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番外編:目覚めたら親友の娘が隣で寝てて責任とれとぐいぐい迫ってくるんだが
第20話 いいのか、お前それで
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シオンの独白のような言葉が続く。
不機嫌そうな表情から一転、少し寂しそうな遠い目を、流れる水に向けている。
「……いつの間にか大きくなっていたんだな、ステラも。昔はもっと大人しい子だったのに」
「そうだったっけ? いつもお馬さんゴッコをせがまれてたから、積極的な子だって思ってたんだけど。それに14歳でリベラ様やヘイドリック家の店の手伝いなんかもしてたんだから、十分積極的な性格じゃないか」
後、俺のこともあったし。
しかしそれは、きっかけがあっての今なんだと言う。
「ディディス、覚えてるか? ステラが9歳ぐらいの時、メイって名前を付けたヤギを世話してたの」
「ヤギ? ……ああ、いたな。一回逃げ出して大変なことになってたやつだろ?」
すっかり忘れていた遠い記憶が、輪郭を取り戻していく。
確かステラは、シオンから一頭の子ヤギの世話を任されていた。
それは大人しかったステラに、何かを任せてやり遂げさせれば、もっと自分に自信が持てるんじゃないかという考えからだったらしい。
でもある夜、突然の嵐がレグロット村を襲い、ステラのヤギも含めた家畜たちがたくさん逃げ出したんだ。
逃げたヤギを探してステラが一人で村を出たもんだから、さらに大騒ぎになったんだっけ。
俺も夜中に通信珠でたたき起こされ、慌てて村に向かったっけな。
まあ何とか俺が見つけて、連れて帰ったんだけど。
「ステラが一人で探しに出て行方が分からなくなった時は、死ぬほど心配したな。もしあの時に種の痣があって、ステラの身に何かがあったら……俺もリベラも間違いなく魔王化してただろうと確信している」
「そんな確信いらんから」
君ら二人が魔王化したら、世界は終わりだかんな!
神、倒しといてよかったな、ほんと。
とにかくその後は無事ヤギも成長し、ステラは自身の仕事をやり遂げることが出来た。
そこから自信がついたのか、今のような積極的な性格になったんだという。
そんなことがあったのか。
まあそういう意味では、俺はまだステラの一面しか知らないのかもしれない。
「メロディア国の話をされた時、お前反対しなかったのか?」
「反対しないと思ったのか?」
「……はは、ソウデスヨネー」
ま、愚問か。
理由も理由だしな。
「そんなお前を、ステラちゃんはどうやって説得したんだよ?」
「……外堀を埋められた」
「え? どういうことだ?」
「……ステラは俺に反対されることを考え、俺以外の家族に先に相談していたんだ。皆を説得し、自分の味方にしてな」
「そ、そうなのか?」
「ああ……。おかげで俺が一言でも反対の言葉を上げようものなら、他の子どもたちから非難轟々だぞ? ロゼからは、きょうだい皆でステラを助けるから許してあげてって言われるし、セシリオとエミリアはお前のことが大好きだから特に理由なく賛成だし、よく状況の分かってないマリーに至っては『ステラおねーちゃんいじめるパパ、きらい』と……か……言われる……し……。パパきらいとか……いわれる……し……」
後半にかけてシオンの声が震え出した。
多分泣いてる。
……やつの心が。
まあそれはいい、とシオンは気を取り直すように頭を振る。
「その後ステラと二人で話したが、話の最初から最後まで真剣だった。あんなステラは初めてだったな。あの一件は自分が間違っていたと深く反省して、もう手遅れかもしれないが、今度は正しい方法でお前に認められたいと言っていた」
シオンの青い瞳が、真っすぐ俺を見つめる。
