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物語のその先編
第121話 弟子は会議に参加した
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俺は、アカデミーの会議室にいました。
目の前には、お師匠様と親しかった者たち、アーシャとノリス、エレクトラが、そして行方不明となったバレンタを含むアカデミー上層部に変わって指揮をとるアイラックの姿があります。
大きな長テーブルを挟んで座る皆表情は非常に暗く、不安と戸惑いで頭が一杯になっている様子が伺えました。
そんな重々しい雰囲気の中、空気を読まない野太くも呑気な声が響き渡りました。
声の主は、長テーブルの上座にいる2代目勇者アレグロです。
奴は呆れたように腕を組みながら、暗い表情で俯む皆を見回しています。
「おい、んなシケた顏すんなよ。見てるこっちまで気分が滅入るだろ?」
「皆が不安になるのは当たり前でしょ⁉ ほんっっっっっっと! アレグロって、脳みそまで筋肉で出来てるのね? そういうのを、空気読めないっていうのよ⁉」
「はぁ? 空気って吸ったり吐いたりするもんだろ。空気読むなんて変な言葉の使い方すんな、ガキンチョ」
「ふっ……、これだから、おっさんは……」
「んだと、ゴラァッ!」
「まあまあ二人共落ち着いて……」
また始まった。何度目だ、こいつらの言い合いは……。
年寄りは嫌だと見下すように首を横に振るフィーンにアレグロが噛みつき、横にいたハインが止めようと必死になっています。
勇者とは思えない稚拙な喧嘩に、俺は何度目か分からないため息をつきました。
こっちは、今すぐにでもお師匠様を救い出しに行きたいというのに……。
リティシアの身体に埋め込まれた白い石――ここは便宜上、ハインの通信珠と呼んでおきましょう、から声が聞こえていた歴代勇者たちは、魔法によってその姿を現していました。
しかし水魔法によって奴らの姿を映像として映し出しているだけで、実体はありません。その証拠に、勇者たちの身体が透け、薄っすら向こうの壁が見えています。
「まだ信じられないわ……。リティシア様がこうして生きていらっしゃるなんて……。それに歴代勇者様たちと、こうしてお話が出来るなんて……」
ゴチャゴチャ言い合いをしているアレグロたちを見ながら、アーシャがまだ信じられない様子で呟いています。隣にいるノリスも同感だと頷きました。
リティシアと歴代勇者については、始めは皆信じられない様子でしたが、両翼の痣と白金翼の翼、当時の記憶など、リティシアたちしか持ちえない力や情報を示す事で、何とか過去の勇者たちだと認めさせることは出来ました。
心の底から信じているかは分かりませんけどね。
でも認めさせなければ話が進みませんから。
勇者たちは俺たちの視線を感じたのか、気まずそうに口を閉じました。アレグロとフィーンはお互い明後日の方向を見、ハインは苦笑いを浮かべています。
場が静かになったところで、会議開始のタイミング合図だと受け取ったリティシアが口を開きました。
「ではこれから、この世界で起こっている現状を説明したいと思う。私たちが今から語る話は、君たちの常識や信じていたものを全て打ち壊すこととなるだろう。しかし、全てが真実だ。……心して聞いて欲しい」
強い言葉の連続に、皆の緊張に満ちた視線がリティシアに注がれました。
皆の視線を受けながら一つ頷くと、あの女は映像を映し出す水魔法を発現させました。
歴代勇者たちがいる後ろの壁に映し出された光景に、皆の視線が釘付けになりました。瞳と口を見開き、信じられない様子で映像を見つめています。
アイラックが、ほとんど声になっていないかすれ声で呟きました。
「まさかそんな……、魔王……なのか?」
巨大な触手に巻き付かれ、モンスター達に守られるようにそびえ立っている魔王リーベの映像に、誰もがそう思ったに違いありません。
アイラックの言葉に、リティシアが頷きます。
「ああ、そのとおり。魔王リーベ……、それが新たに誕生した魔王につけられた名だ。魔王リーベの力は、世界を覆う魔素の量、濃さを見て貰えば、今までの魔王よりもずば抜けていることが分かると思う。現時点この世界に、リーベに対抗しうる勇者候補はいないと考えて欲しい」
