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木岡(もくおか)

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word42 「オナ禁 効果」

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 同じ高校に通う天使、折原さんがいる軽音楽部へ乗り込む日を来週に決めた――。
 
 そして、僕はその日までオナ禁することも決めていた――。


 オナ禁、とはオ〇ニー禁止の略である。つまり自慰行為を一定の期間我慢する。

 そうすると何が良いかと言うと、好き放題やる日々と比べて体調が良くなるのだ。常時やる気が沸々と湧き上がり、疲れにくくなったり、集中力が上がったり、目覚めが良くなる。

 それと何より、容姿も良くなる。肌質や髪質が良くなり、顔つきも普段よりシュッとする。

 だから、僕は好きな人に近づく勝負の日まで、そのオナ禁をすると決めた。

 ただ、その効果のほどについては、軽く調べてみたところ医学的根拠が無いらしい。今述べた素晴らしい効果は全て、どこかの誰かが言った個人の感想である。もしかしたら、全く効果は無いかもしれない。

 それでも僕がやると決めたのはもちろん、恋の為だ。この恋を叶える為なら効果の怪しい努力だってなんだってやってやる――。

 と、大袈裟に言ってみたものの、そんなに辛い事でもないだろうし……。

 そんな気持ちで僕のオナ禁生活は始まった……。


 ――1日目、2日目と、特に問題なく我慢できた。

 自慢じゃないが……僕は大体2日に1回のペースでそれを行う。部屋に1人でいる時にやりたくなれば、我慢する理由が無いからだ。1日しなかったら、次の日は絶対どこかでやりたくなって、そういうペースになる。

 だから、2日我慢するくらいであれば全く苦しむことなく、余裕でクリアすることができた。一時だけ少し踏ん張れば良かった。

 ――3日目からである。問題が発生したのは。

 ふとした瞬間に指が勝手にスマホを操作して、エロ画像のフォルダを開いたのだ。そして、それを見た僕は落ち着きを失った。一度握ってしまえば我慢できないという興奮を覚えて、そうならないように手に無理やり別の事をさせなければならなかった。

 爪切りだったり、耳かきだったり、ゲームだったりを僕はした。

 数時間おきにそんな時間が僕を襲った。けれど、まだ我慢できる範囲であった。

 ――4日目、5日目も同様である。

 ダメだと分かっているのに、勝手に手が、頭が、そっちのほうへ向かってしまうのだ。しかも時間が経つほどその力は強くなる。学校や家のリビングにいる時はそうでもないのだけど、1人になると落ち着かなくて、無意味に足をバタバタさせてしまったりした。僕の中に悪魔が生まれてしまって、そいつがどんどん成長しているのだ。

 悪魔は僕に言う。「もう楽になってしまえ」と……。

 しかし、天使の為に、僕はまだその悪魔と戦った。戦うことを決めた……。まだいける……まだ僕は……。

 ――6日目、決めたのにも関わらず、すぐに山場が訪れた。

 もう、我慢できない。そう思う瞬間があった。何もしてないのに僕の僕が勝手に立ち上がり、かつてないほどのエネルギーを持っていた。もうエロとかではなく、しなければならない状態だと僕は思った。

 本当にオナ禁なんてものに効果があるのかと思い始めて、スマホで検索することでやめる理由を探す。絶対に効果が無いと分かれば、こんなことをする理由は無いのだ。

 けれど、若干効果のほどを自分自身感じ始めていた。やる気だとか集中力は逆になくなったと思うけれど、今日の寝起きはすこぶる良かったし、下にエネルギーが溜まっていることで自信はでてきた。

 だから難しいところなのだ。効果を感じてはいるけれど、僕の僕を見る限りこれ以上は逆効果な気もする。そう自分に言い聞かせてしまう。さすがは6日目、悪魔の数字。僕はもう自分の力だけではどうしようも無くなっていた。

 ――そして、今。僕はその決断を黒いパソコンに委ねることにした。

「オナ禁 効果」

 このワードを検索して、ちゃんとした効果が表示されれば我慢するし、表示されなければやらない。そういうことにした。

 もうズボンの上からでも分かるくらいにギンギンだったので、僕はすぐにEnterキーを押す。

 そして、スマホのエロ画像フォルダを開く準備もしていた。

「少なからず効果はあります。まず、最も大きいのは効果を信じて実行し、成し遂げることで、実際には効果が無いものでもその働きを示すという現象が人の体にはあります。足が速くなったと思い込めば、実際に足が速くなりますし、熱いと思い込んでいる物に触れると火傷してしまいます。自慰行為を我慢することも同様に――」

 長たらしく始まった文章、ちゃんと読まなければならないものであった。

 しかし、極限状態にあった僕は一瞬でその中から自分が求めている1つの文章だけを見つけ出した。

「――――――。適度にすることが最も健康に良いです。――」

 ありがとう。その言葉を待っていたぜっ……。
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