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最終話 大魔女の遺産
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程なくしてライトブル商会とヒルトン商会は合併した。
学園を卒業したレイとサラサも商会に迎え、家族一丸となって立て直しに尽力した結果、全盛期以上の活気を取り戻し、この国で名を知らない者がいないほどの商会へと発展した。
ちなみに例の部屋から出たサラサは、自分の姿を隠すことを止めた。彼と並び立つのに、今までの地味な恰好では恥ずかしいと思ったからだ。
元々美しい容姿を持ちながらも、暗く目立たないようにしていたため、彼女の変貌は最早別人だと思われるほどだった。
学園一のモテ男、罰ゲームで告白してきたテネシーが、根暗なサラサだと気づかずに一目惚れし、公衆の面前で告白してくるほどに。
「これも罰ゲームなの、テネシー? あなたの遊びに何度も付き合う程、私は暇を持て余していないのだけれど」
「……え? 罰ゲーム? ま、まさか……君はサラサ・ライトブルなのか⁉ でも髪色が……いや、どうでもいい。あ、あれは違うんだ! 本当は俺は君のことが――」
好きだと続くはずだった言葉は、レイの登場により永遠に失われることとなる。
サラサの肩を抱き寄せると、相手を射殺さんばかりの鋭い視線を向けながら、レイは唸り声のような低い声で警告した。
「お前……サラサを傷つけたらしいな。今回は見逃してやるが……次同じようなことがあれば、只じゃ置かないからな」
「れ、レイ・ヒルトン⁉ お前には関係ないだろっ、引っ込んでろ‼」
「はぁ? 関係ない? あるに決まってるだろ。サラサは、俺の妻なんだからな」
そう言って、おそろいの結婚指輪を見せられたテネシーは、絶望で満ちた表情を浮かべながら膝から崩れ落ちた。本気で好きになった女性に振られたモテ男の哀れな表情は、今でも学園の笑い話となっている。
そして五年後――
「待ちなさい、ルビィ! そこはマーガレットお婆様の寝室でしょっ! 勝手に入っちゃ駄目です!」
ヨタヨタと歩く一歳の娘を追いかけてマーガレットの寝室にやって来たサラサの声が、大きく響き渡った。
二人はその後、マーガレットの屋敷を継ぎ、ここで暮らしていた。祖母の部屋も、彼女が亡くなった当時と変わらず綺麗に整えられ、ベッドサイドには季節の花が生けられている。
妻の声に、何があったのかとレイが顔を出した。
「どうした、サラサ?」
「レイ! ルビィがまた勝手にお婆様の寝室に入ったから怒ったの!」
部屋に鍵がかけられればいいのだが、何故かルビィが来ると、寝室の扉が勝手に開いてしまうのだ。
当初は不思議だったのだが、大魔女の魔法が絡んでいるのだから、自分たちの力ではどうしようもない、とあまり深く考えなかった。
好奇心旺盛な娘が、部屋をウロウロする姿を見つめながら、サラサは大きくため息をついた。
ふと、五年前の騒動が、そして誰にも伝えなかった手紙の秘密が思い出される。
実は、マーガレットの手紙には、サラサへのメッセージが書かれていたのだ。
『私の愛する孫、サラサへ。
きっとあなたとレイの子どもは、とても可愛いでしょうね?
もしよければ、その子が歩けるぐらいの年齢になったら、この部屋に会いに連れてきて欲しいわ。
お婆ちゃんは、いつまでもあなたたち家族の幸せを願っています』
今でも、意味が分からずにいる。
だけど、サラサにしか見えない隠しメッセージ。きっと誰にも伝えて欲しくないのだろうと思い、黙っていたのだ。
(丁度ルビィも、お婆様が書き残した年齢ぐらいね)
色々あったな、と娘の成長を感慨深く思っていると、
「あうー、あっ、あっ」
「何だ、ルビィ? 何か見つけたのか?」
ルビィが本棚の上部を指さしていた。
気づいたレイが娘を抱き上げると、ルビィは身を乗り出し、一冊の分厚い本に触れる。しかし一歳児が掴むには太すぎる本だ。
「ルビィ、これが欲しいのか? 凄いなぁー、こんな本、お父さんにも分からないぞ?」
レイが冗談交じりに笑いながら、ルビィが望む本を手に取った。が、思った以上に重かったのか、彼の手から本が滑り落ち、絨毯の上に落ちた。
キラキラと輝く何かを、まき散らしながら――
「え? こ、これは……」
「宝石? それもこんなにたくさん……」
分厚い本をくりぬき、中に詰められていたのは大小様々な大きさの宝石だった。
宝石とともに出てきた紙を手に取り、サラサは笑った。
「私と同じように、ルビィにだけ見える魔法をかけてたのね。ふふっ……お婆様ってほんと、全て御見通しだったのね? 」
「まあ、限定の菓子で長年仲たがいするような親父たちだからな。マーガレット婆ちゃんが遺産相続に慎重になるもの、仕方ないさ」
苦笑いをしながらレイが呟く。
手紙には、こう書かれていた。
『この手紙を今あなたたちが読んでいるということは、ひ孫が見つけたということね。
おめでとう、レイ、サラサ。
あなたのお父さんたちも、仲良くやっているかしら?