「そっ、それは、リティシア様の力を以てしてもですか⁉」
「ああそうだ。私に出来るのはせいぜい、魔王から吐き出される魔素を浄化し、少しでも被害を抑えることぐらいだ。しかしあくまで応急処置のようなもの。根本を解決しなければ、いずれ私の手にも負えなくなるだろう」
「そこにいらっしゃる歴代勇者の皆様の力を合わせてもですか⁉」
「無理だっつってんだろ。そもそも俺達には肉体がねえよ。それに仮に肉体があったとしてもあんな化け物、歴代勇者たちが束になっても、勝てっこねぇ」
「通常の魔王とは根本的に違うんですよ、魔王リーベは……」
アイラックの言葉を、アレグロとハインが一蹴しました。
彼らの言葉を聞き、希望絶たれたとばかりにアイラックの身体が椅子に沈みました。
その時、俯き黙っていたアーシャがゆっくりと顔を上げました。しかし表情はさらに沈み、落ち着かない様子で手元を弄っています。
「シオン様……、私ずっと考えていたのです。何故、リベラの姿がここにないのかと……。そして何故新たな魔王の名が『リーベ』なのかと……。もしかして新たに生まれた魔王は……、いや……まさか、そんな……」
「……お前が考えているとおりだ。魔王リーベの正体は……、お師匠様だ」
まるで時が止まったかのような静けさが支配しました。ですが、真っ先に沈黙を破ったのは、アーシャでした。
あの女の唇が細かく震えだすと、テーブルを両手で打ちって立ち上がったのです。
「うっ、嘘……。そんな、嘘よっ‼ リベラが魔王になるなんて、そんなこと……そんなことっ‼」
「落ち着け、アーシャ! きっと何かの間違い……」
「残念だがシオンの言う通りだ。魔王リーベの正体は、この時代の両翼の勇者候補リベラ・ラシェーエンド、その人だ」
リティシアはノリスの言葉をバッサリ否定し、魔王の正体を明かしました。
エレクトラがセリスに視線を向けると、あの婆はリティシアの言葉を肯定するように頷いています。それを見てエレクトラも、どこか放心した様子でテーブルに肘を立てて頭を抱えてしまいました。
新たに生まれた魔王の正体がお師匠様であることは、皆に強いショックを与えたようです。
まあ、そうでしょうね。
まさか、人間が魔王になるなど、誰一人想像もしていなかったのですから。
ここでまた、空気の読めない野太い声が響き渡りました。
「ははっ! あの両翼が魔王だったなんて、正直序の口だからな。今からそんなのでショックを受けてたら、これからの話を聞いたら卒倒して死んじまうぜ?」
「まっ、まだ何かあるのですか?」
もうこれ以上聞きたくないと顔を顰めながら、アイラックが尋ねました。
アレグロはにやりと笑うと、魔王が映し出されている光景に視線を戻しました。
奴の言いたい事が通じたのでしょう。
リティシアが、壁に映し出した映像を移動させたのです。
ゆっくりゆっくり、上へ。
魔王リーベの身体に纏わりつく触手の、元凶へ。
金色の複眼の映像が映っただけなのに、心臓が鷲掴みにされるような恐怖が襲いました。一瞬にして口の中がからからになり、手のひらに冷たい汗が吹き出します。
あれを何か知らなくとも、魔王以上の恐怖の対象であることは誰の目からも明らかでした。
お師匠様が魔王だと知らされた以上の沈黙が、部屋を支配しました。皆が言葉と動きを失い、金色の複眼から目をそらせずにいます。
皆、色々な感想を持ったでしょうが、これだけは一緒だったと思います。
あれは、人知を超えた存在だと。
俺たちが決して理解出来るものではないと。
水を打ったような静けさを、アレグロの声が破りました。
目の前の存在への恐れ、それを恐れる自嘲を含んだような笑い声の混じった声が……。
「あれが、俺たち勇者候補に力を与えているっつー『神』ってやつさ」
「か……み……って、神様のことですか? あの醜悪な存在……が……ですか?」
「ああそうだ、エレクトラのねーちゃん。まあ、便宜上『神』と俺たちがそう呼んでいるだけだけどな。世界を渡り歩く侵略者って言い方の方がしっくりくるかな」
世界を渡り歩く侵略者?
どういうことだ?
