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第6話 初夜①
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柔らかな唇同士が触れ合った。
咄嗟に瞳を閉じてしまうが、そのまま彼から与えられる温もりを唇で受け止める。リップ音が小さく鳴ったと同時に、レイの顔が離れていった。
「だから待ってって……言ったのに……」
視線を逸らし、消え入りそうな声色で呟くサラサ。不服そうに唇を尖らせているが、怒りではなく恥ずかしさからきていることは、真っ赤に染まった耳たぶが示している。
レイはそんな彼女を愛おしげに見下ろしながら、柔らかな唇に親指を這わせた。
「……もしかしてキス、初めてだったのか?」
「あ、当たり前でしょ⁉」
今まで異性と付き合うどころか、近づくことすら避けていたのだ。恋愛経験や知識不足なのは致し方ないのだが、すでに十六歳という結婚できる年齢なのにキス一つ経験ないのは、恥ずべきことなのかもしれない。
上目使いで、恐る恐る彼の様子を伺う。
きっと馬鹿にするように薄ら笑いでも浮かべているかと思ったのだが、
「んっ……れ、レイ……んぅっ」
突然、激情に任せて貪るように唇を求められた。
隙間から何とか言葉の切れ端を発するが、すぐに塞がれてさらに深く密着する。
ひとしきり口付けを堪能したレイは顔を離すと、乱れた呼吸を整えながらサラサを見下ろした。
どこか興奮した様子で、青い瞳を見開いている。
「……すっげぇ嬉しい。サラサの初めてのキスが……いや、これから先の全てのキスが俺だけのものだって考えたら、滅茶苦茶ドキドキする」
「ば、馬鹿っ! よくも、そ、そんな恥ずかしいこと、平気な顔して言えるわね⁉」
「恥ずかしい? 別に本当のことだろ?」
「そ、そうだけど……だ、だって……今まで男の人と付き合った経験がないから……そんな言葉、かけられたことないし……」
異性との付き合いを避けていた彼女に、甘い言葉に対する免疫がないのは仕方ない。
ふふっと笑い声がレイから洩れると、焦点が合わなくなりそうなほど顔が近づいた。意地悪く口角を持ち上げながら、シーツに広がる見事な赤い髪に指を巻きつける。
「なら、これからは俺が山ほど言ってやるよ。だから、お前の恥じらい顔を、俺以外の男には絶対見せるなよ」
サラサの顔全体が真っ赤になった。身体中の血液が沸騰しているかのような熱が脳内にのぼり、照れ隠しの反論が浮かばない。
恥ずかしさで強く瞳を瞑り、胸の前で両手を握りながら、素直に首を縦に振るしかなかった。
そんな彼女の上に、深いため息の音が落ちる。
「はぁ……つら」
「辛い? わ、私、何か……した?」
瞳を開くと、手の甲で口元を覆ったレイが映った。サラサから視線を逸らし、どこか苦しそうに眉根を寄せている。茶色の髪の隙間から見える耳が、先まで真っ赤だ。恨めしそうに視線だけを寄越しながら、ぼやく。
「なんでそこで急に素直になるかな……心がついていけないだろ。こっちだってな、お前の知らない一面を急に見せられて耐えられるほど、まだ耐性がないんだからな……」
「えっと……あの……ご、ごめんな……さい?」
正直、ブツクサ言っている内容が理解できない。
だが、自分がした何かが彼を辛くしたのは分かったので、語尾を疑問形にしつつも謝った。が、サラサが彼の気持ちを理解せずに場を収めるために謝ったのだと気づいたのか、レイはムっと唇を尖らせ、再び顔を近づける。
「駄目だ。無自覚で俺を煽るサラサが悪いんだからな」
「あ、煽る? なにを――」
言葉の続きは、重なった唇の間で消えてしまった。少し離れ、また触れ合うを繰り返しながらも、間隔は次第に短くなり、相手の呼吸を奪うような擦り合いへと変わる。
「ぅ、んっ……」
誰かから教えられたわけでも見たわけでもないのに、サラサの喉の奥から甘い声が洩れ出る。まるでその声を合図にしたかのように、少し開いた隙間から生温かいものが侵入してきた。
舌先が侵入物に触れ、思わず顔を離してしまう。
「んっ、れ、レイ、なにしてるの?」
「……いいから、口を開けろって」
「口?」
何か食べさせてくれるのかと、今の場に相応しくない考えがよぎり、サラサは困惑しつつも小さな口を頑張って開いた。
次の瞬間、耐えきれずに噴き出す音が響いた。
「ぷっ……くくっ、ほんと可愛いな、お前」
「え? 何笑ってるの? わ、私、何かおかしいこと……した?」
彼が笑う理由が分からず、戸惑うばかりだ。
しかし、質問の回答は貰えなかった。
代わりに突然塞がれた唇の隙間から、先ほどと同じ生温かいものが滑り込み、サラサの舌に絡みつく。それの形をなぞって始めて、彼の舌だと気づいた。
驚きで目を見開き、慌てて顔を離そうとするが、押し付けられるように密着するレイの唇が許さない。
