28 / 32
第27話 頂点のレベル
しおりを挟む
壁外からの強い光の魔法を感じた強者3人は、その1秒後には走り出していた。皆、城の一室でいつもの午後を過ごしていたが、近くの窓から脱兎のごとく飛び出した――。
皆ほとんど同時のスタートを切ったが、取り立てて早く反応したのはドライト。自分以外の光の魔法をこの世界で感じるのは初めてのことだったのだ。何かの事件だと悟る前に、反射での反応だった――。
ドライト、ロール、ゾーグレウス――3人は冥府の町の上空を飛んで移動した。強者揃いである冥府の人間の中でもトップ3。その3人にとって、何度も建物を足場にする必要はなかった。学校から壁外までの距離よりも離れた場所からでも、一度の跳躍で届く。
目的地までの到着にかかった時間は、わずか20秒。音速に匹敵する速度の中でも、魔力により感覚を研ぎ澄まし、大切にしている者の危機を移動中に知った彼らは、その到着と同時に魔物への攻撃を開始した――。
「――――ははっ」
その光景を見て、俺は笑った。
もちろん面白かったからではない。次々と強大な魔物が倒されていく爽快感、絶望的状況から自分の命が助かったという喜び…………そして、自分の情けなさに笑うしかないという感情が入り混じった結果だった。
魔力を使い切ってしまって強化できない目では、捉えられない速度で動く父。手に持つ剣で斬撃を浴びせる度、白く輝く形跡だけをその場に残した。魔物は倒れていき、数秒だけいくつも重なって見えたそれが、まるで白い花のように見える――。
母は俺の前に立ち、魔法で魔物を迎撃した。母の圧倒的な魔力量から繰り出される純粋な闇の魔法は敵を飲み込んだ。母の手から銃のような速度で放たれる闇の魔法が魔物に触れると、爆発するように黒が膨らみ、消えた後には塵一つ残さない――。
母はそうしながらも、倒れている俺とユイネを風の魔法で結界内まで運ぶ。母が張っている結界に2人が通れる分の穴を空けて、また優しく地面に下ろした。
結界が再び閉じられて、香ってきていた魔物の血の匂いと激しい戦闘音が少し遠くなる。
「シェード、あなたが無事で良かった。ユイネもとりあえず大丈夫そうね。シェードを守ってくれてありがとう」
母は結界の向こうから笑顔でそう言った。城で会った時と同じように優しさだけを顔に浮かべて。
そして、母が言った言葉はたったそれだけだった。
それ故、俺の中で情けなさと悔しさがより強くなる。言いつけを破ったことを追求されなかったことで逆に増した。どうして――どうして俺は――。
ようやく渋滞していた思考が働き始めて、強く残ったのはそれだった。なぜ自分はこんなに弱いのか、なぜこんなことをしてしまったのか、何を勘違いしていたのか。腹が立った、自分に。
両手の拳で地面の砂を強く握る。手についていた汗とユイネの血で砂が固まった。
ここはゲームの世界じゃない。魔法や剣があってもセーブやリセットはない。死んだらそれで終わりなのだ。父や母が来てくれたから助かったが、来てくれなかったら確実に死んでいた。
こんな軽率な行動をとっていい訳がなかった。ああ、何でこんなことをしてしまったんだ。頭の中でずっと後悔の言葉が繰り返される。
まだ俺は調子に乗っていたのだ。態度に関しては謙虚を決めたけど、強さに関しては謙虚さを持てていなかった。
こんなにも――こんなにも遠かったのに――。
王のほうを見ると、既に戦闘を終えた姿がそこにあった。横たわる巨大な魔物を見下ろすように宙に浮き、つまらなそうな表情で赤い髪を遊ばせている。
周辺にいる王が倒したであろう魔物たちにはいくつか黒く燃えるような魔法が付いていて、そこからゆっくりと体が灰に変化していた。全ての魔物たちが王に向かっていった形のまま頭を差し出して倒れている。
冥府の王ともなると、俺が足をすくませるだけで何もできなかったような魔物をこんなにも余裕で倒すのか……。
日々の特訓で成長している気でいた。近づいている気でいた。けど、まだまだ遠かった。
「強く……強くならなくちゃ……誰よりも……」
