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アカデミー入学編

第43話 お師匠様はごまかした

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 知的キャラではなく、魔王オタクデビューした私は傷心していた。

 戦いに必要だったからだよ……。仕方なかったんだよ……。
 誰が好き好んで、魔王の情報なんて集めるもんかー!

 ……いや、ちょっと楽しんでた感も無きにしも非ずだけど……。

 心の中で言い訳をしながら、私は机に突っ伏してあらゆる情報を遮断した。アーシャが時折心配そうに揺すって来るけど、いいもんいいもん……。

 同調儀式アチューンメントを終えた生徒が戻って来たのを見計らって、先生は質問の受付を終了した。

「皆、戻って来たなー。同調儀式を受けたものは、お疲れさん。じゃあその感覚を忘れないうちに、魔法発動訓練を行う」

 この言葉に、私は勢いよく顔を上げた。いじけてた気持ちが復活するのが分かる。

 いよいよ、魔法の訓練だ!
 
 魔法を使えるけど、改めて学ぶとなるとまた気持ちが違う。

 先生が前の机に座っている人たちに、紙を配り始めた。後ろ後ろへと回され、私の席にも届く。そこに書いてあるのは、

(光の魔法紋様?)

 白い紙一杯に、火属性である光の魔法紋様が描かれていた。

 魔法紋様とは、魔法発動の際に使用される様々な模様のこと。使いたい魔法に応じた魔法紋様を思い浮かべ、そこに魔力を流し込むことで魔法が発動する仕組みだ。

 今配られた魔法紋様が描かれた紙は、魔法を発動させるための補助道具みたいなもの。初心者はまだ紋様を覚えてないから、紙に描かれた紋様に魔力を流して魔法を発動させる訓練をするの。

 魔法紋様を頭の中に叩き込み、こんな紙無しでも発動できるようになれば、一人前かな。

 今までの知的キャラになりたいとか、それは只の茶番……。知的キャラなど、我ら四天王の中では最弱……。

 私が今まで培ってきたこの知識と経験で、クラスで一番魔法めっちゃ上手いキャラを目指すの‼

 ……知的キャラデビューに失敗したから、方向性を変えたわけじゃ、な、無いんだよ!

 そんな野望を胸に、私は心の中でくくっと暗く笑った。
 
 先生が、魔法紋様について、そして紙に書かれた魔法紋様に魔力を通す方法を分かり易く説明し、とうとう実践となった。

 先生の説明通り、皆が机の上に置いた紙に手をかざしている。
 しばらくすると、ぽわぽわと紙の上に小さな光が灯り出した。魔法が成功した証だ。魔法を使うコツを掴むのが難しいんだけど、成功率の高さを見るとこのクラスは全体的に優秀だなー。

 ちらっと隣を見ると、アーシャも丸く小さな光を発動させていた。魔法の出来を見て、少し恥ずかしそうに笑いかけてくる。

 私も負けてらんないかな!

 先生の指示通り、紙を机の上に置くと右手をかざした。
 瞳を閉じ、自分の中にある魔力を感じながら、紙に書かれた魔法紋様に流れるイメージをする。

 本当は、

 あっ、光、だそ。

 って思った瞬間、魔法が発動するくらい無意識レベルまで叩き込まれてる。だから逆に、紙に描かれた魔法紋様に過剰な魔力を流さないようにするのに気を使う。紙の耐久力を超える魔力を流したら、紙が燃えちゃうからね。

 一人だけ紙が燃えたりなんかしたら、今度は「炎上バーニング」とあだ名がつくだろう。

 そんなん、絶対やだ。

(よし、上手く魔力が入った!)

 魔法の成功を確信すると、私は瞳を開いた。紙の上には、丸く浮かぶ光の玉があった。

 よし、ばっちり……

「せんせーい、リーベルさんの魔法、何かおかしいでーす」

 私の後ろにいる生徒が、手をあげて先生に訴えた。

 その言葉に、私の脳内に疑問符がたくさん浮かんだ。だって、ちゃんと魔法は発動してるし、どこがおかしいのか……?

 ちらっとアーシャを見ると……、

「りっ、リーベル? あなた……、光の大きさと強さが一人だけ……違わない?」

 片手を目元に当てて、眩しそうに瞳を細める友人の姿があった。

 ……あれ?
 この程度の力、魔法に慣れてる人なら誰でも使えるは……ず……。

 私は慌てて周囲を見回した。
 他の皆もアーシャと同じように、眩しさに手で目を守りながらざわついていた。皆が発生させた光の玉を見ると、光の大きさと強さが……、明らかに私と違う。

 それに比べて、圧倒的な我が光の強さよ。
 見よ‼ 他の光など霞んで見えるわ――っ!

 ……って、違ぁぁぁぁぁぁうっっ‼ 

 心の中で突っ込んだ瞬間、魔法紋様を描いた紙が炎を出したかと思うと、一瞬にして消し炭と化した。
 どうやら突っ込んだ瞬間、余分に魔力が紙に流れてしまったらしい。

 いやいやいやいや‼ この程度で燃えるって、おかしくない?