俺だけでなく、皆の表情に疑問が浮かんでいます。
しかし俺たちの疑問に答える事無く、フィーンが悔しそうに呟きました。
「私たちはね……いえ、この世界の人間は皆、あの神とか言う訳の分かんないモンスターの手の上で、踊らされていたのよ」
先ほどまでアレグロと言い合っていた生意気さは、どこにも見当たりません。代わりに奥歯を噛みしめ、握った拳が震えていました。
フィーンの隣には、同じように苦々しい表情を浮かべるアレグロが舌打ちをしながら、ぼさぼさの髪の毛をかきむしっています。
そんな二人から視線を外したハインが、どこか覚悟を決めた様子で俺たちとまっすぐ向かい合いました。そして、柔らかな口調の中に緊張感を感じさせながら、口を開いたのです。
「僕たちが知っている事を全てをお話します。神と呼ばれる存在が何なのか、何故魔王が生まれるのか? 勇者候補が存在する理由、そして……、この世界の行く末を」
一度言葉を切ったハインは、奴を睨むように鋭い視線を向けているセリスに対して小さく笑いかけると、言葉を追加しました。
「もちろんお話しますよ。あなたのお姉さんであるエステルさんに、一体何があったのかもね」
「エステルと会った事が……あるのか?」
「ええ、もちろんです。とても賑やかな人でしたね。思ったら即行動、フィーンさん以上に感情的で直観的で直情的で……。僕たちが歴代勇者だと知っても臆することなく、たくさん振り回してくれましたっけね」
話しながら思い出しているのか、ハインが苦笑いをしています。が、苦笑いはすぐに微笑みに変わりました。
「でも……、とても優しい良い方でしたよ。大切なものを守るためなら、ご自身を犠牲にできるほど……」
「そう……か……」
姉さんらしい、と一言呟くとセリスは両手で顔を覆いました。ハインの言葉から、姉がもうこの世にいなことを悟ったのでしょう。
こうして、歴代勇者たちによる話が始まりました。
アカデミー上層部が、いや、この世界がずっと隠し続けていた、本当の敵の姿を。
そしてお師匠様の母親であるエステル・ラシェーエンドが、
大切な者を守る為に下した決断を。
目の前には、お師匠様と親しかった者たち、アーシャとノリス、エレクトラが、そして行方不明となったバレンタを含むアカデミー上層部に変わって指揮をとるアイラックの姿があります。
大きな長テーブルを挟んで座る皆表情は非常に暗く、不安と戸惑いで頭が一杯になっている様子が伺えました。
そんな重々しい雰囲気の中、空気を読まない野太くも呑気な声が響き渡りました。
声の主は、長テーブルの上座にいる2代目勇者アレグロです。
奴は呆れたように腕を組みながら、暗い表情で俯む皆を見回しています。
「おい、んなシケた顏すんなよ。見てるこっちまで気分が滅入るだろ?」
「皆が不安になるのは当たり前でしょ⁉ ほんっっっっっっと! アレグロって、脳みそまで筋肉で出来てるのね? そういうのを、空気読めないっていうのよ⁉」
「はぁ? 空気って吸ったり吐いたりするもんだろ。空気読むなんて変な言葉の使い方すんな、ガキンチョ」
「ふっ……、これだから、おっさんは……」
「んだと、ゴラァッ!」
「まあまあ二人共落ち着いて……」
また始まった。何度目だ、こいつらの言い合いは……。
年寄りは嫌だと見下すように首を横に振るフィーンにアレグロが噛みつき、横にいたハインが止めようと必死になっています。
勇者とは思えない稚拙な喧嘩に、俺は何度目か分からないため息をつきました。
こっちは、今すぐにでもお師匠様を救い出しに行きたいというのに……。
リティシアの身体に埋め込まれた白い石――ここは便宜上、ハインの通信珠と呼んでおきましょう、から声が聞こえていた歴代勇者たちは、魔法によってその姿を現していました。
しかし水魔法によって奴らの姿を映像として映し出しているだけで、実体はありません。その証拠に、勇者たちの身体が透け、薄っすら向こうの壁が見えています。
「まだ信じられないわ……。リティシア様がこうして生きていらっしゃるなんて……。それに歴代勇者様たちと、こうしてお話が出来るなんて……」
