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第29話 俺の幸せには、お前がいないと駄目だ②

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「リュミエール、お前は悪くない。まだ守られるべき年齢でありながら、自分を傷つけた相手を告発し、自分の身を守ったんだ。誇ってもいい。よくやった」
「いい、え……わたしは……私は、あのとき死ぬべきだったのです! 毒を盛られたとき、死んでいれば……」
「でも死ななかったから、俺はお前と出会えた」

 髪を撫でる手を止めると、こちらを見上げる青い瞳を見つめ返した。

 初めて彼女に会ったときの胸の高鳴りを思い出す。
 結婚など、国に利益を齎すための手段でしかないと割り切っていた気持ちを、根底から覆した衝撃を思い出す。

 自分に、これほどまでに、求めて止まない気持ちがあるのかと思い知らされた、あの時の瞬間を――

「初めてお前に会ったとき、俺は一目で恋をしたんだ」

 腕の中のリュミエールが、俺の服をギュッと握った。僅かに肩が震えている。

「お前が、俺やビアンカの幸せを願うように、俺たちもお前の幸せを願っている。だからリュミエール、どうか幸せになって欲しい。これからもずっと、俺の幸せの中にいてくれ」

 この物語の結末を、皆は末永く幸せに暮らしました、という一文で終わらせて欲しい。
 めでたしめでたし、で締めくくらせてほしい。

 この国で、リュミエールとビアンカと三人で幸せに過ごす――それが俺が望む、この物語のハッピーエンドだ。

「……許してくださいますか? あなた様に対する、私の愚かな行動を……」

 震える声で、リュミエールが訊ねた。俺の胸に顔を埋めているため、表情は分からない。
 だが、俺は間髪入れずに頷いた。

「もちろん。俺も三年間、距離を取ったままで、すまなかった。お前に、嫌われたくなかったんだ」
「嫌われたく、なかった? 私に、ですか?」
「ああ。お前との関係に悩みつつも、それ以上悪化することを恐れ、踏み込めなかった。俺は、お前が思っているような完璧な男じゃない。お前の名前が呼べないことをビアンカに指摘されて、女々しく言い訳をするような小さな人間だ」
「あのっ……も、もしかして……わ、私が、陛下の欠点を責めて嫌われようと計画していたことも、ご覧に……」
「もちろん見ていた」

 あれだ。
 欠点を責めて嫌われようとしたのに、責めるべき欠点が見つからなくてリュミエールが困ってたあれだ。

「~~~~~っ」

 声にならない彼女の叫びが、俺の服を握る手から伝わってくる。しばらくそうやって身もだえしていたが、やがてゆっくり顔を上げた。
 
「ビアンカ姫は……許してくれるでしょうか。私は今まで、酷い態度を姫に……」

 そう言って表情を曇らせたそのとき、

「もちろん、許します‼ いえ、そもそも怒っていませんから‼」

 その声とともに、バーンと大きな音を立てて、物置部屋の扉が開いた。

 入って来たのは、ビアンカ。
 両目に涙を溜めながらリュミエールに抱きつくと、抱きつかれた彼女は腰を落としてビアンカと視線を同じにし、小さな身体を抱きしめ返した。

「ビアンカ姫……ごめんなさい、本当にごめんな、さ、い……」
「もう謝らないでください……やっと……やっとここまで辿り着いたのです……やっと、あなたを救い出せる……」

 リュミエールには、ビアンカの言う【やっと】の本当の意味は分からないだろう。
 だが、俺にはビアンカの気持ちが手に取るように分かった。

 ビアンカは、大きな瞳に涙をいっぱいためながら、リュミエールを見上げた。

「私の幸せにも、王妃殿下が必要なのです。だからもう、ご自身のことを蔑ろになさらないで……死んでいいなんて、言わないでください…」
「ありがとうございます、ビアンカ姫……」
「ビアンカと、呼んでください……お義母かあ様……」
「ビアンカ……」
「お義母様……」

 ビアンカとリュミエールの瞳から、涙がとめどなく流れていた。
 そんな二人を、俺は包み込むように抱きしめた。

 この温もりを二度と離さないと、心に強く誓いながら――
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