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先生
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皆お互い初対面だろうから、それほど話し声がしていたわけではない教室は完全に静まって、教卓へ注目が集まる。理解はできていないが、とりあえず指示通り自分の席に座わる。皆そんな様子だった。
「初めまして。このA組の担任です」
男は言うまでもないことのようにさらりと話し出す。見たところは年齢は20代前半の新任教師かもっと若い大学生の研修教員みたいだった。
「これからいつまでになるか分かりませんが、皆さんの最も身近な先生になるので、どうぞよろしくお願いします」
こめかみを指で書きながら短いお辞儀をする先生を名乗る男。生徒の数人が返して短く頭を下げる。
「まずはね、ここにいる全員で自己紹介をしてもらおうと思います。名簿に書いてある名前と顔も一致させたいですし。先生が最初に自己紹介するので、その後にそっちの列から順に1人ずつやっていってもらいます」
指差されたのはジュンだった。サクタと同じ列の一番前に座っているので自己紹介が始まればサクタの番が来るのは早い。
それにしても、すごく学校の初日らしいイベントが始まったものだ。サクタは机に肘をついて手に頬を乗せる。
「先生の名前はサクランボです。実際にはちゃんと別の名前があるのですが、ここでは――皆さんは、そう呼んでください。これはリンゴ先生の指示で、僕以外の各クラスの先生もそれぞれ果実の名前がリンゴ先生につけられました。僕は、今から10年前……惑星間で戦争が起こる20年前にリンゴ先生に集められた、皆さんと同じ人間です」
その平坦な感情で語られた言葉を聞いたサクタはなんとなくヒロキを目で探して、見つけると丸くなった目と目が合った。サクタ自身もおそらく目が丸くなってしまっている。
「……もう察しが付いている人もいると思いますが、先生も10年前に10歳に戻りました。そして今、今度は自分が教える立場になってここに立っています。……まあ、とりあえず先生の自己紹介はこれくらいでいいですかね。一通り自己紹介が終わってから先生の方針なんかを話しておきます。じゃあ――」
サクランボ先生は目にかかるか、かからないかくらいの短い黒色の前髪を分けながらまたこめかみに指を持っていく。そうしながらジュンのほうへ向いた。
「短くていいので、その場で立って名前と軽い自分の紹介――趣味とかこれからの抱負を」
「えっと……」
サクタの席までは聞こえるくらいの息を吐いてから立ち上がったジュンの自己紹介が始まる。既に知り合った仲なので顔が熱くなってしまうような感覚がサクタにも伝わってきた。
「入山……ジュンです。趣味は読書で、気になった本はどんなジャンルでも読みます。えっと……ここでは、昨日までは、絶対に知ることができなかった事を勉強したいです。よろしくお願いします」
教室内でパラパラと短い拍手が起こってジュンが座る。皆見た目通り子供なら大きな拍手が起こるところだろうが皆それぞれこの状況に思うことがあるはず。
「じゃあ、その後ろの人」
紙を挟む筆記用のグリップボードに何か書き込みながらサクランボ先生が指示する。
「初めまして。宇佐美 加奈です――――」
「及川 健です。――――」
ジュンとの間の人の自己紹介は名前だけ聞いて、後の当たり障りのなさそうな趣味や特技の話の部分では自分が何を言うか考えた。そして、サクタの番がやってくる。
「春日 サクタです。これといった趣味はなくてその時々で色んな事にハマるタイプです。これからの生活に不安もありますが、やるからには真剣に取り組んで、この世界で何かを成したいという気持ちで来ました。よろしくお願いします」
最初に全体に向けた自己紹介としては少し重いかもしれないと思ったが、これからの自分の豊富をしっかり胸に刻むためにも言った。これからはなあなあではなく、大きな目標を持って生きたい。
拍手の中で自分に集まる目線に臆さず、堂々とそれぞれの目を見た。会釈をして席に座ると、その後も1人ずつ、40人の生徒自己紹介が続いた――
内に秘める精神は大人のクラスでは子供のときよりそれぞれが持つ個性は強くて、お酒を飲むのが好きという子供もいた。耳にピアスを付けた化粧をしている女子に、寒くもないのに毛糸の手袋をしている男子。ヒロキもサクタやジュンにした時のように明るく自己紹介をしていた。
「橋本 真歩です。ピアノを弾くのが好きで、気に入った曲を見つけると弾けるようになるまで練習します」
橋本さんって……マホちゃんっていうんだ。
最後から二番目の列で自己紹介を始めた女子は、昨日同じ公園からここに来た大学生らしき女だった。子供になるとぱっと見じゃ分からないものだとサクタは昨日のマホを頭の中で隣に並べながらじっと見た。溢れんばかりだった胸は見る影もなくて、残念に思った。
「はい。みなさんありがとうございました……」
最後のクラスメイトの自己紹介が終わって、拍手の響きまで消えるとサクランボ先生が再び話を始める。ボードに書き込んでいた手を止めて、子供たちを見下ろす目は先ほどより開いていた。
「皆さん、元は大人なだけあって良い自己紹介だったと思います。それでですね。僕の教育方針なんですけど、正直リンゴ先生の明るく楽しくというのは気に入らない。地球を守る戦争の為の教育方針がこれじゃあね」