歯を噛みしめながら唱える。
集まってきた魔物の最後の1匹が倒れる。
その時、俺の体が限界を迎えた。張りつめていた糸が切れて、全身の力 が抜ける。
目も自然と閉じてきて……騒ぎを聞きつけたらしい人々が集まってくる声を聞きながら……意識を失った――。
――――目を開けると、自分の部屋の天井があった。毎朝見ている構図の視界で、壁に掛けられた振り子時計の音だけが鳴っていた。
落ち着く――。心地良い――。しかし、数回呼吸すると、そこから飛び出した。
感覚的にはあれからそれほど経っていない。体の疲労も回復しきっていない。目を閉じる前の経験と誓いは全く忘れていなかった。
だから、自分がまず何をするべきかは分かった。
皆ほとんど同時のスタートを切ったが、取り立てて早く反応したのはドライト。自分以外の光の魔法をこの世界で感じるのは初めてのことだったのだ。何かの事件だと悟る前に、反射での反応だった――。
ドライト、ロール、ゾーグレウス――3人は冥府の町の上空を飛んで移動した。強者揃いである冥府の人間の中でもトップ3。その3人にとって、何度も建物を足場にする必要はなかった。学校から壁外までの距離よりも離れた場所からでも、一度の跳躍で届く。
目的地までの到着にかかった時間は、わずか20秒。音速に匹敵する速度の中でも、魔力により感覚を研ぎ澄まし、大切にしている者の危機を移動中に知った彼らは、その到着と同時に魔物への攻撃を開始した――。
「――――ははっ」
その光景を見て、俺は笑った。
もちろん面白かったからではない。次々と強大な魔物が倒されていく爽快感、絶望的状況から自分の命が助かったという喜び…………そして、自分の情けなさに笑うしかないという感情が入り混じった結果だった。
魔力を使い切ってしまって強化できない目では、捉えられない速度で動く父。手に持つ剣で斬撃を浴びせる度、白く輝く形跡だけをその場に残した。魔物は倒れていき、数秒だけいくつも重なって見えたそれが、まるで白い花のように見える――。
母は俺の前に立ち、魔法で魔物を迎撃した。母の圧倒的な魔力量から繰り出される純粋な闇の魔法は敵を飲み込んだ。母の手から銃のような速度で放たれる闇の魔法が魔物に触れると、爆発するように黒が膨らみ、消えた後には塵一つ残さない――。
母はそうしながらも、倒れている俺とユイネを風の魔法で結界内まで運ぶ。母が張っている結界に2人が通れる分の穴を空けて、また優しく地面に下ろした。
結界が再び閉じられて、香ってきていた魔物の血の匂いと激しい戦闘音が少し遠くなる。
「シェード、あなたが無事で良かった。ユイネもとりあえず大丈夫そうね。シェードを守ってくれてありがとう」
母は結界の向こうから笑顔でそう言った。城で会った時と同じように優しさだけを顔に浮かべて。
そして、母が言った言葉はたったそれだけだった。
それ故、俺の中で情けなさと悔しさがより強くなる。言いつけを破ったことを追求されなかったことで逆に増した。どうして――どうして俺は――。
ようやく渋滞していた思考が働き始めて、強く残ったのはそれだった。なぜ自分はこんなに弱いのか、なぜこんなことをしてしまったのか、何を勘違いしていたのか。腹が立った、自分に。
両手の拳で地面の砂を強く握る。手についていた汗とユイネの血で砂が固まった。
ここはゲームの世界じゃない。魔法や剣があってもセーブやリセットはない。死んだらそれで終わりなのだ。父や母が来てくれたから助かったが、来てくれなかったら確実に死んでいた。
こんな軽率な行動をとっていい訳がなかった。ああ、何でこんなことをしてしまったんだ。頭の中でずっと後悔の言葉が繰り返される。
まだ俺は調子に乗っていたのだ。態度に関しては謙虚を決めたけど、強さに関しては謙虚さを持てていなかった。
こんなにも――こんなにも遠かったのに――。
王のほうを見ると、既に戦闘を終えた姿がそこにあった。横たわる巨大な魔物を見下ろすように宙に浮き、つまらなそうな表情で赤い髪を遊ばせている。
