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第10話 3歳――父は元勇者
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そして、化け物と言えば母と同じか、それ以上に化け物じみた強さをしている人物が俺の身近にいた――。
ずばり、父である――。
3歳になった俺は、日々のトレーニングのおかげで徐々に魔法と剣術の腕が上達していき……同時に、城内の人間の強さを大雑把に把握できるようになっていた。
稽古をつけてもらっている時に、お手本として見せてもらう剣術や魔法のレベルで大体の強さが分かるのである。
その中で突出した強さを持っているのが実の父であった。
父は他のものが口を揃えて難しいと言う魔力操作や剣術の型をさらりとやってのけた――。
勝手ながらそれぞれの力を測るために、そうとは言わずに同じ魔法や剣術を先生たちにやってもらった期間があった。好奇心を満たしたいという子供を演じて。魔法も剣術も、専門の本の後ろのほうに載っていたものをお願いした。
渦上に大量の魔力を放出する魔法と――周囲360度をまっ平に斬る居合――。俺に「見せて」と言われた者は、呼吸を整え、集中した顔でそれをやってくれた。気合の声と共に……。
城に勤める者はたぶん皆すこぶる優秀、俺にはまだまだできそうにない技ができるだけでもエリート集団だと分かる。
だが父は……魔法のほうを寝転びながらやって、剣術のほうはめんどくさりながら立ち上がり、魔法を維持したまま利き手じゃない左手でやってのけた。
しかも、抜刀と納刀の瞬間が全く見えなかった。的にした四方八方に置かれた丸太が少しずれて、切り口を触ってみると、指の薄皮が切れるという衝撃だけを俺に見せた……。
余りにもである……。侍女や騎士の倍強いとかいう話ではなかった。きっと彼らが束になってかかったって敵いやしない。その本人から才能があると言われた俺とて、数十年後に同等の強さを手にできる気がまるでしなかった。
それゆえ腑に落ちなかった。きっと何かカラクリがあるに違いないと俺は思った。だっておかしいではないか、正にチートと呼べる強さだ。
何よりもおかしいのは父が冥府で唯一の人間であることだった。
冥府の城の中をどれだけ回っても、城下町の様子を見せてもらっても人間らしい人物は父を除いて1人もいなかった。初めは人間も普通にいる場所なのかと思っていたが、どうやら違っていた。
さらにさらに、冥府という世界に似つかわしくない光の魔法が使える。それも以前から気になっていたことだ。一体何者……。
だから、俺はその時、聞いたのだ。胸の中にある疑問をそのまま。
「父さんは何故、そんなにも強いんですか?何故、他の者と違って魔族ではないんですか?」
「ん?」
父は何を言ってるんだというような顔をした。質問をしたのはこっちなのに。そして……。
「そりゃお前、俺が中界出身で元勇者って奴だからよ」
さらっと魔法や剣術以上の衝撃を俺に与えたのだった。
「え!?ええ!!?」
俺はその時、転生した時以来の大きさの驚きをした――。
中界に行きたいという話をした時に、やたら詳しいと思っていたけど、中界出身とは思わないではないか……。ただ、学があるのだとばかり……。
父はなんとなんと、RPGとかでよく聞いた主人公の名称である「勇者」。その人物であったと言うのだ。
でもさ……。
「勇者って……何?」
俺は思ったことをそのまま口にした。ゲームの世界における勇者は分かるけど、この世界における勇者っていったい何なのだ。勇者だから強いと言われても納得できない。
まさか魔王的なものを倒したとでも言うのだろうか。
「うーん。魔王を倒して世界を救った人のことだな。魔王って奴は魔界の王様で、力を付ける度に何でか他の世界を攻めようとするんだけど、前にそれを止めた奴も、そのまた前にそれを止めた奴も勇者って呼ばれてるから、俺も勇者って訳だな」
本当にそうであった――。
詳細なことは分からない。さらに聞きたいことが山ほどあった。行きたい世界のことについても、父の過去全てを話して聞かせてほしくなった。