明るく楽しくなんてタイプには見えていなかったが、サクランボ先生はそれをはっきりと否定した。
「初めまして。このA組の担任です」
男は言うまでもないことのようにさらりと話し出す。見たところは年齢は20代前半の新任教師かもっと若い大学生の研修教員みたいだった。
「これからいつまでになるか分かりませんが、皆さんの最も身近な先生になるので、どうぞよろしくお願いします」
こめかみを指で書きながら短いお辞儀をする先生を名乗る男。生徒の数人が返して短く頭を下げる。
「まずはね、ここにいる全員で自己紹介をしてもらおうと思います。名簿に書いてある名前と顔も一致させたいですし。先生が最初に自己紹介するので、その後にそっちの列から順に1人ずつやっていってもらいます」
指差されたのはジュンだった。サクタと同じ列の一番前に座っているので自己紹介が始まればサクタの番が来るのは早い。
それにしても、すごく学校の初日らしいイベントが始まったものだ。サクタは机に肘をついて手に頬を乗せる。
「先生の名前はサクランボです。実際にはちゃんと別の名前があるのですが、ここでは――皆さんは、そう呼んでください。これはリンゴ先生の指示で、僕以外の各クラスの先生もそれぞれ果実の名前がリンゴ先生につけられました。僕は、今から10年前……惑星間で戦争が起こる20年前にリンゴ先生に集められた、皆さんと同じ人間です」
その平坦な感情で語られた言葉を聞いたサクタはなんとなくヒロキを目で探して、見つけると丸くなった目と目が合った。サクタ自身もおそらく目が丸くなってしまっている。
「……もう察しが付いている人もいると思いますが、先生も10年前に10歳に戻りました。そして今、今度は自分が教える立場になってここに立っています。……まあ、とりあえず先生の自己紹介はこれくらいでいいですかね。一通り自己紹介が終わってから先生の方針なんかを話しておきます。じゃあ――」
サクランボ先生は目にかかるか、かからないかくらいの短い黒色の前髪を分けながらまたこめかみに指を持っていく。そうしながらジュンのほうへ向いた。
「短くていいので、その場で立って名前と軽い自分の紹介――趣味とかこれからの抱負を」
「えっと……」
サクタの席までは聞こえるくらいの息を吐いてから立ち上がったジュンの自己紹介が始まる。既に知り合った仲なので顔が熱くなってしまうような感覚がサクタにも伝わってきた。
「入山……ジュンです。趣味は読書で、気になった本はどんなジャンルでも読みます。えっと……ここでは、昨日までは、絶対に知ることができなかった事を勉強したいです。よろしくお願いします」
教室内でパラパラと短い拍手が起こってジュンが座る。皆見た目通り子供なら大きな拍手が起こるところだろうが皆それぞれこの状況に思うことがあるはず。
「じゃあ、その後ろの人」
紙を挟む筆記用のグリップボードに何か書き込みながらサクランボ先生が指示する。
「初めまして。宇佐美 加奈です――――」
「及川 健です。――――」
ジュンとの間の人の自己紹介は名前だけ聞いて、後の当たり障りのなさそうな趣味や特技の話の部分では自分が何を言うか考えた。そして、サクタの番がやってくる。
「春日 サクタです。これといった趣味はなくてその時々で色んな事にハマるタイプです。これからの生活に不安もありますが、やるからには真剣に取り組んで、この世界で何かを成したいという気持ちで来ました。よろしくお願いします」
最初に全体に向けた自己紹介としては少し重いかもしれないと思ったが、これからの自分の豊富をしっかり胸に刻むためにも言った。これからはなあなあではなく、大きな目標を持って生きたい。
拍手の中で自分に集まる目線に臆さず、堂々とそれぞれの目を見た。会釈をして席に座ると、その後も1人ずつ、40人の生徒自己紹介が続いた――
内に秘める精神は大人のクラスでは子供のときよりそれぞれが持つ個性は強くて、お酒を飲むのが好きという子供もいた。耳にピアスを付けた化粧をしている女子に、寒くもないのに毛糸の手袋をしている男子。ヒロキもサクタやジュンにした時のように明るく自己紹介をしていた。
「橋本 真歩です。ピアノを弾くのが好きで、気に入った曲を見つけると弾けるようになるまで練習します」
橋本さんって……マホちゃんっていうんだ。
最後から二番目の列で自己紹介を始めた女子は、昨日同じ公園からここに来た大学生らしき女だった。子供になるとぱっと見じゃ分からないものだとサクタは昨日のマホを頭の中で隣に並べながらじっと見た。溢れんばかりだった胸は見る影もなくて、残念に思った。
「はい。みなさんありがとうございました……」
最後のクラスメイトの自己紹介が終わって、拍手の響きまで消えるとサクランボ先生が再び話を始める。ボードに書き込んでいた手を止めて、子供たちを見下ろす目は先ほどより開いていた。
「皆さん、元は大人なだけあって良い自己紹介だったと思います。それでですね。僕の教育方針なんですけど、正直リンゴ先生の明るく楽しくというのは気に入らない。地球を守る戦争の為の教育方針がこれじゃあね」
明るく楽しくなんてタイプには見えていなかったが、サクランボ先生はそれをはっきりと否定した。
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