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番外編:あなたとチョコレートの香り

あなたとチョコレートの香り④*

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 ♡♥♡

 シオンの腕が、私の両足を捉える。
 身体に一枚残った下着という名の布も取り払われ、下腹部がすっごくスースーする。

 でも彼にイかされて全身の力が抜けている今、何をされても抵抗する気力も余裕もない。

 心が拒むのを望んでないことも……知ってる。

 布ずれの音がしたかと思うと、服が床に落ちた。
 シオンが残りの服を脱いだんだろう。
 
 初めに彼が、私の下着を脱がせた意味が今なら分かる。

 身体につけられたチョコレートで、お互いの服が汚れないようにしたんだ。
 チョコレート菓子を作ったとき、お湯を使わないと中々汚れが落ちなかったもんね。あれが服についたら、確かに洗濯がめんどくさそう。

 ……って、いやいやいやいや!
 洗濯以前に、そもそもシオンが、あんな非常識な形でチョコレートを食べなければ良かったんじゃないのかな!

 しかし私の思考は、熱を帯びた彼自身が秘所に当たったことで、途切れてしまった。それは、ナカに入りやすくするために、私から湧き出るもので、ぬるぬると秘部の表面を擦り付けている。

 それだけなのに、下腹部にゾクゾクとした興奮が溜まっていく。お腹の奥が苦しくなって、何かを待ち焦がれるように苦しいほど疼きだす。
 さっきイったばかりなのに、もう次が欲しくて堪らなくなってる自分が、自分じゃないみたい。

 理性を押しのけ、欲望に塗れた醜い自分が現れるのが、今でも怖い。

「リベラ……」

 シオンが名前を呼ぶ。
 もうすっかり名前呼びも慣れたと思ってたけど、優しく、でも求められるように呼ばれると、今でも堪らなく恥ずかしくなる。
 顔が勝手に熱くなって、こちらを覗き込む彼から、思わず視線を外してしまう。

 だけど、

「んくっ……」

 唇を塞がれる形で、強制的に向き合わされてしまった。
 でもこっちだって、やられっぱなしなわけじゃない。侵入してきたものを押し返すと、逆に彼の口内を探った。

(……甘い)

 シオンの中に残るチョコレートと香りと甘さが、さらに気持ちを加速させる。もっと欲しくて、彼の首に腕を巻きつける形で抱きしめると、夢中になって舌を伸ばし、口の中に残る卑猥な甘さを求めてかき回す。

 唾液の混じる音が脳内に響いて、何も考えられなくなる。

 その時、

「ひ、んぁああっ!」

 何の合図もなく、無理やりナカが開かれる鈍い圧迫感が襲った。
 身体の芯を疼かせる欲望が解放され、全身が喜びに打ち震えている。ヒクつかせながら彼自身を迎えるナカの様子を代弁するかのように、喉の奥から自分のものじゃない甘ったるい声色が飛び出す。

 この瞬間にいつも……堕とされる。
 理性を打ち壊され、彼を求めることしか出来なくなる、醜い自分に。

 自分が自分じゃなくなるのが、いつも怖い。
 怖くて、嫌で、恥ずかしくて、それなの気持ちよくて、嬉しくて、幸せで、相反する気持ちでいつも心をぐちゃぐちゃにされてしまう。

