166 / 192
番外編:目覚めたら親友の娘が隣で寝てて責任とれとぐいぐい迫ってくるんだが
第8話 歓迎されても嬉しくねえ……
しおりを挟む
凄いスピードで駆けてきたのにも拘らず、息一つ切らしていない男が、俺の目の前で立ち止まった。
俺が今、最も会いたくない相手、シオンだ。
心臓が大きく脈打ち、緊張で手に変な汗が噴き出した。
……が、当の本人は、まるで俺がこの場にいないように横をすり抜けてリベラ様の身体を抱きしめると、すりすりと頬ずりした。
その表情は、昔と変わらない恋する乙女のような満面の笑みだ。
「ただいま戻りました、リベラっ! 会えなくて寂しすぎて今すぐあなたを補給するために、このままお持ち帰りしてもよろしいでしょうか⁉」
「よろしくないっ! そしてこんなところで抱き着かないのっ! 会えなくてって、ちょっとの間でしょ⁉︎ それにまだ勉強を教えている時間じゃ……」
「何か嫌な予感がしたで、早めに切り上げてきましたっ‼」
嫌な予感って……。
こいつの野生的な勘はなんなんだ!
ちなみに、未だにリベラ様への敬語は変わらない。
奴曰く、敬語だけはどうしても直せなかったんだと。
「リベラは、この世界で最も尊ぶべき存在だからな。あの方への敬意は魂に深く刻み込まれたものだから仕方ない」
とか言ってたけど、正直知らんがなって感じだ。
抱きしめられたリベラ様は恥ずかしそうに身もだえをしているが、周囲にいる村人たちは、
「相変わらずスターシャさん夫婦は、仲が良いわねー」
と言いながら微笑ましい眼差しを二人に向けて通り過ぎていく。
日常茶飯事、もう慣れたもんなんだろう。
村人たちの代わりに、
「もうっ、やめてよ、お父さんっ‼ 私まで恥ずかしいじゃない!」
そんな二人の様子を、心底嫌そうにステラが眉根を寄せながら両親の間に割って入った。母親に引っ付く父親を引きはがすと、両手を腰に当てて声を荒げる。
が、娘の言葉よりも、帰ってきた喜びが勝ったのか、嬉しそうにシオンが両手を広げた。
「ステラも帰って来たんだな! おかえり!」
「って、今度は私に抱き着くのは止めてよねっ‼ お父さんのそういうデリカシーのないとこ、ほんと嫌なんだけどっ!」
ハグを全力でよけられ、さらには思春期の娘による冷たい言葉を投げかけられ、シオンの表情が寂しそうに歪んだ。
……ご愁傷様だな、シオン。
想像した以上のステラの冷たい態度に同情したのも束の間、娘に拒絶された悲しみは、俺への塩対応へと変わった。
妻と娘に向けられていた笑顔が瞬時に消え、不機嫌そうな表情が俺を迎える。
「……なんだ、ディディス。嫌な予感の元凶は、お前だったのか」
「何で俺に対しては、そんなテンション下がっちゃうかなっ‼」
俺の同情返せよ!
だが奴が俺に対して、いや、自分の愛する人以外の人間に対して塩対応なのは、昔からなわけで。
俺の言葉に、奴はフンッと鼻を鳴らすと、
「当たり前だろ。俺がリベラや子どもたちと同じような反応でお前を迎えたら、気持ち悪いだろ」
と言い返されてしまった。
確かにキモイ。
てか、態度変えてる自覚はあるんだな。
あのシオンが満面の笑顔を浮かべ、
「ディディス、歓迎するぞ!」
なんて言っている画を想像してしまい、思わず鳥肌が立ってしまった。
こういうやり取りは、俺たちの間では日常茶飯事。
シオンの態度は常にぞんざいではあるが、それはお互いを分かり合い信頼しているからこそだ。だから俺だって、あいつに容赦ない突っ込みをいれることが出来るわけで。
しかし、ステラにとっては父親の俺への塩対応は許せないらしい。母親から譲り受けた赤い瞳を怒りで燃やしながら、シオンに食ってかかった。
「お父さん、酷いっ‼ 嫌な予感の元凶って言うなんて、信じらんないっ‼ もうすぐ、ディディスも家族になるのに‼」
ステラの声によって、この場の時間が止まったような気がした。
シオンの対象の時間を止める能力は、とっくに失われたはずなのに……。
この空気を破ったのは、リベラ様の声。
そして止まった時間が動き出す。
「……え? か、家族? ディディスが?」
どういうことかと、ステラに視線を向けるリベラ様。しかしステラは、ふんっと両手を腰に置いて胸を張ると、ニコニコしながら俺の方を見ている。
まるで、「話すきっかけを作ってあげたよ、褒めて?」と言うかのように。
ドン!
両肩に、えらく重い何かが乗った。
視線だけを向けると、肩にあったのは大きな男の手。
恐る恐る手の主に視線を向けると、そこには、
「……ははは、歓迎するぞ、ディディス。なぁに、時間はたっぷりあるんだからな……こちらが納得する説明をするまで、ゆっくりしていけ」
想像して鳥肌が立った満面の笑み――ただし見開いた目は笑っていない、というかむしろ殺気――を浮かべ、俺を歓迎する親友の姿があった。
歓迎されても……う、嬉しくねぇ……。
俺が今、最も会いたくない相手、シオンだ。
心臓が大きく脈打ち、緊張で手に変な汗が噴き出した。
……が、当の本人は、まるで俺がこの場にいないように横をすり抜けてリベラ様の身体を抱きしめると、すりすりと頬ずりした。
その表情は、昔と変わらない恋する乙女のような満面の笑みだ。
「ただいま戻りました、リベラっ! 会えなくて寂しすぎて今すぐあなたを補給するために、このままお持ち帰りしてもよろしいでしょうか⁉」
「よろしくないっ! そしてこんなところで抱き着かないのっ! 会えなくてって、ちょっとの間でしょ⁉︎ それにまだ勉強を教えている時間じゃ……」
「何か嫌な予感がしたで、早めに切り上げてきましたっ‼」
嫌な予感って……。
こいつの野生的な勘はなんなんだ!
