何でも検索できるパソコンを手に入れました。ーBPCー

木岡(もくおか)

文字の大きさ
上 下
101 / 117

word40 「今年 運勢」②

しおりを挟む
 かじかむ手をジャンパーのポケットに突っ込んで歩いた。行き交う人も皆、突っ込むポケットがあればそうしていた。

 天気予報通りに冷え込んだ今日は震えるほどの寒さだった。十分すぎるほど着込んでいるのに、肩が上がってしまう。

 だけども何故か、神社の本殿が見えてくるころには寒いと感じなくなっていた。

 昼に近づくにつれ気温が高くなってきたからだとか、体を動かしたからだという訳ではない。もちろんそれらもあるだろうが、そうではないのだ。

 お正月の雰囲気というやつだ。すれ違う人が皆笑っていて、それはお年寄りであり子供でもある。並ぶ屋台なんかに付いている紅白の装飾や「賀正」の文字、線香の匂い。そういった諸々全てからめでたさを感じて、それを周囲と共有できている感覚。

 僕はその雰囲気が好きだった。身も心も暖かくなる。

 それから僕は初詣の一通りの儀式を家族とこなした。人の流れに乗って次々と。

 まずは手水舎で根性手洗いをして、やっぱり冷たいし寒いやと、さっき思ったことを撤回した。身も心も暖かくなるなんて言ったのは嘘だ。こんな寒いのに暖かい訳が無い。

 冷え込む時期に初詣なんて言って外出するのは日本の悪しき風習である。

 次に、線香の束を大きな釜に投げて煙を浴びるやつを致した。窮屈を感じながら、煙を自分に向かって仰ぐことに何の意味があるのかと、咳き込みながら僕は思った。

 いや何かしら伝えられてきたことはあるのだろうけど、きっとその効果は科学的に根拠が無い。

 そしてメインと言えるお賽銭からの拍手とお辞儀。僕は一応心の中で今年1年の健康を願いながらも、すぐに考え事を変えて……この何万人もから得られる小銭はどのくらいになるのだろうと考えていた。

 近辺の駐車場代やお守り屋の売り上げだってそうだ。一体正月期間だけでどのくらいになるのだろうか。気になる。

 気がつくと僕のひねくれ心が仕上がりに仕上がっていた。何事も斜めな視点で捉えてしまう。

 てか毎年何万人もの願いを叶えるとか無理ゲーじゃね。神様どんだけ全知全能だよ――。お守りとかも持ってて果たして効果あるのか、中身はどうせただの紙――。

 それは黒いパソコンで検索したいことを探す行為でもあった。初詣に来ると気になることがいくつも見つかった。

「よし。皆でおみくじ行こうか。お母さん今年は大吉引きたいなあ」

 それからその最たる例がこれである。おみくじとかいう何の信用も持てない占い。

 この先の1年の運が、筒を数秒振って得た紙切れ1枚で決まる。冷静に考えるととんでもないことである。1年の長さを舐めているのか。

 僕は昔からこういった占いの類は信じていない人間であった。そこに去年黒いパソコンから得た情報で確信が乗っかったものだからますます信じられない。

「ほら、空いたよ。お母さんからやっていい?」

 心の中では否定しながらも、大吉が出たら信じてやろうと僕はガチャ感覚でおみくじを引いた。

 筒から出た番号の小棚を引いて、1枚の紙を抜き取る――。結果は――。

 凶だった。

 ほら見たことかと僕は思った。確か去年も凶を引いた気がする。いや一昨年だっただろうか。とにかくどうせ凶が多く入っているのだ。こういうものは。

「ええ。大凶なんだけど」

 1番気合いを入れていた母も悪いものを引いていた。父と姉も凶では無かったが、所詮吉と中吉という普通なものだ。

 やっぱり全く信用ならない。この僕の運勢が凶な訳がなかろう。

 大体僕は16歳にしてもう既に大吉を引いた1月にちょっとした勝負をして失敗したり、大凶を引いた帰りにすぐ他のくじが当たるといったことを過去に経験済みなのだ。

「もう1回引く?」

「いいよ凶で」

 去年までは凶以外が出るまで引いていたけど、僕はもうやらないことにした。詳しい運勢も読まずに隣にあるひもへ紙をくくりつける。

 そして、溜め息を吐いた。さっさとこんな寒い場所から帰宅して寝たい。

 本当に信用できるおみくじがあれば引きたいものだけど、そんなものはない。あったらいいのに……。

 いや、待て。あるではないか。僕の部屋の収納の中に――。


 帰宅した僕は、昼寝をする前に神社で決めた検索を行うことにした。

「今年 運勢」

 それは黒いパソコンをおみくじとして使うことである。黒いパソコンみくじとでも命名しようか。絶対精密な黒いパソコンとおみくじという運ゲーがすぐには結び付かなかったのだけど、こうすれば信用できるおみくじができるではないか。

 買ってもらった今年用のお守りを開封せずに机の棚にしまって、正座で本当の勝負に挑む。

 大凶は出ないんじゃないかという自信があった。だって今のところ何事もまあまあ順調だし、この黒いパソコンが僕の味方をしているのだぞ――。

 こんな何でも検索できるパソコンなんてものを持ってる時点で大大大吉――。

「吉です。」

 黒いパソコンは過去最短の文を表示した。そしてまた何とも言えない運勢である。

 普通…………いや、吉とはちょっと良いくらいの運勢なのだっけ。確かそうだった気がする。

 そう思って納得しようとした僕。しかし、次の瞬間続けて黒いパソコンに表示された文を見て凍りつく……。

「山あり谷ありな1年になるでしょう。」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

処理中です...