ゴチャゴチャ言い合いをしているアレグロたちを見ながら、アーシャがまだ信じられない様子で呟いています。隣にいるノリスも同感だと頷きました。
リティシアと歴代勇者については、始めは皆信じられない様子でしたが、両翼の痣と白金翼の翼、当時の記憶など、リティシアたちしか持ちえない力や情報を示す事で、何とか過去の勇者たちだと認めさせることは出来ました。
心の底から信じているかは分かりませんけどね。
でも認めさせなければ話が進みませんから。
勇者たちは俺たちの視線を感じたのか、気まずそうに口を閉じました。アレグロとフィーンはお互い明後日の方向を見、ハインは苦笑いを浮かべています。
場が静かになったところで、会議開始のタイミング合図だと受け取ったリティシアが口を開きました。
「ではこれから、この世界で起こっている現状を説明したいと思う。私たちが今から語る話は、君たちの常識や信じていたものを全て打ち壊すこととなるだろう。しかし、全てが真実だ。……心して聞いて欲しい」
強い言葉の連続に、皆の緊張に満ちた視線がリティシアに注がれました。
皆の視線を受けながら一つ頷くと、あの女は映像を映し出す水魔法を発現させました。
歴代勇者たちがいる後ろの壁に映し出された光景に、皆の視線が釘付けになりました。瞳と口を見開き、信じられない様子で映像を見つめています。
アイラックが、ほとんど声になっていないかすれ声で呟きました。
「まさかそんな……、魔王……なのか?」
巨大な触手に巻き付かれ、モンスター達に守られるようにそびえ立っている魔王リーベの映像に、誰もがそう思ったに違いありません。
アイラックの言葉に、リティシアが頷きます。
「ああ、そのとおり。魔王リーベ……、それが新たに誕生した魔王につけられた名だ。魔王リーベの力は、世界を覆う魔素の量、濃さを見て貰えば、今までの魔王よりもずば抜けていることが分かると思う。現時点この世界に、リーベに対抗しうる勇者候補はいないと考えて欲しい」
「そっ、それは、リティシア様の力を以てしてもですか⁉」
「ああそうだ。私に出来るのはせいぜい、魔王から吐き出される魔素を浄化し、少しでも被害を抑えることぐらいだ。しかしあくまで応急処置のようなもの。根本を解決しなければ、いずれ私の手にも負えなくなるだろう」
「そこにいらっしゃる歴代勇者の皆様の力を合わせてもですか⁉」
「無理だっつってんだろ。そもそも俺達には肉体がねえよ。それに仮に肉体があったとしてもあんな化け物、歴代勇者たちが束になっても、勝てっこねぇ」
「通常の魔王とは根本的に違うんですよ、魔王リーベは……」
アイラックの言葉を、アレグロとハインが一蹴しました。
彼らの言葉を聞き、希望絶たれたとばかりにアイラックの身体が椅子に沈みました。
その時、俯き黙っていたアーシャがゆっくりと顔を上げました。しかし表情はさらに沈み、落ち着かない様子で手元を弄っています。
「シオン様……、私ずっと考えていたのです。何故、リベラの姿がここにないのかと……。そして何故新たな魔王の名が『リーベ』なのかと……。もしかして新たに生まれた魔王は……、いや……まさか、そんな……」
「……お前が考えているとおりだ。魔王リーベの正体は……、お師匠様だ」
まるで時が止まったかのような静けさが支配しました。ですが、真っ先に沈黙を破ったのは、アーシャでした。
あの女の唇が細かく震えだすと、テーブルを両手で打ちって立ち上がったのです。
「うっ、嘘……。そんな、嘘よっ‼ リベラが魔王になるなんて、そんなこと……そんなことっ‼」
「落ち着け、アーシャ! きっと何かの間違い……」
「残念だがシオンの言う通りだ。魔王リーベの正体は、この時代の両翼の勇者候補リベラ・ラシェーエンド、その人だ」
リティシアはノリスの言葉をバッサリ否定し、魔王の正体を明かしました。
エレクトラがセリスに視線を向けると、あの婆はリティシアの言葉を肯定するように頷いています。それを見てエレクトラも、どこか放心した様子でテーブルに肘を立てて頭を抱えてしまいました。
新たに生まれた魔王の正体がお師匠様であることは、皆に強いショックを与えたようです。
まあ、そうでしょうね。
