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木岡(もくおか)

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番外編 2 「人類 滅亡」①

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「あーあ。本当に使えない奴だね」

 今日もそんな言葉が私に向けられた。いつも通り、溜め息と一緒に言われた言葉だ。

 向けられたと言っても、直接目を見て言われた訳ではない。隣の部屋からわざと聞こえるような大きさで言われた。

 相手は母親。きっと18歳でフリーターをしている私のことが嫌いで嫌いでしょうがないのだ――。


 今年の春、私は高校を退学した。通信制の高校だった。やめた理由はめんどくさいからだ。

 あと1年頑張れば、卒業できる。卒業したら大学に行くか就職するか、そういう状況だったのだけれど、私にはそのどちらも魅力的ではなかった。大学にも行きたいと思わなかったし、就職もしたくなかった。したくない目標の為に人は頑張れない。だから、やめた。

 理由はそれだけではない。私の家にはお金が無かった。

 母親は水商売、父親は無職。ボロいアパートで3人暮らし。そんな家庭には言うまでもなくお金は無い。

 私は中学を卒業と同時に働くことを強要されたくらいだ。高校には行っていいけど、行くなら自分でお金を稼げ。中学卒業前に親からそう言われた。

 そういう理由で、私はその時からバイトをしていた。職種はホテルの清掃業、働く時間を多くする為に高校は通信制のものを選んで、週6でシフトに入った。

 支えも目標も特にないし、勉強の仕方も目上の人との付き合い方もよく知らない。そんな状態から2年頑張ったのだけど、肉体的にも精神的にも疲労が溜まって、バイトか高校どちらかをやめないと倒れてしまう。そう感じて、どちらをやめるか考えた時にお金の無い家庭に生まれた私には高校をやめる選択肢しかなかった。

 それからはフリーターとなってバイトだけをして生きた。やるバイトの数や量を増やした訳ではないから、今までよりも時間に余裕はできた。勉強と高校に使っていた分の時間で休むことができるようになった。

 けれど、しばらくして別の問題が発生した。親に嫌われてしまったのだ。

 大して金を稼がない癖に、家で寝ていることが多い私を見て、母親は事あるごとに嫌味を言うようになった。

 暇ならもっと働けだとか、自分と同じ水商売を勧めてくることもあった。父には何も言わないくせに弱い立場の私には思うことを何でも言ってきた。

 自分が10代で水商売を始めるなんて考えると、涙が出そうだ。しかし、遅かれ早かれそうなるしかないと自分でも分かっていた。そもそも高校をやめる時も最悪、体を売って生きていけばいいと思っていたのだから……。

「さっさとやればいいのに……はあ、産んでやったんだから……」

 私は体を起こして耳を塞ぐ。母親の溜め息と独り言として発する愚痴が聞くに堪えなくなった。

 その状態で視線を落として見えた、私のふとももには数か所青いアザがある。

 父親からのDVも母親だけでなく、自分にも頻繁に向くようになった。ちょっとでも逆らったら体罰。お酒を飲んでいる時は何もしてなくても目が合ったら体罰。対策方法は別の部屋で隠れているしかない。

 人生詰んでしまっている。これから先も幸せなことがある気がしない。母親の言う通り水商売を始めたとしても私の不幸は変わらない。

 私と似た境遇をしている漫画やドラマの人物は皆自殺を考えていた。けれど、私は違った。死ぬのも嫌だった。痛いのは嫌、死ぬぐらいだったらまだ今の生活のほうが良い。そう思っていた。

 別に明日や未来に何が待っている訳ではないけれど、何故か時間が過ぎるのだけが今の私の楽しみだった。夜まで生きて布団に入れば、少しは落ち着けるから。暗闇で目を閉じていれば、何も考えなくていい瞬間が私を包んでくれた。

 そんな最後の砦さえもつい最近崩されてしまうようになった。深い夜、初めて私の顔面へ水がかかって飛び起きた時は一瞬悪い夢かと思った。

「コンビニ行って酒買ってこい」

 暗い部屋で咳き込みながら、影も見えない父親に無理やり立たされる。同じようなことが数回あって、これが続くと分かった時にはいよいよ私は絶望した。死にたくなくても死ぬしかない。

 そんな時だ。私の目の前に黒いパソコンが現れたのは。
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