いえ、きっと仲良くしてるわね。あなたたちの可愛い子どもが、この手紙を見つけたことが、その証拠なのだから。
家族の愛、という魔法を使いこなしている今のあなたたちになら、これら私の遺産を託すことができるでしょう。
幸せに生きていくために、正しい使い方をしてください。
でも、忘れないで。
本当の遺産は、あなたたちのすぐ傍にあることを』
<完>
********
最後までお読みいただきありがとうございました♪
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学園を卒業したレイとサラサも商会に迎え、家族一丸となって立て直しに尽力した結果、全盛期以上の活気を取り戻し、この国で名を知らない者がいないほどの商会へと発展した。
ちなみに例の部屋から出たサラサは、自分の姿を隠すことを止めた。彼と並び立つのに、今までの地味な恰好では恥ずかしいと思ったからだ。
元々美しい容姿を持ちながらも、暗く目立たないようにしていたため、彼女の変貌は最早別人だと思われるほどだった。
学園一のモテ男、罰ゲームで告白してきたテネシーが、根暗なサラサだと気づかずに一目惚れし、公衆の面前で告白してくるほどに。
「これも罰ゲームなの、テネシー? あなたの遊びに何度も付き合う程、私は暇を持て余していないのだけれど」
「……え? 罰ゲーム? ま、まさか……君はサラサ・ライトブルなのか⁉ でも髪色が……いや、どうでもいい。あ、あれは違うんだ! 本当は俺は君のことが――」
好きだと続くはずだった言葉は、レイの登場により永遠に失われることとなる。
サラサの肩を抱き寄せると、相手を射殺さんばかりの鋭い視線を向けながら、レイは唸り声のような低い声で警告した。
「お前……サラサを傷つけたらしいな。今回は見逃してやるが……次同じようなことがあれば、只じゃ置かないからな」
「れ、レイ・ヒルトン⁉ お前には関係ないだろっ、引っ込んでろ‼」
「はぁ? 関係ない? あるに決まってるだろ。サラサは、俺の妻なんだからな」
そう言って、おそろいの結婚指輪を見せられたテネシーは、絶望で満ちた表情を浮かべながら膝から崩れ落ちた。本気で好きになった女性に振られたモテ男の哀れな表情は、今でも学園の笑い話となっている。
そして五年後――
「待ちなさい、ルビィ! そこはマーガレットお婆様の寝室でしょっ! 勝手に入っちゃ駄目です!」
ヨタヨタと歩く一歳の娘を追いかけてマーガレットの寝室にやって来たサラサの声が、大きく響き渡った。
二人はその後、マーガレットの屋敷を継ぎ、ここで暮らしていた。祖母の部屋も、彼女が亡くなった当時と変わらず綺麗に整えられ、ベッドサイドには季節の花が生けられている。
妻の声に、何があったのかとレイが顔を出した。
「どうした、サラサ?」
「レイ! ルビィがまた勝手にお婆様の寝室に入ったから怒ったの!」
部屋に鍵がかけられればいいのだが、何故かルビィが来ると、寝室の扉が勝手に開いてしまうのだ。
当初は不思議だったのだが、大魔女の魔法が絡んでいるのだから、自分たちの力ではどうしようもない、とあまり深く考えなかった。
好奇心旺盛な娘が、部屋をウロウロする姿を見つめながら、サラサは大きくため息をついた。
ふと、五年前の騒動が、そして誰にも伝えなかった手紙の秘密が思い出される。
実は、マーガレットの手紙には、サラサへのメッセージが書かれていたのだ。
『私の愛する孫、サラサへ。
きっとあなたとレイの子どもは、とても可愛いでしょうね?
もしよければ、その子が歩けるぐらいの年齢になったら、この部屋に会いに連れてきて欲しいわ。
お婆ちゃんは、いつまでもあなたたち家族の幸せを願っています』
今でも、意味が分からずにいる。
だけど、サラサにしか見えない隠しメッセージ。きっと誰にも伝えて欲しくないのだろうと思い、黙っていたのだ。
(丁度ルビィも、お婆様が書き残した年齢ぐらいね)
色々あったな、と娘の成長を感慨深く思っていると、
「あうー、あっ、あっ」
「何だ、ルビィ? 何か見つけたのか?」
ルビィが本棚の上部を指さしていた。
気づいたレイが娘を抱き上げると、ルビィは身を乗り出し、一冊の分厚い本に触れる。しかし一歳児が掴むには太すぎる本だ。
「ルビィ、これが欲しいのか? 凄いなぁー、こんな本、お父さんにも分からないぞ?」
レイが冗談交じりに笑いながら、ルビィが望む本を手に取った。が、思った以上に重かったのか、彼の手から本が滑り落ち、絨毯の上に落ちた。
キラキラと輝く何かを、まき散らしながら――
「え? こ、これは……」
「宝石? それもこんなにたくさん……」
分厚い本をくりぬき、中に詰められていたのは大小様々な大きさの宝石だった。
宝石とともに出てきた紙を手に取り、サラサは笑った。
「私と同じように、ルビィにだけ見える魔法をかけてたのね。ふふっ……お婆様ってほんと、全て御見通しだったのね? 」
「まあ、限定の菓子で長年仲たがいするような親父たちだからな。マーガレット婆ちゃんが遺産相続に慎重になるもの、仕方ないさ」
苦笑いをしながらレイが呟く。
手紙には、こう書かれていた。
『この手紙を今あなたたちが読んでいるということは、ひ孫が見つけたということね。
おめでとう、レイ、サラサ。
あなたのお父さんたちも、仲良くやっているかしら?
いえ、きっと仲良くしてるわね。あなたたちの可愛い子どもが、この手紙を見つけたことが、その証拠なのだから。
家族の愛、という魔法を使いこなしている今のあなたたちになら、これら私の遺産を託すことができるでしょう。
幸せに生きていくために、正しい使い方をしてください。
でも、忘れないで。
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