白雪姫の継母の夫に転生したっぽいんだが妻も娘も好きすぎるんで、愛しい家族を守るためにハッピーエンドを目指します

めぐめぐ

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第30話 全俺が死んだ①

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「それにしてもビアンカ、何でお前がここにいるんだ? いつから俺たちの会話を聞いていた?」

 皆の気持ちが落ち着いた頃、まだリュミエールに抱きついているビアンカに、俺は訊ねた。

 ”私の幸せにも、王妃殿下が必要なのです”という発言が、明らかに俺たちの会話を聞いていたと思わせる内容だったからだ。

 涙を指で拭いながら、ビアンカが答える。

「お父様と休憩がてら、今後のことを話し合おうと思い呼びに行ったら、いらっしゃらなくて。お義母様が珍しくお父様に用事を言いつけられ、寝室から離れていたので、もしかしてここじゃないかと思ったのです」

 うわっ……うちの娘の勘と洞察力、良すぎ……⁉

 ってな感じで、リュミエールの寝室にこっそりやって来たビアンカだったが、物置部屋に入ろうとしたところ、突然リュミエールがやってきたため、咄嗟に隠れたのだという。

 その後、何かが割れる音がしたため、リュミエールが慌てて物置部屋に入り、俺を発見。俺たちが話す様子を、ビアンカは隠れながらこっそり見ていたのだという。

 ……全部見てない?
 どこからっていうか、最初から全部見てない?

 俺が彼女を抱きしめたところや、なんかやかんや色々と娘に見られてない?

 い、いや、ちょっと、恥ずかしいんだが‼

 娘に見られたと思われる恥ずかしい場面を思い出すと、ぶわっと顔全体に血が上った。
 真っ赤になっているであろう俺の顔を見て、ビアンカが小さく噴きだした。そして、リュミエールから離れると、俺の方をチラチラとみながら、呆れた様子で口を開く。

「お義母様のことになると、急に臆病になって、情けないところがたくさんあるお父様ですけど、どうかよろしくお願いいたします、お義母様」
「び、ビアンカっ、リュミエールに、な、何を言っているんだっ‼」
「あ、ようやく、お義母様のお名前を言えるようになったのですね?」
「お、お前っ!」

 慌てて娘の口を手で塞ぐと、ビアンカがふごふごしながら抗議してきたが……これ以上、俺の情けない姿を話させるものか!
 しばらく父と娘の攻防戦が繰り広げられていたが、

「ふっ……ふふふっ……」

 軽やかな笑い声によって、俺たちの戦いは終結した。
 
 笑っているのは、リュミエール。握った手を口元に当てながら、肩を振るわせていた。そして、目尻に残った涙を指で拭いながら、俺たちに向かって笑顔を見せる。

 初めて俺たちに見せた満面の笑顔は、華やかでありながらも優しい色合いのチェリックの花を連想させて――

「凄いですね、ビアンカ。そんな発言、十歳で出来る人はいませんよ」
「そ、そんなことは、な、ないのです! い、今の十歳は、お義母様が思っていらっしゃる以上に大人びているのですよ!」

 リュミエールの発言に、ビアンカが焦りだした。

 そりゃそうだろう。
 本当の中身は、成人なのだから。

 まあリュミエールも、まさか娘の中身が成人しているとは思わないだろうが。

 妙に焦るビアンカを不思議そうに見ていたリュミエールだったが、優しげな微笑みを浮かべながら、白雪姫と名高い娘の白い頬に触れた。

「私こそ、まだまだ未熟者ですが……妻として母として、どうぞよろしくお願いいたします」
「はい、よろしくお願いします、お義母様!」
「あ、うん、よ、よろしく……」

 三人で頭を下げてるけど、何、今のこの状態?

 だが、皆同じことを想ったのだろう。頭を上げ、お互いの顔を見合わせると、示し合わせたように笑いが洩れた。

 その声はどんどんと大きくなり、物置部屋に響き渡る。

 さっきまで泣いていたのに、今度は笑って……ほんっと、感情が忙しい。

 だけど、嬉しい。
 本当の気持ちを曝け出し、笑い合えるこの瞬間が、愛おしくて堪らない。

 家族が、こうして一つになれる日が来るなんて――

「じゃあ、私は部屋に戻ります。大神殿に戻る準備をしなければならないので」

 立ち上がったビアンカはそう言うと、俺たちにカーテシーをして部屋を出ていった。
 部屋に残されたのは、俺とリュミエールだけ。

 盛大に告白したことを急に思い出し、恥ずかしさで心が一杯になる。
 視界の端に、鏡の破片が映り、俺はこの場の雰囲気を変えるため、リュミエールに言った。

「ここは、鏡の破片が散らばって危ない。人を呼んで片付けさせよう」

 ま、俺がやったんだが。
 しかしリュミエールは、鏡の欠片の一つを手に取ると、首を横に振った。

「……いいえ。ここは私が片付けます。そうしたいのです」
「こいつはお前を唆し、破滅へと導こうとしたんだぞ?」
「それでも、です」

 予想外の返答に驚いたことが伝わったのか、リュミエールは立ち上がると、再び鏡の前に立った。手を伸ばし、鏡の枠を指でなぞる。

「この鏡は、邪纏いでした。ですが……私の話を聞いてくれて、陛下やビアンカの姿を思い存分見せてくれた大切な友人、そして……何も知らなければこの国を滅ぼしていた私に、全てを教えてくれた恩人なのです。だから最後はせめて、私の手で送ってあげたいのです」

 そんな義理堅いことをしなくてもいいのに。

 こいつの正体は、ファナードの女神だぞ? 
 女神自らが、お前を殺そうとしていたんだぞ?

 だが、ポチと話すリュミエールの姿は、本当に楽しそうだった。俺やビアンカに嫌われるために常に気を引き締める日々の中で、誰の目も気にすることなく、本当の姿を曝け出すことができる唯一の時間だったからか。

 もしかして、ポチ、お前も――
 今となっては分からない。

 リュミエールは、ゴミ用の麻袋を部屋の隅から持ってくると、壁から鏡を外そうと、枠に手をかけた。
 が、鏡はそこそこ大きく、まだ破片が残っている。そんな危険な物を、リュミエールに片付けさせるわけにはいかない。

「俺がやる」

 隣で、「あ……」という声が聞こえたが、聞こえないふりをし、俺は鏡を取り外した。
 鏡が取り外された壁をみて、リュミエールが声をあげる。

 あ、やば。
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