 常識も良心も全部が溶かされて、あなたしか見えなくなって……。

「今日は……いつにも増して凄い……。んっ、気持ち良すぎます……」

 快楽を告げる低い声に、耳の奥が蕩けていく。
 誘うように腰を揺らすと、奥に激しく欲望を突き立てられた。息が止まり、目の奥がチカチカと揺らぐ。

「可愛い……ほんと、可愛い、リベラ……。ほら、ちゃんと俺を見て……」

 興奮で目を見開くシオンの紅潮した顔が、こちらを覗き込んだ。あまりにも真っ直ぐな視線に耐えきれず、恥ずかしさで顔を背けてしまう。

「んっ、そんな見ないで……ぁあっ!」

「俺を見てって言いましたよね?」

 強い口調とともに、お仕置きのような激しい突き上げが襲った。強く打ち付けられ、お腹の中が揺さぶられる。

 また身体の芯に溜まった熱が、膨らんでいく。
 これが弾けたらまた……。

 片胸の先から、鋭く差し込むような刺激が走った。

「いぁっ! しおん……一緒は、だ……めっ! ああっ!」

 それがきっかけとなって、下腹部の欲望が弾け飛び、頭の中が真っ白になった。

「ふふ、またイきましたね? ナカ、苦しいくらい痙攣してますよ?」

 恥ずかしすぎて何も言えない。
 それを知ってて、シオンはわざと意地悪なことを言ってくる。

 普段なら意地悪だと腹をたてる行為だけど、今の私は……。

 ナカが彼自身を締め付ける。
 まるで別の意思を持ったかのように、もっと欲しいと包み込む。

 ああっ、と小さくシオンが呻いた。
 気持ち良さに耐えているあなたの表情が……堪らなく好き。

「あ、あぁっ、ん、し、しおん、気持ちいい……気持ちいいの……」

「俺も……ナカがヌルヌルと擦れて、ん、凄くいい……。あなたがこんなに淫らになるなんて……思いませんでしたよ」

 違う。
 違うの……。

 でも言葉にならなくて、代わりに首を横に振る。

「シオンだから……シオンのことが大好きだから……」

「だから、こんな風になったんですか? そんな嬉しいこと言われたら、もう我慢できなくなるじゃないですか」

「が、我慢しないで……んっ、もっとして?」

「……あなたのせいですからね? 俺、悪くないですから」

 感情を無理矢理隠すような、冷然とした声。
 でも、冷静さを装う陰に、隠しきれないほどの情欲が見えた。

 次の瞬間、

「あああっ、あ、ああっ!」

 喉の奥から声の塊がほとばしった。
 彼の両腕を爪を立てるくらい強く掴み、快楽の本流に流されないように耐えようとするけど、無駄な抵抗だって分かってる。

 彼の動きが、今まで以上に激しくなった。
 胸を弄ぶ指にも腰を振る動きにも容赦がなくなり、自身の欲望をこの身体にぶつけてくる。

 奥の壁を打ち付けられ、女としての本能的な悦びに狂わされる。荒々しく求められると、苦しいはずなのにそれ以上の気持ち良さで、頭がおかしくなる。

「もっと……ぁ、もっとおくに……」

 朦朧とする意識の中、獣のような本能に操られるように、普段なら決して口にすることのない恥ずかしいおねだりをしてしまう。

 快楽を貪り動き続けるあなたの口角が、微かに上がった。

 両足が胸につくほど曲げられ、下半身が浮く程持ち上げられてしまう。思いっきり大切な部分を晒す格好にされたのに、羞恥を感じる前に、上から重く押し込まれた熱杭に奥を貫かれてどうでもよくなる。

 そして始まる、深くて重い律動。

「ん、いぁあっ、し、しおんっ、しおんっ! またっ……あぁっ!」

 身体が悶え、奥の熱が弾けた。全身に絶頂の波が回る。
 でも肉欲から解放された余韻を味わう暇もなく、次の高みへと導かれるように激しい突き上げは止まらない。

 小さく丸まったような体勢の私を、シオンが上から抱きしめた。舌と一緒に、互いの乱れた呼吸も絡み合う。

 快楽に翻弄された余裕のないあなたの動きが、嬉しくて堪らない。
 大好きな人が、一緒に気持ち良くなってくれているから……。

 そして、

「もう……限界……」

 唇を解き、私の首筋に顔を埋めたシオンの、切なそうな声が響いた。
 その言葉に呼号するように、最後に向けて腰使いが大きくなっていく。

 必死でシオンの身体に腕を回し、激しさから振り落とされないようにしがみつく。ぎゅっと力を込めるとナカも一緒に締まったのか、彼の呼吸が一瞬止まり、

「くっ……イクっ……」

 吐息と共に、ナカを狂わせていたモノが膨らみ、熱い欲を吐き出した。それはドクンと脈打ちながら、奥を白く染めていく。彼の吐き出したものを全て搾り取ろうとするかのように、ナカが蠢き貪欲に絡みつく。

 全てを吐き出し終えると、シオンの身体から力が抜けた。私の首筋に顔を埋めたまま、荒い呼吸を繰り返す。

「リベラ……あなたが好きだ……あなただけをずっと……ずっとずっと……」

 熱に浮かされたように、私への想いを呟くシオンの頭をそっと撫でる。

 彼の言葉を聴きながら、先ほどの絶頂とナカを満たされた悦びとともに、フワフワとした幸福の余韻を味わっていた。



 ♡♥♡

 はー。

 解放感に溢れた俺の呼吸が、浴室に響いた。
 が、その近くで、ぶくぶくぶくぶく、と泡が発生する音がする。

「あのぉー……泡吐き出すの、そろそろ止めませんか?」

 ぶくぶくぶくぶく……。

 あ、また沈んだ。

 俺たちは、風呂に入っていた。
 さすがに、あなたの身体を俺の唾液塗れのまま眠らせるわけにはいかなかったからだ。

 もちろんそれらも考慮した上で、全てが終わった頃にはいい温度になっているよう、熱めのお湯を事前に用意していたのだ。

 視線の先には、身体を丸めて顔半分を湯に沈めながら、ぶくぶくと空気を吐き出しているあなたの姿があった。さっきからずっとこの調子で、気泡発生器と化している。

 明らかにこれは……、

「拗ねているんですか? あれですか? あの後、さらに2回したのがダメでしたか?」

 ぶくぶくぶくぶくっ‼

 物凄い勢いで、気泡が大量発生した。
 そして、

「ぷっはっ‼ ごほっ……ごほごほっ!」

 激しくせき込みながら、あなたがこちらを振り向いた。
 例のごとく頬を膨らませながら、まるで悪人を前にしたかのように俺を睨みつけている。

「そっ、それもあるけどっ‼」

 それもあるのか。

 ……なるほど。
 2回程度じゃ足りなかったんですね?

