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word39 「記憶 消す」②
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目の前の光景が信じられなくて、僕は固まった――。
振り向いただけで、全く予期してなかった展開にぶち当たったものだから、次の行動の正解がすぐに出てこない。けれど、1歩2歩と自然と体が動いて……。
「ちょっと何やってんだよ」
姉の肩を掴むと、僕は言った。
姉は僕の方を振り向きもしなかった。全く僕に対して反応を示さず、黒いパソコンを弄り続ける。
気付いていないはずはない。わざと無視しているのだ。
「やめろって」
それならばと、僕は姉の前から黒いパソコンを奪った。2つ折りにして脇に抱える。
そして、これから姉がどんな行動を取っても対処できるように考えを張り巡らせた……。
「何勝手に部屋の中入ってきてんだよ」
「……あんたやっぱり持ってたじゃんパソコン」
姉はまだこちらを見ずに行った。表情が分からなくて不気味である。
「ああ、持ってるよ。別にいいだろ」
そして僕は、1発目の返答から逆ギレの構えを取った。
もうバレてしまったのであればしょうがない。ここからパソコンを持ってないだなんてもう通りっこない。だったら、その点は諦める他ない。
重要なところはそこではないのだ。最悪、僕がパソコンを隠し持ってるという事実は知られても良い。まずいのは、この黒いパソコンが特別だということが他人に知られてしまうこと。
既に僕はその思考に辿り着いていた――。
「そのパソコンってさ……あんたが自分で買ったの……?」
「……うん。そうだよ」
「ふーん……それって、お母さんもお父さんも知らないよね?」
「いや、どうだろう。たぶん知らないかなあ……」
「じゃあさ……何で隠すの……そのパソコンを隠す意味は何?」
姉がついに僕と目を合わした。これは今この時のみならず、久しぶりのことであった。この前の黒いマウスを巡る争いがあってから、僕と姉はまともに話していない。
お互いに目を合わそうともしなかった。けれど、黒いパソコンを指差しながら姉は僕の目を見た。久しぶりに見た姉の顔は別に変りなく普通である。だがしかし、別人のような雰囲気を感じた。少し大人びたか。
「ねえ、何で隠すの?」
「別に……意味とかはないかな。机の上にあると、勉強ができないし」
「はい。嘘」
「は?」
「あんた嘘つく時、目逸らすもんね」
おそらくは僕の嘘を見抜く為に見ていたであろう視線はその役割を果たした。人の目を見て嘘をつけないのは僕も知っていることである。
だったら、こちらにもやることがある。
「あのな姉ちゃん。俺もこんなことしたくないけど、この前の奴……」
「あのアカウントなら消したよ」
「え」
「その話は2度とすんな」
さすがに、付け入るスキを残したままこんな大胆な作戦には出てないか……。取り出したスマホをすぐにポケットに戻す。
前の検索で知った姉の裏垢は消された。しかも僕も見たくないものだったのでそもそもとっくの昔に忘れてしまっている。
「あんた、絶対なんか隠してるよね。今もそのパソコン見たけど何かおかしかったもん。普通のパソコンじゃなかった。それ、本当は何なの?」
さすがは我が姉と言ったところだろうか。昔から勘がいい。もしかしたらもう何か気づいているのではないかと思ったが、本当にそうらしい。
少し状況が悪い。じゃあ、致し方ないか――。
「部屋にいる時なら入念には隠されてないんじゃないかと思って来たの。でも別に喧嘩しに来たわけじゃないわ。あたしも黙っててあげるから、あんたの秘密教えて」
たぶん姉の事だから、いくつか作戦を立てて乗り込んできていると思うのだ。僕が言い逃れできないように。僕が真実を明かすまでの算段を立てている。
絶体絶命――否、これは僕が望んでいた状況だった。ついに、この時がやって来たかと興奮してしまう。
事なきを得るには姉の記憶を消してしまうくらいしかないだろう。でも実はその検索は既に終えているのだ。
