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悪役令嬢は世界の終わりにお茶を飲む

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 ルージャン、今日もお茶を頂くわ。
 ええ、いつものとおりコリンの花茶でお願い。昨日わたくしが摘んできたコリンの花、干してくれていたわよね? 
 あと、私が採ってきたティアの実のクッキーも、いつものとおりお願いするわ。

 ふふっ、私が毎日採るから、とうとうティアの木から実がなくなりそうよ。私がここに来た当初は、食べられない実だからと山ほどなっていたのに。

 食べられるように考えてくれたあなたのお陰ね。

 お茶とクッキーを持ってきてくれてありがとう、レクト。いつもルージャンお兄さまのお手伝いをして、とても偉いわね。

 ……そうね、レクト。お家の中にいるのは退屈でしょうね。ここ最近は、ずっとお外に出られないものね。

 え、今から遊びに行く?
 今日は特にやめておいた方がいいわ。

 でも安心して。
 明日は良い天気になるはず。お友達と一緒に、思いっきり外で遊べるわ。だから今日は、ルージャンお兄さまと一緒にお家の中にいなさい。

 あら、ルージャン。どうしたの、そんなに難しい顔をして。 

 明日、晴れるわけがない? 

 そうとも言い切れないわよ?
 十年前に魔王と魔物が突如現れたと同時に、世界中の空が闇に包まれてしまったけれど、明日晴れないという可能性はゼロではないわ。

 そういうことじゃない? 
 ……ああ、そちらの話しね。でもその話は、レクトの前でしない方が良いわ。

 ほらレクト。
 確か、小枝で工作をしている途中だったわよね。続きを作っていらっしゃい。

 …………
 …………
 
 ねえ、ルージャン。
 私がこの村でお世話になって、もうどのくらい経ったかしら?

 二年? もうそんなにも経ったの?
 この村で過ごす日々は、とても穏やかだったから、そんなにも長居したとは思わなかったわ。

 あの日――ルージャンが私を助けてくれなければ、安らぎの時間を知ることなく、私は死んでいたわ。

 得体の知れない私を、村の人々は温かく迎えてくださったわよね。そして、名前以外何も語らなかった私の心が癒えるまで、静かに見守ってくださった。

 本当に……感謝しかないわ。
 養う人間が一人増えるだけでも大変だというのに。

 ルージャンも、こんな私に毎日、コリンの花茶とティアの実のクッキーを作ってくれてありがとう。

 この本を、あなたに差し上げますわ。
 我が家が残した魔法書よ。極めれば、死者を蘇生したり、時すら遡ることができるそうよ? ふふっ、私にはそこまで極める時間も力も、ありませんでしたけれど。
 魔法使いなら喉から手がでるほど欲しがる代物でしてよ?
 売ってお金になさって。

 何で突然こんなものを、って?

 少しあなたに聞いて欲しいことがあるの。
 あなたと出会う前、私に何があったのかを。
 
 魔王に滅ぼされて世界が終わる今日という日に――あなたが淹れてくれたお茶を飲みながら、ね?
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