ちなみに、未だにリベラ様への敬語は変わらない。
奴曰く、敬語だけはどうしても直せなかったんだと。
「リベラは、この世界で最も尊ぶべき存在だからな。あの方への敬意は魂に深く刻み込まれたものだから仕方ない」
とか言ってたけど、正直知らんがなって感じだ。
抱きしめられたリベラ様は恥ずかしそうに身もだえをしているが、周囲にいる村人たちは、
「相変わらずスターシャさん夫婦は、仲が良いわねー」
と言いながら微笑ましい眼差しを二人に向けて通り過ぎていく。
日常茶飯事、もう慣れたもんなんだろう。
村人たちの代わりに、
「もうっ、やめてよ、お父さんっ‼ 私まで恥ずかしいじゃない!」
そんな二人の様子を、心底嫌そうにステラが眉根を寄せながら両親の間に割って入った。母親に引っ付く父親を引きはがすと、両手を腰に当てて声を荒げる。
が、娘の言葉よりも、帰ってきた喜びが勝ったのか、嬉しそうにシオンが両手を広げた。
「ステラも帰って来たんだな! おかえり!」
「って、今度は私に抱き着くのは止めてよねっ‼ お父さんのそういうデリカシーのないとこ、ほんと嫌なんだけどっ!」
ハグを全力でよけられ、さらには思春期の娘による冷たい言葉を投げかけられ、シオンの表情が寂しそうに歪んだ。
……ご愁傷様だな、シオン。
想像した以上のステラの冷たい態度に同情したのも束の間、娘に拒絶された悲しみは、俺への塩対応へと変わった。
妻と娘に向けられていた笑顔が瞬時に消え、不機嫌そうな表情が俺を迎える。
「……なんだ、ディディス。嫌な予感の元凶は、お前だったのか」
「何で俺に対しては、そんなテンション下がっちゃうかなっ‼」
俺の同情返せよ!
だが奴が俺に対して、いや、自分の愛する人以外の人間に対して塩対応なのは、昔からなわけで。
俺の言葉に、奴はフンッと鼻を鳴らすと、
「当たり前だろ。俺がリベラや子どもたちと同じような反応でお前を迎えたら、気持ち悪いだろ」
と言い返されてしまった。
確かにキモイ。
てか、態度変えてる自覚はあるんだな。
あのシオンが満面の笑顔を浮かべ、
「ディディス、歓迎するぞ!」
なんて言っている画を想像してしまい、思わず鳥肌が立ってしまった。
こういうやり取りは、俺たちの間では日常茶飯事。
シオンの態度は常にぞんざいではあるが、それはお互いを分かり合い信頼しているからこそだ。だから俺だって、あいつに容赦ない突っ込みをいれることが出来るわけで。
しかし、ステラにとっては父親の俺への塩対応は許せないらしい。母親から譲り受けた赤い瞳を怒りで燃やしながら、シオンに食ってかかった。
「お父さん、酷いっ‼ 嫌な予感の元凶って言うなんて、信じらんないっ‼ もうすぐ、ディディスも家族になるのに‼」
ステラの声によって、この場の時間が止まったような気がした。
シオンの対象の時間を止める能力は、とっくに失われたはずなのに……。
この空気を破ったのは、リベラ様の声。
そして止まった時間が動き出す。
「……え? か、家族? ディディスが?」
どういうことかと、ステラに視線を向けるリベラ様。しかしステラは、ふんっと両手を腰に置いて胸を張ると、ニコニコしながら俺の方を見ている。
まるで、「話すきっかけを作ってあげたよ、褒めて?」と言うかのように。
ドン!
両肩に、えらく重い何かが乗った。
視線だけを向けると、肩にあったのは大きな男の手。
恐る恐る手の主に視線を向けると、そこには、
「……ははは、歓迎するぞ、ディディス。なぁに、時間はたっぷりあるんだからな……こちらが納得する説明をするまで、ゆっくりしていけ」
想像して鳥肌が立った満面の笑み――ただし見開いた目は笑っていない、というかむしろ殺気――を浮かべ、俺を歓迎する親友の姿があった。
歓迎されても……う、嬉しくねぇ……。
0
お気に入りに追加
563
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい
青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。
ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。
嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。
王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥
私はあなたに恋をしたの?
原口源太郎
恋愛
高校生の雪美はまだ本当の恋などしたことがなかったし、するつもりもなかった。人気者の俊輔から交際を申し込まれても断り、友達の夏香や優樹菜から非難される始末。そんなある日、ある事件に巻き込まれて・・・・
完結*三年も付き合った恋人に、家柄を理由に騙されて捨てられたのに、名家の婚約者のいる御曹司から溺愛されました。
恩田璃星
恋愛
清永凛(きよなが りん)は平日はごく普通のOL、土日のいずれかは交通整理の副業に励む働き者。
副業先の上司である夏目仁希(なつめ にき)から、会う度に嫌味を言われたって気にしたことなどなかった。
なぜなら、凛には付き合って三年になる恋人がいるからだ。
しかし、そろそろプロポーズされるかも?と期待していたある日、彼から一方的に別れを告げられてしまいー!?
それを機に、凛の運命は思いも寄らない方向に引っ張られていく。
果たして凛は、両親のように、愛の溢れる家庭を築けるのか!?
*この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
*不定期更新になることがあります。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる