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・二の部屋
第17話 事変
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思っていたのとは違う化け物の体制、そして変わった目に、淡々と作業を進めるつもりだったナオキは入口で止まった。
「入っていいよ」
奇形の化け物はナオキを見下ろし低い声でそう言った。正面から見る喋る姿の巨大な顔のパーツの動きに迫力があり、目以外は普通の人間のものを大きくしただけの生きている口や鼻が嫌に目につく。化け物にとっての臨戦態勢に見える顔を低い位置で前に出している状態はナオキを動けなくして包丁を化け物から見えない位置に隠させた。
「入っていいよ」
入ったら殺される――そんな雰囲気があった。いや、入らなくても。
ナオキはもう手遅れかもしれないが今は事を起こさないように一歩後ろに下がりドアを閉めようとした。刺激を与えないように、音を立てないように、ドアを閉める――。その際中化け物は動かなかった――。
ドッ
ドアが閉まる寸前、化け物が重い音を立てて一歩だけナオキに近づいた。
「今夜は逃がさないから」
ドアの隙間から赤い目を片方覗かせて、化け物はそう言った。そして、それを聞いたナオキは口角を上げた……。
怖い、どうしよう、と思ったのは包丁を元あった場所に戻してカズオが眠る部屋に戻ってからだった。殺意が恐怖を打ち消したとナオキは思った。正気に戻ると、なぜ逃がさないと言われた自分が笑ったのか分からない。殺意とは恐ろしい感情だ。
化け物が追ってくることは無かった。でも、「今夜は逃がさないから」という言葉から今夜は追ってくるつもりだろう。そしてナオキとカズオの企みがばれていた。
非常にまずい。そんなことあってほしくはないし、今夜逃げようとすることがバレていることについてなんて考えたくもない。
これはおそらくカズオのこの家についての考察の1つ、「ここで暮らす親子の誰かが化け物の本体である」が正しかったからだろう。
「毎晩、あいつらは夜通しまったく動かないんだ。けつがイスに触れる部分を変えることもない。そんなことあるか。それにまったくここを出る気がないなんてやっぱりおかしい」
カズオにさっきそう聞かされた。化け物が地獄耳や、この家のすべてを特殊な力で監視できる可能性もあるが、ナオキから見ても親子は普通ではないので親子の誰か、もしくは全員が化け物と何かしら繋がっているほうが納得がいく。
波が渡るように、体の下から首筋まで鳥肌が立った。自分の足を抱えて、体操座りになり力強く抱きしめる。
けど、大丈夫だ。元から疑っていたことなので、今夜の作戦には問題はない。逆に言えば、親子の誰かが化け物の本体だった場合の行動を迷わず行える。そう、大丈夫だ。カズオを起こして作戦を練り直す必要もない。
ナオキは寝ることにした。夕方の前まで寝ていいならまだ時間があるし、休める時に休んでおいたほうが良い。カズオが寝てからあったことについて考えて、カズオと話すのも寝て頭をスッキリさせてからだ。
それに、なんだか自分が変だ。妙に攻撃的というか、女に対しても警戒心が強すぎたし、寝てないのも精神状態に悪影響を及ぼしているだろう――。
「おい。起きろ。おい」
カズオに起こされたのは午後4時前だった。寝つきは悪かったがちゃんとそれなりの時間眠ることができた。目を開けると頭が痛くて眠りが浅かったと感じた。でもそのおかげで、すぐに目が冴えて、今の状況もしっかり覚えていた。
最悪な場所で最悪の目覚め――体もだるいが、動かないといけない。
起きてからまず、今朝と同じ水と味気のない食べ物で腹を満たしながら、カズオが寝てから起こった出来事を話して、作戦の最終確認をした。女はイカれている。誰かが化け物と繋がっていると聞いたカズオは驚かなかった。やっぱりかと言った感じで更なる考察を深めていた。
「じゃあ行くぞ。気合い入れてここから出ようや」
「はい」
