毒におかされた隊長は解毒のため部下に抱かれる

めぐめぐ

文字の大きさ
上 下
1 / 20

1

しおりを挟む
「リース隊長! 大丈夫ですか⁉」

 狭い独房どくぼうの中に、男の声が響き渡った。

 聞きなれた声に、両手を縛られ、天井から吊るされた女性の身体が、小さく揺れた。
 深い緑をたたえた瞳がうっすら開かれ、男を視界にとらえる。

 目の前には、自分が率いる分隊の副長として常にそばにいた青年、レフリール・バースがいた。

 一見細く見える男性独特の鍛えられた身体は、返り血とすすで汚れ、手には敵兵の血で濡れた剣を持っている。

 乱雑らんざつに切られた黒髪は乱れ、いつも穏やかに語りかける小さめの唇は、荒い呼吸を繰り返していた。女性の評判高い容姿は、緊張と戦いの興奮で影をび、別の顔を見せている。

 牢の外は怒声どせいと剣が交わる音が響き、混乱している様子がうかがえた。
 微かに、何かが焼ける臭いもする。

 どうやら牢の外で、戦いが起こっているらしい。
 恐らく、別の味方部隊が敵陣営を攻撃しているのだろう。

 囚われの身であるリースは、しっかり働かない頭でそう理解した。

 目の前の彼が、敵に敗れ、味方を逃すために時間稼ぎをして囚われた自分を、救いに来たことも。

 リース・フィリアは分隊の隊長という立場のため、尋問という名の拷問の前に自白剤じはくざいを飲まされ、閉じ込められていたのだ。

 身を守る鎧はがされ、身につけているのは、薄いタンクトップとショーツだけ。
 肌が露出している部分の方が、明らかに多い。

 それを今になって気づき、羞恥しゅうちがリースを襲う。

 隊長として、普段厳しい態度を見せる彼女だが、部下の前でこのような姿をさらして平気でいられるほど図太ずぶとくは無い。

(こんな恥ずかしい姿を見せて……。レフが隊長としての私に落胆らくたんしなければいいが……)

 申し訳なく思うが、状況が状況だ。
 目のやり場に困る姿だが、彼には我慢してもらうしか無い。

「私は……大丈夫だ……。しかし、身体の自由が効かない……。足に、力が入らないんだ」

 リースはそう言って、足を動かそうとした。
 しかし、飲まされた薬に身体の自由を奪う効果があったのか、歩くのに必要な力が入らない。

(動けない自分など、足手あしでまといになるだけだ)

 隊長である自分が部下の足手まといになるなど、誇高き彼女には耐えられなかった。

 それに相手は、常に自分を支え続けてきてくれた、最も信頼厚い部下。
 これ以上自分に付き合わせ、彼の命を危険に晒したく無い。

「お前を巻き込みたく無い。レフ、私を置いて……逃げろ」

 しかしレフは、彼女の命令を拒んだ。少し細い赤い瞳を見開くと、すぐさまそれは怒りへと変わる。

「何を言ってるんですか‼︎ 自分は、あなたを助けに来たのです。隊長を目の前にして、逃げることなど出来ません‼︎」

「れっ、レフ、命令だぞ! さっさと逃げ……」

「逃げません! すぐに拘束を解きますから」

 強い口調でリースの言葉を遮ると、レフは手慣れた様子で拘束を解いた。
 いましめから解放され、鍛えられながらも女性らしい曲線きょくせんを描いた身体が、彼の手によって抱き上げられる。

 その時、

「ん……あ……」

 肌に触れる、力強い手。
 リースの身体に、今まで感じたことのない刺激が走ったかと思うと、なやましい声が洩れた。

 この場に相応ふさわしくない甘い声に、レフの心臓が戦いとは違う高鳴たかなりとして反応を見せる。

 しかし、

(何を考えてるんだ! 今は隊長救出が優先だ)

 すぐさま健全な思考に戻すと、何を最優先すべきか思い出す。

 ぐったりと身体を預ける細い身体を抱き直すと、瞳と同じ深緑ふかみどりの長い髪からふわっと女性の甘い香りがした。
 落ち着いたと思ったレフの心音が、再び暴れ出す。

(しっかりしろ、自分!)

 レフは自身を叱咤しったすると、混乱する敵陣営を後にした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

責任を取らなくていいので溺愛しないでください

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
漆黒騎士団の女騎士であるシャンテルは任務の途中で一人の男にまんまと美味しくいただかれてしまった。どうやらその男は以前から彼女を狙っていたらしい。 だが任務のため、そんなことにはお構いなしのシャンテル。むしろ邪魔。その男から逃げながら任務をこなす日々。だが、その男の正体に気づいたとき――。 ※2023.6.14:アルファポリスノーチェブックスより書籍化されました。 ※ノーチェ作品の何かをレンタルしますと特別番外編(鍵付き)がお読みいただけます。

優しい紳士はもう牙を隠さない

なかな悠桃
恋愛
密かに想いを寄せていた同僚の先輩にある出来事がきっかけで襲われてしまうヒロインの話です。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

処理中です...