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第10.5話 ドライトの過去
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その男は強すぎた。他の追随を微塵も許さないほどに――。
魔力、膂力、魔物討伐数、秘境開拓数――あらゆる力の証明のカテゴリで過去の偉人を若くして超えた――。
光の魔力に愛され、それを完全に使いこなす――彼の名は、ドライト・マグナドール。
中界にて、後に勇者と呼ばれるようになる男である――。
ドライトは何にも属さなかった。共に戦う仲間を集めたことも、何かの集団に加入したことも1度も無かった。冒険者試験を受けられるようになる12歳になったときから、ずっとフリーの冒険者として活動した。
何よりも自由を愛したのだ。強さ故、ドライトをパーティメンバーや国の兵士として誘う声は山程あったが、何度誘われても、莫大な報酬を積まれても、その全てを断った。
逆に言えば、何よりも誰かに指示されることや、束縛されることを嫌ったということである。誰かに「危ないから右の道には進むな」と言われたら、迷わず右の道を行く……ドライトはそんな男だった。
常に世界を冒険し、魔物と戦い、まだ見ぬ景色を探しに行く。誰にも邪魔はさせない。邪魔する奴がいれば思いっきりぶっ飛ばす。これがドライトの人生だったのだ――。
そんな男だったにも関わらず、ドライトはあらゆる人間から愛された。彼から仲間になってほしいとは言ったことが無いにもかかわらず、ドライトの周りにはいつも仲間の姿があった。
自由奔放に旅を続け、少し目を離せばどこかへ消えてしまうドライトを、サポートしたいと思う人間が次々に現れた。彼が冒険者として何か活動する度に1人、また1人と。強さに惚れ込んだ者もいれば、命を救われた者もいる。
そして何より彼の性格がそうさせた。ドライトには人を惹きつける何かがあったのだ。
彼は決まって劇的な物語の中にいた。いつも世界のどこかが危機的な状況になると現れるのだ。魔物に攻め落とされそうな国、闇に浸食されていく大地、そんな場所があると、どこからともなく彼がやってきた。
正義が悪に敗れそうなときはいつも、その中心にドライトが現れて、たちまちそれをひっくり返した――。
魔界の王が中界への侵攻を宣言して、全面戦争が始まろうとした時もそうだった。
今までどこかへ行方をくらましていたドライトが、突然現れて、魔王を討つべく、単身魔界へ乗り込むと言った。
大勢の期待と不安を背負って彼は……彼にとって数少ない背中を任せられる3人の仲間と共に、敵がひしめく魔界へと旅立った。
そんな時も彼は笑っていた。やっと魔界へ行く理由ができたと喜んでいた。いつもは固く閉ざされているその世界への扉が開くのは緊急事態以外あり得なかったからだ――。
魔界へ降り立ったドライトは、その自信の通り、魔物の軍勢を蹴散らした。何の作戦もなく、戦争の準備をしていた魔界を、真っ直ぐに突き進んだ。
極まった光の魔法と、剣術は数の差をもろともせず敵を圧倒した。
魔界にいる幾万もの魔物や、魔王直属の部下ですらドライトを止めることはできなかった。ドライトも、その仲間も誰1人かけることなく、魔王の下まで辿り着いた。
そして、魔王すらも彼の力には及ばなかった。
さすがに戦い続きのドライトは疲弊しており、魔王はあの手この手の姑息な手を使ってでも勝とうとした。それでも最終的に立っていたのはドライトだった。
魔王は地に伏して、自信の弱さと、敵の強さを呪った。おそらくはドライトさえいなければ中界との戦いに勝てていたと思った魔王は、ドライトが憎くて憎くて仕方なくなった。
ただ、魔王はそのまま黙ってやられはしなかった。
弱る意識の中で決めたのだ。どうせ死ぬのであれば、こいつらもろとも冥界に引きずり込んでやろうと。
その策に抵抗する力は最早ドライトには無かった。もしそこに守る仲間がいなければ結末は違ったかもしれないが、ドライトは仲間を光で包みながら、魔王と共に闇の中へ落ちた……。
……………………。
次に、目を覚ましたドライトの前には1人の魔族がいた。玉座に座って落ちてきた者を見下ろす冥界の王である。
冥界の王は言った。「お前ら何をしに来た?」と。
共に冥界に落ちた卑しい魔王が答えた。「魔族の敵、憎き人間を殺してくれ」と。
そんな魔王を冥界の王は、指1本で消し去った――。
ドライトにとって生まれて初めて、見た瞬間に敵わないかもしれないと思ってしまった相手……冥界の王はさらに指をドライトに向けた。
ドライトは今一度、光の剣を強く握る。
しかし、冥界の王は笑いながら言葉を放ったのだ。
