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隣人
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「はーい」
咄嗟に発した声が若くて驚いた。昔の自分の声など忘れていたので、一瞬部屋の中の他の誰かが返事をしたのかと思うほど。
「隣の部屋のもんなんだけど、挨拶しておこうと思ってさ」
ドアに近づくと、足音で近くまで来たのが分かったのか、ドアの向こうにいる少年の声が言う。サクタが目と同じ高さにあるドアノブを握って開けると、そこには活発そうな少年がいた。
「おお、入っていいかな?」
「……。どうぞ」
「お邪魔しまーす」
相手が少年だからか家に入れるのに抵抗は無かった。それにサクタも、同じようにここに来た人間と話がしてみたい。
「良い部屋だなあ。あ、この漫画俺も呼んでる!」
少年は小走りでずけずけとサクタの部屋へ入り込んだ。サクタよりも前を進んで。
「…………それにしてもさ、めちゃくちゃテンション上がらねえか。俺たち今、映画の中にいるみたいだろ」
上を見て天井を仰いでからサクタに振り向いた少年が言った。その目の輝きにつられてサクタの目も輝く――。
「俺、ヒロキ。サクタで合ってるよね君の名前?」
「うん」
「これからよろしくな。俺左隣の部屋だから」
「よろしく」
子供の頃でも自己紹介で握手なんてしていなかったが、ヒロキが手を前に出してきたのでお互いの手を握った。小麦色に日焼けしたヒロキの手、真っ直ぐな目。まだ出会ったばかりだが纏う雰囲気で気が合いそうだと思った。サクタも叫びたいほど今この状況に興奮しているのだ。
「マジでテンション上がるよな。ベッド座ってもいいよ」
サクタがパンフレットを手に取り、ベッドに座りながら言った。
「うん。何か全てから解放されたというか。まあ、昨日までの生活が最悪だったわけじゃないけど。なんか旅行に来たみたいな気分。リンゴ先生にいきなり声かけられた時は何事かと思ったけど」
「あの人最初に見た時、夜の街の人かと思ったよ。格好もとんでもないし」
「でも綺麗だよな。神様って名乗る割に若いし。神様って年取んねえのか、それとも姿を変えてんのかも――」
「そんな感じするよな。作られた人形みたいな。指を鳴らすだけで俺たちを子供にするくらいだから、何でもできそう」
「子供になる時の感覚すごかったよな。グニュグニュってきたと思ったらあっという間に――大人になって持ってしまった悪い体質が全部抜けてくみたいな。今、体すっごい軽くない?」
「うんうん。めっちゃ軽い!子供の時ってこんなだったっけ?」
同じ考えられない出来事を経験したばかりなので、共感が重なりどんどん話が盛り上がった――。
「――それでよお、俺は騙されるつもりでリンゴ先生が指定した場所に行くことを決めたね。あのおじさんには二度と会いたくねえ」
「俺は漠然と何か人生変えられないかなって思ってたから割とすぐ決めたかな。さっきだって悩まずに漫画読んでたし」
「そうなんだ。……うーん」
ずっと笑いが絶えない会話だったがヒロキが喉から低い音を出して下唇を持ち上げた。
「俺さあ、後悔の繰り返しの人生だったから、もう後悔したくないって気持ちもあったんだよな。なりたいもん全部諦めて、適当な会社に勤めてさ。俺、こうやって子供になる前は27歳だったんだ」
「それって、過去の話は駄目なんじゃ……」
「過去を詮索するのがダメなんだろ。自分から言うならオッケーだろ。話しづらいこと話したほうが仲良くなれると思うから俺は言うよ。何も人に自慢できることがないサラリーマンだった。自分は特別じゃない。でも、それでもいいって言い聞かせながら生きてた」
容姿とは裏腹な悩みの話に、ヒロキの口調も大人になる。この話を聞いたことで初対面のサクタとヒロキの間にあった壁は無くなった。
「俺もそんなもんだな。つーか同い年だ。俺たち」
「マジで?」
「うん。すげー偶然だな。色んな人がいたのに。俺も普通の会社勤めだった」
「あっはは。お前とはこれから良い関係になれそうだな」
「おう」
気が合う性格の人と仲良くなるのに時間はかからないものだ。よく似合うヒロキの笑顔を見てサクタはそう思った。
「――それでさあ、俺もう片方の隣の部屋の奴にも会いに行こうと思ってるんだけど一緒に行かね?まだ眠れないでしょ」
「お前、なかなかな社交的な性格してるな。たしかに全然眠くないし、俺も行ってみるか」
「よし、じゃあさっそく行くか」
そうと決まればすぐ行動するタイプらしいヒロキの後について、サクタの部屋からは隣の隣にある部屋を二人で訪ねた。
外から見る玄関のドアの形は廊下にあるものすべてが同じだが、ドアの向こうには部屋主の元々住んでいた家がある。ドアの横のプレートには「入山 純」と書かれていた。
「おーい。ジュンくん。まだ起きてますかー?」
プレートで名前を確認したヒロキがノックをしてからドアに顔を近づける。自分のときもそうだったが何で呼び出し方まで子供の頃のようなのだろうか
「もう寝たのかな?」
「そうかもな」
時刻はもう午前1時に差し掛かっていた。廊下に電気は点いているがしーんとしていて、サクタもいつもなら寝ている時間。
「隣の部屋の者ですけど、挨拶しておこうと思って」
今度はサクタがドアに向こうへ声を伸ばした……。しかし、数秒耳を澄ましてみても返事はなかったので「また明日にしようか」とサクタが言いかけたときにドアが開く。
「ふぁーあ。こんばんはー」
