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第25話 白雪姫の七人のこびと、そうきたか‼②

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「聖女様。聖剣は、あなた様がお使いになられるのですか?」
「ビアンカが聖剣を使う? どういうことだ、それは」

 訊ね返したのは俺。
 俺の質問を聞いたビアンカの表情が、みるみるうちに厳しいものへと変わった。

「未熟な聖女が、狭間の獣に取り憑かれた人間を救う方法は、聖法で狭間の獣の動きをとめ、聖剣で貫くことなんです」
「つまり、お前がこの剣で狭間の獣と戦うってことか⁉」
「はい」

 いや、危険すぎじゃない?
 そんな危険なことを、ビアンカにさせるわけなくない?

 いや、そもそも聖剣持てなくない?

 俺の心の声が届いたのか、ビアンカが俺の様子を伺うように顔を覗き込んできた。

「やはり反対され……ますよね?」
「当たり前だろ! こんな危険なことを、お前にさせられるか!」

 俺の言葉に頷いたのは、意外にも聖騎士たちと村長。
 聖騎士の一人が前に進み出る。

「私たちも、陛下のご意見に同意です。狭間の獣とは私が戦いましょう。どうか当日、私に聖女の刻印をお与えください」
「そう……なりますよね……」

 ビアンカは諦めたように溜息をついた。
 そして、知らない単語の説明はよ、と思いっきり顔に出している俺に、分かってますよと言わんばかりに苦笑いすると説明してくれた。

「本来であれば聖女自身が戦うのですが、聖女の刻印を与えた者が代わりに聖剣を使い、戦うことが出来るのです」
「つまり、お前の代わりに戦えるってことか?」
「はい。聖女が幼かったり、戦えないような状態だった場合の措置だそうです」

 なるほどな。
 身代わりを申し出てくれた聖騎士の腕っ節は強そうだ。恐らく、このときのために、日々鍛錬を積んできたのだろう。身体も滅茶苦茶鍛えられているし。

 しかし、俺の心は決まっていた。

「その役目は、俺が引き受けよう」

 俺にはチート能力がある。
 いざとなればそれで、狭間の獣を倒せるからだ。

 だがこちらの思惑を知らないビアンカが、驚き叫ぶ。

「お、お父様は国王じゃないですか! 国の主がそんな危険なことを――」
「国存亡の危機に、俺の身を心配しても意味が無い。それに、俺だって剣術には自信がある」

 これでも俺の剣術はかなりの腕前だ。
 実戦経験だってある。

 目の前の聖騎士たちにも劣らないはずだ。

 ビアンカは納得出来ていない様子だった。だからもう一押しと言葉を続ける。

「聖騎士たちを信用していないわけじゃない。俺の手で――リュミエールを救いたいんだ」
「……分かりました。ですがお父様、くれぐれも気をつけてください。絶対に無茶はしないで……」

 俺の真剣な言葉に、ビアンカの心が動いたようだ。

 これでビアンカを危険な目に遭わせることはないし、いざとなれば、チート能力で倒すことができる。

 間違いなく、リュミエールを救える――

 そう思ったとき、

 ワンワンワンッ!

 部屋の奥から犬の鳴き声がしたかと思うと、一頭の白い犬が部屋に飛び込んできたのだ。俺の腕に抱えられるぐらいの大きさだろうか。

 村長に飛びつこうとした犬を聖騎士の一人が慌てて抱き上げると、犬は遊んでいると思ったのか、ブンブンと尻尾を振りながら、抱き上げた聖騎士の顔を舐めようと鼻を擦り寄せた。

 かなり人なつっこい犬だ。
 正直、俺は勘弁だが、ビアンカの瞳が輝いた。大人びた様子は影を潜め、十歳の少女らしい顔に戻っている。

「わあ、可愛い! お名前、何て言うんですか?」
「ルイルイです。よくある名前でしょう?」
「そうですね、ふふっ」

 聖騎士とビアンカが、犬の名前で盛り上がっている。

 ルイルイかぁ。
 ほんっと、よくある名前だなあ。

 前世の記憶で言うと、ポチと同じぐらいのよくある度――……あれ?

 ふと何かが引っかかった。

 この世界では、ありきたりな犬の名前といえばルイルイだ。猫はウォル。
 両方とも前世の世界で言えば、犬はポチで、猫はタマ、みたいな感じだ。

 何を言いたいのかというと、この世界では犬の名前にポチはつけない。いや、世界中を探せばいるかもしれないが、少なくとも一般的じゃない。

 ほらビアンカだって、鏡の名前をポチだと紹介したとき言ってたじゃないか。

”それにしてもポチだなんて、変わったお名前ですね”

 って。

 何だ、この違和感は。
 一体何が引っかかって……そうだ。

”ぽち……って酷すぎませんか⁉”
”ひぃぃっ! 今日から私めの名前はポチです! あなた様の忠実なる犬でございます! だから王杓を振り上げないでください――‼ いくらでもワンワン鳴きますからぁぁ~……”

 何故あいつは、ポチという単語を聞いて、

 だと思ったのか――

 ポチを犬の名前だと紐付けるには少なくとも、井上拓真の世界の知識がなければ出てこないはずだ。思い返せば、俺が前世の世界でしかない話をしても、あいつ、普通に受け入れていた。

 ポチはもしかして俺と同じように、井上拓真の世界から来た存在なのか?
 転生したら鏡だった、というオチか?

 そんなラノベ展開も捨てがたいが……もっと真実は単純だ。

 あのとき、あいつは何て言った?
 は俺の問いに、何と答えた?

”お前、さっきコンビニって言ってたよな。ってことは、俺がいた世界の知識があるようだな?”
”え? あーまあ……ほどほどには。私はあの世界の副管理者ですので”

 俺が知っている、井上拓真の世界を知る人物。
 そして鏡が、拓真の世界の知識を持っているという事実。

 それらから導きだされる答えは――


 ビアンカとともに城に戻った俺は、リュミエールを偽の用件で呼び出して寝室に近づけないようにすると、ポチの本体――魔法の鏡と対峙した。

 紫の布を荒々しく剥がし、自分の顔が映る鏡に向かって低い声で問いかける。

「いるんだろ、答えろポチ――いや……」

 目を伏せると、今までの記憶がもの凄いスピードで流れて消えていった。
 ゆっくりと目を開け、名とも呼べぬ名を呼んだ。

「ファナードの女神」



。.ꕤ‿‿‿‿‿‿‿‿‿‿‿‿‿‿‿‿‿‿ꕤ.。

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たくさんの方にお読み頂けて、とても嬉しいです!

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