だから、それから俺は父を追いかけまわすようになった――。
ずばり、父である――。
3歳になった俺は、日々のトレーニングのおかげで徐々に魔法と剣術の腕が上達していき……同時に、城内の人間の強さを大雑把に把握できるようになっていた。
稽古をつけてもらっている時に、お手本として見せてもらう剣術や魔法のレベルで大体の強さが分かるのである。
その中で突出した強さを持っているのが実の父であった。
父は他のものが口を揃えて難しいと言う魔力操作や剣術の型をさらりとやってのけた――。
勝手ながらそれぞれの力を測るために、そうとは言わずに同じ魔法や剣術を先生たちにやってもらった期間があった。好奇心を満たしたいという子供を演じて。魔法も剣術も、専門の本の後ろのほうに載っていたものをお願いした。
渦上に大量の魔力を放出する魔法と――周囲360度をまっ平に斬る居合――。俺に「見せて」と言われた者は、呼吸を整え、集中した顔でそれをやってくれた。気合の声と共に……。
城に勤める者はたぶん皆すこぶる優秀、俺にはまだまだできそうにない技ができるだけでもエリート集団だと分かる。
だが父は……魔法のほうを寝転びながらやって、剣術のほうはめんどくさりながら立ち上がり、魔法を維持したまま利き手じゃない左手でやってのけた。
しかも、抜刀と納刀の瞬間が全く見えなかった。的にした四方八方に置かれた丸太が少しずれて、切り口を触ってみると、指の薄皮が切れるという衝撃だけを俺に見せた……。
余りにもである……。侍女や騎士の倍強いとかいう話ではなかった。きっと彼らが束になってかかったって敵いやしない。その本人から才能があると言われた俺とて、数十年後に同等の強さを手にできる気がまるでしなかった。
それゆえ腑に落ちなかった。きっと何かカラクリがあるに違いないと俺は思った。だっておかしいではないか、正にチートと呼べる強さだ。
何よりもおかしいのは父が冥府で唯一の人間であることだった。
冥府の城の中をどれだけ回っても、城下町の様子を見せてもらっても人間らしい人物は父を除いて1人もいなかった。初めは人間も普通にいる場所なのかと思っていたが、どうやら違っていた。
さらにさらに、冥府という世界に似つかわしくない光の魔法が使える。それも以前から気になっていたことだ。一体何者……。
だから、俺はその時、聞いたのだ。胸の中にある疑問をそのまま。
「父さんは何故、そんなにも強いんですか?何故、他の者と違って魔族ではないんですか?」
「ん?」
父は何を言ってるんだというような顔をした。質問をしたのはこっちなのに。そして……。
「そりゃお前、俺が中界出身で元勇者って奴だからよ」
さらっと魔法や剣術以上の衝撃を俺に与えたのだった。
「え!?ええ!!?」
俺はその時、転生した時以来の大きさの驚きをした――。
中界に行きたいという話をした時に、やたら詳しいと思っていたけど、中界出身とは思わないではないか……。ただ、学があるのだとばかり……。
父はなんとなんと、RPGとかでよく聞いた主人公の名称である「勇者」。その人物であったと言うのだ。
でもさ……。
「勇者って……何?」
俺は思ったことをそのまま口にした。ゲームの世界における勇者は分かるけど、この世界における勇者っていったい何なのだ。勇者だから強いと言われても納得できない。
まさか魔王的なものを倒したとでも言うのだろうか。
「うーん。魔王を倒して世界を救った人のことだな。魔王って奴は魔界の王様で、力を付ける度に何でか他の世界を攻めようとするんだけど、前にそれを止めた奴も、そのまた前にそれを止めた奴も勇者って呼ばれてるから、俺も勇者って訳だな」
本当にそうであった――。
詳細なことは分からない。さらに聞きたいことが山ほどあった。行きたい世界のことについても、父の過去全てを話して聞かせてほしくなった。
だから、それから俺は父を追いかけまわすようになった――。
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