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第16話 俺は次期国王

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「――皆さんさようなら」

「さーよーうーなーらー」

 午後の授業も終わり、クラスメイトと共に帰りの挨拶をすると、俺は1番に教室の外へ出た。

 真っ直ぐに靴箱へ向かい――上履きから靴に履き替えて――校門までも、早歩きで向かう――。

「お疲れ様です、坊ちゃま」

 急いだ理由は、侍女が2人お迎えに来ているからだ。俺の毎日の登下校には付き人として、侍女が2人同行していた。

「さあ、まいりましょう」

 侍女は軽く一礼すると、俺が持っている鞄を受け取り、俺の前と後ろに付いた――。

 充実な日々を、楽しく過ごせている今日この頃、1つだけ不満があるとすればこれである。王子様という身分は自由な時間が少ない。外では校内にいる時以外、常に監視の目があって行動が制限されているのだ。

 決まった時間に遅れることなく、きっちり行動しなければならない。学校の授業が終わった後にも、まだ城での勉強が残っているので、それに遅れることが無いように、早く教室から出てくるように言われていた。

「おい!今日も俺の家来いよ!」

「おう!鞄置いたらすぐ行くわ!」

 俺の次に学校を出たクラスメイト2人が楽しそうに走って行く。

 せっかくの小学生生活、できることなら俺も放課後に誰かと遊んだり、行ったことが無い所を探検したりしてみたいのだけど無理。

 冥界の男子たちの間で流行っているボードゲームとかがあるらしいのだが、俺は1度もやったことが無かった。

「坊ちゃま。今日の学校生活は如何でしたか?」

「うん。いつも通りだったよ」

「何か問題があればすぐに仰ってください。すぐに対処しますので」

 前を歩く、送り迎えを担当する侍女たちのリーダー、ユイネは時間に厳しい性格だった。侍女は皆そうではあるのだが、特に真面目というか、仕事に対して誠実で完璧主義なのだ。

 俺にそう要求するだけあって、ユイネが1秒でも時間に遅れるところは見たことが無いし、俺が学校から出てくるのが1分遅れただけで、校内に入ってきて強制的に帰宅させに来る。

 昔から俺の城での勉強も担当しているのもユイネで、その時間でも真面目さは伺える。徹底して教科書通り、スケジュール通りだった。

 そんな性格にも関わらず、髪は黒髪ショートで、顔はかわいい系、そして何よりユイネの魔族要素はと言うと、頭に獣耳が生えているというものであった。性格とは裏腹に容姿は、あまり笑わないのがもったいないというもの。

 そのギャップがかわいくて、俺は最も一緒にいることが多い侍女がユイネで良かったと思っていた。

「今日は城でドライト様がお待ちしておりますよ」

「ほんと?やった」

「ええ。坊ちゃまの稽古をつけたいと仰っていました」

 放課後に同年代の子供と遊ぶ機会が無い事は不満ではあるけど、どうにかしてほしいと悩むほどの事では無い。

 もちろん俺の精神が子供ではないという理由もあるし、クラスメイトと遊ぶよりも、城で両親や侍女に見てもらいながら勉強や魔法の練習をしたほうが有意義だという理由もある。

 たまには遊んでみたくなるけれど、はっきり言って俺と比べるとクラスメイトのレベルは低いので、彼らと一緒にいても最強の冒険者になる為に学べることは無い。目標にとって時間の無駄と言えばそうなのだ。


 ――こうやって冥府の町を歩いていると、すれ違う大人たちは皆、王族である俺に頭を下げた。跪くというほどではないけれど、わざわざ立ち止まって頭を下げる。

 俺と侍女が歩いて来るのを見つけた大人は少しかしこまって、呼吸と姿勢を整えた。見るからに失礼なことがないようにと緊張した表情になる。隣に連れている子供がいれば頭を押さえて、無理やりお辞儀させたりした。

 そんな住民たちもまたクラスメイトと同じように、肌の色が青っぽかったり赤っぽかったりする者がいる。

 城で暮らす者と違って町では見るからに魔族って感じの人間がいた。城の者は普通の人間では無いなと感じる容姿だけど、町の者は明らかに悪魔とか化け物だとわかる人間が半分以上だ。

 これは教えられた話ではなく、俺が気付いて、そう決めつけていることだが……たぶん人に近い容姿をしている方が優秀なのだ。

 魔物的な特徴を外見に持っていない魔族のほうが、知力や魔法の才能が上。クラスメイトの大体の成績を見る限りでは、そうだった。

 城に勤める優秀な騎士や侍女、学校の先生なんかが人間っぽくて、肉体労働をしている大人が魔物っぽい。この説は9割がた当たっている。

 だから、そんな人達が入り混じって遊んでいる環境は、王族で才能がある俺のいるべき環境ではない――。俺とクラスメイトの彼らでは住む世界が違う――。

 初めは一方的に大人から頭を下げられるのが気持ち悪くて、下げ返していた頭も……いつからか下げることは無くなった。数が多くて疲れるから。

 いくらレジ打ちで毎日何百回も頭を下げていたとはいえ、やらなくていいならやりたくない。

 周囲の人よりも高い服を着て、宝石の付いたネックレスを首にかけて、堂々と胸をはって歩く。

 少しクネクネと蛇行した道、その先に見えるのがどうやって建っているのか分からないアンバランスな形の城だった。しかし立派、この町の人間全員だって住めるくらいのでかさだ。

 俺はあの城に住む王族、いずれは王となる男なのだ。
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