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第1話 豪快すぎる師匠「ミルコット・ホールデン」①
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突然だけど、俺は異世界転生者だ――。
前にいた地球という世界で死んだ俺は、新しい体を授かり、この剣と魔法の世界に生まれ変わった。
本当に驚きの出来事だった。噂に聞く異世界転生を、まさか自分が経験するだなんて。
13歳になった今でも、ふとした時に冷静になって……。
「え、マジで……。何だ?現実なのか?こんなことって本当にあるの?あっていいの?」
と、驚いてしまうことがある…………。
――現在の俺の名前は「ククル」。転生してからなんだかんだとあったけど、今はとあるギルドで雑用係として働いている。
基本は清掃と給仕を任されていて、たまに書類整理。あとは、おつかいを頼まれてひとっ走りすることもよくある。
冒険者見習いとして、ギルドに所属する冒険者が受けたクエストに同行させてもらうこともあった。
荷物持ちや依頼人とのやり取りが主な役割だ。面倒くさいこと担当の人間がいると何かと便利らしくて、結構誘われる。
ずっとギルドにいる日と、クエストに同行する日の割合はちょうど半々くらいだろうか。
まだ子供だし「ギルド雑用係」で「冒険者見習い」。でも、今の立場には何も不満はない。
むしろ、理想的だ。異世界に来たからにはいずれ冒険者になりたいと思っているので、学べることがたくさんある。
ただ、1つだけ問題があった――。
そりゃもう……とてもとても、大きな問題だ――。
「俺が暮らすギルドが、とんでもなくやばいのだ――――」
何がやばいのかと言われると、本当に色々だけど、とにかくやばい。
異世界転生よりも驚きの体験が何度もあった。もっともっと衝撃的で、腰を抜かしてしまうような体験が1つではなく、いくつも。
特にギルドに所属する人達がやばい。ギルド自体もやばいけど、それより人間のほうである。
本当に何でそんな風に育ったのか、何でそんな行動を取るのか……。
「やばい」
そう言いたくなる“奇人”や“変人”が何人もいるんだ…………。
――――木造7階建て、周辺で最も大きな建物。ここは色んな意味で、世界一のギルドだ。
天気の良い朝、布の袋を背負った俺はギルドの門をくぐった。
すると……。
「ぎゃははははははははははは!!」
まずは耳を塞ぎたくなるような音。建物の外まで聞こえてきていた下品な笑い声が大きくなる。
広がったのはまるでパーティーのような光景、酒を手にしてテーブルを囲む大人たち、人数は男女合わせて50人はいる――。
「おお!うちの冒険者見習い様が帰ってきたぞ!」
「いぇーい!秘宝財宝!期待の星!」
「うおおおおおおおおおおお!」
手前にいた者が俺に気付くと、1人の少年が入ってきただけなのに、何故かビールジョッキを掲げて大盛り上がりになった。
「買い出しか!?酒と肉はあるか?」
「ないです。牛乳と卵だけ――」
「おい!陶器の皿を割っちまったんだけどよ、お前からマスターに謝ってくれねえか?」
「自分で謝ってください――」
「ククル坊や、今日は私とクエスト行くかい?」
「朝から酒飲んでるし、行く気無いですよね――」
テーブルとテーブルの間を通る度に酔った大人に絡まれる。俺は適当な対応で突破して、受付カウンターまで辿り着いた。
ここまで来るとようやく落ち着ける。カウンター内に入れば、ギルド1階では唯一の安全地帯だった……。
うん。いつも通り、もうやばい。かなりやばい。冒険者ギルドに入ったはずなのに広がる景色が酒場なんて。
しかも、今は平日の朝9時だ。最近大仕事を終えたとかいう特別な理由もない。普通の平日朝9時っ。
しかもしかも…………。
「おいこいつ、泥酔して魔法唱えようとしてるぞ!誰か止めろ!」
「間に合わん!伏せろ!」
「うわあ……また壁に穴空いちまったよ…………」
「お、ちょうど良い穴じゃん!俺ここからクエスト行かせてもらうわ!」
「ぎゃはは、ちゃんとドアから出てけよ!てか、もっと破壊すな!」
1人の男が焼けている壁に向かって、風をまといながら突進したので、さらに大きな穴になった。男は穴を振り返ることも無く、空を飛び、一瞬で彼方まで消えていく。