周辺にいる王が倒したであろう魔物たちにはいくつか黒く燃えるような魔法が付いていて、そこからゆっくりと体が灰に変化していた。全ての魔物たちが王に向かっていった形のまま頭を差し出して倒れている。
冥府の王ともなると、俺が足をすくませるだけで何もできなかったような魔物をこんなにも余裕で倒すのか……。
日々の特訓で成長している気でいた。近づいている気でいた。けど、まだまだ遠かった。
「強く……強くならなくちゃ……誰よりも……」
歯を噛みしめながら唱える。
集まってきた魔物の最後の1匹が倒れる。
その時、俺の体が限界を迎えた。張りつめていた糸が切れて、全身の力 が抜ける。
目も自然と閉じてきて……騒ぎを聞きつけたらしい人々が集まってくる声を聞きながら……意識を失った――。
――――目を開けると、自分の部屋の天井があった。毎朝見ている構図の視界で、壁に掛けられた振り子時計の音だけが鳴っていた。
落ち着く――。心地良い――。しかし、数回呼吸すると、そこから飛び出した。
感覚的にはあれからそれほど経っていない。体の疲労も回復しきっていない。目を閉じる前の経験と誓いは全く忘れていなかった。
だから、自分がまず何をするべきかは分かった。
0
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
僕のおつかい
麻竹
ファンタジー
魔女が世界を統べる世界。
東の大地ウェストブレイ。赤の魔女のお膝元であるこの森に、足早に森を抜けようとする一人の少年の姿があった。
少年の名はマクレーンといって黒い髪に黒い瞳、腰まである髪を後ろで一つに束ねた少年は、真っ赤なマントのフードを目深に被り、明るいこの森を早く抜けようと必死だった。
彼は、母親から頼まれた『おつかい』を無事にやり遂げるべく、今まさに旅に出たばかりであった。
そして、その旅の途中で森で倒れていた人を助けたのだが・・・・・・。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※一話約1000文字前後に修正しました。
他サイト様にも投稿しています。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
スキルイータ
北きつね
ファンタジー
俺は、どうやら死んでしまうようだ。
”ようだ”と言ったのは、状況がよくわからないからだ、時間が止まっている?
会社のメンバーと、打ち上げをやった、その後、数名と俺が行きつけにしているバーに顔をだした。デスマ進行を知っているマスターは、何も言わないで、俺が好きな”ギムレット”を出してくれる。
2杯目は、”ハンター”にした、いつものメンバーできているので、話すこともなく、自分たちが飲みたい物をオーダした。
30分程度で店を出る。支払いは、デポジットで足りるというサインが出ている。少なくなってきているのだろう事を想定して、3枚ほど財布から取り出して、店を出る。雑踏を嫌って、裏路地を歩いて、一駅前の駅に向かった。
電車を待つ間、仲間と他愛もない話をする。
異世界に転生したら、どんなスキルをもらうか?そんな話をしながら、電車が来るのを待っていた。
”ドン!”
この音を最後に、俺の生活は一変する。
異世界に転移した。転生でなかったのには理由があるが、もはやどうでもいい。
現在、途方にくれている。
”神!見て笑っているのだろう?ここはどこだ!”
異世界の、草原に放り出されている。かろうじて服は着ているが、現地に合わせた服なのだろう。スキルも約束通りになっている。だが、それだけだ。世界の説明は簡単に受けた。
いきなりハードプレイか?いい度胸しているよな?
俺の異世界=レヴィラン生活がスタートした。
注意)
ハーレムにはなりません。
ハーレムを求める人はこの作品からは探せないと思います。
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる