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木岡(もくおか)

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日常の検索あれこれ⑨ 「ティラノサウルス 捕食シーン」

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「ティラノサウルス 捕食シーン」

 黒いパソコンで、何でも思いついた場面の動画を見ることができると知ってから、いくらか普通では絶対に見ることができない動画を見る日があった。

 見るときは、いつも夜中に布団を被って見る。せっかく1日1回の動画を見るのなら、集中して見たいからだ。

 冬の間は寒さを気にしないように、再生開始する前に布団を自分のぬくもりで暖めておいて……お腹が減っているときは、先に腹を満たしてからという準備も怠らない。 

 見る動画の選択は大体、普通の動画サイトで面白かった動画の延長であった。あるジャンルの動画を見た後に、もっとこのジャンルの動画が見たいとか、もっと凄いこういう動画が見たいと思った時に頼る。黒いパソコンtubeを。

 それは見たいと思った動画を検索1発で表示して、広告なしで再生することができる神サイトである。

 例えば、動物の捕食シーンを見た後にもっと大迫力で高画質なものが見たくなった時がある。その時は古代の地球の頂点に立っていた恐竜の捕食シーンを見てみた。

 今では考えられないサイズの肉食動物で、恐竜の代表と言えばティラノサウルス。その捕食シーンは言うまでもなく、その前に見ていたフトアゴヒゲトカゲがゴキブリを食べるのとはまるで違う迫力があった。

 大きな体を持つ自身よりもさらに大きな恐竜を狙ったティラノサウルス、何サウルスと言うのか知らないが首が長くてちょっとしたビルくらいのでかさの恐竜にのそのそと近づいて、ただ真っ直ぐに噛みついた。

 何の小細工もなしで、早くもなく、賢さもない。シンプルにパワーだけの狩りである。顎の力ぶっぱで噛みついた敵の足の根元の肉をちぎる。

 ものすごく重い粉砕音と、トマトを潰すような音がイヤホンを通って伝わり、それは繰り返された。

 足を失い大量の血を流す首の長い恐竜は程なくして横たわり、ただの肉塊になる。それをティラノサウルスは実においしそうに食べた。がっつき、時には首を上げて好物を名一杯口に含むように……。

 迫力の分、満足感も何倍もあった。

 ちなみに、ティラノサウルスはゾウやサイみたいな色だった。


「中学の頃の同じクラスの女子 喧嘩」

 昔々の話であるが、僕が中学3年生の頃に同じクラスだった女子2人が喧嘩した。現場を見ていないが殴り合いの喧嘩だったはずだ。ある日の昼休みの後にその2人の女子だけが教室に帰ってこなくて、次に見た時には2人とも顔に青あざや傷ができていたのだ。

 ふと怖い物見たさで殴り合いの喧嘩の動画を見た後に思ったのだ。喧嘩と言えばあれはどんなものだったんだろうと……。

 今でもその事件は鮮明に覚えている。2人の女子が殴り合いの喧嘩をしたと知った時はそりゃもうクラスの男子は戦々恐々としたものだ。もちろん女子も怖かったと思う。けれど、男子が特に怖がったのは喧嘩した2人の女子がどちらもスクールカースト上位で、どちらも顔が結構かわいくて普段は仲が良かったからである。

 いつもは笑顔で男子や先生に接していて、おしとやかさも感じられていた。

 そんな女子2人がどうしてああなったのかはあまり語られていない。男子たちは知りたくもないという感じであった。

 そして、今こうして実際の映像を見てみても、やはり見ない方が良かったと思う。想像していたよりも殴り合いが激しいし、お互いボロボロになってきても全く容赦しない。

 2人のかわいい顔の女子が、その顔をぶっ潰すように殴る殴る。片方が倒れれば馬乗りになって追い打ち。髪は引っ張るし、首を絞めようともする。制服も脱げそうなるし、パンツも見えた――。

 さらに知らなかったことは、2人の女子が喧嘩している時にはどうやら周りにその友達の女子たちも数人いたことであった。しかも喧嘩を止めようとはせず、笑っていたりして、チャイムが鳴るとさっさとその場から離れてしまった……。


「猫の動画 続き」

 よくおすすめに出てくるものだから、見る度についつい押してしまう猫の動画があった。他の猫動画と比べても僕が好みの猫だったので、いつからか新作の動画がアップロードされる度に見てしまっている。

 その中でも特別かわいいと思う動画と出会った。それは猫が撫でられたそうだけど、素直になれずもじもじし続けて、動画の最後のほうでようやく甘え始めるというもの。ゴロゴロと喉を鳴らしながら撮影者で飼い主の布団に入り込んで丸くなる。飼い主もそんな猫を撫でる。

 動画はもじもじ猫がメインで、甘えるのは溜めて溜めて最後のオチみたいなものだから短くてもしょうがない。けど僕は甘えているところをもっと見たかった。10秒ぐらいじゃ物足りない……。

 黒いパソコンで動画検索をしてみると、すぐに見たかった動画は表示された。元々見ていた動画の最後と同じ画角で、撫でらているところから始まる……けれど、すぐに状況は変わった。

 飼い主の手が消え、布団がめくられる。そして、どこかへ行く足音と、猫のキョトンとした顔。撫で撫での時間はすぐに終わってしまったのだ。

 黒いパソコンに映る動画のアングルが引きになって、猫が布団の上で黄昏ているところが流される……。程無くして、戻って来た飼い主の男はカメラを持っていて、また猫の撮影を始めた。

 飼い主は色々と角度を変えながら猫の周りを回った。見たところ、猫のほうはまだ撫でて欲しそうで飼い主に寄って行くのだけど、近づいては布団の真ん中に戻される。猫が動かないようにたまに撫でたりはするのだけど、片手で雑に、しかもその間には常にカメラがあった。

 何をしているんだろうと見ながら僕は考えたのだけれど、たぶん動画のサムネイルを撮影しているのではないかと思った……。

 ペットの動画を投稿している人の闇を見てしまった瞬間であった……。
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