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物語のその先編
第110話 弟子は脅威ではなかった
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(ぶっころす……か……)
先ほどルクシードが言い放った言葉を、頭の中で反芻していました。
疑問は山ほどありますが、奴が俺を殺したがっている動機には心当たりしかありません。
ディディスがルクシードから視線を反らせないまま、耳打ちします。
「おい、シオン……。ルクシードって言ったら、あの人の手柄を横取りして、お前がアカデミーに突き出した……」
「そうだ。その後、アカデミーで裁判にかけられ、勇者候補の登録を抹消、投獄という処分を受けていたはずなんだがな」
「あー……確か、決まっていた豪商の娘との婚約も白紙、裕福だった実家からも勘当されてたんだよな。面汚しだって……。まああれだけ人生が潰されたんだ。お前をぶっ殺したくなる気持ち、分からなくもないけど」
そうか?
ルクシードが受けた社会的制裁を聞いた時、まだまだ甘いと思いましたけどね。
あいつがいい思いをしている間に、お師匠様がどれだけ辛い日々を送ったかと思うと、全然足りない。
本当なら俺の手で……、いや、それ以上はやめておきましょう。
ぶっ殺すという言葉に共感しながらも、ディディスの顏には、自業自得、という容赦ない心の声が浮かんでいました。
人々を救うための勇者候補が、不正を犯すことをアカデミーは許しません。
不正を行った者たちは、アカデミー独自の裁判に掛けられたのち、罰が与えられます。下手すれば死刑もあり得るのです。
勇者候補たちの行動は、国や人々から送られる寄付や報酬に関わってくるのですから、アカデミーが不正取り締まりに躍起になるのも仕方ないとは思いますが。
「ルクシードの過去は置いといて……、何で魔素に侵されたみたいになってるのか、理由が聞きたいんだろうけどなぁ……。まあ、こんなに殺気立った状態だと、無理……だよなぁ」
ははっと乾いた笑いを浮かべながら、ディディスが呟いています。
奴の言う通り、ルクシードから魔素が溢れるたび、モンスターの気配が濃くなって来ています。
奴から発された魔素に誘われ、集まっているのでしょう。もしくは周囲にいた動物たちがモンスター化し、集まって来ているのか……。
どちらにしても、先程から倒しても倒してもモンスターが減らなかったのは、この男のせいだと、目の前の光景が告げていました。
「し……おん……、なにを、ごちゃごちゃ、いぃぃいってるんだよぉぉぉっ‼」
俺たちがコソコソ相談しているのに苛立ったのか、ルクシードがどもった叫び声を上げました。
奴の声に反応するかのように、周りに潜んでいた大量のモンスターたちが飛び出して来ます。
すぐさま魔法障壁で自分たちの身を守ると、ディディスがルクシードを含めた複数のモンスターに向かって精神魔法を発動させました。
魔法紋様を見る限り、沈静化と思考力低下。
この魔法によって、大概のモンスターが大人しくなり、動きが鈍くなるのですが、そうなったのはモンスターだけ。
ルクシード本人には、全く変化が見られず、ディディスの瞳が大きく見開かれました。
「う……そだろ? 何で精神魔法が効いてない⁉」
「あぁぁははぁぁぁぁ……! 精神魔法? そんなもの、俺にはきっ、ききいぃ効かないんだよっ‼」
敵が狂ったような笑い声をあげた瞬間、大量の魔法紋様を発現させました。
(……早い)
現れた魔法紋様の量にも驚きましたが、それ以上に驚いたのは発現スピード。
確かルクシードは、勇者候補として大した力を持たず、あれほどの量の魔法紋様も、発現スピードもなかったはず。
魔素に侵された影響か、魔法の力が格段に上がっていたのです。
「あははははぁぁぁっ! おっ、おぉおおお俺は、力を手に、てっ手にいれたんだよぉぉっ! お前を殺すためにぃぃっ!」
俺たちの驚きが奴にも伝わったのか、ルクシードは両目を見開きながら、汚い口を大きく開けて笑っています。
勝利を確信した笑いでしたが、残念ながら奴は一つ勘違いしているようです。
確かに、魔法紋様の量、そして発現スピードには驚きました。
しかしそれはあくまで……、過去のルクシードと比べて、という事。
俺の傍には、あれと比べ物にならない程早く膨大な量の魔法を、適性関係なく無尽蔵に使われる偉大な存在がいらっしゃいますからね。
あの方に比べたら……、全く大したことはない。
……って、お前らのことじゃないからな! 言った先から照れた顔するな、ハイン! 話の文脈と、今までの俺の話で誰のことを示してるのかぐらい、察しがつくだろっ!
って、なんで当のご本人は、誰のことだろうと考えるそぶりを見せていらっしゃるのですか!
あなたの事ですよ、お師匠様‼︎
とっ、とにかく、ルクシードの力が上がっていても、脅威ではありませんでした。
「なっ、なんだ……と……?」
敵の口から、笑いが消えました。
それもそうでしょう。
俺が奴と同量の魔法を発動させ、敵の魔法発動よりも早く相殺してしまったのですから。
相殺が間に合わなかったものもありますが、ほんの一部。それらは俺たちを守る魔法障壁によって阻まれました。
ディディスが俺に、魔力量増大の精神魔法をかけました。頭の芯が熱くなり、一度に使える魔力量が増大したのを感じます。
敵に精神魔法が効かないと分かったので、瞬時に俺への援護へと切り替えたのでしょう。
ルクシードが驚いてる隙に、この一帯を取り囲むように、大量の魔法紋様を発現させました。
敵は自分が発現した以上の魔法紋様の量に一瞬圧倒された表情を見せましたが、すぐさま俺の魔法を相殺にかかろうとします。
しかしその表情が、驚きから焦りに変わりました。
「なっ……、何故だ……。何故魔法を相殺できない‼」
俺の魔法紋様と相反する属性魔法をぶつけたのに、相殺されるどこか全く変化が見られません。
それもそのはず。
俺の魔法紋様には、何の魔法を発動させたのかが分からない様に、ダミーの魔法紋様を被せて発動して……って、この光景……、どこかで見たことがあるな……。
とにかく、俺の偽魔法紋様に騙され、奴は全く見当違いの魔法をぶつけて来たのです。
敵の攻撃が空振りに終わったのを見計らい、湧き上がる魔力を全て魔法紋様に注ぎ込むと、発動した魔法が周囲のモンスターを含めて大爆発を起こしました。
更地と化したこの場所に残ったのは、何とか魔法障壁で直撃を免れながらも、身体のあちらこちらを負傷した状態で地面にへたりこんでいるルクシードの姿。
俺は奴の異常に膨らんだ後頭部を蹴り上げると、倒れた奴の首を踏みつけ、周囲に先ほどと同じ量の魔法紋様を発動させるながら尋ねました。
「……ルクシード。投獄されていたお前が、何故ここにいる?」
「それに何かさっき、力を手に入れたって、下っ端の悪もんが言いそうな台詞、言ってたよな? その力は、どこで手に入れたものなのかな?」
俺の横に立ったディディスも、声色は明るくしつつも、真剣な表情で奴に疑問をぶつけます。
しかしルクシードは、へらへらっと涎を垂らしながら笑っただけでした。
「えへへぁぁ……、ここにいるのが、おっ、おれだけっけけだとは、思うなよぉ?」
そう言いながら、奴の身体からは再び魔素が溢れ出てきています。このままだと、再びモンスターたちが集まり、キリがないでしょう。
アカデミーが魔素のモンスターに襲われている件もあります。
(仕方……ない。緊急事態だ)
次の瞬間、ルクシードの身体が透明な結晶に覆われました。
俺が、奴の時間を止めたのです。
こうすれば、魔素が発生することはありません。モンスターが溢れて止まらない現象も、これで収まるでしょう。
「シオン、いいのか? その能力を使って……。アカデミーにばれるわけにはいかないんだろ?」
「仕方ない。奴にはまだ聞きたい事があるが、こいつの言葉を聞く限り、ゆっくり話を聞く余裕はなさそうだからな」
奴の言葉から考えると、魔素溜りにいるのはルクシードだけではなさそうでしたから。
もし奴と同じ能力を持っているなら……、苦戦は目に見えています。
「とにかく、他の地域に行くぞ。恐らく、ルクシードと同じような魔素人間が関係しているはずだ。見つけたら、片っ端から時間を止めていく」
「ああ分かった。まあその能力を使うっていうなら、何の不安ないな!」
時間を止める能力を使うと知ったディディスの表情に、勝利を確信した笑みが浮かんでいました。
確かにこの能力を使えば、今回の事態の収拾は難しくない。
しかし……、これは伝えておかなければなりません。
「ディディス……。一つだけ言っておく。今の俺には、時間を止める力がそれほど残っていない。あまり期待するな」
「……え? そっ、それ、どういうことだよ! あの魔王エレヴァの時間すら止めたんだろ⁉︎ それならどんだけ敵がいても余裕で……」
俺の言葉にディディスが慌てましたが、すぐさま理由に達したようです。
得体のしれない者を見るかのような視線を向けながら、震える声で尋ねてきました。
「シオン……お前……今、何の時間を止めているんだ……。何かの時間を止め続けているから、力が残ってないってことだろ⁉︎」
「……今は、それをゆっくり説明している状況じゃないだろ」
奴の疑問に、答えませんでした。
時間がない、というのもありましたが、それ以上に……、奴に説明できるほど俺自身、あの出来事を理解出来てなかったのですから。
いや……、今思うと、理解したくなかったんだと思います。
あの出来事を理解するということは……、世界の真実に近づくという事ですから。
あいつは納得できない表情を浮かべていましたが、一つ頷くと、
「……分かった。全てが落ち着いたら、話を聞かせてくれよな」
そう言って、通信珠に連絡を取り始めました。他の地域の勇者候補たちの状態を、聞いているのでしょう。話をしている表情が、みるみるうちに青ざめていきます。
状況は、俺たちが思っている以上に深刻なようです。
「やばいぞ、シオン……。やっぱり他の地域にも、魔素人間が出現しているみたいだ。かなり強いみたいで、結構な負傷者が出てるらしい。魔法を使うとすぐに相殺されてしまって、手も足も出ないって……」
なるほどな。
今まで俺たち勇者候補たちは、知能のないモンスターばかり相手してきました。
しかし今回は、魔法の特性を知っている人間。
対人としての戦い方が求められます。
それに気づかず戸惑っている間に、敵から猛攻を仕掛けられれば、勇者候補たちでチームを組んでいるとはいえ、ひとたまりもないでしょう。
ですが俺の場合、将来的に現れるかもしれない知能のある魔素のモンスターとの戦いを想定したお師匠様を見習い、対人仕様で戦って来ました。
だからルクシードにも、問題なく勝つことができたのです。
あなたの教えの……、お陰ですよ。
ありがとうございます、お師匠様。
俺たちは、他の勇者候補たちの援護に向かいました。
その結果、ルクシードを含めて4人の魔素人間たちを捕らえることに成功したのです。
先ほどルクシードが言い放った言葉を、頭の中で反芻していました。
疑問は山ほどありますが、奴が俺を殺したがっている動機には心当たりしかありません。
ディディスがルクシードから視線を反らせないまま、耳打ちします。
「おい、シオン……。ルクシードって言ったら、あの人の手柄を横取りして、お前がアカデミーに突き出した……」
「そうだ。その後、アカデミーで裁判にかけられ、勇者候補の登録を抹消、投獄という処分を受けていたはずなんだがな」
「あー……確か、決まっていた豪商の娘との婚約も白紙、裕福だった実家からも勘当されてたんだよな。面汚しだって……。まああれだけ人生が潰されたんだ。お前をぶっ殺したくなる気持ち、分からなくもないけど」
そうか?
ルクシードが受けた社会的制裁を聞いた時、まだまだ甘いと思いましたけどね。
あいつがいい思いをしている間に、お師匠様がどれだけ辛い日々を送ったかと思うと、全然足りない。
本当なら俺の手で……、いや、それ以上はやめておきましょう。
ぶっ殺すという言葉に共感しながらも、ディディスの顏には、自業自得、という容赦ない心の声が浮かんでいました。
人々を救うための勇者候補が、不正を犯すことをアカデミーは許しません。
不正を行った者たちは、アカデミー独自の裁判に掛けられたのち、罰が与えられます。下手すれば死刑もあり得るのです。
勇者候補たちの行動は、国や人々から送られる寄付や報酬に関わってくるのですから、アカデミーが不正取り締まりに躍起になるのも仕方ないとは思いますが。
「ルクシードの過去は置いといて……、何で魔素に侵されたみたいになってるのか、理由が聞きたいんだろうけどなぁ……。まあ、こんなに殺気立った状態だと、無理……だよなぁ」
ははっと乾いた笑いを浮かべながら、ディディスが呟いています。
奴の言う通り、ルクシードから魔素が溢れるたび、モンスターの気配が濃くなって来ています。
奴から発された魔素に誘われ、集まっているのでしょう。もしくは周囲にいた動物たちがモンスター化し、集まって来ているのか……。
どちらにしても、先程から倒しても倒してもモンスターが減らなかったのは、この男のせいだと、目の前の光景が告げていました。
