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番外編:目覚めたら親友の娘が隣で寝てて責任とれとぐいぐい迫ってくるんだが

第19話 俺の……せいなのか?

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「……え?」

 いない?

 あまりにも端的な回答過ぎて、意味が分からなかった。
 口をぽかんと開けたままな俺を一瞥すると、シオンは足元に転がっている手ごろな大きさの石を拾いそいつを川に向かって投げた。

「ステラは家を出た。もうレグロット村には、いや、マーレ王国にもいない。今はメロディアにいる」

 メロディアって言ったら、隣国のメロディア王国のことか。
 マーレ王国よりは小さな島国だけど、国全体の生活水準も高く治安もいいから、学問を学ぶには最適な国とされている。
 確か今兄貴が、あの国で小さな研究をしていたっけな。

(でも、ステラとメロディア国に何の繋がりが……)

 たった14歳の少女が行くには、あまりにも遠い場所だ。

 シオンの話によるとこうだった。

 ステラは以前から、ヘイドリック家の店の手伝いもしていた。
 彼女の母親が、自身が過去命を救われ、今でも崇拝しているリベラ様だと知っているヘイドリックは、このままレグロット村で一生を終えるのはもったいなさ過ぎると、メロディア王国への留学をシオンたちに勧めていたのだという。
 ついでにメロディア国に出店している自分とこの店で働けば、さらに勉強になるだろうと。

「ステラは断っていたんだ。今思えば……お前がいたからだろうな。だがあの一件後、ステラはメロディア国で学ぶことを決め、ヘイドリック家と勝手に話をつけたんだ。そして、一週間後には村を出て行った」

「そ、そんな……急すぎないか?」

 俺の……せいなのか?
 俺がステラを突き放したからそのショックで、住み慣れた村を、国を出たのか?

 そうとしか考えられなかった。

(もう少し俺が冷静さを保って話が出来ていれば……ノリスの言う通り、距離をとるにしてももう少し上手くやれば……)

 賑やかなステラのいないスターシャ家は、それはそれは寂しくなっているだろう。
 ロゼもセシリオもエミリアもマリーも、皆お姉ちゃんが大好きだから。

 スターシャ家の平穏な生活を壊したのは――

「何を落ち込んでいる、ディディス。まさかステラが家を出たのが、お前に振られたショックから来てるとでも思っているのか?」

「え? ち、違うのか?」

「お前、いつも他人の気持ちが分かると豪語してるくせに、ステラの事は本当に分かってないんだな」

 俺の慌てぶりを見て、シオンがふふんっと鼻で笑った。娘を自慢する時の、いつものやつだ。
 顔を上げると、シオンの自信に満ちた顔があった。唇の端が、ニヤリと上がっている。

「ステラは、お前に認められるためにメロディア国に行ったんだ」

「俺の……為に?」

「あの子を見くびるなよ、ディディス。ステラは、俺と……お師匠様との娘だ」

 その言葉に、何も言えなくなった。
 代わりに、腹の底から笑いがこみ上げてきた。

「……ははっ……確かに……な」

「まあそうはいっても、もしステラが俺に似てたら、お前なんて当の昔に諦めてるだろうからな。それを思えばきっと、リベラに似たんだろうな。……リベラもあれくらい、素直に俺に愛情を見せて下さったらいいのに……」

「……そこは同意しないぞ。どう考えても、ステラちゃんの性格はお前の血だろ」

 相変わらず、自分を客観視出来ないやつだな。

 コンっと瓶が石に当たった音がした。シオンが飲み終えたワインの瓶を地面に立てたのだ。

 ゆらゆら揺れるランタンの光が、あいつの不機嫌そうな表情を映し出す。

「俺だって、何でお前なんだと思う。ステラに悪い虫がつかないように気を配っていたはずなのに、こんなところにデッカイ虫がいたとは思わなかったぞ、ディディス」

「虫とはなんだ、虫とは!」

「本当のことだろ」

 うむむ……。
 悪い虫のつもりはないけど、娘の心を奪っていったという意味では同じようなものなんだろうか。

 ただ、以前と同じような言い合いがコイツと出来るのが、少し嬉しかった。
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