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『ミルコット・ホールデン 職業:Sランク冒険者――』
『親しい人からはミルコと呼ばれている。年齢は21歳。性別は女。通り名は――かみなり様』
彼女はギルドの中の、特にやばい人間の1人だ。
俺にとってはギルド内で最も古くから付き合いがある人物で、過ごした時間も最も長く、冒険者見習いである俺の師匠でもある。
ちなみに、彼女のほうから一方的に強引に師匠になった。
そして今も、強引にAランククエストに連れていかれている――――。
「おお、見えた!あの山だろ!」
「この辺で1番高い岩山って話だったのでたぶんそうですね」
「よーし、あの山の麓の洞窟にメタルドラゴンがいるんだな。久しぶりに骨がありそうな獲物だぜ!」
「……てか、そろそろ下ろしてください!」
人里から20~30キロは離れたかという山岳地帯。大小さまざまな岩と砂でほとんどが形作られていて、緑は低木と草だけ。当然人の気配はないし、道は整備されていない。
そんな場所に俺とミルコはやってきていた。
既にクエストの依頼者には会っていて、メタルドラゴンの討伐を受け持つことは伝えてある。
その時に少しだけ下ろしてもらえたんだけど、居場所についての説明が終わった途端、まーたエンジン全開。
まだ背が150cmほどしかない俺は丸太のように担がれて…………ギルドを出てからというもの、ほぼずっと荷物のように運ばれている状態にあった。
朝からギルドにやってきたと思ったら、1分も滞在せずに見習いの俺をAランククエストへと引っ張り出した。あまりにも自分勝手な女冒険者である。
そして、そろそろ体勢がきついっ――。
「ああ?下ろせだあ?下ろしたらお前が私のスピードに付いてこれなくて、はぐれちゃうかもしれないだろ。私とはぐれたら危ないぞ。ここらには強い魔物も生息してるみたいだし」
「危ないなら連れて来ないでくださいよ!しかも!防具も装備させずに!」
「お前がいなかったら誰が依頼人とやり取りするんだよ。私はそういうの嫌いなんだよ」
「せめてこんな風にいきなり連れて行くのはやめてください。俺なんてまだ朝ご飯も食べてない………」
「ん、朝ご飯?私はちゃんと食べてきたけど、そういえばもう昼飯時だな。腹が減った気がする……どうするかな……」
岩から岩へ飛び移りながら移動していたミルコは急に足を止めて、何やら考え始める……。
「よし!」
俺が地面を見つめること数秒間――次にミルコの声が聞こえると、胸を押さえられるような圧迫感が訪れた――――。
見ていた地面が遠くなり、先ほどまで居た大岩が小石に変わっていく――。
息が止まる中で、一瞬遅れて理解する――。ミルコがその場でやばい高さまで垂直飛びをしたのだ――。
「え、ちょ――」
「うーん……何か食いもんはねえかな……お!見ろ!近くに湖があったぞ!」
どこかを掴まなければ。咄嗟にそう思ったけれど、露出の多い装備をしているミルコに掴める場所は無くて、最高到達点まで達すると、俺はスカイダイビングのような姿勢になった。
「さて、お魚さんいるかなっ!」
強風が顔に当たり始める――。
だけど、やばいことになっている俺なんて全くお構いなしで、ミルコは手を上げ、湖めがけて振り下ろす――。
ミルコの手が一瞬光ったと思ったら、次の刹那には耳をつんざくような衝撃音――。
パニックになっていて見ることはできなかったけれど、ミルコが湖へ得意の雷魔法を放ったことは頭の片隅で分かった。
「ぎゃああああああああああ」
さらには、魔法陣で空中に足場を作り出し、湖のほうへ一直線に急降下し始めると、俺の喉からは情けない声が飛び出した――――。
「……よしククル、火を起こしてくれ」
気づけば湖のほとりに立っていた俺は、仁王立ちのミルコに言われる。
足に力が入らなくて、一歩踏み出そうとしたらその場に座り込んでしまう。
視界に広がる湖には、大小さまざまな魚たちが痙攣しながら浮いていた…………。
――このミルコという女冒険者の何がやばいかはたぶん、一緒に過ごせば数分で分かる。
まずは何と言ってもその性格。美しい顔から受ける第一印象とは全くの逆!乱暴、我儘、強気、勝気、自己中、野性的、がさつ、負けず嫌い、マイペース…………。
豪快な男と聞いて連想する性格をコンプリートしてしまっている。