「し……おん……、なにを、ごちゃごちゃ、いぃぃいってるんだよぉぉぉっ‼」
俺たちがコソコソ相談しているのに苛立ったのか、ルクシードがどもった叫び声を上げました。
奴の声に反応するかのように、周りに潜んでいた大量のモンスターたちが飛び出して来ます。
すぐさま魔法障壁で自分たちの身を守ると、ディディスがルクシードを含めた複数のモンスターに向かって精神魔法を発動させました。
魔法紋様を見る限り、沈静化と思考力低下。
この魔法によって、大概のモンスターが大人しくなり、動きが鈍くなるのですが、そうなったのはモンスターだけ。
ルクシード本人には、全く変化が見られず、ディディスの瞳が大きく見開かれました。
「う……そだろ? 何で精神魔法が効いてない⁉」
「あぁぁははぁぁぁぁ……! 精神魔法? そんなもの、俺にはきっ、ききいぃ効かないんだよっ‼」
敵が狂ったような笑い声をあげた瞬間、大量の魔法紋様を発現させました。
(……早い)
現れた魔法紋様の量にも驚きましたが、それ以上に驚いたのは発現スピード。
確かルクシードは、勇者候補として大した力を持たず、あれほどの量の魔法紋様も、発現スピードもなかったはず。
魔素に侵された影響か、魔法の力が格段に上がっていたのです。
「あははははぁぁぁっ! おっ、おぉおおお俺は、力を手に、てっ手にいれたんだよぉぉっ! お前を殺すためにぃぃっ!」
俺たちの驚きが奴にも伝わったのか、ルクシードは両目を見開きながら、汚い口を大きく開けて笑っています。
勝利を確信した笑いでしたが、残念ながら奴は一つ勘違いしているようです。
確かに、魔法紋様の量、そして発現スピードには驚きました。
しかしそれはあくまで……、過去のルクシードと比べて、という事。
俺の傍には、あれと比べ物にならない程早く膨大な量の魔法を、適性関係なく無尽蔵に使われる偉大な存在がいらっしゃいますからね。
あの方に比べたら……、全く大したことはない。
……って、お前らのことじゃないからな! 言った先から照れた顔するな、ハイン! 話の文脈と、今までの俺の話で誰のことを示してるのかぐらい、察しがつくだろっ!
って、なんで当のご本人は、誰のことだろうと考えるそぶりを見せていらっしゃるのですか!
あなたの事ですよ、お師匠様‼︎
とっ、とにかく、ルクシードの力が上がっていても、脅威ではありませんでした。
「なっ、なんだ……と……?」
敵の口から、笑いが消えました。
それもそうでしょう。
俺が奴と同量の魔法を発動させ、敵の魔法発動よりも早く相殺してしまったのですから。
相殺が間に合わなかったものもありますが、ほんの一部。それらは俺たちを守る魔法障壁によって阻まれました。
ディディスが俺に、魔力量増大の精神魔法をかけました。頭の芯が熱くなり、一度に使える魔力量が増大したのを感じます。
敵に精神魔法が効かないと分かったので、瞬時に俺への援護へと切り替えたのでしょう。
ルクシードが驚いてる隙に、この一帯を取り囲むように、大量の魔法紋様を発現させました。
敵は自分が発現した以上の魔法紋様の量に一瞬圧倒された表情を見せましたが、すぐさま俺の魔法を相殺にかかろうとします。
しかしその表情が、驚きから焦りに変わりました。
「なっ……、何故だ……。何故魔法を相殺できない‼」
俺の魔法紋様と相反する属性魔法をぶつけたのに、相殺されるどこか全く変化が見られません。
それもそのはず。
俺の魔法紋様には、何の魔法を発動させたのかが分からない様に、ダミーの魔法紋様を被せて発動して……って、この光景……、どこかで見たことがあるな……。
とにかく、俺の偽魔法紋様に騙され、奴は全く見当違いの魔法をぶつけて来たのです。
敵の攻撃が空振りに終わったのを見計らい、湧き上がる魔力を全て魔法紋様に注ぎ込むと、発動した魔法が周囲のモンスターを含めて大爆発を起こしました。
更地と化したこの場所に残ったのは、何とか魔法障壁で直撃を免れながらも、身体のあちらこちらを負傷した状態で地面にへたりこんでいるルクシードの姿。
俺は奴の異常に膨らんだ後頭部を蹴り上げると、倒れた奴の首を踏みつけ、周囲に先ほどと同じ量の魔法紋様を発動させるながら尋ねました。
「……ルクシード。投獄されていたお前が、何故ここにいる?」