まさか、人間が魔王になるなど、誰一人想像もしていなかったのですから。
ここでまた、空気の読めない野太い声が響き渡りました。
「ははっ! あの両翼が魔王だったなんて、正直序の口だからな。今からそんなのでショックを受けてたら、これからの話を聞いたら卒倒して死んじまうぜ?」
「まっ、まだ何かあるのですか?」
もうこれ以上聞きたくないと顔を顰めながら、アイラックが尋ねました。
アレグロはにやりと笑うと、魔王が映し出されている光景に視線を戻しました。
奴の言いたい事が通じたのでしょう。
リティシアが、壁に映し出した映像を移動させたのです。
ゆっくりゆっくり、上へ。
魔王リーベの身体に纏わりつく触手の、元凶へ。
金色の複眼の映像が映っただけなのに、心臓が鷲掴みにされるような恐怖が襲いました。一瞬にして口の中がからからになり、手のひらに冷たい汗が吹き出します。
あれを何か知らなくとも、魔王以上の恐怖の対象であることは誰の目からも明らかでした。
お師匠様が魔王だと知らされた以上の沈黙が、部屋を支配しました。皆が言葉と動きを失い、金色の複眼から目をそらせずにいます。
皆、色々な感想を持ったでしょうが、これだけは一緒だったと思います。
あれは、人知を超えた存在だと。
俺たちが決して理解出来るものではないと。
水を打ったような静けさを、アレグロの声が破りました。
目の前の存在への恐れ、それを恐れる自嘲を含んだような笑い声の混じった声が……。
「あれが、俺たち勇者候補に力を与えているっつー『神』ってやつさ」
「か……み……って、神様のことですか? あの醜悪な存在……が……ですか?」
「ああそうだ、エレクトラのねーちゃん。まあ、便宜上『神』と俺たちがそう呼んでいるだけだけどな。世界を渡り歩く侵略者って言い方の方がしっくりくるかな」
世界を渡り歩く侵略者?
どういうことだ?
俺だけでなく、皆の表情に疑問が浮かんでいます。
しかし俺たちの疑問に答える事無く、フィーンが悔しそうに呟きました。
「私たちはね……いえ、この世界の人間は皆、あの神とか言う訳の分かんないモンスターの手の上で、踊らされていたのよ」
先ほどまでアレグロと言い合っていた生意気さは、どこにも見当たりません。代わりに奥歯を噛みしめ、握った拳が震えていました。
フィーンの隣には、同じように苦々しい表情を浮かべるアレグロが舌打ちをしながら、ぼさぼさの髪の毛をかきむしっています。
そんな二人から視線を外したハインが、どこか覚悟を決めた様子で俺たちとまっすぐ向かい合いました。そして、柔らかな口調の中に緊張感を感じさせながら、口を開いたのです。
「僕たちが知っている事を全てをお話します。神と呼ばれる存在が何なのか、何故魔王が生まれるのか? 勇者候補が存在する理由、そして……、この世界の行く末を」
一度言葉を切ったハインは、奴を睨むように鋭い視線を向けているセリスに対して小さく笑いかけると、言葉を追加しました。
「もちろんお話しますよ。あなたのお姉さんであるエステルさんに、一体何があったのかもね」
「エステルと会った事が……あるのか?」
「ええ、もちろんです。とても賑やかな人でしたね。思ったら即行動、フィーンさん以上に感情的で直観的で直情的で……。僕たちが歴代勇者だと知っても臆することなく、たくさん振り回してくれましたっけね」
話しながら思い出しているのか、ハインが苦笑いをしています。が、苦笑いはすぐに微笑みに変わりました。
「でも……、とても優しい良い方でしたよ。大切なものを守るためなら、ご自身を犠牲にできるほど……」
「そう……か……」
姉さんらしい、と一言呟くとセリスは両手で顔を覆いました。ハインの言葉から、姉がもうこの世にいなことを悟ったのでしょう。
こうして、歴代勇者たちによる話が始まりました。
アカデミー上層部が、いや、この世界がずっと隠し続けていた、本当の敵の姿を。
そしてお師匠様の母親であるエステル・ラシェーエンドが、
大切な者を守る為に下した決断を。
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