「お前に対して抱く気持ちも、これからのことも、全て真剣に考えているとな」
「いいのか、お前それで……」
「良いもなにも、ステラがもう国を出た結果が俺たちの答えだ。娘のやりたいことを応援するのが親ってものだと、あのクソ婆が良く言っていたからな」
クソ婆とは、亡きセリス様のことだ。
シオンの言葉は、遠回しではあるけど、ステラの気持ちを応援するということ。
つまり、娘の好きな相手が俺でも構わない、ということだ。
……ああ、だからか。
だからシラフでは話せないって言ったんだな。
ステラは2年後、学びを終えてこの国に戻って来るらしい。
「リベラからの伝言だ。『もしお前にその気が全くないのなら、他に好きな人が出来たなら、ステラにそう言って欲しい。あの子も覚悟はしているから』と」
「ってことは、もし俺がステラちゃんに連絡を入れたら……マーレ王国に戻って来るのか?」
「それはまた別の話だ。何があっても2年間向こうで学ぶことは、留学を許した条件に入っている。ってお前……、ステラの頑張った結果も見ずに、もう断るつもりか⁉」
「お、お前は反対派なんだろ⁉ なんで怒るんだよっ‼」
「俺だって色々と複雑なんだっ‼ そのくらい理解しろっ‼」
ええー……、物凄い剣幕で怒鳴られたんだが。
ステラの気持ちも頑張りも応援したい。
だが溺愛する娘に好きな人が出来たのが嫌だ。
さらにその相手が自分と同じ歳の俺なんだからもっと納得できん。
ま、簡単には割り切れんわな、こんなん。
ポンっと蓋が開く音がした。
シオンが新たに開けたエールを一気飲みし、口元を拭いながらぽつりと呟く。
「……お前だって昔、俺に言っただろ。ステラが納得いくまで、最後までやらせてやれと」
「そんなこと言ったっけ、俺?」
記憶を探ってみたけど、出てこない。
だけどシオンがこの問いに答えることはなかった。
すっかり気の抜けたエールを口に含みながら思う。
(何だか……外堀を埋められているのは俺のような気がするんだけどな)
それが嫌なら、さっさとステラに伝えればいい。
そう理性が声をあげた気がしたけど、聞こえないふりをして残ったエールを飲み干した。
不機嫌そうな表情から一転、少し寂しそうな遠い目を、流れる水に向けている。
「……いつの間にか大きくなっていたんだな、ステラも。昔はもっと大人しい子だったのに」
「そうだったっけ? いつもお馬さんゴッコをせがまれてたから、積極的な子だって思ってたんだけど。それに14歳でリベラ様やヘイドリック家の店の手伝いなんかもしてたんだから、十分積極的な性格じゃないか」
後、俺のこともあったし。
しかしそれは、きっかけがあっての今なんだと言う。
「ディディス、覚えてるか? ステラが9歳ぐらいの時、メイって名前を付けたヤギを世話してたの」
「ヤギ? ……ああ、いたな。一回逃げ出して大変なことになってたやつだろ?」
すっかり忘れていた遠い記憶が、輪郭を取り戻していく。
確かステラは、シオンから一頭の子ヤギの世話を任されていた。
それは大人しかったステラに、何かを任せてやり遂げさせれば、もっと自分に自信が持てるんじゃないかという考えからだったらしい。
でもある夜、突然の嵐がレグロット村を襲い、ステラのヤギも含めた家畜たちがたくさん逃げ出したんだ。
逃げたヤギを探してステラが一人で村を出たもんだから、さらに大騒ぎになったんだっけ。
俺も夜中に通信珠でたたき起こされ、慌てて村に向かったっけな。
まあ何とか俺が見つけて、連れて帰ったんだけど。
「ステラが一人で探しに出て行方が分からなくなった時は、死ぬほど心配したな。もしあの時に種の痣があって、ステラの身に何かがあったら……俺もリベラも間違いなく魔王化してただろうと確信している」
「そんな確信いらんから」
君ら二人が魔王化したら、世界は終わりだかんな!
