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番外編:目覚めたら親友の娘が隣で寝てて責任とれとぐいぐい迫ってくるんだが

第8話 歓迎されても嬉しくねえ……

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 凄いスピードで駆けてきたのにも拘らず、息一つ切らしていない男が、俺の目の前で立ち止まった。

 俺が今、最も会いたくない相手、シオンだ。
 心臓が大きく脈打ち、緊張で手に変な汗が噴き出した。

 ……が、当の本人は、まるで俺がこの場にいないように横をすり抜けてリベラ様の身体を抱きしめると、すりすりと頬ずりした。

 その表情は、昔と変わらない恋する乙女のような満面の笑みだ。

「ただいま戻りました、リベラっ! 会えなくて寂しすぎて今すぐあなたを補給するために、このままお持ち帰りしてもよろしいでしょうか⁉」

「よろしくないっ! そしてこんなところで抱き着かないのっ! 会えなくてって、ちょっとの間でしょ⁉︎ それにまだ勉強を教えている時間じゃ……」

「何か嫌な予感がしたで、早めに切り上げてきましたっ‼」

 嫌な予感って……。
 こいつの野生的な勘はなんなんだ!

 ちなみに、未だにリベラ様への敬語は変わらない。
 奴曰く、敬語だけはどうしても直せなかったんだと。

「リベラは、この世界で最も尊ぶべき存在だからな。あの方への敬意は魂に深く刻み込まれたものだから仕方ない」

とか言ってたけど、正直知らんがなって感じだ。

 抱きしめられたリベラ様は恥ずかしそうに身もだえをしているが、周囲にいる村人たちは、

「相変わらずスターシャさん夫婦は、仲が良いわねー」

と言いながら微笑ましい眼差しを二人に向けて通り過ぎていく。

 日常茶飯事、もう慣れたもんなんだろう。
 村人たちの代わりに、

「もうっ、やめてよ、お父さんっ‼ 私まで恥ずかしいじゃない!」

 そんな二人の様子を、心底嫌そうにステラが眉根を寄せながら両親の間に割って入った。母親に引っ付く父親を引きはがすと、両手を腰に当てて声を荒げる。

 が、娘の言葉よりも、帰ってきた喜びが勝ったのか、嬉しそうにシオンが両手を広げた。

「ステラも帰って来たんだな! おかえり!」

「って、今度は私に抱き着くのは止めてよねっ‼ お父さんのそういうデリカシーのないとこ、ほんと嫌なんだけどっ!」

 ハグを全力でよけられ、さらには思春期の娘による冷たい言葉を投げかけられ、シオンの表情が寂しそうに歪んだ。

 ……ご愁傷様だな、シオン。
 
 想像した以上のステラの冷たい態度に同情したのも束の間、娘に拒絶された悲しみは、俺への塩対応へと変わった。
 妻と娘に向けられていた笑顔が瞬時に消え、不機嫌そうな表情が俺を迎える。

「……なんだ、ディディス。嫌な予感の元凶は、お前だったのか」

「何で俺に対しては、そんなテンション下がっちゃうかなっ‼」

 俺の同情返せよ!
 だが奴が俺に対して、いや、自分の愛する人以外の人間に対して塩対応なのは、昔からなわけで。

 俺の言葉に、奴はフンッと鼻を鳴らすと、

「当たり前だろ。俺がリベラや子どもたちと同じような反応でお前を迎えたら、気持ち悪いだろ」

と言い返されてしまった。

 確かにキモイ。
 てか、態度変えてる自覚はあるんだな。

 あのシオンが満面の笑顔を浮かべ、

「ディディス、歓迎するぞ!」

なんて言っている画を想像してしまい、思わず鳥肌が立ってしまった。

 こういうやり取りは、俺たちの間では日常茶飯事。
 シオンの態度は常にぞんざいではあるが、それはお互いを分かり合い信頼しているからこそだ。だから俺だって、あいつに容赦ない突っ込みをいれることが出来るわけで。

 しかし、ステラにとっては父親の俺への塩対応は許せないらしい。母親から譲り受けた赤い瞳を怒りで燃やしながら、シオンに食ってかかった。

「お父さん、酷いっ‼ 嫌な予感の元凶って言うなんて、信じらんないっ‼ もうすぐ、ディディスも家族になるのに‼」

 ステラの声によって、この場の時間が止まったような気がした。

 シオンの対象の時間を止める能力は、とっくに失われたはずなのに……。

 この空気を破ったのは、リベラ様の声。
 そして止まった時間が動き出す。

「……え? か、家族? ディディスが?」

 どういうことかと、ステラに視線を向けるリベラ様。しかしステラは、ふんっと両手を腰に置いて胸を張ると、ニコニコしながら俺の方を見ている。
 まるで、「話すきっかけを作ってあげたよ、褒めて?」と言うかのように。

 ドン!

 両肩に、えらく重い何かが乗った。
 視線だけを向けると、肩にあったのは大きな男の手。

 恐る恐る手の主に視線を向けると、そこには、

「……ははは、歓迎するぞ、ディディス。なぁに、時間はたっぷりあるんだからな……こちらが納得する説明をするまで、ゆっくりしていけ」

 想像して鳥肌が立った満面の笑み――ただし見開いた目は笑っていない、というかむしろ殺気――を浮かべ、俺を歓迎する親友の姿があった。

 歓迎されても……う、嬉しくねぇ……。
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