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番外編:目覚めたら親友の娘が隣で寝てて責任とれとぐいぐい迫ってくるんだが

第11話 もう何なん! この夫婦‼

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 リベラ様がまっすぐステラを見つめている。
 ステラもリベラ様を見つめかえす。

 が、先に視線を反らしたのはステラの方。
 一瞬、ほんの一瞬だけ、罰の悪そうな、何か良心が咎めるような、そんな表情が浮かんだ気がした。

(……いや、気のせいじゃない)

 根拠のない確信が、ずっと混乱に陥っていた俺の思考をクリアにしていく。

 精神魔法の技術向上の為、たくさんの人々を見て来た。
 その人間の性質や性格なんかも、一目見たら大体分かる。

 相手が今何を思っているかも、小さな表情の変化などで知ることができる。
 それが、俺の特技だ。

 今この瞬間まで、ステラの心が分からなかったのは、俺自身が混乱に陥っていたから。
 しかし、彼女の小さな変化に気づいた瞬間、今まで混乱というベールで隠されていた彼女の心が、手に取るように分かった。

(間違いない)

 ステラは、リベラ様の言葉に対し、罪悪感を抱いている。

 じゃあ、何に対する罪悪感なのか?
 ここまできたら見当はついている。

 後は、確認だけだ。

「ステラちゃん」

「な、なに、ディディス?」

 少し上ずった声で、ステラが答える。
 この反応。確認しなくても答えは分かったようなものだけど、ちゃんと当人の口から自供させないとな。

「昨日の俺って、めっちゃ父親に酒を飲まされてたでしょ? で、べろんべろんに酔わされてたよね? 今日の朝、二日酔になるほどさ」

「う、うん、そうだったね。でもそれがどうしたの?」

「そういう時の俺ってさ――」

 ステラの耳元に唇を寄せ、彼女にだけ聞こえるように囁いた。
 次の瞬間、子どもらしい膨らみが残る頰が真っ赤になり、

「た、勃たないって、そ、そそそんなこと、ディディスのお父さんは言ってなかっ……あっ……」

 明らかに、マズイ、という表情を浮かべ、慌てて自身の口を塞いだ。

 この反応。
 この発言。

 間違いない。
 
 そもそもステラは昔から嘘を上手くつける子じゃない。

 だからこそ、初めに俺を突拍子もないことで混乱させ、正常な判断を奪ったのだろうけど、そんな悪知恵を吹き込めるのは、恐らく先ほど彼女が失言した際に出た人物。

 ……くっそ!
 嵌められたのか、俺はっ!

 リベラ様が黙って俺を見ている。
 
 そりゃそうだろ。
 自分の娘が、俺の父親にそそのかされてこんなことをしでかしたんだから。
 俺に文句ひとつは言いたいは……

「ディディスって、お酒飲むとダメになる人だったのね……。な、なんか……そんなこと言わせて、ご、ごめんね?」

 って、何でそっちに食いつくかなっ‼
 何かめっちゃ同情した目で、俺んこと見てくるんだけどっ‼

 嘘だからね⁉
 ステラにボロを出させる為の、嘘だからね⁉

 俺、酒飲んでも飲まなくても、全然いける……って、さっきから物凄い殺気が俺を刺してくるんだが。
 と思い、殺気元を見ると、すっかり回復したシオンが俺を今にも絞め殺さんばかりの形相で睨みつけている。

 そりゃそうだろ。
 自分の娘が俺の父親にそそのかされてこんなことをしでかしたんだから。
 俺に文(ry

「……ディディス。お前、ステラに卑猥な発言をしただけでは飽き足らず、リベラに変な気遣いさせやがってっ! やっぱり殺すっ‼」

 うぉいっ‼ 何でお前もそっちに食いつくかなっ‼
 で、やっぱり俺、殺されるの決定なのなっ⁉

 もう何なん、この夫婦っ‼
 俺のことよりも、もっと大切なことがあるだろ――――っ‼

「ステラ」

 俺がそう叫ぶ前に、リベラ様が娘の名を呼んだ。
 深い怒りを感じさせる声の低さに、ステラの身体が一回り小さくなったような気がした。

 もう完全に、母親に怒られる子どもモードだ。
 罪を認め、罰を待つ哀れな罪人のようにも見える。

 そんな彼女が可哀相に思われ、俺は出来る限り優しい声色で尋ねた。

「ステラちゃん。俺と関係を持ったっていうのは、嘘だね?」

「そ、それは……」

「ステラ!」

 最後の悪あがきなのか言葉を濁す娘に、リベラ様の強い言葉が飛ぶ。びくっとステラの身体が震えたかと思うと、ぎゅっと両目を閉じて、小さく肯定の頷きを返してくれた。
 そして声が震えるのを堪えながら、探るような上目使いでリベラ様を見つめた。

「な、なんで……分かったの、お母さん?」

「分かるわよ。あなたの母親を何年やってると思うの?」

 ま、私もよくセリス母さんに隠し事がバレちゃってたけど、と、呆れ顔を見せるリベラ様の声色が少し優しいものになった。が、すぐさま表情を元の真剣なものへと戻すと、母親の言葉に納得いかない様子のステラに厳しい視線を向けた。

 ううっ、良かった……。
 俺、ステラに手を出してなかった‼
 俺、大人として、いや人間としての最低な過ちを犯してなかったっ‼

 これでシオンに殺されずにすむぞ――‼
 俺、生きて帰れるっ‼
 
 今までシオンに殺されるかもしれない、という究極な緊張状態にあった俺の身体から、力が抜けた。
 椅子の背もたれに全身の体重をかけてもたれかかると、天井を仰いで今まで胸の奥に溜まりに溜まっていたモヤモヤとともに大きく息を吐き出した。

 一番ホッとしたのは、ステラの未来を俺なんかが潰さなくて良かったということだ。
 既成事実が嘘であれば、彼女が俺と結婚する理由もなくなるわけだし。

 彼女には、もっとふさわしい伴侶がいるはず。
 こんな歳の離れた、おじさんじゃなく――

「……ディディス、嘘が分かって、そんなに嬉しい?」

 ついさっきまで、母親の怒りを恐れ縮こまっていた少女とは思えない、俺を責めるようなステラの声が響いた。

 彼女の方を見ると、泣きそうな表情で俺を見上げている。
 突然の豹変に、俺は言葉を返せなかった。

 代わりに、リベラ様の厳しい声が飛ぶ。

「ステラ! あなた、自分が何をしようとしたか分かってるの⁉︎ あなたの嘘で、ディディスの人生が変わるところだったのよ⁉ それがどれだけ大変な事なのか、ちゃんと反省しなさいっ‼」

「そんなにステラちゃんを怒らないで! 俺の父親が絡んでいるんだ! 謝らないといけないのはこっちの方だよ!」

「そ、そうだっ! きっとディディスの父親に、純粋なステラが唆されたんだろ!」

 俺の言葉を聞き、 今まで母娘のやり取りを見ているだけだったシオンも、ステラ擁護に加わった。
 もちろん、超俺を睨みながらだけど。

 しかし、父親の言葉を遮るようにステラが叫んだ。

「違うっ、私がお願いしたのっ‼ ディディスのお父さんにっ!」
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