奥が暗く玄関だけ明かるい部屋から出てきたのはメガネをかけた素朴な少年だった。欠伸をしながら自然なパーマがかかった頭をかいている。
咄嗟に発した声が若くて驚いた。昔の自分の声など忘れていたので、一瞬部屋の中の他の誰かが返事をしたのかと思うほど。
「隣の部屋のもんなんだけど、挨拶しておこうと思ってさ」
ドアに近づくと、足音で近くまで来たのが分かったのか、ドアの向こうにいる少年の声が言う。サクタが目と同じ高さにあるドアノブを握って開けると、そこには活発そうな少年がいた。
「おお、入っていいかな?」
「……。どうぞ」
「お邪魔しまーす」
相手が少年だからか家に入れるのに抵抗は無かった。それにサクタも、同じようにここに来た人間と話がしてみたい。
「良い部屋だなあ。あ、この漫画俺も呼んでる!」
少年は小走りでずけずけとサクタの部屋へ入り込んだ。サクタよりも前を進んで。
「…………それにしてもさ、めちゃくちゃテンション上がらねえか。俺たち今、映画の中にいるみたいだろ」
上を見て天井を仰いでからサクタに振り向いた少年が言った。その目の輝きにつられてサクタの目も輝く――。
「俺、ヒロキ。サクタで合ってるよね君の名前?」
「うん」
「これからよろしくな。俺左隣の部屋だから」
「よろしく」
子供の頃でも自己紹介で握手なんてしていなかったが、ヒロキが手を前に出してきたのでお互いの手を握った。小麦色に日焼けしたヒロキの手、真っ直ぐな目。まだ出会ったばかりだが纏う雰囲気で気が合いそうだと思った。サクタも叫びたいほど今この状況に興奮しているのだ。
「マジでテンション上がるよな。ベッド座ってもいいよ」
サクタがパンフレットを手に取り、ベッドに座りながら言った。
「うん。何か全てから解放されたというか。まあ、昨日までの生活が最悪だったわけじゃないけど。なんか旅行に来たみたいな気分。リンゴ先生にいきなり声かけられた時は何事かと思ったけど」
「あの人最初に見た時、夜の街の人かと思ったよ。格好もとんでもないし」
「でも綺麗だよな。神様って名乗る割に若いし。神様って年取んねえのか、それとも姿を変えてんのかも――」
「そんな感じするよな。作られた人形みたいな。指を鳴らすだけで俺たちを子供にするくらいだから、何でもできそう」
「子供になる時の感覚すごかったよな。グニュグニュってきたと思ったらあっという間に――大人になって持ってしまった悪い体質が全部抜けてくみたいな。今、体すっごい軽くない?」
「うんうん。めっちゃ軽い!子供の時ってこんなだったっけ?」
同じ考えられない出来事を経験したばかりなので、共感が重なりどんどん話が盛り上がった――。
「――それでよお、俺は騙されるつもりでリンゴ先生が指定した場所に行くことを決めたね。あのおじさんには二度と会いたくねえ」
「俺は漠然と何か人生変えられないかなって思ってたから割とすぐ決めたかな。さっきだって悩まずに漫画読んでたし」
「そうなんだ。……うーん」
ずっと笑いが絶えない会話だったがヒロキが喉から低い音を出して下唇を持ち上げた。
「俺さあ、後悔の繰り返しの人生だったから、もう後悔したくないって気持ちもあったんだよな。なりたいもん全部諦めて、適当な会社に勤めてさ。俺、こうやって子供になる前は27歳だったんだ」
「それって、過去の話は駄目なんじゃ……」
「過去を詮索するのがダメなんだろ。自分から言うならオッケーだろ。話しづらいこと話したほうが仲良くなれると思うから俺は言うよ。何も人に自慢できることがないサラリーマンだった。自分は特別じゃない。でも、それでもいいって言い聞かせながら生きてた」
容姿とは裏腹な悩みの話に、ヒロキの口調も大人になる。この話を聞いたことで初対面のサクタとヒロキの間にあった壁は無くなった。
「俺もそんなもんだな。つーか同い年だ。俺たち」
「マジで?」
「うん。すげー偶然だな。色んな人がいたのに。俺も普通の会社勤めだった」
「あっはは。お前とはこれから良い関係になれそうだな」
「おう」
気が合う性格の人と仲良くなるのに時間はかからないものだ。よく似合うヒロキの笑顔を見てサクタはそう思った。
「――それでさあ、俺もう片方の隣の部屋の奴にも会いに行こうと思ってるんだけど一緒に行かね?まだ眠れないでしょ」
「お前、なかなかな社交的な性格してるな。たしかに全然眠くないし、俺も行ってみるか」
「よし、じゃあさっそく行くか」
そうと決まればすぐ行動するタイプらしいヒロキの後について、サクタの部屋からは隣の隣にある部屋を二人で訪ねた。
外から見る玄関のドアの形は廊下にあるものすべてが同じだが、ドアの向こうには部屋主の元々住んでいた家がある。ドアの横のプレートには「入山 純」と書かれていた。
「おーい。ジュンくん。まだ起きてますかー?」
プレートで名前を確認したヒロキがノックをしてからドアに顔を近づける。自分のときもそうだったが何で呼び出し方まで子供の頃のようなのだろうか
「もう寝たのかな?」
「そうかもな」
時刻はもう午前1時に差し掛かっていた。廊下に電気は点いているがしーんとしていて、サクタもいつもなら寝ている時間。
「隣の部屋の者ですけど、挨拶しておこうと思って」
今度はサクタがドアに向こうへ声を伸ばした……。しかし、数秒耳を澄ましてみても返事はなかったので「また明日にしようか」とサクタが言いかけたときにドアが開く。
「ふぁーあ。こんばんはー」
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