神、倒しといてよかったな、ほんと。
とにかくその後は無事ヤギも成長し、ステラは自身の仕事をやり遂げることが出来た。
そこから自信がついたのか、今のような積極的な性格になったんだという。
そんなことがあったのか。
まあそういう意味では、俺はまだステラの一面しか知らないのかもしれない。
「メロディア国の話をされた時、お前反対しなかったのか?」
「反対しないと思ったのか?」
「……はは、ソウデスヨネー」
ま、愚問か。
理由も理由だしな。
「そんなお前を、ステラちゃんはどうやって説得したんだよ?」
「……外堀を埋められた」
「え? どういうことだ?」
「……ステラは俺に反対されることを考え、俺以外の家族に先に相談していたんだ。皆を説得し、自分の味方にしてな」
「そ、そうなのか?」
「ああ……。おかげで俺が一言でも反対の言葉を上げようものなら、他の子どもたちから非難轟々だぞ? ロゼからは、きょうだい皆でステラを助けるから許してあげてって言われるし、セシリオとエミリアはお前のことが大好きだから特に理由なく賛成だし、よく状況の分かってないマリーに至っては『ステラおねーちゃんいじめるパパ、きらい』と……か……言われる……し……。パパきらいとか……いわれる……し……」
後半にかけてシオンの声が震え出した。
多分泣いてる。
……やつの心が。
まあそれはいい、とシオンは気を取り直すように頭を振る。
「その後ステラと二人で話したが、話の最初から最後まで真剣だった。あんなステラは初めてだったな。あの一件は自分が間違っていたと深く反省して、もう手遅れかもしれないが、今度は正しい方法でお前に認められたいと言っていた」
シオンの青い瞳が、真っすぐ俺を見つめる。
「お前に対して抱く気持ちも、これからのことも、全て真剣に考えているとな」
「いいのか、お前それで……」
「良いもなにも、ステラがもう国を出た結果が俺たちの答えだ。娘のやりたいことを応援するのが親ってものだと、あのクソ婆が良く言っていたからな」
クソ婆とは、亡きセリス様のことだ。
シオンの言葉は、遠回しではあるけど、ステラの気持ちを応援するということ。
つまり、娘の好きな相手が俺でも構わない、ということだ。
……ああ、だからか。
だからシラフでは話せないって言ったんだな。
ステラは2年後、学びを終えてこの国に戻って来るらしい。
「リベラからの伝言だ。『もしお前にその気が全くないのなら、他に好きな人が出来たなら、ステラにそう言って欲しい。あの子も覚悟はしているから』と」
「ってことは、もし俺がステラちゃんに連絡を入れたら……マーレ王国に戻って来るのか?」
「それはまた別の話だ。何があっても2年間向こうで学ぶことは、留学を許した条件に入っている。ってお前……、ステラの頑張った結果も見ずに、もう断るつもりか⁉」
「お、お前は反対派なんだろ⁉ なんで怒るんだよっ‼」
「俺だって色々と複雑なんだっ‼ そのくらい理解しろっ‼」
ええー……、物凄い剣幕で怒鳴られたんだが。
ステラの気持ちも頑張りも応援したい。
だが溺愛する娘に好きな人が出来たのが嫌だ。
さらにその相手が自分と同じ歳の俺なんだからもっと納得できん。
ま、簡単には割り切れんわな、こんなん。
ポンっと蓋が開く音がした。
シオンが新たに開けたエールを一気飲みし、口元を拭いながらぽつりと呟く。
「……お前だって昔、俺に言っただろ。ステラが納得いくまで、最後までやらせてやれと」
「そんなこと言ったっけ、俺?」
記憶を探ってみたけど、出てこない。
だけどシオンがこの問いに答えることはなかった。
すっかり気の抜けたエールを口に含みながら思う。
(何だか……外堀を埋められているのは俺のような気がするんだけどな)
それが嫌なら、さっさとステラに伝えればいい。
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