蠢く舌が、狭く湿った口内を探る。
咄嗟に瞳を閉じてしまうが、そのまま彼から与えられる温もりを唇で受け止める。リップ音が小さく鳴ったと同時に、レイの顔が離れていった。
「だから待ってって……言ったのに……」
視線を逸らし、消え入りそうな声色で呟くサラサ。不服そうに唇を尖らせているが、怒りではなく恥ずかしさからきていることは、真っ赤に染まった耳たぶが示している。
レイはそんな彼女を愛おしげに見下ろしながら、柔らかな唇に親指を這わせた。
「……もしかしてキス、初めてだったのか?」
「あ、当たり前でしょ⁉」
今まで異性と付き合うどころか、近づくことすら避けていたのだ。恋愛経験や知識不足なのは致し方ないのだが、すでに十六歳という結婚できる年齢なのにキス一つ経験ないのは、恥ずべきことなのかもしれない。
上目使いで、恐る恐る彼の様子を伺う。
きっと馬鹿にするように薄ら笑いでも浮かべているかと思ったのだが、
「んっ……れ、レイ……んぅっ」
突然、激情に任せて貪るように唇を求められた。
隙間から何とか言葉の切れ端を発するが、すぐに塞がれてさらに深く密着する。
ひとしきり口付けを堪能したレイは顔を離すと、乱れた呼吸を整えながらサラサを見下ろした。
どこか興奮した様子で、青い瞳を見開いている。
「……すっげぇ嬉しい。サラサの初めてのキスが……いや、これから先の全てのキスが俺だけのものだって考えたら、滅茶苦茶ドキドキする」
「ば、馬鹿っ! よくも、そ、そんな恥ずかしいこと、平気な顔して言えるわね⁉」
「恥ずかしい? 別に本当のことだろ?」
「そ、そうだけど……だ、だって……今まで男の人と付き合った経験がないから……そんな言葉、かけられたことないし……」
異性との付き合いを避けていた彼女に、甘い言葉に対する免疫がないのは仕方ない。
ふふっと笑い声がレイから洩れると、焦点が合わなくなりそうなほど顔が近づいた。意地悪く口角を持ち上げながら、シーツに広がる見事な赤い髪に指を巻きつける。
「なら、これからは俺が山ほど言ってやるよ。だから、お前の恥じらい顔を、俺以外の男には絶対見せるなよ」
サラサの顔全体が真っ赤になった。身体中の血液が沸騰しているかのような熱が脳内にのぼり、照れ隠しの反論が浮かばない。
恥ずかしさで強く瞳を瞑り、胸の前で両手を握りながら、素直に首を縦に振るしかなかった。
そんな彼女の上に、深いため息の音が落ちる。
「はぁ……つら」
「辛い? わ、私、何か……した?」
瞳を開くと、手の甲で口元を覆ったレイが映った。サラサから視線を逸らし、どこか苦しそうに眉根を寄せている。茶色の髪の隙間から見える耳が、先まで真っ赤だ。恨めしそうに視線だけを寄越しながら、ぼやく。
「なんでそこで急に素直になるかな……心がついていけないだろ。こっちだってな、お前の知らない一面を急に見せられて耐えられるほど、まだ耐性がないんだからな……」
「えっと……あの……ご、ごめんな……さい?」
正直、ブツクサ言っている内容が理解できない。
だが、自分がした何かが彼を辛くしたのは分かったので、語尾を疑問形にしつつも謝った。が、サラサが彼の気持ちを理解せずに場を収めるために謝ったのだと気づいたのか、レイはムっと唇を尖らせ、再び顔を近づける。
「駄目だ。無自覚で俺を煽るサラサが悪いんだからな」
「あ、煽る? なにを――」
言葉の続きは、重なった唇の間で消えてしまった。少し離れ、また触れ合うを繰り返しながらも、間隔は次第に短くなり、相手の呼吸を奪うような擦り合いへと変わる。
「ぅ、んっ……」
誰かから教えられたわけでも見たわけでもないのに、サラサの喉の奥から甘い声が洩れ出る。まるでその声を合図にしたかのように、少し開いた隙間から生温かいものが侵入してきた。
舌先が侵入物に触れ、思わず顔を離してしまう。
「んっ、れ、レイ、なにしてるの?」
「……いいから、口を開けろって」
「口?」
何か食べさせてくれるのかと、今の場に相応しくない考えがよぎり、サラサは困惑しつつも小さな口を頑張って開いた。
次の瞬間、耐えきれずに噴き出す音が響いた。
「ぷっ……くくっ、ほんと可愛いな、お前」
「え? 何笑ってるの? わ、私、何かおかしいこと……した?」
彼が笑う理由が分からず、戸惑うばかりだ。
しかし、質問の回答は貰えなかった。
代わりに突然塞がれた唇の隙間から、先ほどと同じ生温かいものが滑り込み、サラサの舌に絡みつく。それの形をなぞって始めて、彼の舌だと気づいた。
驚きで目を見開き、慌てて顔を離そうとするが、押し付けられるように密着するレイの唇が許さない。
蠢く舌が、狭く湿った口内を探る。
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