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番外編:目覚めたら親友の娘が隣で寝てて責任とれとぐいぐい迫ってくるんだが
第22話 待たせてごめんな
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すぐさま理性が、目の前で繰り広げられているものの現状を把握する。
どうやら目の前の青年は、ステラに想いを寄せてて、俺を諦めるように説得しているらしい。
この感じだと、ステラは俺のことを彼に話しているようだ。
それだけ距離が近い相手、ということなんだろう。
彼の言葉は正しい。
全部正しい。
これが普通の反応だよな。
これが当然の反応だよな。
(分かっていたのに……。今まで何であの子に伝えなかったんだろ……)
嘘でもなんでもいい。
もう俺の事は忘れて欲しいと。
(早く立ち去ろう、ここから)
そんな時だ。
「え? ステ……ぐふっ!」
苦しそうな声が、響き渡った。
慌てて声の方を見ると、ステラに迫っていた青年が腹を抱えてうずくまっている。
彼の前には、ハァハァと荒く息を吐き出しながら、拳を握った状態のステラの姿。どうやら彼の鳩尾に一発食らわせたようだ。
身体をくの字に折り、苦しそうに咳き込んでいる青年を見下ろしながら、ステラが悔しそうに叫んだ。
「ディディスを悪く言うのは許さない! 私、彼の人生を無理矢理奪おうとした女なのよ? ディディスが私を避けたいって思うなんて当たり前でしょっ⁉」
「じ、じゃあ……な、なんで待ってるんだよっ!」
「それでも一目でいいから会いたいからに決まってるじゃないっ‼」
面食らったような表情を浮かべながら、うずくまったままの青年がステラを見上げる。
「さっきから勝手な事ばかり……年齢差が何? 分かってるわよ、そんなこと‼ 例え彼と結ばれても、普通の人のように長い時間を一緒にいられないことぐらい!」
「分かってるなら何で……」
「それでも彼が好きだからよ! 大好きだからよっ‼ 一緒にいられる時間が長いのに越したことはない。だけどそれが全てじゃないでしょ⁉ 違う⁉」
「でもそいつが死んだ後、ずっと一人で残されるんだぞ⁉ 旦那を亡くした妻が一人で生きるのは大変――」
「だから一人でも生きられるように、ここに学びにきたの‼ 彼の懸念を一つでも取り除くために‼」
一度言葉を切ったステラは、自身が抱きしめる兄貴の荷物を見つめた。
愛おしそうに瞳を細め、荷物に何かを思い重ねているような柔らかな視線を向ける。
「私は、もっともっと強くなって世界を知って、もっともっとしっかりして、私と彼との間にある懸念を全て取り除きたいの。このままじゃ、年齢差とかお父さんの子どもだとか、周囲が思うような懸念ばかりに先に目がいっちゃうでしょ? ステラという一人の人間に向き合って貰いたいの」
そしてぎゅっと荷物を抱きしめると、掠れた声で囁いた。
「……人の気持ちは、簡単に変わってしまうものだと諦めてしまったあの人に、変わらない想いがあることを証明したいの。だから私はここに来た」
何一つ、迷いのない言葉だった。
騒音で簡単にかき消えてしまいそうな言葉だったけど、それは深く、深くこの心に突き刺さった。
胸の奥が苦しくなって呼吸が上手くできない。無意識のうちに握っていた拳の中が汗をかき、ドクドクと脈打つ心臓の音だけが頭の中で響く。
ジワリと瞳が熱をもち、その奥が締め付けられるような痛みが走る。
心の奥底にある、本当の不安に気づいていなかったのは、
(俺自身だ)
ステラには、
あの少女には、とっくに見透かされていたというのに――
”ステラも大きくなっていたんだな”
シオンの呟きが蘇る。
俺の知っていた、ステラという少女はいなかった。
目の前にいるのは――
”ディディス……”
闇の中に揺れる彼女の白い肢体が蘇る。
心の奥が、長く錆び付いていたものを熱く滾らせる。
次の瞬間、俺の耳に届いたのは、
「お、お前誰だ!」
驚きに満ちた青年の声。
そして、
「あ、あぁっ……う、うそ……」
先ほどの言葉の勢いが泣きそうな声色に変わった、ステラの言葉。
二人の反応を構う事なくステラの前に立つと、抱きしめた。
身も心も、すっかり大人の女性になってしまった、彼女を。
