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第24話 答え合わせと新たな真実②

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『ビアンカ姫が狭間の獣を祓うためには、長き修行が必要となります。今の姫の力だけで、狭間の獣を祓うのは難しい。しかし今の姫でも、確実に祓う方法が一つだけあるのです』
「まさかそれが……」
『そう。ビアンカ姫の憎しみがこもった聖法を受けること。聖女の強い憎しみには、狭間の獣を封じる程の力がありますから』
「で、でも、聖女の修行をすれば、ビアンカの力は強くなるんだろ? それこそ、狭間の獣を確実に祓えるくらいに」
『あなた様たちが王妃様の真実に辿り着いたのでお話し出来るのですが、狭間の獣は今から五年後に目覚めます。獣を確実に祓う程の力をつけるには、それ以上かかる。今からどれだけビアンカ姫が聖女修行を行っても、間に合わないのです。だから王妃様は、ビアンカ姫に憎まれて処刑されることを選んだのです』
「そのほうが、確実だから……か……」
『仰るとおりです』

 ポチに突きつけられた残酷な事実に、俺は力なく背もたれに身体を預けた。

 このまま何もしなければ五年後に狭間の獣が目覚め、この国で暴れまくる。
 俺が守るべき国が滅びる。

 しかし国を確実に守るならば、リュミエールを殺さなければならない。
 それも、ビアンカにリュミエールを憎ませる?

 今更無理だろ、そんなこと!

 俺は……どうすればいい?
 どうすれば――

 そのとき、前世の記憶――自称女神との取引を思い出した。

”後、あなたには望む能力を授けたいと思います。井上さんの世界でいう『チート能力』ってやつを。ただし一つだけですが”

 心臓がドクンと鳴った。
 絶望で閉ざされていた道に、一筋の光が差し込む。

 そうだ。
 チート能力だ。

 狭間の獣なんて一瞬で祓えるような強大な力を、あのクソ女神に与えて貰えば――

「大丈夫ですよ、お父様」

 ビアンカの明るい声に、俺の意識は今へと戻った。隣を見ると、先ほどとは違う自信に満ちた表情をしたビアンカがいた。

「神殿が、聖女の力が未熟な場合を想定していないわけがありません。私の力が未熟であっても、狭間の獣を祓う手段はあるはずです」
「お前は昨日も自信満々に言っていたな。何か心当たりがあるのか?」
「はい。だから、私に任せてください」

 俺には、邪纏いや聖法、聖女についての知識がない。
 ならばここは、専門家であるビアンカに任せよう。誠実で責任感のある娘が意味も無く、こんなことを言うはずないのだから。

 ビアンカは俺からの信頼を感じ取ったのかニコッと笑い返すと、今度は挑むように手鏡を見下ろした。

「ずっと気になっていたのです。お義母様が何故私の力や、邪纏いを祓う方法をご存じだったのかが……あなたですね? あなたがお義母様に、私に憎まれて処刑されるようにと助言したのですね?」
『はい。とはいえ、私めの助言は、聖女たるビアンカ姫の憎しみがこもった聖法を受け、ご自身で命を絶つことですが。先ほども申し上げたとおり、こちらの方が、確実に狭間の獣を祓えますから』
「ポチ、お前か……お前が全ての元凶かっ‼」
『元凶だなんて心外です。私めは、この国を滅びから救う方法を、王妃様に助言させて頂いただけです』
「……っ、おまえ……っ‼」
「お父様、邪纏いに人間らしさを求めるなんて無駄ですよ」

 ビアンカに諭され、俺は怒りを喉の奥に押し止めた。

 ああ、そうだよな。
 殺した人間を、死者の軍勢にしたり、永遠に朽ちぬ鑑賞物として保存するような奴等がいるのが、邪纏いの世界だもんな。

 だが落ち着いた俺と交代するように、テーブルに置いたビアンカの拳が震えだした。震える拳に視線を落としながら、小さな唇から恐ろしいほどの低い声が零れる。

「……だけどどうしてお義母様は、処刑を望んだのでしょうか……一度目の人生で、あのような無残な最期を遂げたのでしょうか。分からないのです……」

 ビアンカに言われ、確かにと思う。
 
 ビアンカの一度目の人生のとき、リュミエールは結婚式の余興として、残忍な方法で処刑された。だけどその時点ではすでに獣の支配から解放され、自死を選べたんだよな?

 なのにどうして最期まで悪女を貫き、処刑されたのだろうか。

 ダンッとテーブルを叩く音と、食器が揺れる音がした。ビアンカが怒りにまかせてテーブルを叩いたのだ。
 彼女の表情は、怒りと悲しみで歪んでいた。

「……私たちに……相談して欲しかった! 例え全てを話せなくても……私たちに話して欲しかった……だって、家族じゃないですか!」

 潤んでいた黒い瞳から、耐えきれなくなった涙が一粒零れてスカートの上に染みを作った。
 俺に抱きつき、静かに涙を流す娘の背中を撫でながら、ポチに向かって宣言した。

「俺たちは王妃を――いや、リュミエールを必ず救い出す。だからもうお前の助言など、必要ない」
『失敗する可能性があっても……ですか?』

 まだこいつは、ビアンカの力が未熟なことにこだわっているのだろうか。
 しかし、いざとなれば俺にはチート能力がある。

 だから、

「失敗などするわけがない」

 そう言い切ってやった。

 ポチは、何も言わなかった。
 少しの間の後、

『……左様でございますか』

 そう返答するポチの口調は、何故かリュミエールの淡々とした口調を思い出させた。
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