やばいギルドのやばい冒険者たちが、色々とやばすぎる――。

木岡(もくおか)

文字の大きさ
上 下
1 / 2

第1話 豪快すぎる師匠「ミルコット・ホールデン」①

しおりを挟む
 突然だけど、俺は異世界転生者だ――。

 前にいた地球という世界で死んだ俺は、新しい体を授かり、この剣と魔法の世界に生まれ変わった。

 本当に驚きの出来事だった。噂に聞く異世界転生を、まさか自分が経験するだなんて。

 13歳になった今でも、ふとした時に冷静になって……。

「え、マジで……。何だ?現実なのか?こんなことって本当にあるの?あっていいの?」

 と、驚いてしまうことがある…………。


 ――現在の俺の名前は「ククル」。転生してからなんだかんだとあったけど、今はとあるギルドで雑用係として働いている。

 基本は清掃と給仕を任されていて、たまに書類整理。あとは、おつかいを頼まれてひとっ走りすることもよくある。

 冒険者見習いとして、ギルドに所属する冒険者が受けたクエストに同行させてもらうこともあった。

 荷物持ちや依頼人とのやり取りが主な役割だ。面倒くさいこと担当の人間がいると何かと便利らしくて、結構誘われる。

 ずっとギルドにいる日と、クエストに同行する日の割合はちょうど半々くらいだろうか。

 まだ子供だし「ギルド雑用係」で「冒険者見習い」。でも、今の立場には何も不満はない。

 むしろ、理想的だ。異世界に来たからにはいずれ冒険者になりたいと思っているので、学べることがたくさんある。

 ただ、1つだけ問題があった――。

 そりゃもう……とてもとても、大きな問題だ――。

「俺が暮らすギルドが、とんでもなくやばいのだ――――」

 何がやばいのかと言われると、本当に色々だけど、とにかくやばい。

 異世界転生よりも驚きの体験が何度もあった。もっともっと衝撃的で、腰を抜かしてしまうような体験が1つではなく、いくつも。

 特にギルドに所属する人達がやばい。ギルド自体もやばいけど、それより人間のほうである。

 本当に何でそんな風に育ったのか、何でそんな行動を取るのか……。

「やばい」

 そう言いたくなる“奇人”や“変人”が何人もいるんだ…………。




 ――――木造7階建て、周辺で最も大きな建物。ここは色んな意味で、世界一のギルドだ。

 天気の良い朝、布の袋を背負った俺はギルドの門をくぐった。

 すると……。

「ぎゃははははははははははは!!」

 まずは耳を塞ぎたくなるような音。建物の外まで聞こえてきていた下品な笑い声が大きくなる。

 広がったのはまるでパーティーのような光景、酒を手にしてテーブルを囲む大人たち、人数は男女合わせて50人はいる――。

「おお!うちの冒険者見習い様が帰ってきたぞ!」

「いぇーい!秘宝財宝!期待の星!」

「うおおおおおおおおおおお!」

 手前にいた者が俺に気付くと、1人の少年が入ってきただけなのに、何故かビールジョッキを掲げて大盛り上がりになった。

「買い出しか!?酒と肉はあるか?」

「ないです。牛乳と卵だけ――」

「おい!陶器の皿を割っちまったんだけどよ、お前からマスターに謝ってくれねえか?」

「自分で謝ってください――」

「ククル坊や、今日は私とクエスト行くかい?」

「朝から酒飲んでるし、行く気無いですよね――」

 テーブルとテーブルの間を通る度に酔った大人に絡まれる。俺は適当な対応で突破して、受付カウンターまで辿り着いた。

 ここまで来るとようやく落ち着ける。カウンター内に入れば、ギルド1階では唯一の安全地帯だった……。

 うん。いつも通り、もうやばい。かなりやばい。冒険者ギルドに入ったはずなのに広がる景色が酒場なんて。

 しかも、今は平日の朝9時だ。最近大仕事を終えたとかいう特別な理由もない。普通の平日朝9時っ。

 しかもしかも…………。

「おいこいつ、泥酔して魔法唱えようとしてるぞ!誰か止めろ!」

「間に合わん!伏せろ!」

「うわあ……また壁に穴空いちまったよ…………」

「お、ちょうど良い穴じゃん!俺ここからクエスト行かせてもらうわ!」

「ぎゃはは、ちゃんとドアから出てけよ!てか、もっと破壊すな!」

 1人の男が焼けている壁に向かって、風をまといながら突進したので、さらに大きな穴になった。男は穴を振り返ることも無く、空を飛び、一瞬で彼方まで消えていく。

「ぎゃははははははははははははははは!」

 そして、一同はまた大爆笑……。

 酒場の中でも、治安の悪い通りにある酒場くらい騒ぎ方なのだ。余りにもうるさい。まるで盗賊やマフィアの集まりみたいである。

 他のギルドじゃまずあり得ないだろう。酒場や飲食店を兼ねているギルドは珍しいものじゃないが、朝からここまでバカ騒ぎする冒険者はきっと他にはいない。

 しかもこんなのはこのギルドのやばさの、ほんの一面に過ぎない。毎日見ているから俺とて大した驚きはない。

 所属する冒険者1人1人にフォーカスを当てていけば、もっとこのギルドのやばさが見えてくる――。

「あらククル、おかえりなさい。牛乳と卵は買えた?」

「うん。はい、これ」

「ありがとね」

 受付嬢の1人に袋を手渡す。

 今朝も雑用係の俺は朝市へおつかいに行っていて、帰ってきたところだった。出ていくときにぞろぞろと冒険者がギルドに入っていくのを見たけど、帰ってきたら案の定の大騒ぎ。