二人で言葉を交わしてから、奥の部屋へ向かう。既に、女とその子供の少年少女は部屋に入ってイスに座り、昨日と同じ体制で下を向いていた。ナオキとカズオも席に着き――長く感じる沈黙の後、今夜もまた化け物が巨大な顔で部屋を覗いた。
「入っていいよ」
奇形の化け物はナオキを見下ろし低い声でそう言った。正面から見る喋る姿の巨大な顔のパーツの動きに迫力があり、目以外は普通の人間のものを大きくしただけの生きている口や鼻が嫌に目につく。化け物にとっての臨戦態勢に見える顔を低い位置で前に出している状態はナオキを動けなくして包丁を化け物から見えない位置に隠させた。
「入っていいよ」
入ったら殺される――そんな雰囲気があった。いや、入らなくても。
ナオキはもう手遅れかもしれないが今は事を起こさないように一歩後ろに下がりドアを閉めようとした。刺激を与えないように、音を立てないように、ドアを閉める――。その際中化け物は動かなかった――。
ドッ
ドアが閉まる寸前、化け物が重い音を立てて一歩だけナオキに近づいた。
「今夜は逃がさないから」
ドアの隙間から赤い目を片方覗かせて、化け物はそう言った。そして、それを聞いたナオキは口角を上げた……。
怖い、どうしよう、と思ったのは包丁を元あった場所に戻してカズオが眠る部屋に戻ってからだった。殺意が恐怖を打ち消したとナオキは思った。正気に戻ると、なぜ逃がさないと言われた自分が笑ったのか分からない。殺意とは恐ろしい感情だ。
化け物が追ってくることは無かった。でも、「今夜は逃がさないから」という言葉から今夜は追ってくるつもりだろう。そしてナオキとカズオの企みがばれていた。
非常にまずい。そんなことあってほしくはないし、今夜逃げようとすることがバレていることについてなんて考えたくもない。
これはおそらくカズオのこの家についての考察の1つ、「ここで暮らす親子の誰かが化け物の本体である」が正しかったからだろう。
「毎晩、あいつらは夜通しまったく動かないんだ。けつがイスに触れる部分を変えることもない。そんなことあるか。それにまったくここを出る気がないなんてやっぱりおかしい」
カズオにさっきそう聞かされた。化け物が地獄耳や、この家のすべてを特殊な力で監視できる可能性もあるが、ナオキから見ても親子は普通ではないので親子の誰か、もしくは全員が化け物と何かしら繋がっているほうが納得がいく。
波が渡るように、体の下から首筋まで鳥肌が立った。自分の足を抱えて、体操座りになり力強く抱きしめる。
けど、大丈夫だ。元から疑っていたことなので、今夜の作戦には問題はない。逆に言えば、親子の誰かが化け物の本体だった場合の行動を迷わず行える。そう、大丈夫だ。カズオを起こして作戦を練り直す必要もない。
ナオキは寝ることにした。夕方の前まで寝ていいならまだ時間があるし、休める時に休んでおいたほうが良い。カズオが寝てからあったことについて考えて、カズオと話すのも寝て頭をスッキリさせてからだ。
それに、なんだか自分が変だ。妙に攻撃的というか、女に対しても警戒心が強すぎたし、寝てないのも精神状態に悪影響を及ぼしているだろう――。
「おい。起きろ。おい」
カズオに起こされたのは午後4時前だった。寝つきは悪かったがちゃんとそれなりの時間眠ることができた。目を開けると頭が痛くて眠りが浅かったと感じた。でもそのおかげで、すぐに目が冴えて、今の状況もしっかり覚えていた。
最悪な場所で最悪の目覚め――体もだるいが、動かないといけない。
起きてからまず、今朝と同じ水と味気のない食べ物で腹を満たしながら、カズオが寝てから起こった出来事を話して、作戦の最終確認をした。女はイカれている。誰かが化け物と繋がっていると聞いたカズオは驚かなかった。やっぱりかと言った感じで更なる考察を深めていた。
「じゃあ行くぞ。気合い入れてここから出ようや」
「はい」
二人で言葉を交わしてから、奥の部屋へ向かう。既に、女とその子供の少年少女は部屋に入ってイスに座り、昨日と同じ体制で下を向いていた。ナオキとカズオも席に着き――長く感じる沈黙の後、今夜もまた化け物が巨大な顔で部屋を覗いた。
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