上に立ててめっちゃ良い顔をしながら……。

 なんだこれって思ったけど、マリーを抱っこしたロゼが俺の前にやって来て発した言葉で、全てを悟った。

「ディディスおじさん、ねぇちゃんを、よろしくお願いします」

 ……ああ、もう皆分かってるのか。
 俺がここにいる理由が。
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