「ぎゃははははははははははははははは!」
そして、一同はまた大爆笑……。
酒場の中でも、治安の悪い通りにある酒場くらい騒ぎ方なのだ。余りにもうるさい。まるで盗賊やマフィアの集まりみたいである。
他のギルドじゃまずあり得ないだろう。酒場や飲食店を兼ねているギルドは珍しいものじゃないが、朝からここまでバカ騒ぎする冒険者はきっと他にはいない。
しかもこんなのはこのギルドのやばさの、ほんの一面に過ぎない。毎日見ているから俺とて大した驚きはない。
所属する冒険者1人1人にフォーカスを当てていけば、もっとこのギルドのやばさが見えてくる――。
「あらククル、おかえりなさい。牛乳と卵は買えた?」
「うん。はい、これ」
「ありがとね」
受付嬢の1人に袋を手渡す。
今朝も雑用係の俺は朝市へおつかいに行っていて、帰ってきたところだった。出ていくときにぞろぞろと冒険者がギルドに入っていくのを見たけど、帰ってきたら案の定の大騒ぎ。
「そうだククル。今朝の依頼書が届いたから貼っといてくれる?」
「ああ、うん」
「それが終わったら朝ごはんにしましょう。この牛乳と卵でフレンチトースト作ってあげる」
「やった。ありがとう……」
言いながら、受付嬢の皆ももうちょっと驚こうよと思って、壁の大穴に動じない受付嬢から次の仕事を受け取った。
画鋲も棚から取り出して、ギルドの大きさ相応にでかいクエストボードの前に立つ。
――俺は転生前に若くして死んだが、ギリ成人していたし、ある程度は普通と常識みたいなものを理解しているつもりである。
自分自身普通だったし、もちろん異世界と日本じゃ常識は違うだろうけど……俺からしてみれば、本当にやばい人だらけ。
この驚きを誰かに共有して、共感してもらいたいのだけど、今のところ相手はいない。
ああ、誰か一緒に「やばい」と言ってほしい……誰かに伝えたい……。
そんなことを考えながらクエストボードの空きスペースへ手を伸ばした時だった――騒がしいギルド内に一際バカでっかい声が響く――――。
「おはよーーーーーーーーーーう!!!!!!!!!」
声ですぐに分かった。やばめの人が多いギルドの中でも特にやばめの人がやってきたのだと。
ギルド入り口に立っていたのは金髪の美女――。肩と腰回りだけ防具を付けた露出の多い装備をしていて、一見すると痴女でもある――。
腰には剣を差していて、前の世界で男の願望となっていた戦士装備そのものみたいになっている女は俺を見つけると、手を振ってからこちらに向かって歩いてくる。
「おっとごめんよ!」
「盛り上がってる?いぇーい!」
「あ、おいしそう!もらい!」
「これ何かの賭け事?何の賭けか分かんないけど、私はこっちに賭ける。金貨5枚ね……いや、10枚」
女はさっきの俺とは逆に、自分から飲み騒ぐ連中に絡んだ……。
「ミルコてめえ!その酒は俺のだ、勝手に飲むんじゃねえ」
「いいじゃねえか。男が小せえこと気にすんな」
「ダメだ!金払え!」
「しょうがねえな。受け取れ――」
ミルコと呼ばれた女は、金を要求した大男の口に金貨を突っ込んだ。それがわざとなのか無意識なのかは分からないが、大男が仰向けにひっくり返るほどの力で。
古い木造の床を伝って、大男が倒れた振動が俺の足まで届く。そのせいで背中に鳥肌が立つ。
そして、俺の元までやってきた女はまた手を振って――笑った。
「おーっすククル!今日も一緒に冒険しようぜ!」
近くでその青い瞳に見つめられると、思わずドキリとしてしまう。それほどの美人。どちらかと言えばクールビューティー系でモデル体型。
でも性格は、そんなルックスとは真逆と言っていい。
――もし誰かにギルドのやばい人の話をする機会があるなら、まずはこの人の話からしたい。
なぜなら、俺にとってこのギルドの中で最も親しい人だからだ……。
「おいおいどうした?師匠が来てやったってのに挨拶もねえのか?」
「えっと、それはその……おはようございますミルコさん」
「よし。師匠への挨拶は忘れずにな」
頭をがしがしと撫でられる。胸の谷間が顔の前に来たので、俺は目を逸らした。
「てか、それ今朝届いた依頼書か?」
「あ、はい」
「それトランプみたいにこう持ってくんね?」
「こうですか」
「そうそう。よし、じゃあ……これ!」
裏側を向けて持たされた依頼書から、1枚が俺の手から抜き取られる。
「よっしゃAランククエスト!今日は大当たり!メタルドラゴンの討伐か……早速しゅっぱーーーつ!!」