「お前なかなか強いな。私は強い跡取りが欲しい……面白い話があるのだが、聞いてみるか?」
魔力、膂力、魔物討伐数、秘境開拓数――あらゆる力の証明のカテゴリで過去の偉人を若くして超えた――。
光の魔力に愛され、それを完全に使いこなす――彼の名は、ドライト・マグナドール。
中界にて、後に勇者と呼ばれるようになる男である――。
ドライトは何にも属さなかった。共に戦う仲間を集めたことも、何かの集団に加入したことも1度も無かった。冒険者試験を受けられるようになる12歳になったときから、ずっとフリーの冒険者として活動した。
何よりも自由を愛したのだ。強さ故、ドライトをパーティメンバーや国の兵士として誘う声は山程あったが、何度誘われても、莫大な報酬を積まれても、その全てを断った。
逆に言えば、何よりも誰かに指示されることや、束縛されることを嫌ったということである。誰かに「危ないから右の道には進むな」と言われたら、迷わず右の道を行く……ドライトはそんな男だった。
常に世界を冒険し、魔物と戦い、まだ見ぬ景色を探しに行く。誰にも邪魔はさせない。邪魔する奴がいれば思いっきりぶっ飛ばす。これがドライトの人生だったのだ――。
そんな男だったにも関わらず、ドライトはあらゆる人間から愛された。彼から仲間になってほしいとは言ったことが無いにもかかわらず、ドライトの周りにはいつも仲間の姿があった。
自由奔放に旅を続け、少し目を離せばどこかへ消えてしまうドライトを、サポートしたいと思う人間が次々に現れた。彼が冒険者として何か活動する度に1人、また1人と。強さに惚れ込んだ者もいれば、命を救われた者もいる。
そして何より彼の性格がそうさせた。ドライトには人を惹きつける何かがあったのだ。
彼は決まって劇的な物語の中にいた。いつも世界のどこかが危機的な状況になると現れるのだ。魔物に攻め落とされそうな国、闇に浸食されていく大地、そんな場所があると、どこからともなく彼がやってきた。
正義が悪に敗れそうなときはいつも、その中心にドライトが現れて、たちまちそれをひっくり返した――。
魔界の王が中界への侵攻を宣言して、全面戦争が始まろうとした時もそうだった。
今までどこかへ行方をくらましていたドライトが、突然現れて、魔王を討つべく、単身魔界へ乗り込むと言った。
大勢の期待と不安を背負って彼は……彼にとって数少ない背中を任せられる3人の仲間と共に、敵がひしめく魔界へと旅立った。
そんな時も彼は笑っていた。やっと魔界へ行く理由ができたと喜んでいた。いつもは固く閉ざされているその世界への扉が開くのは緊急事態以外あり得なかったからだ――。
魔界へ降り立ったドライトは、その自信の通り、魔物の軍勢を蹴散らした。何の作戦もなく、戦争の準備をしていた魔界を、真っ直ぐに突き進んだ。
極まった光の魔法と、剣術は数の差をもろともせず敵を圧倒した。
魔界にいる幾万もの魔物や、魔王直属の部下ですらドライトを止めることはできなかった。ドライトも、その仲間も誰1人かけることなく、魔王の下まで辿り着いた。
そして、魔王すらも彼の力には及ばなかった。
さすがに戦い続きのドライトは疲弊しており、魔王はあの手この手の姑息な手を使ってでも勝とうとした。それでも最終的に立っていたのはドライトだった。
魔王は地に伏して、自信の弱さと、敵の強さを呪った。おそらくはドライトさえいなければ中界との戦いに勝てていたと思った魔王は、ドライトが憎くて憎くて仕方なくなった。
ただ、魔王はそのまま黙ってやられはしなかった。
弱る意識の中で決めたのだ。どうせ死ぬのであれば、こいつらもろとも冥界に引きずり込んでやろうと。
その策に抵抗する力は最早ドライトには無かった。もしそこに守る仲間がいなければ結末は違ったかもしれないが、ドライトは仲間を光で包みながら、魔王と共に闇の中へ落ちた……。
……………………。
次に、目を覚ましたドライトの前には1人の魔族がいた。玉座に座って落ちてきた者を見下ろす冥界の王である。
冥界の王は言った。「お前ら何をしに来た?」と。
共に冥界に落ちた卑しい魔王が答えた。「魔族の敵、憎き人間を殺してくれ」と。
そんな魔王を冥界の王は、指1本で消し去った――。
ドライトにとって生まれて初めて、見た瞬間に敵わないかもしれないと思ってしまった相手……冥界の王はさらに指をドライトに向けた。
ドライトは今一度、光の剣を強く握る。
しかし、冥界の王は笑いながら言葉を放ったのだ。
「お前なかなか強いな。私は強い跡取りが欲しい……面白い話があるのだが、聞いてみるか?」
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