「せんせーい! リーベルさんの紙が、燃えちゃったんですけどー」

 後ろの生徒が、再び手をあげて先生に報告する。

「りっ、リーベル、大丈夫っ⁉ やけどとかしてない⁉」

 アーシャが驚きから、大きな声で私を心配する。

 先生が騒ぎを聞きつけ、こちらに向かってきた。
 紙が燃えてしまったから魔法は消えてしまっているけど、あれだけ強い光だ。先生もばっちり見てたはず。

 わ――――っ‼ もう滅茶苦茶だよぉぉぉぉ! バーニングって呼ばれちゃうよぉぉぉぉっ‼
 いっ、いや下手すれば、私が勇者候補だとばれちゃう! どっ、どうやってごまかそう……。

 ほら見たことかと怒りに燃えるシオンの顔を思い出しながら、私は必死でごまかす方法を考えた。そのごまかし方法は意外にも、先生の発言から思いついた。

「リーベル・ファルス、大丈夫か⁉ 初心者用の魔法紋様であれだけの光が出るなんて……、もしかして魔力暴走が起こったんじゃないか⁉」

 魔力暴走。

 この単語を聞いた瞬間、私はお腹を押さえてうずくまり、苦しそうな表情を作って先生に言った。

「うっ‼︎ 何だか急に魔力がたくさん流れ出して……。ううっ……、頭が痛いっ‼」

「せんせーい、リーベルさん、頭が痛いと言ってお腹押さえてまーす」

「うっ、やっぱりお腹が……」

「せんせーい、リーベルさん、お腹が痛いと言いながら頭を押さえてまーす」

 後ろの奴――――っ‼
 私の様子を実況するの、やめれ‼︎

「……結局、どこが苦しいんだ? リーベル・ファルス……」

 心配しつつも少し呆れた表情で、先生が私の様子を伺う。私の態度の不自然さからばれたかと思ったけど、アーシャが上手くフォローしてくれた。

「先生、きっとリーベルは痛いところが上手く言えないくらい、ダメージがあるのかもしれません。私、彼女を保健室に連れていきます!」

「そ、そうだな。アーシャ・ハーデンヤール。彼女を保健室まで連れて行ってくれ。リーベル・ファルス、立てるか?」

「あっ、それなら俺も行きます!」

 先生の言葉に、一人の生徒が手をあげた。先ほど、魔王を倒した方法を尋ねたノリスという青年だ。
 彼は先生の言葉を待たず、こちらにやってくると私の腕を掴んで無理ない体勢で立たせてくれた。

 私はアーシャとノリスに支えられながら、ゆっくりと教室を出た。2人とも背が高いから、小さい私は捕らえられた未確認生物的な感じで運ばれていった。

 教室を出る時の生徒たちの視線と来たら、魔王オタクの比じゃない。

 もう、恥ずかしいよう……。泣きそう……。
 バーニング、決定じゃん……。
 
 勇者候補にとって、魔力暴走はとっても恥ずかしい事なの。

 一般の人ならまあよくある話なんだけど、神から特別な力を与えられ、魔法のエキスパートである勇者候補が、魔力をコントロール出来ずに暴走するなんて、ほんと恥ずかしいのよ。
 
 ノリスやアーシャが、大丈夫かと声を掛けてくれたけど、俯いたまま頷く事しか出来なかった。

 私は二人に連れられて、保健室に連れて来られた。

 そして保健室の先生に事情を説明した後、それ程魔力暴走の不調が酷くないと判断され、しばらくベッドで横になるように言われた。

 アーシャは心配して、しばらく私の傍についていたそうにしてたけど、彼女の学びの時間を私の嘘でこれ以上潰すわけにはいかない。
 
「大丈夫だから、アーシャは教室に戻って。迷惑かけてごめんね」

「リーベル……。休み時間になったら、また様子見に来るからね。ゆっくり休んでね」

 不安な気持ちを翠の瞳に映しながらも、アーシャは私の言葉に頷いてくれた。私はホッと胸を撫で下ろすと、アーシャと共に私を連れてきてくれた黒髪の青年に視線を向けた。

「ノリス……だったっけ? ありがとう。ほんとごめんね」

「気にすんなよ。アカデミーで一緒に学ぶ仲だろ? ゆっくり休めよ、リーベル」

 そう言って、元気そうな大きな黒い瞳をぎゅと閉じ、笑顔を見せてくれた。にかっと笑うその姿は、裏表なく彼の純粋さを物語っている。

 ああ……、守りたいこの爽やかさ……。
 どっかの勇者とは大違いだよね!

 アーシャはノリスに背中を押され、保健室を出て行った。
 
 二人の背中を見送った私は、大きなため息をついてベッドに横たわった。
 実際魔力暴走を起こしたことがないので、どのくらい休めば回復するのか分かんない。でもまあ、次の休み時間が来たら、教室に戻ったらいいか。

 …………
 …………
 …………
 …………

 ……もっっっっ、どりたくねぇ……。
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