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・応募から入館

第2話 言うまでもなく

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 怖いものに対する耐性は人よりも自信があった。ホラー映画も好きだし、ゾンビものの海外ドラマのファンでシリーズも追っていて、スリルを楽しむため深夜に1人で部屋を暗くして見ることもあった。

 信憑性を確かめたいため、まずは投稿しているアカウントのプロフィールを確認する。フォロワー数20万……他に投稿されている画像や動画は、パーティ会場での自撮りに所有する船での旅の様子……真っ白な皿にのせられきめ細かく脂の線が見えるステーキに金色の時計。少なくとも本物の金持ちであることは間違いなさそうだ。

 オズオワールグループってなんだっけ?スマホで検索してみる。なんのことはなくナオキが詳しく知らなかっただけで押しも押されもせぬ大企業だった。主に海外に事業を展開している何でもやっている企業らしい。そういえば色んなCMの最後にオズオワールグループの名前がチラッと出たり天使の羽のようなグループのロゴを所々で目にしている。

 本物っぽいな…………。幽霊屋敷で幽霊を何体か相手すれば100億円か……。100億円……?100億円だと?…………ゴクリ。

 ナオキは音が部屋に響くほど喉を鳴らしてしまった。100億円なんてものが手に入れば天国なんてものではない。言うまでもなく一生遊んで暮らせる額だ。もう二度と働く必要はなくなり、部屋でダラダラしていても衣食住に困ることなんてないのだから親からも誰からも文句もクソもなくなる。

 スマホを操る指を止めてだらしなく伸びてきた爪をぼんやり眺め、頭を働かせるのに集中した。

 俺には今守るべき妻や子供もいなければ彼女すらいない。さらに挑戦する為に捨てなければならない地位もないし、正直卑しく100億円に群がるのを恥ずかしいと感じるプライドもない。この先の人生の目標は未定という状況なので100億円もらえるのであればありがたく頂いて人の力で勝ち組になりたい。

 ダメでもともとだ。応募ファームに繋がるであろうURLを好奇心に任せたまま軽くタップする。

 より詳細なことが知りたい。特に募集条件だ。応募ファームというものがあるからにはおそらく誰でも何人でも参加してよいものではないのだろう。グループで参加するのはありなのだろうか?複数人で参加するほうが当然心強い。とは言っても誘って一緒に行ってくれそうな仲の友達がナオキにはいなかった。

 応募資格の欄には「20歳以上の勇気ある者 女性可」とだけ書かれていた。なるほど……選考人数についても未定と……。うーん、とりあえず応募資格は自分にもあるようだが説明不足だ。一番気になっていたところの確認を終えると、上にスワイプして今回の件の説明文をちゃんと読んでみた。

「【洋館調査で100億円応募ファームです】興味を持って頂いてありがとうございます。

 こちらの応募ファームから挑戦者に立候補された方をオズオワールグループ代表伊良部和夫を中心にグループスタッフが審査して、今回の件に挑戦するに相応しい人物を選びます。

 挑戦内容は幽霊が住んでいると言われる洋館内に入ってもらい幽霊を捜索、発見した場合はその特徴を記録、可能であれば除霊(調査道具、除霊道具はこちらで支給します)です。具体的にどの程度の調査が必要なのかは選ばれた方だけに説明させて頂きます。

 調査結果の報告を完了できた方にはオズオワールグループ代表伊良部より100億円の謝礼を差し上げます。

※もし洋館を隅々まで探し回った結果、幽霊を発見できなかった場合にも相応の謝礼をだします。

 プロアマ問いません。この挑戦における我々の目的は幽霊という未知の存在を研究して明らかにすることです。」

 具体的にどの程度の調査が必要なのかは選ばれた人にしか説明しないというところが引っかかるが、プロアマ問わないと幽霊がいなくても謝礼がもらえるという二つの文がナオキの指をスマホの上で走らせた。

 年齢、氏名、住所、メールアドレス、電話番号……そして職業も本当のことを書いた。そして自己アピールの欄が出てくる。これもまあ今のありのままの気持ちを書けばいいか。この件の説明文を見る限りでは、道具はこちらで支給ということなどから一般人に優しく、身体能力が高い人や寺のお坊さんを採用するというわけじゃない気がする。あの伊良部という男にどういう意図があるのか分からないが嘘をついて選ばれても仕方ないし。

 一応目立ちやすいように人生に絶望しています……ホラー映画は昔から大好きです……という内容で少し誇張して自己アピールの欄を埋めた。

 そして、無ければどうしても100億円がほしい人間やイタズラで大量に応募がきてしまうだろうから組み込まれていると思われる電話番号当てに届く認証コードの入力を終えて、バンジージャンプの前に書かされる同意書のようにいかなる危険に巻き込まれても文句を言いませんという内容の文の下にある「同意する」にチェックを入れた。

 平日の昼前、まだちゃんとベッドから起き上がってない頭の状態でナオキは挑戦者になる意を送信した。
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