男勝りを通り越して、美女の皮を被った男のような生物である。豪快過ぎて細かいことは気にしないどころか、大きなことも気にしない。
他人への関心もあまり無い彼女だが、俺は気に入られていた――。彼女のほうから冒険者になりたいのであれば、師匠になってやると言ってくるほどだ――。
理由はきっと面倒臭がりの彼女にとって雑用がいると便利だから。何であれ、それほど気に入られたのはいいのだけど…………。
「この魚うめえな、ククル」
「はい……」
「まだまだいっぱい湖に浮いてっから好きなだけ食えよ」
言いながらミルコはまた魚を1匹平らげたので、俺は新たな魚を焚火の周りに追加した。
「まあ魚はおいしいですが……」
「どうした?」
「Aランクのクエストに、こんな軽いノリで来て大丈夫なのかなって……」
――ミルコに師匠としての才能はまるで無かった。まず、弟子である俺の扱いが余りにも雑。
冒険者見習いをAランクの討伐クエストに連れていくなんてのは、相当ぶっ飛んでいる案件だ。
この世界にはS~Fランクのクエストがあるが、Aランクの討伐クエストともなると、その数はかなり少ない。危険度としては中規模の町を壊滅させられるレベル以上の魔物を相手にすることになる。
Fランクですらない人間は常識的に考えて、絶対に連れていってはいけない
しかもこんなことは初めてじゃない。ミルコはいつも自らの気分と勘でその日に受けるクエストを選んだ。つまり、俺のことは気にせず危ないクエストにもバシバシ行く。
俺の師匠になって、初めて稽古をつけてやると連れて行ったクエストがCランクだったのは今でも覚えている。初めてなら普通はスライムとかの相手をさせると思うのだが、ミルコはケルベロスだった。
しかも討伐対象と出くわすと、戦闘経験のない弟子を剣1本の装備で、ケルベロスの前へ投げ込んだ。
当然死にかけたし……よく生きていられたなと思う。
あと普通に剣術とか魔法を教えるのも感覚的すぎて下手だ――。
「大丈夫だって。万に一つも負けやしねえよ」
「いや、ミルコさんは大丈夫でしょうけど俺がね……」
「っぷはー!染みるぅー!」
「って何飲んでるんですか?」
聞かなくても焚火の向こう側にいるミルコが酒瓶を持っているのは分かった。
「酒だよ酒。ギルド出る時に黙って1本盗ってきた」
ミルコが酒瓶を頬に付けて、ピースする。
「魔物と戦う前にお酒はダメでしょ!」
「バカ野郎!酒1杯くらいなら飲んだうちに入らねえよ。むしろ感覚が冴えて1番のパフォーマンスができるってもんよ」
「え?」
「Aランクの魔物、メタルドラゴンをまさか舐めてるなんてことはねえ」
「そう……なんですか?」
「なんなら賭けてみるか?私が勝つか負けるか?」
「いや、それはいいですけど」
「強敵だと認めているからこそ気合入れる為に飲んでんだ。私は魔王と戦うことになったとしても、その前に酒を飲むね。死ぬときは愛する酒と一緒に死ねるようにもな」
と、酒への愛を語る彼女は21歳。この世界でも合法で酒を飲める年齢になってから1年しか経ってない年齢である。
さらにミルコのやばいところを語るのであれば、好きなものがお酒と賭け事なことだろうか。
誰かと飲むことが好きだとか、ポーカーや競馬が好きなのではなくて、ひたすらにお酒と賭け事を愛している。冒険者として活動していない日は、お酒を片手にどこか賭けを楽しめる場所に1日中いることが多い。
この性格で趣味がこれなので、酔っ払って誰かを殴ったとか、賭けに負けた日に絡んできた相手を殴ったとか、お酒と賭け事の失敗エピソードは無限にあって、話せばキリがなくなる。
そんな日本で言う、昼間からパチンコ店や競馬場にいる汚いおじさんみたいなミルコ。
もう1度言うが、21歳の美女だ。
「さて、腹も満たされたし、そろそろ行くとするか」
「はい」
「旨かったぜククル、ありがとな」
炭になった焚火に水をかけているとミルコが言った。
「え」
「焚火の処理もしてくれてありがとう。私はお前がいないとやっていけない。いつも感謝してるよ」
「いや、別にそんな」
「愛してるぜ――」
めちゃくちゃな師匠だが、何故だか日常的にストレートな感謝を口にする。
性格を知っていても思わず見とれてしまうほどの美人が、いつもやばいほど純粋で――やばいほど綺麗な笑顔で言うものだから――。
いくら振り回されても、俺はミルコのことを嫌いになれないでいた――。