「記憶 消す」
これを検索したのは1ヵ月ほど前のことである……。
振り向いただけで、全く予期してなかった展開にぶち当たったものだから、次の行動の正解がすぐに出てこない。けれど、1歩2歩と自然と体が動いて……。
「ちょっと何やってんだよ」
姉の肩を掴むと、僕は言った。
姉は僕の方を振り向きもしなかった。全く僕に対して反応を示さず、黒いパソコンを弄り続ける。
気付いていないはずはない。わざと無視しているのだ。
「やめろって」
それならばと、僕は姉の前から黒いパソコンを奪った。2つ折りにして脇に抱える。
そして、これから姉がどんな行動を取っても対処できるように考えを張り巡らせた……。
「何勝手に部屋の中入ってきてんだよ」
「……あんたやっぱり持ってたじゃんパソコン」
姉はまだこちらを見ずに行った。表情が分からなくて不気味である。
「ああ、持ってるよ。別にいいだろ」
そして僕は、1発目の返答から逆ギレの構えを取った。
もうバレてしまったのであればしょうがない。ここからパソコンを持ってないだなんてもう通りっこない。だったら、その点は諦める他ない。
重要なところはそこではないのだ。最悪、僕がパソコンを隠し持ってるという事実は知られても良い。まずいのは、この黒いパソコンが特別だということが他人に知られてしまうこと。
既に僕はその思考に辿り着いていた――。
「そのパソコンってさ……あんたが自分で買ったの……?」
「……うん。そうだよ」
「ふーん……それって、お母さんもお父さんも知らないよね?」
「いや、どうだろう。たぶん知らないかなあ……」
「じゃあさ……何で隠すの……そのパソコンを隠す意味は何?」
姉がついに僕と目を合わした。これは今この時のみならず、久しぶりのことであった。この前の黒いマウスを巡る争いがあってから、僕と姉はまともに話していない。
お互いに目を合わそうともしなかった。けれど、黒いパソコンを指差しながら姉は僕の目を見た。久しぶりに見た姉の顔は別に変りなく普通である。だがしかし、別人のような雰囲気を感じた。少し大人びたか。
「ねえ、何で隠すの?」
「別に……意味とかはないかな。机の上にあると、勉強ができないし」
「はい。嘘」
「は?」
「あんた嘘つく時、目逸らすもんね」
おそらくは僕の嘘を見抜く為に見ていたであろう視線はその役割を果たした。人の目を見て嘘をつけないのは僕も知っていることである。
だったら、こちらにもやることがある。
「あのな姉ちゃん。俺もこんなことしたくないけど、この前の奴……」
「あのアカウントなら消したよ」
「え」
「その話は2度とすんな」
さすがに、付け入るスキを残したままこんな大胆な作戦には出てないか……。取り出したスマホをすぐにポケットに戻す。
前の検索で知った姉の裏垢は消された。しかも僕も見たくないものだったのでそもそもとっくの昔に忘れてしまっている。
「あんた、絶対なんか隠してるよね。今もそのパソコン見たけど何かおかしかったもん。普通のパソコンじゃなかった。それ、本当は何なの?」
さすがは我が姉と言ったところだろうか。昔から勘がいい。もしかしたらもう何か気づいているのではないかと思ったが、本当にそうらしい。
少し状況が悪い。じゃあ、致し方ないか――。
「部屋にいる時なら入念には隠されてないんじゃないかと思って来たの。でも別に喧嘩しに来たわけじゃないわ。あたしも黙っててあげるから、あんたの秘密教えて」
たぶん姉の事だから、いくつか作戦を立てて乗り込んできていると思うのだ。僕が言い逃れできないように。僕が真実を明かすまでの算段を立てている。
絶体絶命――否、これは僕が望んでいた状況だった。ついに、この時がやって来たかと興奮してしまう。
事なきを得るには姉の記憶を消してしまうくらいしかないだろう。でも実はその検索は既に終えているのだ。
「記憶 消す」
これを検索したのは1ヵ月ほど前のことである……。
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