再びギルド内に一際バカやばい声が響き渡ると――次の瞬間俺は服を勢いよく引っ張られて、宙に浮いた――――。
前にいた地球という世界で死んだ俺は、新しい体を授かり、この剣と魔法の世界に生まれ変わった。
本当に驚きの出来事だった。噂に聞く異世界転生を、まさか自分が経験するだなんて。
13歳になった今でも、ふとした時に冷静になって……。
「え、マジで……。何だ?現実なのか?こんなことって本当にあるの?あっていいの?」
と、驚いてしまうことがある…………。
――現在の俺の名前は「ククル」。転生してからなんだかんだとあったけど、今はとあるギルドで雑用係として働いている。
基本は清掃と給仕を任されていて、たまに書類整理。あとは、おつかいを頼まれてひとっ走りすることもよくある。
冒険者見習いとして、ギルドに所属する冒険者が受けたクエストに同行させてもらうこともあった。
荷物持ちや依頼人とのやり取りが主な役割だ。面倒くさいこと担当の人間がいると何かと便利らしくて、結構誘われる。
ずっとギルドにいる日と、クエストに同行する日の割合はちょうど半々くらいだろうか。
まだ子供だし「ギルド雑用係」で「冒険者見習い」。でも、今の立場には何も不満はない。
むしろ、理想的だ。異世界に来たからにはいずれ冒険者になりたいと思っているので、学べることがたくさんある。
ただ、1つだけ問題があった――。
そりゃもう……とてもとても、大きな問題だ――。
「俺が暮らすギルドが、とんでもなくやばいのだ――――」
何がやばいのかと言われると、本当に色々だけど、とにかくやばい。
異世界転生よりも驚きの体験が何度もあった。もっともっと衝撃的で、腰を抜かしてしまうような体験が1つではなく、いくつも。
特にギルドに所属する人達がやばい。ギルド自体もやばいけど、それより人間のほうである。
本当に何でそんな風に育ったのか、何でそんな行動を取るのか……。
「やばい」
そう言いたくなる“奇人”や“変人”が何人もいるんだ…………。
――――木造7階建て、周辺で最も大きな建物。ここは色んな意味で、世界一のギルドだ。
天気の良い朝、布の袋を背負った俺はギルドの門をくぐった。
すると……。
「ぎゃははははははははははは!!」
まずは耳を塞ぎたくなるような音。建物の外まで聞こえてきていた下品な笑い声が大きくなる。
広がったのはまるでパーティーのような光景、酒を手にしてテーブルを囲む大人たち、人数は男女合わせて50人はいる――。
「おお!うちの冒険者見習い様が帰ってきたぞ!」
「いぇーい!秘宝財宝!期待の星!」
「うおおおおおおおおおおお!」
手前にいた者が俺に気付くと、1人の少年が入ってきただけなのに、何故かビールジョッキを掲げて大盛り上がりになった。
「買い出しか!?酒と肉はあるか?」
「ないです。牛乳と卵だけ――」
「おい!陶器の皿を割っちまったんだけどよ、お前からマスターに謝ってくれねえか?」
「自分で謝ってください――」
「ククル坊や、今日は私とクエスト行くかい?」
「朝から酒飲んでるし、行く気無いですよね――」
テーブルとテーブルの間を通る度に酔った大人に絡まれる。俺は適当な対応で突破して、受付カウンターまで辿り着いた。
ここまで来るとようやく落ち着ける。カウンター内に入れば、ギルド1階では唯一の安全地帯だった……。
うん。いつも通り、もうやばい。かなりやばい。冒険者ギルドに入ったはずなのに広がる景色が酒場なんて。
しかも、今は平日の朝9時だ。最近大仕事を終えたとかいう特別な理由もない。普通の平日朝9時っ。
しかもしかも…………。
「おいこいつ、泥酔して魔法唱えようとしてるぞ!誰か止めろ!」
「間に合わん!伏せろ!」
「うわあ……また壁に穴空いちまったよ…………」
「お、ちょうど良い穴じゃん!俺ここからクエスト行かせてもらうわ!」
「ぎゃはは、ちゃんとドアから出てけよ!てか、もっと破壊すな!」
1人の男が焼けている壁に向かって、風をまといながら突進したので、さらに大きな穴になった。男は穴を振り返ることも無く、空を飛び、一瞬で彼方まで消えていく。
「ぎゃははははははははははははははは!」
そして、一同はまた大爆笑……。
酒場の中でも、治安の悪い通りにある酒場くらい騒ぎ方なのだ。余りにもうるさい。まるで盗賊やマフィアの集まりみたいである。