『親しい人からはミルコと呼ばれている。年齢は21歳。性別は女。通り名は――かみなり様』
彼女はギルドの中の、特にやばい人間の1人だ。
俺にとってはギルド内で最も古くから付き合いがある人物で、過ごした時間も最も長く、冒険者見習いである俺の師匠でもある。
ちなみに、彼女のほうから一方的に強引に師匠になった。
そして今も、強引にAランククエストに連れていかれている――――。
「おお、見えた!あの山だろ!」
「この辺で1番高い岩山って話だったのでたぶんそうですね」
「よーし、あの山の麓の洞窟にメタルドラゴンがいるんだな。久しぶりに骨がありそうな獲物だぜ!」
「……てか、そろそろ下ろしてください!」
人里から20~30キロは離れたかという山岳地帯。大小さまざまな岩と砂でほとんどが形作られていて、緑は低木と草だけ。当然人の気配はないし、道は整備されていない。
そんな場所に俺とミルコはやってきていた。
既にクエストの依頼者には会っていて、メタルドラゴンの討伐を受け持つことは伝えてある。
その時に少しだけ下ろしてもらえたんだけど、居場所についての説明が終わった途端、まーたエンジン全開。
まだ背が150cmほどしかない俺は丸太のように担がれて…………ギルドを出てからというもの、ほぼずっと荷物のように運ばれている状態にあった。
朝からギルドにやってきたと思ったら、1分も滞在せずに見習いの俺をAランククエストへと引っ張り出した。あまりにも自分勝手な女冒険者である。
そして、そろそろ体勢がきついっ――。
「ああ?下ろせだあ?下ろしたらお前が私のスピードに付いてこれなくて、はぐれちゃうかもしれないだろ。私とはぐれたら危ないぞ。ここらには強い魔物も生息してるみたいだし」
「危ないなら連れて来ないでくださいよ!しかも!防具も装備させずに!」
「お前がいなかったら誰が依頼人とやり取りするんだよ。私はそういうの嫌いなんだよ」
「せめてこんな風にいきなり連れて行くのはやめてください。俺なんてまだ朝ご飯も食べてない………」
「ん、朝ご飯?私はちゃんと食べてきたけど、そういえばもう昼飯時だな。腹が減った気がする……どうするかな……」
岩から岩へ飛び移りながら移動していたミルコは急に足を止めて、何やら考え始める……。
「よし!」
俺が地面を見つめること数秒間――次にミルコの声が聞こえると、胸を押さえられるような圧迫感が訪れた――――。
見ていた地面が遠くなり、先ほどまで居た大岩が小石に変わっていく――。
息が止まる中で、一瞬遅れて理解する――。ミルコがその場でやばい高さまで垂直飛びをしたのだ――。
「え、ちょ――」
「うーん……何か食いもんはねえかな……お!見ろ!近くに湖があったぞ!」
どこかを掴まなければ。咄嗟にそう思ったけれど、露出の多い装備をしているミルコに掴める場所は無くて、最高到達点まで達すると、俺はスカイダイビングのような姿勢になった。
「さて、お魚さんいるかなっ!」
強風が顔に当たり始める――。
だけど、やばいことになっている俺なんて全くお構いなしで、ミルコは手を上げ、湖めがけて振り下ろす――。
ミルコの手が一瞬光ったと思ったら、次の刹那には耳をつんざくような衝撃音――。
パニックになっていて見ることはできなかったけれど、ミルコが湖へ得意の雷魔法を放ったことは頭の片隅で分かった。
「ぎゃああああああああああ」
さらには、魔法陣で空中に足場を作り出し、湖のほうへ一直線に急降下し始めると、俺の喉からは情けない声が飛び出した――――。
「……よしククル、火を起こしてくれ」
気づけば湖のほとりに立っていた俺は、仁王立ちのミルコに言われる。
足に力が入らなくて、一歩踏み出そうとしたらその場に座り込んでしまう。
視界に広がる湖には、大小さまざまな魚たちが痙攣しながら浮いていた…………。
――このミルコという女冒険者の何がやばいかはたぶん、一緒に過ごせば数分で分かる。
まずは何と言ってもその性格。美しい顔から受ける第一印象とは全くの逆!乱暴、我儘、強気、勝気、自己中、野性的、がさつ、負けず嫌い、マイペース…………。
豪快な男と聞いて連想する性格をコンプリートしてしまっている。
男勝りを通り越して、美女の皮を被った男のような生物である。豪快過ぎて細かいことは気にしないどころか、大きなことも気にしない。