「それに何かさっき、力を手に入れたって、下っ端の悪もんが言いそうな台詞、言ってたよな? その力は、どこで手に入れたものなのかな?」
俺の横に立ったディディスも、声色は明るくしつつも、真剣な表情で奴に疑問をぶつけます。
しかしルクシードは、へらへらっと涎を垂らしながら笑っただけでした。
「えへへぁぁ……、ここにいるのが、おっ、おれだけっけけだとは、思うなよぉ?」
そう言いながら、奴の身体からは再び魔素が溢れ出てきています。このままだと、再びモンスターたちが集まり、キリがないでしょう。
アカデミーが魔素のモンスターに襲われている件もあります。
(仕方……ない。緊急事態だ)
次の瞬間、ルクシードの身体が透明な結晶に覆われました。
俺が、奴の時間を止めたのです。
こうすれば、魔素が発生することはありません。モンスターが溢れて止まらない現象も、これで収まるでしょう。
「シオン、いいのか? その能力を使って……。アカデミーにばれるわけにはいかないんだろ?」
「仕方ない。奴にはまだ聞きたい事があるが、こいつの言葉を聞く限り、ゆっくり話を聞く余裕はなさそうだからな」
奴の言葉から考えると、魔素溜りにいるのはルクシードだけではなさそうでしたから。
もし奴と同じ能力を持っているなら……、苦戦は目に見えています。
「とにかく、他の地域に行くぞ。恐らく、ルクシードと同じような魔素人間が関係しているはずだ。見つけたら、片っ端から時間を止めていく」
「ああ分かった。まあその能力を使うっていうなら、何の不安ないな!」
時間を止める能力を使うと知ったディディスの表情に、勝利を確信した笑みが浮かんでいました。
確かにこの能力を使えば、今回の事態の収拾は難しくない。
しかし……、これは伝えておかなければなりません。
「ディディス……。一つだけ言っておく。今の俺には、時間を止める力がそれほど残っていない。あまり期待するな」
「……え? そっ、それ、どういうことだよ! あの魔王エレヴァの時間すら止めたんだろ⁉︎ それならどんだけ敵がいても余裕で……」
俺の言葉にディディスが慌てましたが、すぐさま理由に達したようです。
得体のしれない者を見るかのような視線を向けながら、震える声で尋ねてきました。
「シオン……お前……今、何の時間を止めているんだ……。何かの時間を止め続けているから、力が残ってないってことだろ⁉︎」
「……今は、それをゆっくり説明している状況じゃないだろ」
奴の疑問に、答えませんでした。
時間がない、というのもありましたが、それ以上に……、奴に説明できるほど俺自身、あの出来事を理解出来てなかったのですから。
いや……、今思うと、理解したくなかったんだと思います。
あの出来事を理解するということは……、世界の真実に近づくという事ですから。
あいつは納得できない表情を浮かべていましたが、一つ頷くと、
「……分かった。全てが落ち着いたら、話を聞かせてくれよな」
そう言って、通信珠に連絡を取り始めました。他の地域の勇者候補たちの状態を、聞いているのでしょう。話をしている表情が、みるみるうちに青ざめていきます。
状況は、俺たちが思っている以上に深刻なようです。
「やばいぞ、シオン……。やっぱり他の地域にも、魔素人間が出現しているみたいだ。かなり強いみたいで、結構な負傷者が出てるらしい。魔法を使うとすぐに相殺されてしまって、手も足も出ないって……」
なるほどな。
今まで俺たち勇者候補たちは、知能のないモンスターばかり相手してきました。
しかし今回は、魔法の特性を知っている人間。
対人としての戦い方が求められます。
それに気づかず戸惑っている間に、敵から猛攻を仕掛けられれば、勇者候補たちでチームを組んでいるとはいえ、ひとたまりもないでしょう。
ですが俺の場合、将来的に現れるかもしれない知能のある魔素のモンスターとの戦いを想定したお師匠様を見習い、対人仕様で戦って来ました。
だからルクシードにも、問題なく勝つことができたのです。
あなたの教えの……、お陰ですよ。
ありがとうございます、お師匠様。
俺たちは、他の勇者候補たちの援護に向かいました。
その結果、ルクシードを含めて4人の魔素人間たちを捕らえることに成功したのです。
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