他のギルドじゃまずあり得ないだろう。酒場や飲食店を兼ねているギルドは珍しいものじゃないが、朝からここまでバカ騒ぎする冒険者はきっと他にはいない。
しかもこんなのはこのギルドのやばさの、ほんの一面に過ぎない。毎日見ているから俺とて大した驚きはない。
所属する冒険者1人1人にフォーカスを当てていけば、もっとこのギルドのやばさが見えてくる――。
「あらククル、おかえりなさい。牛乳と卵は買えた?」
「うん。はい、これ」
「ありがとね」
受付嬢の1人に袋を手渡す。
今朝も雑用係の俺は朝市へおつかいに行っていて、帰ってきたところだった。出ていくときにぞろぞろと冒険者がギルドに入っていくのを見たけど、帰ってきたら案の定の大騒ぎ。
「そうだククル。今朝の依頼書が届いたから貼っといてくれる?」
「ああ、うん」
「それが終わったら朝ごはんにしましょう。この牛乳と卵でフレンチトースト作ってあげる」
「やった。ありがとう……」
言いながら、受付嬢の皆ももうちょっと驚こうよと思って、壁の大穴に動じない受付嬢から次の仕事を受け取った。
画鋲も棚から取り出して、ギルドの大きさ相応にでかいクエストボードの前に立つ。
――俺は転生前に若くして死んだが、ギリ成人していたし、ある程度は普通と常識みたいなものを理解しているつもりである。
自分自身普通だったし、もちろん異世界と日本じゃ常識は違うだろうけど……俺からしてみれば、本当にやばい人だらけ。
この驚きを誰かに共有して、共感してもらいたいのだけど、今のところ相手はいない。
ああ、誰か一緒に「やばい」と言ってほしい……誰かに伝えたい……。
そんなことを考えながらクエストボードの空きスペースへ手を伸ばした時だった――騒がしいギルド内に一際バカでっかい声が響く――――。
「おはよーーーーーーーーーーう!!!!!!!!!」
声ですぐに分かった。やばめの人が多いギルドの中でも特にやばめの人がやってきたのだと。
ギルド入り口に立っていたのは金髪の美女――。肩と腰回りだけ防具を付けた露出の多い装備をしていて、一見すると痴女でもある――。
腰には剣を差していて、前の世界で男の願望となっていた戦士装備そのものみたいになっている女は俺を見つけると、手を振ってからこちらに向かって歩いてくる。
「おっとごめんよ!」
「盛り上がってる?いぇーい!」
「あ、おいしそう!もらい!」
「これ何かの賭け事?何の賭けか分かんないけど、私はこっちに賭ける。金貨5枚ね……いや、10枚」
女はさっきの俺とは逆に、自分から飲み騒ぐ連中に絡んだ……。
「ミルコてめえ!その酒は俺のだ、勝手に飲むんじゃねえ」
「いいじゃねえか。男が小せえこと気にすんな」
「ダメだ!金払え!」
「しょうがねえな。受け取れ――」
ミルコと呼ばれた女は、金を要求した大男の口に金貨を突っ込んだ。それがわざとなのか無意識なのかは分からないが、大男が仰向けにひっくり返るほどの力で。
古い木造の床を伝って、大男が倒れた振動が俺の足まで届く。そのせいで背中に鳥肌が立つ。
そして、俺の元までやってきた女はまた手を振って――笑った。
「おーっすククル!今日も一緒に冒険しようぜ!」
近くでその青い瞳に見つめられると、思わずドキリとしてしまう。それほどの美人。どちらかと言えばクールビューティー系でモデル体型。
でも性格は、そんなルックスとは真逆と言っていい。
――もし誰かにギルドのやばい人の話をする機会があるなら、まずはこの人の話からしたい。
なぜなら、俺にとってこのギルドの中で最も親しい人だからだ……。
「おいおいどうした?師匠が来てやったってのに挨拶もねえのか?」
「えっと、それはその……おはようございますミルコさん」
「よし。師匠への挨拶は忘れずにな」
頭をがしがしと撫でられる。胸の谷間が顔の前に来たので、俺は目を逸らした。
「てか、それ今朝届いた依頼書か?」
「あ、はい」
「それトランプみたいにこう持ってくんね?」
「こうですか」
「そうそう。よし、じゃあ……これ!」
裏側を向けて持たされた依頼書から、1枚が俺の手から抜き取られる。
「よっしゃAランククエスト!今日は大当たり!メタルドラゴンの討伐か……早速しゅっぱーーーつ!!」
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