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アカデミー侵入編

第25話 お師匠様は侵入した

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 何か、今日のアカデミーはめっちゃ人が多いなー。

 私は、黒を基調にしたでっかい門の前に立ってそんな事を思ってた。そうやって突っ立ってるもんだから、後ろから来た人が何だか迷惑そうな視線をこちらに向けて、通り過ぎていく。

 こんなとこでおのぼりさんしてて、ごめんなさいー。

 んな事を思うだけ思って反省せず、私は再び門の向こうを見渡した。門の向こうには、広場、そしてその向こうにはここからでも見える大きな建物へと続く道が広がっている。

 今、私がいるのはアカデミーの入口だ。

 勇者候補研究養成機関、通称『アカデミー』。
 それが、このバカでかい敷地内に建てられた施設の名前だ。支部は世界中にあり、ここはそれらをまとめる本部にあたる。

 片翼や両翼の痣が出た者は、この施設で勇者候補としての知識や力を学ぶのが普通なの。3年間ここで学び、卒業後は勇者候補として登録され、魔王や魔素から人々を守る為に旅立っていく。まあ、たまに私のようにアカデミー外の師匠に師事することもあるんだけど。

 魔素被害の依頼などはアカデミーが管理していて、通信珠などを使って勇者候補たちに割り当てられていく。報酬なんかもアカデミー経由で支払われるので、めんどくさいやり取りをしなくていいのが、楽っちゃー楽。

 私が最後にここに来たのは、いつだったっけな?
 確か……、魔王との戦いに行く前に、シオンの為に残しておこうと溜まっていた報酬金を受け取りに来たのが最後だっけ。
 
 そう思うと意外と最近じゃーんって思うんだけど、実際は10年経ってるんだよな……。

 ややこしいと思いながら、私はアカデミーの中に入ろうとしたんだけど……、

(あれ? 何か入っていく人皆、何か見せて入っているような……)

 門を通過する途中、入口に立っているアカデミー関係者に、白い封筒を見せて通り過ぎている。

 という事は、何も持っていない私は中に入れないってことじゃんっ!! どっ、どうしよ……。

 確かに、アカデミーの敷地には関係者以外は入れないようになっている。勇者候補として活動していた時、私もアカデミーに入る時は、支給された転移珠か通信珠を見せて入っていたっけ……。忘れてたなー。

 たまに忘れた時は、まあこの目立つ髪と瞳だったから、顔パスってのもあったけど、変装して身元を隠しているからそれも出来ないし。

 ちなみに今日の私は、いつもの私じゃない。ふふん。
 
 括目せよっ! このフリフリをっ!! スカートだよ、スカート!!
 いつもパンツスタイルだから、めっちゃ足がすーすーするっ!! 足にひらひらと布がまとわりついて、何だかすっごく気になるっ!!
 
 とまあ、スカートに対する感想は置いておいて。
 
 今の私は変装の為に、肩上までの短めの黒髪のかつら(黄色のリボン付き)を被り、金色の目を隠すために黄色の丸い色眼鏡を掛けている。
 服は少し肌寒かった為、少し厚めの白無地のトップスの上に紺色のフード付きポンチョコートを羽織り、ワインレッドのスカートを履いている。

 この変装なら、私がリベラだって分からないはず。
 
 ちょっと派手かなって思ったんだけど、周囲の人々が私よりも派手に着飾っているので、全く気にならなくなった。うん、地味地味。

 問題は、どうやってアカデミーに侵入するかなんだけどな……。

 腰に手をやり、逆の手を後頭部に当て、周囲が私を迷惑そうに避けているのにも拘らず、突っ立って考えていると、突然後ろから肩を叩かれた。

 何かと思って振り向くと、

「サリアお嬢様っ!! こんなところにいらっしゃいましたか!!」

 初老ぐらいのお爺さんが、切羽詰まった声で話しかけてきた。スーツを着用して、きちんとした身なりをしている。どこかのお偉いさんの執事って感じがする。

 でもサリアお嬢様って……、誰?

 不審そうにお爺さんを見たけど、相手は全く私の気持ちに気づいていない様子だ。私の返答を待たず、言葉を畳みかけて来る。

「お約束の場所にいらっしゃらないので、大変探しましたよ! 初にお目にかかります。本日、あなた様のお父様のご命令により、お世話と付き添いをさせて頂きます、ハスラードと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「はっ、はあ……?」

 約束? お父さんの命令? なんじゃそりゃ?

 ちなみに私は両親の顔を知らない。赤ちゃんの時、セリス母さんの自宅前に捨てられていたらしい。リベラ・ラシェーエンドと言う名前も、セリス母さんが付けてくれたものだ。この名前はセリス母さんにとって、何か思い入れのあるものらしい。理由は教えてくれなかったけど。

 ……もしかして私を捨てた父でも、見つかったのかな? はっ!! 私の本当の名前は、サリアだったのかもっ!!  

 父、生きていた説、私いい所の娘説が急浮上。

 しかし、

「あの小さかったお嬢様が、これほど大きくなるとは……。私も、髪色と色眼鏡の特徴を聞いていなければ、分かりませんでしたよ。3年間の寄宿舎での生活はいかがでしたか? 長い間、あちらに住まわれていたので、こちらに来られるなど寂しかったのでは?」

 ……はい、人違い決定。

 寄宿舎って……、あれやん。学園物の物語で出て来るやつやん。そんな建物で生活した事ないし、主に野宿だったし。そんな所で甘酸っぱい青春、私も送りたかったわ。目覚めたら、弟子に押し倒されてる生活じゃなくって。

 どうやらこの人、奇跡的に特徴が合致したからと、私を探し人と間違っているらしい。

「あっ、あの、ハスラードさん? 私はサリアお嬢様ではなくて……」

「ああ、もうこんな時間です! 急いでアカデミーに入りましょう! これから式典や手続き等がありますから!」

「えっ? ちょっ、ちょっと、ハスラードさん!?」

 ハスラードさんは、私に説明する間も与えず、私の背中を押すとアカデミーの入口まで連れて行った。
 そして、皆が見せている封筒をアカデミー関係者に見せると、そのまま私を敷地内に押し込んで進んで行く。

 彼に、私の声は届かない。

 とりあえず人違いとはいえアカデミーの侵入は成功したけど……、早く誤解を解かないとっ!!

 しかし私の想いは届くことなく、ハスラードさんはアカデミーの学科棟内でアカデミーの案内人に私を引き渡すと、にこやかに手を振ってた。

「いってらっしゃいませ、お嬢様。私はこちらでお待ちしております」

 ……だから、私はサリアお嬢様じゃないよおおおおおおお――――っ!!

 私の叫び空しく、たくさんの人々の波にもまれながら、ただただその本流に流されていくしかなかった。

 てか、何でこんなに今日は人いんの?
 そして、今から何が始まるの?

 もうっ! 内緒で様子を見にきただけなのに、なんでこんな事になってんのよっ‼︎
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