「来て……くれた……ディディス……」
俺はその言葉に頷くと、さらに身体を抱きしめる腕に力を込めた。
「待たせてごめんな……ステラ」
どうやら目の前の青年は、ステラに想いを寄せてて、俺を諦めるように説得しているらしい。
この感じだと、ステラは俺のことを彼に話しているようだ。
それだけ距離が近い相手、ということなんだろう。
彼の言葉は正しい。
全部正しい。
これが普通の反応だよな。
これが当然の反応だよな。
(分かっていたのに……。今まで何であの子に伝えなかったんだろ……)
嘘でもなんでもいい。
もう俺の事は忘れて欲しいと。
(早く立ち去ろう、ここから)
そんな時だ。
「え? ステ……ぐふっ!」
苦しそうな声が、響き渡った。
慌てて声の方を見ると、ステラに迫っていた青年が腹を抱えてうずくまっている。
彼の前には、ハァハァと荒く息を吐き出しながら、拳を握った状態のステラの姿。どうやら彼の鳩尾に一発食らわせたようだ。
身体をくの字に折り、苦しそうに咳き込んでいる青年を見下ろしながら、ステラが悔しそうに叫んだ。
「ディディスを悪く言うのは許さない! 私、彼の人生を無理矢理奪おうとした女なのよ? ディディスが私を避けたいって思うなんて当たり前でしょっ⁉」
「じ、じゃあ……な、なんで待ってるんだよっ!」
「それでも一目でいいから会いたいからに決まってるじゃないっ‼」
面食らったような表情を浮かべながら、うずくまったままの青年がステラを見上げる。
「さっきから勝手な事ばかり……年齢差が何? 分かってるわよ、そんなこと‼ 例え彼と結ばれても、普通の人のように長い時間を一緒にいられないことぐらい!」
「分かってるなら何で……」
「それでも彼が好きだからよ! 大好きだからよっ‼ 一緒にいられる時間が長いのに越したことはない。だけどそれが全てじゃないでしょ⁉ 違う⁉」
「でもそいつが死んだ後、ずっと一人で残されるんだぞ⁉ 旦那を亡くした妻が一人で生きるのは大変――」
「だから一人でも生きられるように、ここに学びにきたの‼ 彼の懸念を一つでも取り除くために‼」
一度言葉を切ったステラは、自身が抱きしめる兄貴の荷物を見つめた。
愛おしそうに瞳を細め、荷物に何かを思い重ねているような柔らかな視線を向ける。
「私は、もっともっと強くなって世界を知って、もっともっとしっかりして、私と彼との間にある懸念を全て取り除きたいの。このままじゃ、年齢差とかお父さんの子どもだとか、周囲が思うような懸念ばかりに先に目がいっちゃうでしょ? ステラという一人の人間に向き合って貰いたいの」
そしてぎゅっと荷物を抱きしめると、掠れた声で囁いた。
「……人の気持ちは、簡単に変わってしまうものだと諦めてしまったあの人に、変わらない想いがあることを証明したいの。だから私はここに来た」
何一つ、迷いのない言葉だった。
騒音で簡単にかき消えてしまいそうな言葉だったけど、それは深く、深くこの心に突き刺さった。
胸の奥が苦しくなって呼吸が上手くできない。無意識のうちに握っていた拳の中が汗をかき、ドクドクと脈打つ心臓の音だけが頭の中で響く。
ジワリと瞳が熱をもち、その奥が締め付けられるような痛みが走る。
心の奥底にある、本当の不安に気づいていなかったのは、
(俺自身だ)
ステラには、
あの少女には、とっくに見透かされていたというのに――
”ステラも大きくなっていたんだな”
シオンの呟きが蘇る。
俺の知っていた、ステラという少女はいなかった。
目の前にいるのは――
”ディディス……”
闇の中に揺れる彼女の白い肢体が蘇る。
心の奥が、長く錆び付いていたものを熱く滾らせる。
次の瞬間、俺の耳に届いたのは、
「お、お前誰だ!」
驚きに満ちた青年の声。
そして、
「あ、あぁっ……う、うそ……」
先ほどの言葉の勢いが泣きそうな声色に変わった、ステラの言葉。
二人の反応を構う事なくステラの前に立つと、抱きしめた。
身も心も、すっかり大人の女性になってしまった、彼女を。
「来て……くれた……ディディス……」
俺はその言葉に頷くと、さらに身体を抱きしめる腕に力を込めた。
「待たせてごめんな……ステラ」
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