「そうだククル。今朝の依頼書が届いたから貼っといてくれる?」

「ああ、うん」

「それが終わったら朝ごはんにしましょう。この牛乳と卵でフレンチトースト作ってあげる」

「やった。ありがとう……」

 言いながら、受付嬢の皆ももうちょっと驚こうよと思って、壁の大穴に動じない受付嬢から次の仕事を受け取った。

 画鋲も棚から取り出して、ギルドの大きさ相応にでかいクエストボードの前に立つ。

 ――俺は転生前に若くして死んだが、ギリ成人していたし、ある程度は普通と常識みたいなものを理解しているつもりである。

 自分自身普通だったし、もちろん異世界と日本じゃ常識は違うだろうけど……俺からしてみれば、本当にやばい人だらけ。

 この驚きを誰かに共有して、共感してもらいたいのだけど、今のところ相手はいない。

 ああ、誰か一緒に「やばい」と言ってほしい……誰かに伝えたい……。

 そんなことを考えながらクエストボードの空きスペースへ手を伸ばした時だった――騒がしいギルド内に一際バカでっかい声が響く――――。

「おはよーーーーーーーーーーう!!!!!!!!!」

 声ですぐに分かった。やばめの人が多いギルドの中でも特にやばめの人がやってきたのだと。

 ギルド入り口に立っていたのは金髪の美女――。肩と腰回りだけ防具を付けた露出の多い装備をしていて、一見すると痴女でもある――。

 腰には剣を差していて、前の世界で男の願望となっていた戦士装備そのものみたいになっている女は俺を見つけると、手を振ってからこちらに向かって歩いてくる。

「おっとごめんよ!」

「盛り上がってる?いぇーい!」

「あ、おいしそう!もらい!」

「これ何かの賭け事?何の賭けか分かんないけど、私はこっちに賭ける。金貨5枚ね……いや、10枚」

 女はさっきの俺とは逆に、自分から飲み騒ぐ連中に絡んだ……。

「ミルコてめえ!その酒は俺のだ、勝手に飲むんじゃねえ」

「いいじゃねえか。男が小せえこと気にすんな」

「ダメだ!金払え!」

「しょうがねえな。受け取れ――」

 ミルコと呼ばれた女は、金を要求した大男の口に金貨を突っ込んだ。それがわざとなのか無意識なのかは分からないが、大男が仰向けにひっくり返るほどの力で。

 古い木造の床を伝って、大男が倒れた振動が俺の足まで届く。そのせいで背中に鳥肌が立つ。

 そして、俺の元までやってきた女はまた手を振って――笑った。

「おーっすククル!今日も一緒に冒険しようぜ!」

 近くでその青い瞳に見つめられると、思わずドキリとしてしまう。それほどの美人。どちらかと言えばクールビューティー系でモデル体型。

 でも性格は、そんなルックスとは真逆と言っていい。

 ――もし誰かにギルドのやばい人の話をする機会があるなら、まずはこの人の話からしたい。

 なぜなら、俺にとってこのギルドの中で最も親しい人だからだ……。

「おいおいどうした?師匠が来てやったってのに挨拶もねえのか?」

「えっと、それはその……おはようございますミルコさん」

「よし。師匠への挨拶は忘れずにな」

 頭をがしがしと撫でられる。胸の谷間が顔の前に来たので、俺は目を逸らした。

「てか、それ今朝届いた依頼書か?」

「あ、はい」

「それトランプみたいにこう持ってくんね?」

「こうですか」

「そうそう。よし、じゃあ……これ!」

 裏側を向けて持たされた依頼書から、1枚が俺の手から抜き取られる。

「よっしゃAランククエスト!今日は大当たり!メタルドラゴンの討伐か……早速しゅっぱーーーつ!!」

 再びギルド内に一際バカやばい声が響き渡ると――次の瞬間俺は服を勢いよく引っ張られて、宙に浮いた――――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃりおっさん異世界ひとり旅〜目指せSランク冒険者〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
酒好きなぽっちゃりおっさん。 魔物が跋扈する異世界で転生する。 頭で思い浮かべた事を具現化する魔法《創造魔法》の加護を貰う。 《創造魔法》を駆使して異世界でSランク冒険者を目指す物語。 ※以前完結した作品を修正、加筆しております。 完結した内容を変更して、続編を連載する予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...