他人への関心もあまり無い彼女だが、俺は気に入られていた――。彼女のほうから冒険者になりたいのであれば、師匠になってやると言ってくるほどだ――。
理由はきっと面倒臭がりの彼女にとって雑用がいると便利だから。何であれ、それほど気に入られたのはいいのだけど…………。
「この魚うめえな、ククル」
「はい……」
「まだまだいっぱい湖に浮いてっから好きなだけ食えよ」
言いながらミルコはまた魚を1匹平らげたので、俺は新たな魚を焚火の周りに追加した。
「まあ魚はおいしいですが……」
「どうした?」
「Aランクのクエストに、こんな軽いノリで来て大丈夫なのかなって……」
――ミルコに師匠としての才能はまるで無かった。まず、弟子である俺の扱いが余りにも雑。
冒険者見習いをAランクの討伐クエストに連れていくなんてのは、相当ぶっ飛んでいる案件だ。
この世界にはS~Fランクのクエストがあるが、Aランクの討伐クエストともなると、その数はかなり少ない。危険度としては中規模の町を壊滅させられるレベル以上の魔物を相手にすることになる。
Fランクですらない人間は常識的に考えて、絶対に連れていってはいけない
しかもこんなことは初めてじゃない。ミルコはいつも自らの気分と勘でその日に受けるクエストを選んだ。つまり、俺のことは気にせず危ないクエストにもバシバシ行く。
俺の師匠になって、初めて稽古をつけてやると連れて行ったクエストがCランクだったのは今でも覚えている。初めてなら普通はスライムとかの相手をさせると思うのだが、ミルコはケルベロスだった。
しかも討伐対象と出くわすと、戦闘経験のない弟子を剣1本の装備で、ケルベロスの前へ投げ込んだ。
当然死にかけたし……よく生きていられたなと思う。
あと普通に剣術とか魔法を教えるのも感覚的すぎて下手だ――。
「大丈夫だって。万に一つも負けやしねえよ」
「いや、ミルコさんは大丈夫でしょうけど俺がね……」
「っぷはー!染みるぅー!」
「って何飲んでるんですか?」
聞かなくても焚火の向こう側にいるミルコが酒瓶を持っているのは分かった。
「酒だよ酒。ギルド出る時に黙って1本盗ってきた」
ミルコが酒瓶を頬に付けて、ピースする。
「魔物と戦う前にお酒はダメでしょ!」
「バカ野郎!酒1杯くらいなら飲んだうちに入らねえよ。むしろ感覚が冴えて1番のパフォーマンスができるってもんよ」
「え?」
「Aランクの魔物、メタルドラゴンをまさか舐めてるなんてことはねえ」
「そう……なんですか?」
「なんなら賭けてみるか?私が勝つか負けるか?」
「いや、それはいいですけど」
「強敵だと認めているからこそ気合入れる為に飲んでんだ。私は魔王と戦うことになったとしても、その前に酒を飲むね。死ぬときは愛する酒と一緒に死ねるようにもな」
と、酒への愛を語る彼女は21歳。この世界でも合法で酒を飲める年齢になってから1年しか経ってない年齢である。
さらにミルコのやばいところを語るのであれば、好きなものがお酒と賭け事なことだろうか。
誰かと飲むことが好きだとか、ポーカーや競馬が好きなのではなくて、ひたすらにお酒と賭け事を愛している。冒険者として活動していない日は、お酒を片手にどこか賭けを楽しめる場所に1日中いることが多い。
この性格で趣味がこれなので、酔っ払って誰かを殴ったとか、賭けに負けた日に絡んできた相手を殴ったとか、お酒と賭け事の失敗エピソードは無限にあって、話せばキリがなくなる。
そんな日本で言う、昼間からパチンコ店や競馬場にいる汚いおじさんみたいなミルコ。
もう1度言うが、21歳の美女だ。
「さて、腹も満たされたし、そろそろ行くとするか」
「はい」
「旨かったぜククル、ありがとな」
炭になった焚火に水をかけているとミルコが言った。
「え」
「焚火の処理もしてくれてありがとう。私はお前がいないとやっていけない。いつも感謝してるよ」
「いや、別にそんな」
「愛してるぜ――」
めちゃくちゃな師匠だが、何故だか日常的にストレートな感謝を口にする。
性格を知っていても思わず見とれてしまうほどの美人が、いつもやばいほど純粋で――やばいほど綺麗な笑顔で言うものだから――。
いくら振り回されても、俺はミルコのことを嫌いになれないでいた――。
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