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・二の部屋
第9話 <二の部屋>
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窓だと思われる場所に黒色の布がガムテープで張り付けられている。それはキッチンの奥のカーテンのない窓を含めてすべて隙間なくびっしり施されていて、外からの光は一切通していなかった。オレンジ色の小さな光、常夜灯だけが真っ暗な部屋を中央に置かれた長方形のテーブル中心に照らし、そこには一見家族に見える大人の男女2人と小学生ぐらいの男女2人、4人が座っている。
4人とも表情が読み取れないほど下を見ていて、ナオキはそれが大切な誰かが死んだ日の夜というか全員で絶望している状態に見えた。そしてこの4人こそがこの空間の霊にも思える。
気味が悪い。部屋に踏み込んだ瞬間に顔を上げてこちらに襲い掛かってくるかもしれない。奥に行くほど強い霊がいるか……もう、部屋ではなくて家なのは洋館が洋館でない時点であまり驚いていないが二個目の部屋で4人がかりか。
こいつらが霊なのであればこの薄暗い部屋の中で戦うよりもさっきのリビングまで一旦引いたほうがいいだろう。
4人の出方を伺いながら部屋のドアを開けっぱなしにして中に踏み込む。ホラー映画では珍しくもない子供の霊。ナオキは手前側の席に座る長い髪の少女がいつ振り返っても対処できるように両手を前にだして指先まで力を入れていた。
1人ずつ不審な動きがないか見ていき奥の席に座る大人の男に視点が移るとあることに気づいた……。迷彩柄のチョッキを着ている……。ナオキと同じ、挑戦者に配られるチョッキ。
昨日ここに入ったと聞いた男である可能性が高い。顔は分からないが着飾ってない髪型からおじさんという年齢に見える。
「あ――」
緊張状態で声が上手く出せなくて息が詰まった。しかし、その弱い声だけで男が顔を上げる。
やはりおじさん――。数週間髭剃りをしていない時のように髭が顔の下半分にだらしなく生えていて、目つきは悪かった。男は黙ったまま十数秒ほどナオキを一点に見つめた後で口を開く。
「お前も俺と同じ境遇か?」
同じ境遇か?同じチョッキを着ていることしか情報はないがおそらくそうだ。
「あなたもここに霊を調査しに来たんですよね?」
今度はちゃんと息を吸ってしっかり声に出した。男は言葉を聞き終えると表情を変えないまま頷き、片手を胸元まで上げて指だけで手招きをする。
ナオキはその指示に従った。前に構えた手は下げたが警戒心を内に秘め男に近づく。
その間も他の3人はうつむいたまま。おじさんは挑戦者だとしてこいつらは誰だ。こんな子供が同じ挑戦者ではあるまいし。
「そのチョッキ……あなたもここへ100億円の為に来た。間違いないですね?」
「ああ」
「じゃあ僕たちは味方……ですよね?」
「ああ、協力しよう。今の状況を教えてやる」
男はガサガサとした低い声で言った。協力しようと言う割には友好的な態度を取るわけではなく、ナオキの体を足から頭の先まで舐めるように見てきた。
向こうも警戒しているのか。そしてそのやり取りの中、頭をよぎったことが一つある。ユミコちゃんは迷彩柄のチョッキを着ていなかったなあ。バーカウンターのじいさんはともかく。
そんなことは今は重要ではないが男を信頼していいのか確かめるため聞いた。
「ユミコさんをご存知ですか?あなたがここに来る前の空間へ、洋館へ入った時に一緒だった茶髪の女性のことです」
…………………。
「座れ」
「え?」
「いいから早く座れ」
男が前を見て、より険しい目つきになり命令してきた。
テーブルの周りにはイスが6個あり、ナオキの前、男の隣の席も1つ開いているが……。
動かないナオキに男が顔を短く振り、目であそこを見ろと言う風に合図して部屋の入口へナオキの視点を移動させた――。
そこにはドアの間から部屋を覗く巨大な顔があった。
4人とも表情が読み取れないほど下を見ていて、ナオキはそれが大切な誰かが死んだ日の夜というか全員で絶望している状態に見えた。そしてこの4人こそがこの空間の霊にも思える。
気味が悪い。部屋に踏み込んだ瞬間に顔を上げてこちらに襲い掛かってくるかもしれない。奥に行くほど強い霊がいるか……もう、部屋ではなくて家なのは洋館が洋館でない時点であまり驚いていないが二個目の部屋で4人がかりか。
こいつらが霊なのであればこの薄暗い部屋の中で戦うよりもさっきのリビングまで一旦引いたほうがいいだろう。
4人の出方を伺いながら部屋のドアを開けっぱなしにして中に踏み込む。ホラー映画では珍しくもない子供の霊。ナオキは手前側の席に座る長い髪の少女がいつ振り返っても対処できるように両手を前にだして指先まで力を入れていた。
1人ずつ不審な動きがないか見ていき奥の席に座る大人の男に視点が移るとあることに気づいた……。迷彩柄のチョッキを着ている……。ナオキと同じ、挑戦者に配られるチョッキ。
昨日ここに入ったと聞いた男である可能性が高い。顔は分からないが着飾ってない髪型からおじさんという年齢に見える。
「あ――」
緊張状態で声が上手く出せなくて息が詰まった。しかし、その弱い声だけで男が顔を上げる。
やはりおじさん――。数週間髭剃りをしていない時のように髭が顔の下半分にだらしなく生えていて、目つきは悪かった。男は黙ったまま十数秒ほどナオキを一点に見つめた後で口を開く。
「お前も俺と同じ境遇か?」
同じ境遇か?同じチョッキを着ていることしか情報はないがおそらくそうだ。
「あなたもここに霊を調査しに来たんですよね?」
今度はちゃんと息を吸ってしっかり声に出した。男は言葉を聞き終えると表情を変えないまま頷き、片手を胸元まで上げて指だけで手招きをする。
ナオキはその指示に従った。前に構えた手は下げたが警戒心を内に秘め男に近づく。
その間も他の3人はうつむいたまま。おじさんは挑戦者だとしてこいつらは誰だ。こんな子供が同じ挑戦者ではあるまいし。
「そのチョッキ……あなたもここへ100億円の為に来た。間違いないですね?」
「ああ」
「じゃあ僕たちは味方……ですよね?」
「ああ、協力しよう。今の状況を教えてやる」
男はガサガサとした低い声で言った。協力しようと言う割には友好的な態度を取るわけではなく、ナオキの体を足から頭の先まで舐めるように見てきた。
向こうも警戒しているのか。そしてそのやり取りの中、頭をよぎったことが一つある。ユミコちゃんは迷彩柄のチョッキを着ていなかったなあ。バーカウンターのじいさんはともかく。
そんなことは今は重要ではないが男を信頼していいのか確かめるため聞いた。
「ユミコさんをご存知ですか?あなたがここに来る前の空間へ、洋館へ入った時に一緒だった茶髪の女性のことです」
…………………。
「座れ」
「え?」
「いいから早く座れ」
男が前を見て、より険しい目つきになり命令してきた。
テーブルの周りにはイスが6個あり、ナオキの前、男の隣の席も1つ開いているが……。
動かないナオキに男が顔を短く振り、目であそこを見ろと言う風に合図して部屋の入口へナオキの視点を移動させた――。
そこにはドアの間から部屋を覗く巨大な顔があった。
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