 それは非常に、非常に! 申し訳ないです。

「で、他にも理由があるんですか?」

「あるけど……言わないっ!」

 ぷいっと俺に背を向けた時、あなたがボソっと、一体どうしてくれるのよ、と呟くのが聞こえた。まあその一言だけでは、結局何が悪かったのか分からずじまいなのだが。

(でも……まあいいか)

 背中を丸めて、またぶくぶくし始めたあなたの身体を後ろから抱きしめると、そのままこちらに引き寄せた。

 あなたが本気で怒っていないのは、分かっている。

 怒っていない証拠に、ほら。
 今もこうやって、俺にされるがままになっているから。

 きっと冷静になって先ほどの情事を思い出し、恥ずかしくて自己嫌悪に陥っているのだろう。

 あれだ。
 賢者タイムってやつだ。

(全く……さっきまで俺の下で、あんなに淫らに喘いでいたのに……)

 拗ねる背中を見つめながら、小さく笑う。
 普段の姿と、ベッドの上の姿のギャップが堪らない。

 湯に濡れた肩に唇を寄せていると、あなたの手が俺の腕をぎゅっと抱きしめながら呟かれた。

「それにしても……シオンがあんなことする変態だったとは……」

「ははっ、ありがとうございますっ!」

「褒めてないからねっ‼ 何一つ、褒めてないからねっ‼」

 そう言って、あなたの手が俺の頬をぺちっと叩いた。
 もちろん、本気じゃないから全く痛くない。

 まあ、あの程度で変態だって言われても困るんですけどね、こっちは。
 でもそれは、また今度のお楽しみだ。

 柔らかな肉感と、薬湯と混じり合う甘い香りを感じながら、あなたの身体を強く抱きしめた。

 ♡♥♡

 はぁ……

 私は大きなため息をついた。
 後ろから大きな腕で抱きしめられていると、先ほどの光景が嫌という程思い出される。

(これから一体どういう顔してチョコレートを食べればいいのよっ‼)

 シオンから貰った超高級チョコレートは、まだ残っている。
 だけど、あれを見たらどうしてもさっきの行為が思い出されて、恥ずかしさで一杯になる。

 シオンのせいで、『チョコレート=卑猥』って頭の中で紐づけられちゃったよ‼
 もう、チョコレートを直視出来ないよっ‼

 一体どうしてくれるのよっ‼

 でもこれをシオンに話したら最後。
 きっと、

「そうやって俺とのことを思い出してくれるなら、毎日チョコレートを用意しますね?」

 とか言って、本当に実行する恐れもある。

 変態って言ったら、大喜びする変態さんだもんなぁ……。
 だから、絶対に秘密だ。

 そんな私の苦悩なんて知らないシオンが、横から顔をのぞき込んできた。

「でも、こんなことをするのも、したいと思うのも、あなただけですからね?」

「あ、当たり前ですっ‼ ……あ」

 咄嗟に出してしまった本音を隠すように、口を塞いだ。

 わわっ!
 こ、こんなこと言ったら、まるで私にはあんなことをしてもOKみたいにとられるじゃない!

 けど、もちろん手遅れ。
 一度口にした言葉を、取り消すことは出来ないわけで……。

 恐る恐る振り向くと、シオンが瞳を細めてこちらを見ていた。
 一点の曇りもない愛情に満ちた優しい視線を向けられると、心の奥が不覚にもキュンっと締め付けられる。

 もう色んなことをひっくるめて、

(……大好き)

 そんな言葉が浮かんで、胸いっぱいになってしまう。

 諦めてシオンと向かい合う体勢になると、正面から彼の身体を抱きしめた。
 湯気か汗か分からない水滴を感じながら、少しお湯がはねただけで消えてしまいそうなくらいの小さな声で囁く。

「……他の人にそんなこと思っちゃ……駄目だからね?」

「もちろんです。今までもこれからも、あなただけですよ」

 小さく笑いながらシオンが答えた。

 視線が絡まると、お互いの唇が重なった。

 重なりあったあなたの唇から、微かにチョコレートの香りがした。


 <完>


この話はここまでです♪ 
ifの話にはなりますが、きっと本編終了後の二人は、こんな感じで毎日を過ごしているんじゃないかと思ってます♪ 
番外編にも拘らず、ここまでお読みいただきありがとうございました(*´▽`*)
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